ルビーちゃんは知っています。   作:ブラウンドック

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閑話 : 独白

 

「…………」

 

()()()()の意味を、アクアは知っている。

 

粘着質で、身体の節々に絡み付き、だが然し純粋で。"それ"は大凡褒められるものでもない、依存や執着に値する感情なのだろう。決して褒められるべきものでもないが、だが頭ごなしに否定して貶すにはあまりにも、彼女も自分も危険だ。

彼女――星野ルビーは異常だ。

 

天真爛漫であり、母親の死を乗り越えた年相応の少女。そんな外面に押し込められた、アクア以外へ向けられる冷徹で、いっそ無関心で在れれば楽であろう幼稚で我儘な面。

それはアクアにも存在する転生故の二面性だが、彼女は乖離し過ぎている。だからこそアクアには彼女が異様に映る。

 

――ルビーの明確な変化はいつ頃からだっただろうか。

 

これだけは、彼にも断言出来る。決して最初から歪んではいなかった。抱え、包み隠す過去はあったのだろう。だがそれも良い意味で開き直っていた。

アイの娘として転生して、彼女は前世と無関係の人生を歩むつもりだったのだろう。それが今の外面であり、逆に彼女の前世こそが垣間見える異様な二面性の根源だ。

 

それが、いつからだったか。アイが亡くなるよりも前だった筈だ。隠された本質を見誤っていた故、彼女の変化の切っ掛けを見逃していた。

だが、きっと少しづつ年月と共に歪み、捻れ、今の彼女になってしまったのだ。それだけ、彼女の幼い精神にのしかかる事もあったのだから。

 

 

ふと、過去を省みる。

 

自分が最推しのアイドルの息子として転生した直後。

 

複雑な情報と感情の波に長く混乱している最中、彼女は今と変わらない純情な気持ちで喜びを露わにしていた。子として喜び、ファンとして感動し、新たな人生を謳歌していた。

 

結局、アクアは最後まで星野アイを母として扱えなかったが、然しルビーは最初から最後まで、ありのままの事実のみを受け入れて理解していた。

今にして思えば、あの――否、今も存在を主張し続ける純粋無垢な()()()()こそが彼女の仮面なのかもしれない。そう思いたくなくて目を逸らしていた、故にそう思う事こそが自身の盲目的な部分を見せられている気がしたのだ。

 

今も昔も、星野ルビーは変わらない。明るく前向きで、ひたすら努力を重ねてアイドルを目指す()()()()少女だ。

彼女はずっと、精神年齢が肉体に比例している。前世なんてなかったように、周りに溶け込み内に秘める異様性を包み隠している。

その事実がどのような結論を導き出すのか、アクアは考えられない。彼女を見る目が変わってしまうのが怖いからだった。

 

そんな彼の気を察せず、少女は読めない内面を抱え今日も家族として接する。

 

「お兄ちゃん、カラオケ行こーよ」

 

「……また?」

 

「うん!いやー、トップアイドルを目指す身としては日々精進なモノでしてなぁー」

 

「はぁ…で、建前はいい。本音は?」

 

「お小遣いがないからカラオケに行けません!だからお兄ちゃんが……ね?」

 

「………金借りるのも気が引けるから、割り勘にすると」

 

「え、お兄ちゃんが全部払ってくれるんじゃないの!?」

 

「図太いヤツめ…」

 

彼女の鈍く灰色に光る双眸の瞳には、なにも映らない。まるで自分の世界に引き篭もり、それでも他との繋がりを手放せない幼子だ。

酷く盲目的な期待を向けられ続けている。そう感じ、アクアは凡才な己に辟易するばかりだ。

 

こうも自然体で、真っ直ぐと此方の目を見詰める彼女が、その実はアイと同じ嘘吐きなのかもしれない。アクアは知っている。彼女よりも純粋無垢な眼で大勢を惑わし狂わせるアイドルを知っているから、彼女の"嘘無き嘘"を見破って受け入れられる。

きっと、義母である斉藤ミヤコや次点で交流のある五反田泰志にも分からないのだろう。まだ交流の薄い有馬かなや寿みなみも同様だ。

 

彼女の狂気を、異様性を、依存を――世界で唯一星野アクアだけが理解している。

 

「あ、そういえばお兄ちゃん」

 

「…ん」

 

嬉々として話していたが、刹那、彼女の表情に陰りが浮かぶ。それもほんの一瞬であり、アクアが稀に垣間見る彼女の内面の現れなのかもしれない。

何れにしても、今の彼女は地雷に似た雰囲気がある。潜在的な危機感からか、アクアはこうなったルビーへの返答に無意識にも気を使ってしまう。

 

「どーして"今ガチ"に出演するの?……もしかして、女に飢えてるの?」

 

「言い方最悪だな…」

 

「…まー、そんなワケないよねー!お兄ちゃん、そーゆーのに無関心だし、しかも無愛想だもの。てか、中身はいい歳なんだし高校生相手でもロリコンだし……ねっ、お兄ちゃん?」

 

「……仕事だよ、仕事。別に他意はねぇっつーの。大体、恋愛リアリティーショーに出会い厨ばかりが群がると思うな」

 

「へぇー、じゃあお兄ちゃんの目的ってなに?」

 

「給料と経験」

 

「………なんかオジサンっぽい」

 

「ほっとけ」

 

返答の正解は解らないが、少なくとも素直に答えるつもりもない。不思議と、ルビーには『アクアはルビーに嘘をつかない』という前提がある。端的に換言して『信頼』だ、それも盲目的なまでの。

 

何故なのか、どうしてなのか。単に兄だからと言うには、自分にも彼女にも前世の記憶が邪魔になる。肉体はそうであっても、中身は別物なのだ。

アクアには彼女の前世が何処の誰で、どのような性格だったのかも分からない。短くない時間を共に過ごして『妹分』としては扱っているが、どうにも『実妹』である感覚は薄いと自覚している。

 

「ンなことより、お前は自分の心配でもしろ。有馬にも熱烈アタックして迎え入れたんだし、後悔させてやんなよ」

 

「あったりまえ!私、世界一のアイドルになってママを超えるんだから!!」

 

「…じゃ、まずは歌も上手くなれよ」

 

「や、やってやらぁ!善は急げだし、早くカラオケ行くよー!!」

 

「はいよ…転ぶなよ」

 

外出の準備を始める彼女を横目で見て、アクアも自室に戻り準備をする。適当な服と、五反田泰志の手伝いで多少は潤っている財布。喉飴を数個、カバンに入れて先に玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アクアの嘘つき」

 

―――――――――――――――――

 

分からない。どうして、私に嘘をつくの?アクアは…ゴローせんせいは嘘なんて吐かない。こんな惨めで、嘘でしか愛してもらえない私なんかと違うのに。

ズルい、ズルいよ……そんなの、あんまりだ。嘘なんて無くたって、私が愛しているのに。アクアが抱えてるモノ、一緒に背負いたいのに。

……それを、アクアに伝えられないのが私の弱さだ。こんな醜い私に星野ルビーとしての人生を与えたのだから、神様も性格が悪い。

 

全て投げ出したい。静かに死にたい。もう愛なんて要らないから、私の心も体もこの世から消滅させたい。………生きているのが、辛い……助けて……

 

―――――――――――――――――

 

ルビーちゃんは知っています。

 

お小遣いのない学生は無力ということを知っています。お兄ちゃんはルビーちゃんのライバルこと監督さんからバイト(仮)のお給料を貰っているようですが、ルビーちゃんは労働ナントカ法は守るタイプです。

いや、ええ…そもそものお話です。ルビーちゃんのお財布は月初めのお小遣いと、ミヤえもんのお手伝いによって潤っているのです。

 

残念ながらルビーちゃんは貯金をする女の子ではないので、常日頃から金欠です。

 

いえ、弁明はさせてください。

 

ルビーちゃんは将来的にはトップアイドルになるワケでして。その際にそこそこ稼ぐ予定でして。それで学生のうちから貯金なんて意味が無いと割り切っていまして。

 

はい、ルビーちゃんはとてもおバカさんです。お洋服はミヤえもんが買ってくれるから良いとしまして、その他の気になった小物やお菓子、期間限定を謳いやがりますモノをついつい買ってしまうのです。

計画性のなさについてはルビーちゃんの横に出るものはいないでしょう。ええ、自信を持って言えますとも。

 

……なので、花の高校生ながらお財布の軽い無力女子がいるわけです。世間には入学お祝い金というモノもあるそうですが…まあ、ルビーちゃんには関係のないコトです。

親戚とか、そーゆーのは少なくともこちら側は把握していませんので。

 

 

とにかく、です!

 

ルビーちゃんは困っているのです。カラオケ代でしたら、お兄ちゃんに頼るか、数日に渡って手厚くミヤえもんのお手伝いをすれば解決出来ますが。それですと娯楽に回せる分がありません。

なにも、ルビーちゃんはワガママを言っているのではありません。

 

アイドルを目指すともなれば、人の心がないアンチ勢や日々のストレスがあります。辛いことなんて数え切れませんし、それを避けて通る道なんて最初から用意されていません。

そんな過酷な道を通り続けるのであれば、せめて自分自身を癒す方法はないといけないのです。

倒れれば元も子もありません。無理はしても、無謀に挑むのは蛮勇な等しいです。

要するに、です。ストレス発散というモノに慣れなければいけないとルビーちゃんは考えているのです。

 

日々、追い詰められまして。そこからやっとストレス発散に努めるのは、もう遅いです。病気が悪化してから薬を飲み始めるなんて、手遅れになりかねません。

 

言い訳を重ねるようではありますが、ルビーちゃんは非合理的な娯楽を惰性的に楽しんでいるのではありません。むしろコレが精一杯の、『自分を大切にする』という行為なのです。

 

 

ルビーちゃんが頑張る時は頑張って休む時は休む、といったメリハリのある生活を出来るのであれば話は別でしょうが。

あいにくとルビーちゃんは不器用な人間さんです。無理やりにでも"休む癖"を付ける必要があります。

 

こーゆーとき、お兄ちゃんやミヤえもんが羨ましくなります。

 

お兄ちゃんは前世から今に至るまで、自己管理が上手いですし。ミヤえもんは社長さんが失踪してからも一人で苺プロを支えていますし。

楽な道だとは口が裂けても言えないですが、ルビーちゃんは二人の()()が物凄く輝いて見えるのです。ルビーちゃんの『やってやろう!』という心意気よりも、二人の『達成しました』という結果が格好良く映るのです。

 

 

 

閑話休題(お話が逸れました)

 

まー、そんな金欠のワケと意味がありまして。それを釣り場に通い詰めている社長さんに語ったところ、舌打ちと『もう来るんじゃねえ!』というお言葉と共に二千円札を貰いました。

 

……二千円札なんて初めてみました。これは使わず、大切にしまっておきましょう。

 

取り敢えず来月までは我慢します。我慢できなくなったら、ロリ先輩に何か奢ってもらいます。

ルビーちゃんはママぁに似て、ワガママなのですから。

 





どこかに透明な隠れ文章があったり。

見る方法は色々ありますが、一番見やすいのは右上のメニューから小説情報を選びまして。そこの一番下のここ好き一覧から『総数』を見るって方法ですかね…?
機種にもよりますが、長押しでも見えます。あとは意外と知られていない読み上げ機能とか。

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