ルビーちゃんは知っています。   作:ブラウンドック

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携帯端末

 

ルビーちゃんは知っています。

 

最近、お兄ちゃんがリサイクルショップに通っている事を知っています。ママぁがお星様になってから数年が経ち、ルビーちゃんとお兄ちゃんは小学生になりました。

ママぁが所属していた芸能事務所苺プロの社長さんは姿を消し、残されたミヤえもんがルビーちゃん達のお母さんになりました。ルビーちゃんにとってママぁはママぁだけですが、ミヤえもんもお母さんなのです。

 

言うなれば、ルビーちゃんの両親はママぁとお母さんです。ママぁがクスリと笑いそうな事を想像して、ルビーちゃんもまた頬を緩ませました。

 

お話が逸れました。

 

そうです、ルビーちゃんは知っているのです。お兄ちゃんは"ハー○オフ"や"セ○ンドストリート"等のリサイクルショップを回っています。

そっと、後をつけたことがあります。別に、ルビーちゃんが休日に出掛けるお兄ちゃんを横目に捉え、ませて女の子とデートに行くのでは、と疑ったのではありません。ええ、断じて違いますとも。

ルビーちゃんはお兄ちゃんを信用しています。身体は小学生でも、精神は立派な三十路半ばです。まさかまさか、小さな女の子とのデートに現を抜かす様な事はないと信じています。

 

よって、ルビーちゃんは信用と信頼を胸にお兄ちゃんを尾行しました。

 

その結果、リサイクルショップ巡りをしていたのです。更に言えば、古い携帯電話やそのバッテリー、ルビーちゃんにはよく分からないモノを物色しています。

そしてルビーちゃんの"ちょうぜつすいりりょく"は一つの結論に思い至りました。そうです、ママぁの昔使用していた携帯端末です。

 

極端に少ないママぁの遺品は、全てルビーちゃんとお兄ちゃんが大切に仕舞ってあります。簡素な服や生活における小物、物の少なさはママぁの儚さを物語ります。

その中でもルビーちゃんが――いいえ、お兄ちゃんが深く強く反応を示していたのが()()()()()()()です。ルビーちゃんの印象に残っていたのは、きっと携帯端末よりも、それに反応するお兄ちゃんだったのでしょう。

 

――"三つの携帯端末"。

 

一つはお仕事用です。事務所との連絡や、定期的なSNSへの投稿。所属グループ『B小町』のメンバーとの連絡等。()()()()()()()()ママぁの側面を証明するような、透明なカバーに包まれたスマートフォンです。

 

もう一つはプライベート用です。あの端末の中にはルビーちゃんやお兄ちゃんの写真が沢山残されています。昔、お兄ちゃんが"ゴローせんせー"について調べていたのも、この端末です。

 

最後の一つは――()()()()()()。唯一の情報は、ママぁが妊娠以前に使用していたという事だけです。つまり、かなり古い型なのです。

お兄ちゃんはこの携帯端末のバッテリーを探しているのでしょう。ですが、あれは本当に古い型なのです。携帯ショップに行っても、部品が無いと言われる程度には古いです。

 

さてさて、ルビーちゃんの頭から理解の驚嘆符が離れ、鈍い疑問符が溢れます。

 

お兄ちゃんはママぁの昔の携帯電話を使用して、何をしようとしているのでしょう?プライベートの詮索か、それともママぁを懐かしんでいるのでしょうか。ですが、どちらもあの陰険とした雰囲気には似合わない考察です。

おかしな話ですが、ルビーちゃんもお兄ちゃんも、実のところママぁについて詳しくはありません。ママぁがどんな幼少期を過ごしたのか、ママぁがどうしてアイドルになったのか――そして、ルビーちゃんとお兄ちゃんの()()()()()()()

 

そうです。誰よりもママぁに近かった筈のルビーちゃんやお兄ちゃんにも、ママぁは掴み所のない人物だったのです。

 

――もしかしたら、お兄ちゃんもママぁを知りたかったのかもしれません。

 

今のお兄ちゃんがママぁをアイドルとして捉えているのか、それとも大切な母親として認識しているのか。どちらにせよ、共に過ごした時間が少なすぎます。

だから、なのでしょうか。お兄ちゃんはママぁと向き合おうとしているのかもしれません。ママぁの過去を知り、受け入れようとしているかもしれません。

 

ルビーちゃんには出来ないことです。

 

死者を憩い、詮索しない。それがルビーちゃんの思想です。誰に説かれた訳でもなく、紛いのない正義でした。ですが、お兄ちゃんのしている事も間違いではないのでしょう。だって、優しいお医者さんだったお兄ちゃんが死者を冒涜する訳がないのですから。

ルビーちゃんはゴローせんせーが大好きです。お兄ちゃんが大好きなんです。

ですが盲目的ではありません。なので、もしもお兄ちゃんが自己中心的な思考に基づいて行動しているのであれば、止めます。元のお兄ちゃんに戻るように努めます。

 

だから、今は様子見期間なのです。

 

お兄ちゃんがママぁの情報を得て、どうするつもりなのか。ルビーちゃんには分かりません。利用しても、秘匿しても、共有しても。ルビーちゃんがお兄ちゃんの真意を知る事は叶いません。

でも不思議と、知りたいとも思いません。他人を"知る"ということは自分を"知られても良い"という事です。

 

ルビーちゃんは過去の自分を見せたくありません。弱くて、愛想笑いしか出来なくて、惨めだった自分の姿を晒すことは出来ません。

 

だから時々、考えてしまうのです。

 

お兄ちゃん――ゴローせんせーも同じだったら、と。ルビーちゃんはゴローせんせーが好きです。でも、ゴローせんせーの全ての面は知りません。

"知る"のが怖いのでしょう。人間の汚い部分を知っているから、それがゴローせんせーにもあって。そんなことを知って、失望するルビーちゃんを、他でもないルビーちゃん自身が認めたくないのです。

あまりゴローせんせーに相応しくない言葉かもしれませんが、今だけは『高嶺の花』でいて欲しいのです。

 

安心して恋がしたい。

 

衝動的な恋はしたくない。

 

心の底から惚れたい。

 

一目惚れなんかしたくない。

 

絡まる気持ち。ルビーちゃんには分かりません。分かりませんが、やはり赤く熱を持つ頬は恋を肯定します。今はただ、隣に居るだけでも満足です。

 

 

 

 

ルビーちゃんは知っています。

 

どうやら、お兄ちゃんは無事に携帯端末の内蔵バッテリーが見つけられた様です。学校でも、家でも、寝る時でさえも。ずっと端末を操作しています。

探し物が見つかったのは嬉しいのですが、ルビーちゃんは少しだけ無機物のスマートフォンに嫉妬します。スマートフォンをいじっている時、お兄ちゃんはルビーちゃんの相手をしてくれません。

 

ちょっとだけ拗ねて、しかし相手は無機物だと自分に言い聞かせます。いくらルビーちゃんでも、スマートフォンにライバル意識は持ちません。

そもそも、お兄ちゃんはスマートフォンに恋愛感情を抱く変人でもありません、きっと。

 

 

お兄ちゃんが寝ている隙に携帯端末の操作を試みた事がありました。五桁のパスコードロックが掛かっていましたが、適当にポチポチと押したら解除されました。もちろん、ルビーちゃんが適当に押しただけなのだから、正しいパスコードも二秒後には綺麗さっぱりと忘れています。

中身を見ても、何もありませんでした。アプリゲームも、漫画アプリや動画サイトも。ホーム画面は購入した当時から何一つ弄っていないようです。

 

写真フォルダにも間違えて撮ったスクリーンショットや気まぐれで撮っただけにしか見えない空の風景。自撮りの一つもありませんでした。

 

複数の連絡先だけはありましたが、寧ろこっちの方が仕事用であるとも思えます。これをずっと操作しているのだから、お兄ちゃんは心底暇なのでしょうか?

もしくは、単純にパスコードが分からないだけなのかもしれません。

 

少なくとも、お兄ちゃんが女の子と連絡を取っている訳では無い様です。ええ、別に疑っていた訳ではありませんとも。ルビーちゃんはお兄ちゃんを信用しています。

そうです、お兄ちゃんがルビーちゃんに隠れて女の子と繋がる訳がないのです。学校でも女の子のお友達がいないのは確認済みで、怪しい女の影もありません。

 

安心に胸を撫で下ろしたルビーちゃんは、そっと寝ているお兄ちゃんの枕元にスマートフォンを戻しました。もちろん、画面についた指紋なども拭き取ってます。ルビーちゃんに余念はありません。

 

寝息を立てるお兄ちゃんの頬をつつき、ルビーちゃんは自分の部屋に戻ります。

 

ママぁが亡くなってから、ルビーちゃんがお兄ちゃんと一緒に眠る理由がなくなってしまいました。とっても悲しいことです。ママぁがいた頃は、年相応で振舞っていたので、三人で布団に入っていました。

でも、もうそんなことをする理由もなくなってしまいました。ミヤえもんの養子になって、新しい家に移って。ミヤえもんの善意ではあったのでしょうが、部屋を分けられた時には駄々を捏ねようとも思いました。

 

もちろん思いとどまりましたが。想い人の前で駄々を捏ねる様は、絵面が酷すぎます。ある意味では年相応ではありましたが。

 

ちょっとだけ魔が差して、お兄ちゃんの布団に潜り込んだ事がありました。そしたら、なんということでしょう。朝起きたら、お兄ちゃんが消えていました。そしてお兄ちゃんがリビングのソファーで寝ていました。

きっと、お兄ちゃんは隣に人がいたら寝れないタイプなのでしょう。

 

取り敢えず、もう無闇に布団に潜り込んだりはしません。ルビーちゃんは心に深く刻みました。

 

 

 

 

ルビーちゃんは知っています。

 

アイドルを目指す上で、ルビーちゃんには決定的な弱点がある事を知っています。ええ、"お歌"です。ナマコの内臓の様なエグさがあれば別の意味で話題にもなりますが、ルビーちゃんのお歌は普通にジャイアン風味です。カラオケで歌っても、75点をギリギリ超えない程度です。

シンプルに下手です。お兄ちゃんからも儚い笑みでやんわりと『人前で歌うな』と諭されました。ルビーちゃんはミヤえもんに泣きつきましたが、歌が上手くなる道具は出してくれませんでした。

 

お顔には自信があります。だって、伝説のアイドルであるママぁの容姿を受け継いでいるのですから。

ダンスにもそれなりの自信はあります。こればっかりは堂々と"努力"と言えます。好きこそ物の上手なれ、と言います。前世は病弱だったから、今世では体を動かすのが大好きなのです。

 

こんなにアイドルとしての要素は揃っているのに、お歌だけが致命的なのです。

 

ドラ……ミヤえもんの秘密道具は存在しません。それに、お歌の練習をしていないお友達の方が圧倒的に上手いです。出来ることなら『才能がない』と言葉にしたいのですが、それはルビーちゃんにとって"逃げ"です。

才能がないから諦める。そんなのは簡単です。ポイッと投げ出してしまうだけです。

 

でも、ルビーちゃんは知っています。

 

諦めなければ夢が叶う事を、ルビーちゃんは知っています。かつて、ルビーちゃんはダンスが大の苦手でした。前世の話ではありません、今世です。

今世でもダンスが苦手で、諦める癖が付いていました。でも、大好きなママぁに背中を押してもらいました。他の誰でもない、ルビーちゃんの憧れであるママぁが屈託のない眼で、ルビーちゃんの成功を疑わずし応援してくれました。

 

だから、今回も同じです。

 

お歌が苦手?でしたら、人の十倍は歌います。何十倍も頑張って人並みになれるのであれば、()()です。元よりトップアイドルのママぁを超えるのが目標なのです。自身の才能に胡座をかく気なんて更々ありませんとも。

身体的な問題が道を塞がない限り、努力は必ず実を結びます。沢山努力して、人並みの歌唱力になって。それに加えて他を圧倒するダンスと容姿で更に駆け上がって、ますますお歌も上手くなる。

 

そしたらいつか、ルビーちゃんはトップアイドルに辿り着けるのでしょう。ママぁの様に"魅せる"ことが出来なくとも、必ず超えます。

 

なので、今日も今日とてお兄ちゃんを引き摺ってカラオケに行くのです。お兄ちゃんも可愛い妹の為ならば、少しくらいはお小遣い(カラオケ代)も分けてくれると信じて。

 

ルビーちゃんにはまだまだ伸び代があるのです。

 





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