ルビーちゃんは知っています。   作:ブラウンドック

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依存

ルビーちゃんは知っています。

 

中学生になって、お兄ちゃんは密かにモテ始めました。飽くまでも"密かに"であるのは、お兄ちゃんの人付き合いが絶望的に下手だからです。

精神年齢が大きく異なるからでしょうか。ルビーちゃんは、お兄ちゃんが誰かと遊んでいる姿を見た事がありません。しかしながら、所謂"ぼっち"にはならない程度には話す相手もいます。

 

といいますか、お兄ちゃんはクラスメイトと満遍なく平等に接しています。さすがお兄ちゃんだ、とルビーちゃんは驚嘆します。

単に精神が優れているだけでは、むしろ他のとギャップに負けて孤独を選ぶでしょう。少なくともお兄ちゃんにはそのきらいがあります。

 

でも、それでもです。竹馬の友はいなくともクラスに溶け込んでいるのは、もうルビーちゃんの語彙力を用いても『上手いな』としか言えません。全体ではなく一個人における場合には急に下手になってしまいますけれども。

 

これがお兄ちゃんの"演技力"なのでしょう。大衆を操作する術。演者になるべく、お兄ちゃんの努力の賜物です。ルビーちゃんはお兄ちゃんに惚れ直しました。

そういえば、です。お兄ちゃんは未だに監督さんの事務所――というか家に通っているようです。どんな活動をしているのかは秘匿されていますが、ルビーちゃんの積み重なる追跡と監視をもって把握しています。

演技の練習をして、映画やドラマの端役をやっているみたいです。

 

あとは、何故か監督さんのお手伝いもしています。さすがのルビーちゃんも、中学生に裏方のお手伝いをさせる監督さんにはドン引きです。

 

 

閑話休題(お話が逸れすぎました)

 

 

問題は、中学生になってからお兄ちゃんが密かにモテ始めた事です。とても、複雑な感情に支配されました。

 

お兄ちゃんがモテてしまうのは仕方のない事です。大人びていますし、とっても賢いですし。その上、ルビーちゃんと同じでママぁの容姿も受け継いでいます。モテない方が不自然です。

それが当たり前で、自然の摂理で、世界の理ではあるのは周知の事実ですが。それでもお兄ちゃんが狙われるのは我慢なりません。

取り敢えずお兄ちゃんが超絶シスコンで妹以外の女の子には一切合切の興味の欠片も持てない男の子であるという、ほんのちょっとだけ誇張した噂話を流しました。お兄ちゃんも女子中高生程度には恋愛感情を抱かないはずなので、ルビーちゃんもニッコリです。

 

 

 

 

 

 

ルビーちゃんは知っています。

 

どうやら、ルビーちゃんもモテてしまうようです。お兄ちゃんの妹でママぁの娘なのだから、当然と言えば当然です。

でも、やはり困りモノでもあります。ルビーちゃんはお兄ちゃんにしか興味ありません。露骨に好意を伝えられても、ド定番の校舎裏で告白されたとしても。

ルビーちゃんは作った困り顔で『ごめんなさい』や『他に好きな人がいるの』と告げることしか出来ません。

 

仕方がないのです。ルビーちゃんには最愛のお兄ちゃんがいるのですから、他の男の子を相手にする事なんて出来ません。

 

お陰様でシスコンとブラコンの噂が広がってしまいましたが、事実なので否定は出来ません。

 

そもそも、ルビーちゃんは美少女を自称はできます。でも自分の性格までを美少女だとは思いません。だって、こんなにも()()()()()()()()なのですから。

嘘は嫌いです。人を騙すのは悪いことです。誠意が正義なのです。それが分かっていて――それでも嘘が大得意な自分自身が、お兄ちゃんと同様にモテてしまうのは不条理に他なりません。

もちろん、嘘が間違いとは言いません。創作物に有り触れている"優しい嘘"をルビーちゃんは知っています。でも、世間のお気持ちとルビーちゃんの感情は別物です。

 

こんなルビーちゃんがママぁやお兄ちゃんに並んで好意を向けられる――そんなこと、他ならないルビーちゃんが嫌なのです。

ルビーちゃんはアイドルになります。この世界でたった一人だけに全てを捧げる『完璧で究極のアイドル』になります。だから、他の人から向けられる好意は何一つ嬉しくありません。

 

なので本当ならモテたくないのですが、だからと言って薄汚い格好をしてお兄ちゃんに幻滅されるのは我慢なりません。

毎日、めいいっぱいの可愛いルビーちゃんをお兄ちゃんに見せます。抜けてるところさえルビーちゃんのエリアにして、お兄ちゃんを落とします。

 

 

きっと、ルビーちゃんの夢は酷く歪です。

 

ママぁはみんなに愛されるアイドルでした。お兄ちゃんとルビーちゃんを虜にして、世間の話題もかっさらって、みんなの目を一点に集めていました。

でもルビーちゃんは対照的です。たった一人に愛されたくて、他の愛になんて価値も感じられず、それでもトップアイドルである事を踏み台にしようとしています。

 

ルビーちゃんの承認欲求は全て、お兄ちゃんに向けられています。それは危うくもあります。もうルビーちゃんには()()()()()()()()()()から。最期まで手を握ってくれたゴローせんせーだから――

 

鏡にはいつも、鈍く光る双眸の星が写ります。

 

白でも黒でもない瞳には、いったい何が込められているのでしょうか。生気とも絶望とも違う、縋るだけの感情――()()なのでしょう。

お兄ちゃんの愛が欲しい。お兄ちゃんの愛しかいらない。お兄ちゃんが生きているからルビーちゃんも生きていれる。お兄ちゃんが死ねばルビーちゃんも死ぬ。

 

――いつからでしょうか。

 

純粋だったルビーちゃんが、醜く歪んでしまったのは。

 

自覚はありません。人を騙すのが大嫌いで得意なルビーちゃんですが、()()()()()()()()があります。ダンスよりも演技よりも、もっともっと得意なことです。

それは自分自身を自覚もなく騙し切り、染め上げることです。

 

だから、()()()()()()()()()()。何も知らないフリを続けて、いつの間にか本当に知らないルビーちゃんになってしまって。

もう、その依存心が良くないモノであることも分かりませんし、既に依存していることも分かりません。

 

ルビーちゃんはお兄ちゃんが大好き。そう、たったそれだけなのですから。

 

 

 

 

 

 

 

ルビーちゃんは知っています。

 

忌むべきは"定期テスト"です。日々の勉強の成果を試し、精一杯の背伸びを見せ付ける行為。ルビーちゃんの、背伸びをしても焼け石に水な点数を公開されてしまう日です。

ルビーちゃんは思います。人の価値は目に見える数字ではなく、心に宿るものなのだと。アレはマヤカシです。馬鹿と天才を差別する、愚かな所業です。

 

端的に換言して、ルビーちゃんはお馬鹿さんです。精神年齢は同年代よりも余っ程上のはずなのに、その事実がルビーちゃんの馬鹿さ加減を際立たせます。

 

悲しい事にお兄ちゃんは秀才側でした。当然です、病院で医師をしていたのですから、頭が悪い道理はありません。

なのでルビーちゃんは慌てて教科書を開きました。お兄ちゃんに呆れられて、流石に焦りを覚えたのです。ですが世界には未知が溢れています。不思議と教科書を開いた瞬間、恐ろしい睡魔がルビーちゃんに喰らいついて来るのです。

ルビーちゃんも必死に抵抗しますが、砂糖とミルクを入れまくった珈琲によるなけなしのカフェインでは太刀打ちも叶いません。

 

もう漫画のお馬鹿キャラをケラケラと笑ってはいられません。むしろルビーちゃんがケラケラと笑われる側であるといっても過言ではありません。

 

周りからの評価は甘んじて受け入れますが、お兄ちゃんからどうしようもない馬鹿だと思われるのは辛いです。

 

いっその事、お兄ちゃんがルビーちゃんと結婚して生涯養ってくれるのであれば、それも良いのですが。残念ながら兄妹で結婚は出来ません。

なので、ルビーちゃんも結婚は諦めて最期までの甘々同棲生活で手を打つつもりです。もちろん、両方とも独身です。

世間体なんて気にもなりませんとも。だって、将来的には盲目的に愛し合う予定なのですから。そうです、養ってもらわなくとも、そのための資金だってアイドル業で稼いでいる予定です。ルビーちゃんは、将来の自分に過度な期待を込めるのが大得意なのですから。

 

再度(また)閑話休題(話が逸れました)

 

ルビーちゃんは素直さには定評があります。なので、素直に純粋に生粋に漠然と認めます。ルビーちゃんはどうしようもなく馬鹿です。それを自覚しながら、しかし持ち前の"あいどるぱわぁー"で解決を図ってしまう程度には馬鹿です。

ですがルビーちゃんは知っています。"ぱわぁー"で万事を解決出来るのは、あの有名ななかやまきんに君だけです。ルビーちゃんには圧倒的に筋肉が足りません。

ぱわぁーもなく、知能もない。ルビーちゃんは鏡に映る悲しい生物に手を伸ばし、茶番に業を煮やしたお兄ちゃんに押されて床にへたり込みました。

 

だからルビーちゃんは考えます。

 

この世界からテストという概念を消すか、ルビーちゃんが本物の天才になるか。そのどちらの方が楽なのでしょう?考えて、脳を酷使して、お兄ちゃんの部屋の『今日あま』を読み、美味しい晩御飯を食べ、お風呂に入りスッキリとして、軽いストレッチをした後に身体が冷めない内に布団に入り、最終的には何に悩んでいたのかも忘れました。

なんと儚い記憶力なのでしょうか。この儚さは一種の芸術と言っても過言ではありません。形容し難い美しさすら覚えてしまう事でしょう。

 

翌日、ルビーちゃんは思い出します。冷蔵庫に仕舞っておいたプリンを食べ忘れていたことを。

 

ルビーちゃんのお小遣いはお世辞にも多いとは言えません。それに加え、ルビーちゃんには欲しいものが沢山あります。ゲーム内課金石、コンビニの揚げ物、お兄ちゃんの寝顔写真、可愛いアクセサリー、新発売のお菓子にハマっている飲み物。

大好きなアイドルが写っている写真集だって欲しいです。そんな切羽詰まる懐事情の中で、一目惚れで心打たれ衝動的に買ってしまったプッチンプリン。

 

増える洗い物に一切の憂いを込めず、平皿にプリンを出す感覚は何物にも変え難いのです。

 

寝起き早々、もうルビーちゃんにとって定期テストの結果なんてどうでもいいとさえ思えます。プッチンプリンに負ける程度のテストに、ルビーちゃんの興味は誘えません。

満面の笑みで冷蔵庫を開け、プリンの消えた虚空を乾いた笑顔で見つめ、ルビーちゃんは再度駆け出しました。

 

取り敢えず、お兄ちゃんにドロップキックをしましょう。ルビーちゃんの決意は硬いです。あのプリン様を貪り犯したお兄ちゃんを許せるほどルビーちゃんも甘ちゃんではありませんでした。

 

 

今日も今日とて、ルビーちゃんのお家には騒々しく一方的な喧嘩声が響きます。きっと、お兄ちゃんが駅前で高級濃密プリンを買って来てくれるまで、ルビーちゃんは声を大にしてお兄ちゃんを罵倒するのでしょう。

それを呆れた表情で眺めるミヤえもんを添えて、これが今のルビーちゃんの日常です。

 

もう、テストなんて頭の片隅にも残ってやいませんでした。






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