サキュバス・クエスト~私の淫魔のヤバイやつ~   作:マキシマムとと

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5.イマジナリー杏奈でも勝てない・前編

 

「今鹿…? あぁ魚人の孫の…優秀な魔法使い」

 

淫・天原サキュバス学園、その一室に二つの影があった。

 

「ちょっと、あんたねぇ? 一応はアンタの受け持ちでしょ? 情報が雑な上に興味無さ過ぎ」

 

背の高いサキュバス。

彼女は感情表現の薄い能面のような白い顔で、もう一人の背の低いサキュバスを見下ろした。

 

その視線の先。

イヤでも目を引き付ける爆乳をプルンと震わせて小柄なサキュバスが攻め立てる。

 

「今鹿はサハギンキングの孫娘よ! 学園長が昔『なかよし♡』してたキングのダムちゃん様! 世も世なら南パプワ海のお姫様でもおかしくないし、そうでなくたってあの魔力純度よ? マトモに水属性の魔女に進んでれば戦機神エリアラル様の寵愛を受けていたに違いないっ、正に産まれながらのスーパーエリートなのッ!」

 

ほほぅ。

と、与えられた情報を頷いて取り込み。

 

「サキュバスとしてみた場合…ザコなのだから………多少の情報漏れは仕方あるまい?」

 

インパラ学園の教師として当然の態度で返した。

血筋に金、魔力の質量。

それが何だというのか。

ここは淫・天原サキュバス学園。

サキュバス天神の名を冠する由緒ある学舎だ。

 

「優秀なサキュバスを伸ばし…劣悪なサキュバスを排する…私は…私の教育方針を…愛している」

 

2人の付き合いは長い。

今さら、このような問答に時間を割くとはどうした事か。

 

ーーーいや、無駄ではなかったとしたら…?

 

相方の気付きに合わせ、ロリ巨乳がニヤリと笑う。

 

「今鹿を今までの落第生と同列にしない方がいいわ」

 

「………ふむ?」

 

確か、そう。

今日が最終クエストになるのか。

初回から数えて連続9回のクエスト失敗。

 

10連続で失敗した場合(もしくは怖じ気づいて受注クエストを変更した場合にも)才能無しと判断されて学園から除籍される。

今日がその、最終日。

 

「期待は…無いのだが」

 

相方の目が爛々としている。

 

「…ふっ」

 

子供を信じる。

子供を愛する。

真っ直ぐに信じて、裏切られてもまた信じる。

その相方を愛おしく思うから。

 

だから、ただそれだけの理由で彼女は今鹿のクエスト開いた。

 

【Karte.39♡イマジナリー杏奈コース♡】

クリア条件は☆タオルお持ち帰り☆だぞ☆☆

 

「………ん?」

 

イマジナリー杏奈。

タオル…お持ち帰りーーー?

 

過去の僕ヤバクエストでは、その他のクエスト同様にクエスト情報からその大まかな内容の推測が出来たのだが。

 

「これぁ…ヤバいわね」

 

ゴクリ。

と唾を飲む相方が理解できない。

彼女は宇宙人に出会う心持ちで、今鹿のクエストを閲覧状態に設定した。

 

 

 

 

『僕ヤバ』の3巻はヤバい。

 

いや、全巻通してヤバいしエモいのだが、あえて今回は3巻のヤバさを強調したくてたまらないのだ。

 

まず3巻の入りからして、エモい。

LINEを交換したい杏奈と、まさか俺(カースト下位の隠キャ)とLINE交換したいだなんて欠片も考えていない京太郎とのスレ違いから始まるストーリーであり、紆余曲折の末にクリスマス直前に2人がLINE交換を成立させる所で3巻が終わる。

 

エモい。

 

3巻は基本的にシコリティーよりもエモルギッシュなパワーが勝り、それでいて読者の股間をモミモミと労る慈悲に溢れた傑作(他の巻も当然凄い。買え、買うべきだ、何度でも読み返してニヤニヤしてしまえ)なのだが、今回のクエストはその偉大なる3巻の中に収録された逸話の一つ。

 

【Karte.39】からの出題となる。

 

カルテ39は発熱の話。

38の時点でカッパを忘れ、雨の中を自転車で行ったり来たりした結果として熱を出して学校を休んだ市川京太郎、そしてその発熱の一端が自分にあると自責した山田杏奈が給食に出て来たいちごババロアを手土産として彼の自宅を訪れるのだ。

 

 

京太郎は慌てる。

 

夢に見るほど大好きな彼女が、まさかわざわざ自分のお見舞いに来てくれたという異常事態。

発熱により意識が朦朧としてまともにモノを考えられず。

とりあえず家に招いたものの、どうすれば良いのかまるでわからない。

 

頭が動かない時はだいたいそんなもので、ふとした拍子に自分の体臭が気になったりもする。

 

(汗臭いと思われたくない)

 

男女問わず、好きな人を前にすれば当然の心理だろう。

着替えのために自室に戻り、そこでついに京太郎は意識を無くしてしまう。無理をし過ぎたのだ、さもありなん。

 

2階に行ったきり降りてこない京太郎。

心配になった杏奈ちゃんが彼の自室を訪れてーーーと。

 

 

これは、そういうストーリなのよ。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

半裸状態の京太郎を抱え、まずはベッドへ移動させる杏奈ちゃん。

シャツを着せようとして前から抱え込むようにしたその時、荒い息を吐きながら京太郎が杏奈ちゃんの胸に顔を埋めた。

彼に下心など欠片もない。

 

本当に、純粋に。

 

発熱により意識を失い、動作不良を起こしたパペットのように目の前にある柔らかな置物へしなだれただけ。

ーーーだけど。

頭でそれを理解した、その上での杏奈ちゃんの反応は。

 

「~~~っ///」

 

ドっっっチャクソにッ!! エモい…!!

 

杏奈ちゃんの会心の表情にアタシの子宮がギュンギュン唸る。

あれでしょ?

好きな男子の裸体ってだけでもヤバいのに、相手は意識朦朧だし、発熱でポカポカだし、汗の匂いなんかもぉ最高に脳ミソが痺れちゃうんでしょ?

 

間違ってるのかもしれない。

アタシと杏奈ちゃんは違うから。

彼女の心はわからない。

 

だけど、それでも。

今のアタシは『イマジナリー杏奈』だからッ!!

 

「『汗…すごいから、拭いてあげないと…』」

 

初歩の魔法。

『木霊』を使っただけで魔力の半分をゴッソリと吸いとられた。

 

さっすが、杏奈ちゃん…運命改変に掛かる場合の操作系魔法は相手とのレベル差によって消耗が増すのは知ってたけど、この娘本当に種族・人間で設定されてんのかな? まぁアタシがサキュバスとしてドベ過ぎるのも一因なんでしょうけど!

 

倒れこみたくなる疲労をこらえ、仁王立ちで腕を組んだ。

私の魔法により行動を誘導された杏奈ちゃんがトテトテと階段を降りていく。

 

さぁ今鹿。

アタシの勝負は、ここからだよ。

 

「ハァ…ハァ…」

 

…半裸で、荒い呼吸を続ける京太郎すわんが居る。

アタシの、目の前にいて。

 

「ハァ…ハァ…うっ………」

 

(今鹿よ、おぉ今鹿よ今鹿よ!! 耐えるのだッ! 血を吐いても良い、子宮が爆発しても良い!! 耐えるのだ今鹿ッ! ここで、クエストに失敗すればどうなる!? なに? 幻想時空系統の魔法を極めて今度こそ市川京太郎・杏奈夫妻のもとへ転生する…? それは、素敵だ。途轍もなく甘美だ。その道も正しい、ある意味で正しい。だが、耐えられるのか!? 今のこの脳ミソがお汁で狂っちゃいそうな現状でさえ耐え難いお前が、幻想時空魔法を極めるまでの間『僕ヤバ』を封じられて、正気でいられると思っているのかッ!? 死んでしまうぞッ!! 未来を掴み取るために、何度でも推しのシコシコエアーをすんすんする為にッ!! ここは我慢しなきゃ駄目なんだッ!)

 

こころが、なにかを、さけんでいる。

 

あれ?

 

ふしぎだな。

 

うえのおくちも、したのおくちも、ぱくぱくしてるよ??

 

じったいか。

 

ゆうれいみたいなからだに、にくをつけるまほう。

 

(だめ、だめ、だめ!!)

 

きょうたろうくんに、さわりたい。

 

ぺろぺろして、ちゅっちゅっして。

 

あ、い、しーーー「いてっ!」

 

壊れかけたアタシの意識を拾い上げてくれたのは、杏奈ちゃんだった。

 

「痛ったぁ~」

 

部屋の入り口に足の小指をぶつけたらしく、手にしたタオルをギュッと握り締めながら片足を上げてぴょんぴょんと跳ねた。

 

(………可愛い)

 

そうだーーーアタシは、まだまだ2人を推したい!

 

だから絶対に、今度こそ負けられないんだ…!!

 

 

 

 

決意を新たにした今鹿。

明らかに危ういぞ今鹿。

 

インパラ学園の、延いては【サキュバス・クエスト】の進退をかけた伝説のクエストが、次回へと………続く!

 

 




文字数が膨らんだので前後編に分けました。
後編は本日の20:00に予約投稿してます。
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