(上出来だね……)
改めて杖を構え直しながら自分の前にいるリーニエの後姿を見つめる。疑っていたわけではないが、やはり実際に目の当たりにすると思い知らされる。この子が間違いなくヒンメルの一番弟子なのだと。らしくなく、戦いが楽しいと思ってしまうほどには。これはきっと郷愁だ。八十年前を、十年の旅路を思い出すから。そんな少し前のことを懐かしく思えるぐらいには、私も変わってきているのだろう。
(でも本番はここからだね。相手は無名の大魔族だ。このまま終わるわけがない)
瞬時に思考を切り替える。葬送としての自分に。確かにリーニエとの連携によって拮抗していたものの、形勢はこちらが圧倒的に不利なのは変わらない。もし自分が万全とは言わずとも、半分の力でも残っていればいくらでもやりようがあっただろう。魔力と体力の消費。疲労による魔法の精度の低下。まともに動いていられるのもあとわずか。今の自分たちにとって最悪の事態は、ソリテールによって一気に攻め込まれること。そうなればひとたまりもない。
それ故に罠を仕掛けた。アウラの
あとはいかにソリテールの隙を突くか。有効な攻撃手段は私のゾルトラーク。それをいかに当てることができるか。私たちに消耗戦は許されない。勝機があるのは短期決戦のみ。さらに言うなら、騙し討ち、不意打ちだ。
だが違和感がある。それをあの子が分かっていないわけがない。なのに何故単調な攻撃ばかり続けているのか。確かに本物のヒンメルほどの強さはないとしても、他にも戦い方は、やりようはあるはずなのに。もしやアウラに欺かないように命じられている影響なのか。そんな中、ふと蘇ってくる記憶。それは
『そんなことを言っていいのか? あいつはいわば魔族におけるお前なんだぞ』
リーニエのことを尋ねた私に、アイゼンが答えてきたこと。リーニエが魔族における私なのだと。
『あいつは魔族でありながら魔力を偽りながら生きている。そして人間を騙すため、魔族である自分を欺き続けている。生まれてからほぼずっとだ。お前と全く瓜二つだ』
私と同じように魔力を制限したまま過ごし、同じように相手を騙すために生涯を捧げている。その本当の意味。
そう。リーニエは勇者ヒンメルの弟子でありながら、勇者一行の弟子でもあるのだ。会ったこともないのに、リーニエは受け継いでいる。葬送としての私の在り方を。ヒンメルたちから。だとすれば、全てが繋がる。理解できる。手に取るように。アウラとは違う意味で、私とリーニエは鏡合わせの存在なのだから。
考えれば単純だ。リーニエは最初からソリテールと戦うことを想定していた。そこに私がいるなんて、味方になるなんて偶然は含まれていない。私なら勝ち目のない戦いは決してしない。それはただの無駄死に、犬死にだ。
「本当はもっとゆっくりお話ししたかったけれども仕方がないわね。ここでの最善手は全力を以て君たちを殺すこと」
ようやくリーニエの真意に至ると同時に、ソリテールが動きを見せる。変わらず薄気味悪い笑みを浮かべながら、こちらをまるで実験動物のようにしか見ていない不気味さ。だがその周囲にはもう剣の群れはない。一体何をする気なのか。それに備えんとするも
(っ!? 魔力の流れが変わ)
それよりも早く感じ取る。魔力の流れを。その膨大な魔力からは考えられない、緻密な魔力コントロール。その流れが一気に変わる。恐ろしいほどの速さで。それが何を意味するかを悟るも
「リー……!」
「無駄よ」
それを伝える間もなく、私を守るように立っていたリーニエは魔力に飲み込まれてしまう。瞬きもできないような刹那。同時に凄まじい爆音が、衝撃が辺りを支配する。ただ掌をかざしただけで。何の術式も、予備動作もない。ただ純粋な破壊行為。
「これが私の使える最強の魔法。皮肉なものだと思わない? 様々な魔法を学んだ探求の果てが、魔力をぶつけるだけの単純な魔法だなんて」
魔力をぶつける魔法。いや、もはや魔法とすら呼べない代物。それがこいつの魔法だった。ふざけている。これだけ悪辣に人間を観察し、騙し続けているこいつの魔法が、そんな子供のような単純な物だなんて。それは魔法使いなら誰でもできる子供騙しのようなもの。だが、それは目の前の大魔族が扱うことによって、最強の攻撃魔法に姿を変える。
攻撃は単調だが、単純であるが故に防ぎようがない。これだけの高密度の魔力をぶつけられれば、防御魔法も紙屑のように貫通されてしまう。その速度も桁外れだ。その全てを躱し続けるのは至難の業。
「でも実験には不便なの。簡単に相手を殺してしまうから。今みたいにね」
だがこいつにとっては誇るべきものではないのだろう。その理由もふざけている。ようするに、相手を甚振れないから今まで使っていなかったのだ。魔族の中でも、さらに異端の存在。
それを前にして、身動きが取れない。その攻撃を見逃さないために。それでもその思考が目の前にいたはずのリーニエの安否に及んだ瞬間
土煙の中から、まるで鳥のようにリーニエがその剣を持ちながら、ソリテールへと飛び立っていった。
「んー? 何でかしら。確かに当てたはずなのに」
私よりも驚いているはずだろうに、それをおくびにも出さないままソリテールは冷静にそれを魔力の鎧で受け止める。その攻撃よりも、何故リーニエが生きているのか、無事なのかの方が気にかかっているのだろう。それは私も同じだ。間違いなく、あのタイミングでは当たっていたはず。なのに、リーニエは全くの無傷だった。魔法で防御したのか。いや、あり得ない。いくら防御魔法であっても無傷ではすまない。
「手元が狂ったかしら。でも今度は外さないわ」
それを確かめるように、実験するかのように再びソリテールはその手をかざす。今度は見逃すまいと。その無慈悲な魔力が放たれる。だが瞬間、確かに見た。あり得ないような光景を。
それは、ソリテールが魔法を放つ前に、既に回避動作を行っているリーニエの姿だった。
それによって魔法を紙一重で躱し、その隙を狙ってリーニエは斬りかかって行く。先のやり取りの再現。それを壊すためにソリテールは繰り返し、緩急も加えながら魔法を繰り出し続けるもその全てが空を切る。大地が抉られ、土煙が舞うも、獲物を捕らえることができない。
「まぐれじゃないわね……信じられないけど、私の動きを、魔法を先読みしているのかしら」
それがまぐれ、偶然ではないことをソリテールは確信している。己の動き、魔法が読まれているのだと。その理由までは思い至ってはいないのだろう。当然だ。私であっても、それは同じだろう。リーニエからその理由を聞かされていなければ。
(そうか……これはあの子の特別な眼の力……!)
それはリーニエが持つ、相手の体内の魔力の流れすら読み取る特別な眼のこと。相手が嘘をついているかどうかすら見分ける力を持つもの。それだけではない。こんなことをする奴に、私は心当たりがある。間違いなくヒンメルの仕業だ。グラオザームの幻影を打ち破った時のように。気配や感覚だけで先読みする。魔力を持たざる者の力。本当に勇者一行には化け物しかいない。それを弟子にまで受け継がせるなんて。一体何を考えているのか。
例外。それがあの子の二つ名。その本当の意味。リーニエは間違いなく、ソリテールにとっては天敵なのだ。どんな攻撃も当たらなければ意味がない。子供でも思いつくような絵空事。それを体現しているのが今のリーニエ。
だが同じようにリーニエの剣もソリテールには届かない。互いに手詰まり。千日手。決着がつかない。だが、それを覆し得るのが私だ。
その隙を突くように、リーニエを援護するように再びゾルトラークを放つ。高圧縮した、ソリテールの魔力の鎧を打ち抜ける密度を持った魔法。しかしそれは、それを遥かに上回る魔力の壁によって防がれてしまう。
「……魔力の盾か」
「ええ。もうそれは何度も見せてもらったわ。
その手にまるで盾のような魔力を生み出しながらソリテールはそう告げてくる。とんでもない魔力の密度だ。まさに盾か。鎧だけでなく、そんな物まで。それで直接私の魔法を防御したのか。信じられない反応速度だ。速射性の最も優れる魔法であるゾルトラークを。やはりこいつは怪物だ。こんな魔力の消費をしていれば、並みの魔法使いならすぐに魔力切れを起こすだろうに。その膨大な魔力と、別次元のような魔力コントロールでその矛盾を克服している。だから大魔族は嫌いなんだ。強い相手との戦いも。だから早く終わらせることにしよう。
「そう。私とばかり話をしていていいの。お前の相手はリーニエだよ」
「その子は私とはお話ししてくれないもの。それに君を無視できるほど私は愚かではないわ。一体何を企んでいるの?」
「お前を倒す方法に決まってる」
お話という名の時間稼ぎ。それによって呼吸を整える。こいつも気づいているだろう。次の攻防が最後になることを。リーニエに攻撃が当たらない以上、こいつは私を狙ってくるだろう。そうなれば長くは保たない。リーニエは剣士だ。前衛だが、戦士のように相手の攻撃を受け止める盾の役割は果たせない。もっとも、こいつの魔法を受け止められるのはアイゼンぐらいだろうが。
「素敵ね。不可能という点に目を瞑ればだけど。さっきみたいにリーニエの剣が届くのを期待しているのなら無駄よ。同じ手が二度通じるほど私は甘くないわ」
魔力の鎧はさらに堅牢になっている。剣どころか、魔法すら届かない。例外は高圧縮したゾルトラークぐらい。それすらも魔力の盾の前では無力化されてしまう。もっと速度があれば別だろうが、私にそれはない。フェルンならそれができるだろう。もっとも魔族との初戦闘で、大魔族のこいつ相手ではいくらフェルンでも無理だ。でもここにはリーニエがいる。私は一人ではない。
「やっぱり魔族は駄目だね。私はそうは思わない」
勇者の一番弟子でありながら、葬送の戦い方を受け継ぐ、もう一人の私が。鏡を見るように、その目を見る。間違いない。それは勝ちに行く目だ。魔族には、こいつにはそれが分からない。
「だから私はリーニエに背中を預けると決めた」
勇者ヒンメルならきっと最後まで信じて背中を預ける。他でもない、愛弟子なのだから。たまにはこんな賭けに出るのも悪くない。かつての不死なるベーゼとの戦いのように。
「勝つのは私達だ。ソリテール」
「素晴らしいわ。ぜひ君の死に際の言葉を教えて」
それが最後のやり取り。もう言葉は必要ない。それを告げるように、私達は無名の大魔族へと挑みかかった────
(悪あがき……いいえ、駄目ね。相手はあの葬送のフリーレン。油断は禁物よ)
距離を保ちながら消耗戦に徹する。それが私の最善手。危険を冒すことはない。時間が経てばたつほど私に有利になる。見れば変わらずアウラは天秤を手にしたまま。何か狙いがあるのは間違いない。無理に攻め込めばフリーレンの思う壺だろう。
ただ魔力を放ち続ける。一人遊びのように。地を這う蟻を踏み潰すように。決定打にはならないが、それは間違いなく相手を削り続けている。リーニエに当たらないのなら、狙いはフリーレン。距離があるせいで避けられてはしまうが、その余波までは防ぎきれない。じき躱し切れなくなるだろう。満身創痍に加えて疲労困憊。立っているのもやっとだろうに。その証拠に動きは鈍り、精彩を欠きつつある。少しでも私の魔法が掠れば致命傷になる。
そう分析した瞬間、リーニエの剣が襲い掛かってくる。私の首に届いたはずの剣は、それを再現できない。魔力によって防がれ、押し返され、リーニエはその場から離脱していく。もう何度目になるか分からない、無駄なやり取り。
(馬鹿の一つ覚えね。やっぱりこの子は魔物なのね。欺くということを知らない)
その速さは、技術は素晴らしいがそれだけだ。ただ魔物のように、獣のように愚直に攻めてくる。愚かでしかない。もう私の魔力の鎧に隙はない。その偽物の剣は私には届かない。もう飽きるほど繰り返したやり取り。ならその狙いは
「────
葬送のフリーレンを援護するため。私に隙を生み出すため。
高圧縮の、極大の黒いゾルトラーク。先のアウラの戦いの最後に見せた、恐らくはフリーレンの切り札。私の魔力の鎧を打ち抜ける唯一の魔法。それが私に放たれる。思わず感嘆する。素晴らしい。大魔法使いである彼女の探求の果て。惜しむらくは
「残念だけど、それはもう見せてもらったわ」
それは既に私にとっては観測した後であるということ。
黒い魔力の砲撃を、魔力の盾で受け止める。それは私の反応速度、反射神経を超えるものではない。不意打ちでもない限り、それが通ることはない。その隙を作れるほどの力がリーニエにはない。ならフリーレンの敗因は明確だ。かつての仲間がいないこと。もし勇者一行の誰かがいれば、きっと結果は違っていた。私も戦うことではなく、逃げることを選択しただろう。
間違いなくこれが最後の攻防。フリーレンの魔力も残りわずか。これだけの魔法。放った後の隙も大きい。それを見逃すほど私は甘くはない。これを捌き切った後、魔力をぶつければいい。
「────」
そんな中、再びこちらに迫ってくるリーニエ。またそれか。剣は届かないとしても、少しでも意識を割かせ、邪魔したいのだろう。だがそんな愚は犯さない。葬送のフリーレンの最後の攻撃を前にそんな隙は晒せない。既に対策はした。もう魔力の流れに隙は生み出さない。そんなものができないほどの膨大な魔力を纏っている。そう判断し、意識を外しかけるも
「────
「──?」
その視界の端に捉える。リーニエの動きのリズムが変わったのを。一部の無駄もない、流麗な勇者の身のこなしではない。全く異質な物。そのままリーニエは大きくしゃがみ込む。まるで四足獣のように。力を溜めるように。自らの強みである速さとはかけ離れた動き。そのままリーニエは天高く飛び上がる。一体何を。
ソリテールは気づけなかった。知らなかった。それが何を意味するのか。だが二人は違っていた。フリーレンとアウラはその瞬間、全てを理解した。何故なら二人は知っていた、見たことがあったから。その動きを。それが誰を真似た物であるかを────
『ねえ、アイゼン。自分より強い奴に勝つにはどうしたらいいの?』
その手にヒンメルの剣を持ったまま尋ねた。あいつに、ソリテールに勝つにはどうすればいいのか。必死に鍛錬をしている。自分が強くなっているのは分かる。でもあいつには全然届かない。それが分かる。なら、私はどうすればいいのか。あいつの言う通り、逃げるしかないのか。でもそれは嫌だった。だからそれを聞きにアイゼンのところにやってきた。きっとアイゼンならそれを知っていると、頼りになると思ったから。でも
『決まっている。何度でも立ち上がって技を叩きこめばいい。戦士ってのは最後まで立っていた奴が勝つんだ』
アイゼンはそんなことを言ってくる。何を言っているのか分からない。アイゼンは時々こうなってしまう。決まって戦士のことを話す時。まるで私が人間になってしまったみたいに、理解できないことを。そもそも
『私は戦士じゃないよ』
私は戦士じゃない。魔法使いだ。剣士でもあるが、それは変わらない。ヒンメルの一番弟子だからだ。だからアイゼンのようにはなれない。私にそんなことできっこない。戦士じゃないのだから。
『そうだな。お前は魔族だ。ならお前はフリーレンの真似をすればいい』
でもアイゼンもそれは分かっていたのだろう。私が魔族だってことも忘れていない。うん。やっぱりアイゼンはアイゼンだ。それが嬉しい。だけど、もっと分からないことを言ってくる。その名前と一緒に。
『フリーレン? それって葬送のフリーレンのこと?』
フリーレン。それはきっと葬送のフリーレンのことだろう。私は一度も会ったことはないけど、いっぱい話は聞いている。特にヒンメルから。嫌になるほどに。アイゼンもそうなのだろうか。しかもその真似をすればいいと。何でそんなことを。会ったこともない相手の真似なんて、私でもできるわけがない。
『そうだ。あいつは魔族を騙すため、倒すために全てを捧げてきた。お前も続けている魔力の偽装がその証だ』
でもそれは、私の魔法とは違っていた。動きや強さではない。もっと違うことを、真似すればいいのだと。聞けば聞くほど、フリーレンは私とそっくりだった。まるでそうなるように決まっていたみたいに。きっとこれが運命という奴なのだろう。
『魔族にとっての弱点は油断と驕りだ。それは人間にも当てはまる。フォル爺という歴戦の老戦士がいてな。そいつも言っていた。戦闘での死因の多くは油断だと。魔族にも人にもそれが一番効くとな』
熟達した戦士でも防御を意識できなければ簡単に致命傷を負う。卑怯な戦法。それが葬送のフリーレンの戦い方。私が見倣うべき、模倣すべきもの。あいつに勝つための、唯一の方法。
『ヒンメルにはできない、
相手を欺く、
『……でもいいの? 嘘はついちゃいけないってアウラ様が言ってたのに』
でもそれはアウラ様の命令を破ることになってしまう。それがあったから私はアウラ様と一緒にいられる。今の私がある。なのに、それをなくしてしまったら意味がない。どうしたらいいのか。それに
『そうだな。だからこれは例外だ。俺が許す。あいつもそれには逆らえん』
『どうして?』
何も気にすることはないと、アイゼンは言ってくる。アイゼンが許してくれる。
『俺は『お父さん』だからだ。こういう時には一番偉い。もうヒンメルに嫉妬されることもないだろう。お前には戦士として俺のとっておきを教えてやる』
『お父さん』だからだと、アイゼンは自信満々に答えてくる。『お母さん』と対になる、私たち魔族にとっては理解できない言葉を。だけど、何となく分かった。それが、私にとってのアイゼンなのだと。人間とはきっと違うけど、私はアイゼンを頼りにしている。きっとそれが私にとっての『お父さん』なのだろう。
そのアイゼンはいつもよりも上機嫌だ。きっとあの時のヒンメルと同じだ。もしかしたら、ずっとヒンメルが羨ましかったのかもしれない。私に技を教えたかったのだろう。でもヒンメルなら嫉妬するに違いない。ヒンメルは焼きもち焼きだから。死んでもきっとそれは変わらない。
『私は戦士じゃないよ』
『その方が都合が良いからだ』
いつものように、そう嘘をつきながらアイゼンは笑っている。嘘をつくのはいけないことなのに。でもそれが嬉しかった。きっと、嘘にはいい嘘もあるのだ。
だから、私は嘘をつく。アウラ様と出会ってから初めて。アイゼンが
そう、全てはこの瞬間のため。
三十年、鍛錬を積んできたのも。
不意打ちして、こいつの力を確かめたのも。
アイゼンに頼ったのも。
フリーレンを頼ったのも。
同じ攻撃を繰り返したのも。
私の攻撃は無駄だと思わせたのも。
全部全部このため。こいつの油断を誘うため。こいつを騙すため。アウラ様の命令に逆らうことになっても。それでも私はこいつを許さない。その無念を晴らすために、仇を討つために。だってこいつは────
────私の
その剣が振り落とされる。勇者の剣でありながら、戦士の斧を模したものが。始まりの模倣。最初に記憶した、最強の戦士の動きを模倣したもの。足りない物を、魔力と鍛錬で補った、武骨で泥臭いもの。ヒンメルと同じように、アイゼンが託したものがここにある。
ソリテールは知らなかった。リーニエが勇者であり、戦士であることを。そして、
それが彼女の間違い。自分が真に戦う相手が誰であったのか。それを見誤った。ただそれだけの、致命的な失態。油断と驕り。
「────閃天撃!!」
それを示すように、