ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第百六話 「口癖」

「やっぱり人間の成長は早いわね……リリーを思い出すわ」

 

 

優雅な所作で紅茶を飲みながら、アウラ様は改めて私にそう告げてくる。七年前とは違う、それがここフリージアでのアウラ様の立ち振る舞いのなのだろう。でも言葉は、声色は変わっていない。さっきまでの魔族としての顔ではない。いや、きっとそのどちらもアウラ様なのだろう。私たち人間にも二面性があるように。

 

 

「おや、私のことはお忘れですか、姉さん?」

「あんたは今もクソガキのままよ。スカート捲りは卒業できたみたいだけど」

 

 

その証拠に、アウラ様の隣に控えているシュトロ様に茶々を入れられて、呆れながらもアウラ様は言い返している。まるであの頃の再現。ハイター様もよくそうやってアウラ様をからかっては困らせていた。きっと律儀に返してくれるアウラ様の反応が楽しいのだろう。それを見ているこっちも思わず笑みがこぼれてしまうほど。

 

 

「? 何かおかしかった?」

「いえ、やはりアウラ様はお変わりないのですね。昔のままです」

 

 

そんな私に気づかれたのか、アウラ様はどこか不思議そうな顔をされている。やはりこのお方は変わっていないのだろう。私が覚えている、知っているアウラ様のまま。色々な伝聞で、それが違っているのではないかと心配していたが、無用な心配だったのだ。段々と緊張がほぐれていくのを感じる。昔のように。

 

 

「昔……ね。七年でそう言われるのね」

「いやはや、若者の特権ですな。我々からは羨ましい限りです」

「一緒にするんじゃないわよ」

 

 

その言葉がアウラ様にとっては気になったらしい。私たち短命種の昔と、長命種であるアウラ様たちの昔には大きな齟齬がある。特にフリーレン様はそれが酷い。最近は何とかこちらにも歩み寄って来てくれているが、会ったばかりの頃は本当に苦労した。私たちの感覚で約束をしても全く守って下さらないのだから。それに比べればアウラ様は本当に凄いのだろう。七年という、年単位の時間感覚を持ってらっしゃるのだから。

 

それとは別に、年寄り扱いされてしまっていると感じたのだろう。シュトロ様にまたからかわれてしまっている。五百年を生きているアウラ様がお年を召しているのかは私には分からないので、どうすることもできないが。

 

 

「でも本当に綺麗な庭園ですね。城門の前の花畑も凄かったです。アウラ様の魔法ですよね?」

 

 

話題を変える意味でも、辺りを見渡しながらそう尋ねる。今私たちは庭園にある一角でお茶をしている。きっと来客があった際にはここでお茶をしたりもするのだろう。ここ庭園に咲き誇っている花たちも、城門の物に勝るとも劣らない美しさだった。間違いなくアウラ様の魔法によるものだろう。

 

 

「よくお分かりで。国でも評判でして。今では観光名所でもあるのですよ。ですが初めからあったわけではないのです」

「? そうなんですか?」

 

 

それにシュトロ様が答えて下さる。でもその内容は私の予想外のものだった。この花畑は最初からあった物ではないのだと。てっきりそうかと思っていたのに。確かここフリージアは建国してから三十年ほどだったはず。すぐには思いつかなかったのだろうか。しかしその理由は

 

 

「はい。あれは確か、そうそう。姉さんが教典の改定にハイター様の所へ行かれてからでしたか。いや、驚きました。久しぶりに姉さんの花畑の魔法を見ましてな。きっと何か良いことでもあったのでしょうな」

「……シュトロ」

「これは失敬」

 

 

私にも関係があることだったらしい。シュトロ様が何を言わんとしているか、ようやく私は理解する。同時に思い出すのはハイター様の言葉。アウラ様に花畑の魔法を教えてもらって、初めて出せた花を持って行った時。

 

 

『よくできましたね、フェルン。貴方はアウラの心も咲かせたのです。私たちにはできなかったことなのですよ』

 

 

いつものように私の頭を優しくなでながら、ハイター様はそう褒めて下さった。その言葉の意味を、幼い頃の私は理解できていなかった。でも、今なら分かる。この花畑の魔法が、アウラ様にとってどんなものだったのか。それを託して下さった意味も。

 

もっともアウラ様にとっては認めたくない、恥ずかしいことなのだろう。何とも言えない顔をしてらっしゃる。まるで悪戯をされてしまった姉のように。

 

 

「本当にお二人は仲が良いのですね」

 

 

そう。本当のこのお二人は仲が良い。思わず羨ましいと思ってしまうほどに。まるで本当の姉弟のようだ。種族も、見た目の容姿も全く異なるのに。

 

 

「ただの腐れ縁よ」

「長い付き合いですから。出会い頭に服従させられたのはいい思い出ですな」

 

 

そうか。これがきっと、ここフリージアでの教義。人間と魔族の共存の体現なのだ。寿命も、価値観も、生き方も。何もかもが異なる種族であっても、寄り添い合って生きていける。勇者ヒンメル様が夢見た、夢の続き。

 

 

「しかしフェルン様が来られて助かりました。ここ三日ほど姉さんはずっと不機嫌でして。この庭園でストレス発散されてばかり。まともに話もできませんでしたから」

「ただの鍛錬よ」

「同じようなものかと」

 

 

そして先程までのアウラ様の状況がシュトロ様によって暴露される。どうやらアウラ様はこの庭園で鍛錬を行っておられたらしい。なるほど。それであんなに魔力が荒れていたのか。きっと何かと戦う想定をしていたのだろう。ならあんなにも殺気が凄まじかったのも頷ける。問題は、その相手が誰だったのかということ。それを尋ねることは私にはできない。聞くまでもない。三日ほど前から。それが全てを物語っているのだから。

 

 

「私たちのことはもういいわ。そうね……」

「……?」

 

 

どうしたものかと思案していると、ふとアウラ様と目が合う。アウラ様はそのまま何を言うでもなく、私を見つめられている。一体どうしたのか。何かおかしなところがあっただろうか。そう不安になるも

 

 

「ふぅん……あんた、やっぱりあのエルフの弟子になったのね」

 

 

淡々と、どこか感情を感じさせないような態度で、アウラ様はそう仰られる。まるで見えないものを見抜かれてしまったような感覚。それ以上に、アウラ様が放った言葉の方が私にとっては重要だった。あのエルフ、という呼び方が。あえて、その名前を呼ばない。そこにアウラ様のフリーレン様への感情が込められているに違いない。

 

 

「どうしてそれを……?」

「見れば分かるわ。魔力を制限している魔法使いなんてあいつとリーニエぐらいだもの……ああ、あの老害も含めれば三人になるのかしら」

 

 

あえてそれには触れず、もう一つの方の話題を尋ねる。それは先のソリテールの件の再現だった。やはり魔族にとって、それは異常に映るのだろう。大魔族の二人にとっては特にそうなのかもしれない。そんなことをしているのは私とフリーレン様、リーニエ様ぐらいなのだから。お二人は私と比べ物にならないほど魔力の偽装に優れているので、一緒にされるのは恐れ多いのだが。それに加えて、まだお一人それをされている方もいるらしい。老害、という言い方からするにご高齢の方なのだろうか。

 

 

「リーニエが見れば喜ぶでしょうな」

「自分の真似をしたんだって言いかねないわね」

 

 

そんな中、話題はリーニエ様のことに移っていく。きっとお二人の言う通り。私の魔力の制限を見れば、きっと喜ばれるに違いない。ある意味、魔力の制限を受け継いでいるという意味では、私とリーニエ様は同じフリーレン様の弟子とも言えるのだから。その姿が目に浮かぶ。

 

 

「あの、リーニエ様はここにはいらっしゃらないのですか? お会いしたかったのですが」

 

 

改めてそう尋ねてみる。ここ大聖堂に来てからその姿は見当たらない。いつもアウラ様と一緒におられていたのに。アウラ様にお会いするのと同じぐらい、私にとっては楽しみにしていたこと。

 

 

「残念ながら今はいないわ。使者としてグラナトに行っている最中よ。夜には帰ってくるから会ってあげて頂戴」

「はい。ぜひ」

 

 

どうやらリーニエ様はここではなく、グラナトにおられるらしい。やはりリーニエ様も神官、アウラ様の側近なのだろう。使者の仕事もされているのか。だとすると知らずグラナトではすれ違っていたのかもしれない。ちょうど行き違いになった形。残念だが、ここにいればお会いすることができるはず。

 

 

「それにしても……あの頃から片鱗はあったけど、やっぱりあんたも化け物だったのね」

「え……?」

 

 

そんな中、頬杖を突きながらアウラ様はどこかここではない何かを見るように、懐かしむようにそんなことを仰られる。どうやら私のことらしい。でもその意味が分からず、困惑するしかない。当たり前だ。大魔族のアウラ様から化け物なんて呼ばれる存在なんて。一体世界にどれだけいるというのか。およそアウラ様の口から出る言葉とは思えないもの。何かの聞き間違いだろうか。

 

 

「姉さん、表現が悪いかと」

「うるさいわね……言い方を間違えただけよ。ようするにあんたも天才だってことよ」

「私が、ですか? そんなことは……」

 

 

どうやらそれは言い間違いだったらしい。いや、意味合いとしては同じなのか。ようするにアウラ様は私のことを天才だと仰っているのだ。何故そんなことを。およそ私には似つかわしくない、相応しくないもの。それは大魔法使いであるフリーレン様や、偉人であるフランメ様にこそ相応しいものだろう。だが

 

 

「最年少の三級魔法使いがよく言うわ。さっさと一級を受けたらどう? ゼーリエの奴なら一目見て合格にするでしょうね」

 

 

アウラ様にとってはそうではなかったらしい。どころか私よりも、私のことを知っておられるのかもしれない。私が三級魔法使いになったことも、それが最年少であったことも知っておられる。その口ぶりからするに、アウラ様は大陸魔法協会とは繋がりがあるのだろう。どころか旧知の仲であるかのよう。

 

 

「ゼーリエ様、ですか?」

 

 

その名に首を傾げるしかない。アウラ様からすれば私も知っていて当然の存在なのだろうか。だが心当たりがない。

 

 

「あのエルフから聞いてないわけ? 呆れたわ……魔法協会の創始者のエルフのことよ。あのエルフの師の師にあたる奴よ。神話の頃から生きてる老害らしいわ」

 

 

どこか呆れた顔を見せながら、アウラ様は教えて下さる。その方が、私にとってどういう存在なのかを。そのゼーリエ様から見れば、私は弟子で言えばひ孫にあたるのか。しかもフリーレン様と同じエルフ。それだけでその方がどれほど規格外なのか分かる。そんな方がいるならフリーレン様も教えて下さればいいのに。いや、フリーレン様のことだ。きっと忘れているだけに違いない。もしかしたらその方のことが苦手なだけかもしれない。

 

 

「そんなに凄い方がいらっしゃるのですね」

「別に敬わなくてもいいわ。基本的に表舞台には出てこない引きこもりよ。エルフの習性かしらね。あんたも気をつけなさい。弱みを見せたらいいように使われるわよ」

「経験者は語る、ですな」

 

 

だが苦手なのはきっとアウラ様も一緒なのだろう。言葉の節々から、態度からそれが滲み出ている。何となくだが、そのゼーリエ様はアウラ様に似ているのかもしれない。

 

 

「きっとそんな心配はいりません。私はまだまだ未熟ですので」

「子供らしくないのは相変わらずね。いえ、謙虚なのかしら。ハイターには似ても似つかないわね。酒ばかり飲んでた生臭坊主だったのに」

「そんなことは。それにお酒は百薬の長ですから」

「……あんた、間違いなくあいつの娘ね」

「ですな」

「……?」

 

 

二人に同じような視線を向けられるも首を傾げるしかない。ハイター様の娘だという、私にとっては最上級の誉め言葉のはずなのに、何故かそれに違和感がある。何かおかしかっただろうか。同時に思い出すのは、よく子供らしくしろと叱られてしまったこと。今の私もまだまだアウラ様にとっては子供なのだろう。シュトロ様ですらそうなのだ。きっとそれはずっと変わらないに違いない。でもそれが嫌ではない。むしろ嬉しいくらい。きっと私の心はずっと子供のままなのだろう。このお方の前では。

 

 

「それで? 何であんたはここに一人で来たわけ? あのエルフは一緒じゃないの?」

「それは……」

 

 

話が一旦が落ち着いたところで、改めてそうアウラ様に問い質される。思わずそれに気圧されてしまう。それはアウラ様の気配だった。明らかに先程までとは違う。きっと、フリーレン様のことだからだろう。その瞳の奥に確かな敵意が見える。だがそれを避けて話すこともできない。そもそもこれからお願いすることはそのフリーレン様のことなのだから。それを前に思わず尻込みしてしまうも

 

 

「その前に私から報告したいことが。その件とも無関係ではないので」

「何のことよ?」

 

 

まるで助け船のように、シュトロ様が割って入って下さる。やはりこのお方は凄い。司祭というのはみんなこんな方ばかりなのだろうか。その視線が私にここは任せてほしいと告げている。ここはその厚意に甘えさせてもらうしかない。

 

 

「ソリテール様のことです。実は先程までフェルン様と一緒におられまして」

「……詳しく話しなさい」

 

 

だがその内容は、私の予想とは異なる物だった。てっきりフリーレン様の話をされるのかと思っていたのに。そう思いながらもアウラ様と同じようにシュトロ様の話に耳を傾ける。つい先ほどまで自分の身に起こっていた、できれば思い出したくない出来事を。

 

 

「そう……悪かったね、フェルン。私が甘かったわ。もう好き勝手にはさせないわ」

「いえ……」

 

 

さっきまでとは違う意味で、どこか厳しい顔をしながらアウラ様はそう私に言って下さる。どうやら自分の落ち度だと思ってらっしゃるらしい。あれは私が不用意だったからでもあるのだが、きっとアウラ様にとってはそうではないのだろう。ここフリージアを治める、王としての顔なのかもしれない。

 

 

「それとあのエルフに何の関係があるのよ?」

「はい。どうやら数日前からこちらからグラナトにフリーレン様の拘束要請が出ていたようで……」

 

 

それに続くように、シュトロ様は話を続けていく。アウラ様と同じように、先の話と何の関係があるのか分からぬまま。簡潔に分かり易く。私の拙い話とは比べ物にならない。だがそれが進んでいくにつれて、アウラ様の態度は悪化していく。眉間にしわが寄り、顔をしかめている。まるで自分の予想を遥かに超える事態が起こっているかのように。

 

 

「じゃあ、あのエルフは今、まんまと捕まってるってわけ?」

「はい……」

「そのようですな」

 

 

それは半ば呆れだったのだろう。アウラ様は体を椅子に大きく預け、腕を組みながらそう言い放つ。それを前にしてどこか居たたまれなさに包まれる。だが同時に悟る。この件に関しては恐らくアウラ様は関知していないのだと。もしアウラ様の命令であったのなら、こんな風にはならないだろう。

 

 

「確かグラナトとの交渉はリュグナーに一任してたはずよね?」

「はい。その通りです」

「そう……間違いなくあいつの入れ知恵ね。本当に味方でも厄介な奴ね」

「仰る通りかと」

 

 

そんな二人のやり取りで、私にもおおよそ察しがついた。間違いない。一連の出来事があの魔族、ソリテールの仕業だったのだと。だからこそ、シュトロ様は先に私の話をしたのだろう。アウラ様でも手を焼いてしまう。やはりあの大魔族は危険な存在なのだろう。

 

だがそれは今はいい。私は私のすべきことを。このままシュトロ様におんぶにだっこではいられない。自分のことは自分で。そんな子供でも分かること。

 

 

「あの……アウラ様。フリーレン様の拘束命令を解いていただけませんか……?」

 

 

一度大きく息を整えた後、意を決してアウラ様にお願いする。それがアウラ様にとってどんな意味を持つのか。どれだけ自分が無理を言っているのか。理解した上で。

 

 

「────私が? 何でよ。あのエルフが捕まったのは自業自得よ。フリージアの国益にも反してない。私の知ったことじゃないわ」

 

 

一瞬、目を見開かせた後、アウラ様はそう当然の返事をされる。そう、これは私たちの自業自得。アウラ様の預かり知ることではない。何よりもフリーレン様を助ける理由がアウラ様にはない。むしろ逆だろう。この三日、あれほどの魔力を放つほどに、アウラ様にとってフリーレン様は特別なのだから。本当なら話題すら出すべきではない。その魔力が再び荒れ始める。殺気には至ってはいないものの、その感情が込められた圧力が。

 

 

「いえ……フリーレン様が捕まってしまったのは私を助けようとして下さったせいで……」

 

 

それに押しつぶされそうになりながらも、頭を下げ、ただ懇願する。そう、きっとフリーレン様だけならこんなことにはならなかった。逃げることもできただろう。私がいたからこそフリーレン様は抵抗できなかった。だからこそ、一刻も早くあの方を助けたい。それがアウラ様に嫌われてしまうことであっても。

 

静寂。頭を下げた私にはアウラ様がどんな顔をしているのか分からない。分かるのは魔力だけ。目は口程に物を言う。魔法使いならそれは魔力にも言える。その困惑が、迷いが感じ取れる。まるで天秤が揺れるように。それに

 

 

「いいのですか、姉さん? わざわざフェルン様がこうして頼りに来られたというのに」

「…………」

 

一つの重りが加わる。均衡している秤が傾くに十分な、確かな重りが。

 

 

「それにソリテール様を御し切れなかった我々にも責任があるのでは?」

「……あんた、最初からそのつもりだったわね」

「はて。何のことですかな」

 

 

まるで最初からそうなることが分かっていたのか。まるで狙ったかのようなタイミングで、助け船をシュトロ様は出して下さる。本当にこのお方には感謝してもし切れない。もしかしたら、私のお願いを聞きたくてもできないアウラ様にも助け船だったのかもしれない。

 

 

「……まあいいわ。あいつにいいように利用されるのも癪だしね。シュトロ、信書を。サインするからペンを持ってきなさい」

「かしこまりました、アウラ様。少々お待ちを」

 

 

一度鼻を鳴らし、座り直しながら尊大にアウラ様はそうシュトロ様に命じられる。それに流れるように応じる司祭のシュトロ様。きっとこれが公の二人の関係なのだろう。姉から様付けに変わっている。何よりもそれは私の無茶なお願いを二人が聞いてくださった証拠だった。

 

 

「っ! ありがとうございます、アウラ様!」

「前も言ったでしょう。魔族に礼はいらないわ。自分のためにしてるだけよ」

 

 

それにお礼を言うも、アウラ様は受け取っては下さらない。いつかと同じように忠告して下さるだけ。きっとそれが、ハイター様の言う、優しい嘘であることを私は知ってる。昔と変わらない、私の知っているアウラ様。

 

 

「あんたはもうしばらくここにいなさい。ソリテールに付き纏われると面倒だわ。いくらあのエルフが薄情者でも、弟子を迎えにぐらい来るでしょ」

 

 

どうでもいいように、テーブルに置かれているリンゴのお菓子を口にしながらアウラ様はそう仰って下さる。きっとそれはアウラ様にとっては当たり前のことなのだろう。なら、私もそれにお礼を言うことはできない。それは心の中だけに留めよう。代わりに

 

 

「はい。私もアウラ様を頼りにさせてもらいます」

 

 

フリージアの流儀に倣って、そう伝える。リーニエ様から、日記から知った魔族であるアウラ様にも伝わる言葉で。

 

 

「あの子も真似される側になったのね……いい迷惑だわ」

 

 

それが伝わったのだろう。まるで子供に振り回される母のように、目を閉じながらアウラ様は懐かしい口癖を漏らされるのだった────

 

 

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