ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第百二十四話 「伝言」

「よくやったわ、リーニエ。リュグナー」

 

 

ソリテールを送った後、私を待って控えていた二人をそう労う。嘘偽りない私の本音。フリージアの国王として、魔族の主従として。フリージアが建国して以来の危機とも言える状況を乗り越えることができたのは二人がいたからに他ならない。

 

 

「もったいないお言葉です。アウラ様」

 

 

だというのに、全く功名心も虚栄心も見せることなくリュグナーは頭を下げている。こいつらしいといえばこいつらしい。ある意味この騒動で一番変化したのはリュグナーのはずなのだが。これも忠誠という名の嘘の為せる技なのかもしれない。対照的に

 

 

「っ! 聞いたリュグナー!? アウラ様が褒めてくれたよ? 言ったでしょ! アウラ様はリュグナーのことを頼りにしてるって!」

 

 

その場で飛び跳ねながら喜びを爆発させているリーニエ。自分が褒められたことよりもリュグナーが褒められたことの方に喜んでいるのがこの子らしさなのだろう。ことあるごとにリーニエはリュグナーにかまっていたのだから。今回はそれが極まったのか。そのままリュグナーの手を握ろうとするも

 

 

「気安く触れるんじゃない、リーニエ。私たちはアウラ様の神官だと何度言ったら分かるのだ。慎みを持て」

「だって……」

「グラナトでの件。後で詳しく聞かせてもらうぞ」

「むぅ……」

 

 

 

残念ながらそれは振られてしまう。どころか痛いところを突かれてしまったのか。いつものように黙り込んでしまうリーニエ。こっちの方の釣り合いはまだ取れていないらしい。だが進歩はあったようだ。リーニエはまだ気づいていないようだが、リュグナーが敬語ではなくなっている。何がきっかけだったのかは分からないが、この嘘つきの嘘を一つ暴くことができたのだろう。

 

 

(この子の夢が叶うのはいつになるのかしらね)

 

 

リュグナーと友達になること。それがリーニエの夢、もとい目標だった。例外であるが故か。それとも第二世代の申し子でもあるからか。国王である私の側近という立場もあるだろう。人間はともかく、魔族にはリーニエと対等に付き合ってくれる相手がいなかった。だからこそ、リーニエはリュグナーに期待していた。自分と同じ側近であり、神官であるリュグナーに。魔族の友達になりたいと。私とソリテールのような共犯関係になるのか。はたまた全く違う形になるのか。もっとも今はリーニエの奮闘は空回ってばかり。どうやらまだまだ道のりは遠そうだ。

 

 

(どうやらあっちも終わったみたいね)

 

 

そんなこんなをしていると、城壁の方から三人がこっちへとやってくる。言うまでもなくフリーレン一行だ。フリーレンはシュタルクにおぶられている。立っているのもやっとだったはずだが、やはりシュタルクも戦士なのだろう。アイゼンの弟子なだけはある。まだ人類の範疇には収まっているようだが、あと数年もすれば分からない。それに続くようにフェルンもやってきている。どうやらあの子は無傷のようだ。シュタルクやフリーレンに比べれば一番肉体的には弱いので心配していたのだが杞憂だったようだ。

 

 

(よくよく考えればおかしな組み合わせね……)

 

 

ふと我に返ってしまう。魔族である私とリーニエ、リュグナーの三人組と、勇者一行とその弟子でもあるフリーレン、フェルンとシュタルクの一行。何もかもが対照的な集団。何かが掛け違っていれば、敵対し、殺し合っていてもおかしくない組み合わせ、巡り合わせだろうに。それがどういうわけか結果的には共闘していたのだから。いくら共通の敵としてソリテールがいたからだとしてもあり得ない光景。それも、さかのぼって行けばあいつのせいになるのだろう。あの老害の気紛れが結果的に魔王を打倒してしまったように。恐ろしいのは、まだこれで終わりではない。始まりかもしれないということ。

 

 

「…………」

 

 

それでもすぐにそれは訪れないだろう。その証拠に控えているリュグナーは明らかに嫌悪感を、拒否感を隠しきれていない。当たり前だ。人間であるフェルンとシュタルクだけでもそうだろうに、そこにあの葬送のフリーレンまで加わっているのだから。先の緊急時による共闘という大義名分もない。友好的にしろと言うのが無理な話だろう。魔族であるが故に。例えこいつが稀代の嘘つきだとしても。私ですらそうなのだ。例外であるリーニエと一緒にしてはいけない。

 

 

「リュグナー。先にフリージアに戻って、戒厳令を解いてきなさい。ここは私が収めるわ」

「……お任せを。どうか油断をなされないよう」

「ええ。分かってるわ」

 

 

そんな私の意図を察したのか。それとも別の理由があったのか。素直にこちらの命令に従うリュグナー。どころかこっちの心配をしてくるほど。これではいつもと立場があべこべだ。そうなってしまうほどには私は油断してしまっているのかもしれない。配下の成長を喜べばいいのかもしれないが、複雑な心境には違いない。少なくとも、私にとっても目の前の状況は喜ばしいものではないのだから。何故なら

 

 

「巻き込んで悪かったわね、二人とも」

「私にも何か言うことがあるんじゃないの?」

「こっちの台詞よ。あんたはただの自業自得じゃない」

 

 

目の前のエルフは、間違いなく自分にとっては不倶戴天の敵でしかないのだから。

 

 

あえて無視してフェルンたちを労ったというのに、横槍を入れてくるフリーレン。自分も労ってもらえるとでも思っていたのだろうか。一体どういう思考回路をしているのか。そもそもこの騒動を引き起こしたのは自分だろうに。全く自覚していないに違いない。自業自得でしかない。

 

 

「やっぱり魔族は駄目だね。そもそもお前がもっとちゃんと」

「────フリーレン様?」

「やっぱりこの話題は止めようかな。不毛だし」

 

 

まだ言い足りないのか。おぶられている癖にそのままこちらを煽ってこようとするフリーレン。どうやら重症の癖にそんな元気はあるらしい。心底呆れるもそれはフェルンの一言によって遮られてしまう。瞬間、フリーレンはまるで借りてきた猫のように大人しくなってしまう。まるで親に叱られた子供のようだ。どっちが師匠で弟子か分かったものではない。どうやらフェルンが言っていた面倒を見ないといけない云々は真実だったのだろう。嘘であってくれた方がいいと思うことがあるなんて、こいつぐらいだろう。

 

 

「フェルンとシュタルクもよく頑張ったね。やっぱりアイゼンとフリーレンの弟子だね!」

 

 

そんな空気を読めないまま、いつものようにリーニエはマイペースに二人を褒めている。私が言いたいことを代弁してくれたようなものか。二人のお姉さんを自認しているこの子からすれば、弟や妹が成長しているのが嬉しかったのだろう。魔族の感覚から言えば、ついこの間まで小さな子供だった二人が肩を並べて戦えるまでに大きくなってしまったのだから。私からしてもそれは同じだ。もっとも

 

 

「はい。ありがとうございます。それに……リーニエ姉さんも格好良かったです」

 

 

その成長の速さは、どうやら私やリーニエの想像を遥かに超えてしまっていたようだが。

 

 

「え?」

 

 

まるで魔族がゾルトラークを食らってしまったかのように、リーニエは目を丸くしたまま固まってしまう。服従させたわけでもないのに、身動きが取れなくなってしまっている。無理もない。何故ならそれは、リーニエにとってはリュグナーと友達になるのと同じぐらい、念願が叶った瞬間だったのだから。

 

 

「っ!! ねえ、聞いたシュタルク!? フェルンがお姉ちゃんって言ってくれたよ!?」

「分かったから抱き着くなよ、姉ちゃん!? 俺は怪我人だっつーの!?」

 

 

まるで先のリュグナーの時と同じように、いやそれ以上の勢いでリーニエはシュタルクに抱き着いてしまう。フリーレンを背負っているので抵抗できず、シュタルクはされるがまま。情けない悲鳴を上げている。そういえばこの子たちはこんな関係だった。姉であるリーニエには逆らえない弟の習性か。もっとも怪我の痛みで叫んでいるのは無理もない話だろう。

 

 

「? 戦士ならこのぐらい平気でしょ?」

「師匠と一緒にするんじゃねえよ!? そうじゃなくて、こんなところフェルンに見られたら……!?」

「シュタルク様、ふしだらです」

「ほら!? こうなるんだよ!?」

 

 

同じ戦士としてアイゼンと同じ扱いをされてしまうシュタルクだが、それ以上にフェルンに軽蔑されてしまうことの方が堪えてしまっているらしい。なるほど。これだけでシュタルクがこのパーティでどんな扱いをされているのか分かった気がする。ようするに尻に敷かれているのだろう。よくヒンメルもそうからかわれていた。

 

 

「ふしだら? ヒンメルはもういないよ」

「ヒンメル様はふしだらではないですよ、リーニエ姉さん。本当にふしだらなのはフリーレン様です」

「どうしてそこで私なの?」

「知りません。自分の胸に聞いてみて下さい」

「何したの、フリーレン?」

「分かんない」

「心当たりがありすぎるってことか」

 

 

だがそれはフリーレンも同じだったらしい。本人はいきなり自分に飛び火してきて困惑しっぱなし。だが心当たりはあるらしい。弟子にふしだら扱いされる師匠。一体どういうことなのか。

 

 

「ヒンメル様に投げキッスしてスカートを捲らせようとするなんてふしだらです」

「まじかよ……えっちすぎるぜ」

「分かってないね、シュタルク。これは大人の話なんだよ」

「あんたたち……本気で言ってるわけ?」

「え? でもヒンメルはもういないのにどうやってそんなことをするの?」

 

 

その理由も呆れるしかないものだった。フェルンとシュタルクはまだ分かる。年齢の割にはお子様なのは分かり切っている。箱入り娘と息子なのだから。問題なのはエルフの千歳児の方だ。本当にこいつに二人を任せていいのか。旅ができるのか。本気で心配になるほど。リーニエはそれを言葉通りに受け止めて混乱している。オレオールのことを知らないのだから当然だろう。そもそもこのふしだらエルフは何をしに行く気なのか。そんなことをしたらヒンメルはもう一度死にかねない。そうなったら魂はどうなるのか。

 

そんな訳の分からない状況を落ち着ける意味でも、もう一度話をフリーレンたちの旅の目的地、魂の眠る地へと戻す。フェルンから聞いていた通り、フリーレンたちはそこを目指しているらしい。ハイターやアイゼンの差し金だろう。わざわざここ、フリージアへ寄ったのも、私にそれを伝える意味もあったに違いない。相変わらず食えない奴らだ。もう私は断ったというのに。

 

 

「アウラ様……もしよければ」

 

 

そんな私に、どこか遠慮がちにフェルンが何かを言いかける。そういえば、さっき庭園で話している時も同じようなことをしてきていた。何か気になることがあっただろうか。

 

しかしそれはフリーレンの手によって制されてしまう。まるでフェルンと私の間に割って入るように。いつの間にかシュタルクから降りてきている。一体何のつもりなのか。それを問い質すよりも早く

 

 

「────アウラ。何か伝言はある?」

 

 

何の脈絡もなく、先程と同じように、全く要領を得ない言葉が告げられた。

 

 

「はぁ? 何のことよ?」

「ヒンメルへの伝言だよ。どうせ会いに行く気はないんでしょ?」

 

 

思わず反射的に聞き返し、ようやくその言葉の意味を理解する。言葉足らずどころではない。本当に子供みたいな喋り方をする奴だ。ようするに私にヒンメルへの伝言がないか聞いているのだろう。だがますます理解できない。何でこいつがそんなことを。

 

 

「意味が分からないわ。何であんたにそんなこと」

「ハイターとアイゼンに頼まれたんだよ。じゃなきゃこんなことするわけないでしょ」

 

 

そもそも私がこいつにそんなことを頼まなくてはならないのか。だがそれを見越していたかのようにフリーレンはそう答える。もっともらしい理由を。確かにあいつらなら頼みかねない。しかし、そうではないのだろう。服従の魔法を使わなくとも、リーニエではなくとも、私は嘘を見抜くことができる。そもそもこいつは嘘が下手すぎる。魔族を殺す以外では、葬送に徹し切れないのだろう。本当に癪に障る奴だ。

 

 

「…………」

 

 

そのまま思考に耽り、知らず黙り込んでしまう。伝言。言葉を伝えること。それは、私があいつに散々言ってきたことでもある。贈り物や花言葉なんて回りくどいことをせずに、直接言葉で伝えればいい、と。なのに、その言葉がすぐ出てこない。あんなに考えていたはずなのに。考えない日はなかったはずなのに。いざその時になれば、それが出てこない。

 

そうか。ようやく分かった。だからこそ、人間は言葉ではないもので伝えるのだろう。それができないから。恥ずかしいから。格好をつけて。ヒンメルのように。

 

 

「……仕方ないね。じゃあアウラからは何もなかったってヒンメルには伝えるよ。薄情者だって思われるかもね」

「あんたね……」

 

 

こっちの気も知らないで、人の心が分からないエルフはこちらを煽ってくる。本当に何様なのか。こいつにだけは言われる筋合いはない。私はこいつほど薄情ではない。

 

 

だがその瞬間、思い出した。思い出すのを止めていた、私の記憶。思い出と呼ばれる物。何の意味もない、下らない光景。

 

 

あいつに会ったら、伝えようとしていたこと。きっとあいつなら、私に聞いてくるだろうと思っていたもの。それは

 

 

 

「…………流星は悪くなかった。そう伝えなさい」

 

 

 

リーニエと一緒に見た、あの夜空の星空。一緒に見ることはできなかったけれど、同じ物を見ていた。それを伝えたかった。それがきっと、私にとっての────

 

 

「そう。分かった」

 

 

まるでそれが最初から分かっていたように、何の感慨もなく、淡々とフリーレンは私の伝言を受け取る。本当にこいつは変わらない。何でヒンメルはこんな奴を。きっとヒンメルならそれがいいのだと言うのだろう。あの老害ではないが、本当に物好きな奴だ。

 

 

「私も私も! すっごく綺麗だったって! あとちゃんと約束守ったよってヒンメルに言っておいて!」

「分かりました。そちらは私がヒンメル様にお伝えします。ハイター様には何かありますか?」

「ない」

「ひどくねえ、姉ちゃん?」

「うーん……じゃあ大きくなったって!」

「私も特にないわ。何回別れの挨拶をさせられたか分からないもの」

 

 

ようやく事態を理解したのか。私も私もとリーニエが参加してくる。同時にハイターへの伝言も。そういえばそうか。すっかり忘れてしまっていた。気持ちは同じなのか、リーニエも遠慮ない本音を告げている。元々嘘はつけないので同じだが。どうにもあの生臭坊主と天国が結びつかないのが理由だろう。あいつには伝言など必要ない。もう散々伝えたのだから。あるとすれば酒の飲みすぎぐらいだが、もう死んでいるなら関係ないだろう。天国の酒を楽しみにしていたぐらいだ。今頃女神の寵愛を受けているに違いない。

 

 

「なら後は日記だけだね。シュタルク、預けた日記はどこにあるの?」

「言われた通りフリージアの司祭様に預けてきたぜ」

「そう。なら問題ないかな。じゃあ二冊とも置いて行くよ。それでいいよね、アウラ?」

「……好きにすればいいわ」

 

 

残った用事を済ませるようにフリーレンはそう告げてくる。ヒンメルが残した日記のことだろう。それについてはもうあきらめている。好きにすればいい。私がどう答えたところで結果は変わらない。わざわざシュトロに預けているのがいい証拠だ。これ以上こいつの言いようにされるのは御免だった。

 

 

「フリーレン様?」

「……何? 怒られるようなことしてないよ。ちゃんと渡したでしょ?」

「違います。二冊ってどういうことですか? 一冊しか持って来てないって言ってましたよね?」

「フェルン。言葉にしないからこそ伝わることもあるんだよ」

「どうしてそんな嘘つくの?」

「フリーレン様は言葉にしても伝わらないことの方が多いです」

「ひどいよ」

 

 

だがフェルンの前ではそうはいかないらしい。今のやり取りだけで何かを察したのだろう。またフリーレンを叱りつけている。本当にお母さんのようだ。小さい頃から子供らしくない子だったが、もうお母さんのような振る舞いをしている。それを前にして往生際の悪い嘘をつき、リーニエに見破られている千年を生きた大魔法使い。少しは学んだらどうなのか。

 

 

「とにかく……これで用事は全部済ませたね。じゃあアウラ。約束通り千年後にまた来るよ。それまでフリージアが残ってればね」

「馬鹿じゃないの。そんなこと関係なしにあんたは百年は出禁よ」

「そう。じゃあ百年後に来るとしようかな。その頃ならまだお前も生きてるだろうし」

 

 

性懲りもなく、冗談のような約束を勝手にしてくるフリーレン。あの戯言を本気で言っていたのか。きっと流星を見る約束も同じようなノリでヒンメルたちとしたに違いない。質が悪いのは、今回はそれを分かった上で言ってきているということ。こっちの皮肉も通用しない。年月という概念において、私ではこいつには太刀打ちできないのが分かっているのだろう。この小賢しさはきっとハイターの真似事だろう。やはりこいつは勇者一行なのだ。

 

 

「────じゃあ行くよ。フェルン。シュタルク」

 

 

勇者一行からの頼み事。こいつからすれば嫌なことは早めに済ませたかったのだろう。まるで雨宿りに寄っただけかのような軽快さでフリーレンはフリージアを後にする。まるでヒンメルのように。きっとその真似事なのだろう。もっともそんなことをしなくてもこいつと私の間に別れを惜しむような関係はないというのに。

 

結局一度もフリージアに足を踏み入れることなく去っていく。それもまた、こいつらしさなのだろう。そのまま葬送のフリーレンは目的地であるオレオールへと向かわんとするも

 

 

「え? 嫌です」

 

 

それは当然のように、弟子の裏切りによって中断させられてしまった。

 

 

「……え? どうして……?」

「私はまだフリージアに残るので。まだお二人にちゃんとお礼をできていませんし。少なくとも一月はここには滞在しますから」

 

 

踏み出した足をそのままに、首だけ振り返って尋ねるフリーレンに、淡々とフェルンは事実を告げている。それはまるで確定事項だった。まるでその権利があるかのように。きっと二人の間には私とリーニエ以上に逆らえない主従関係があるに違いない。いや、師弟関係か。

 

 

「そう……じゃあ私はグラナトに戻って」

「それは無理なんじゃねえか? だってフリーレン、脱獄してきたんだろ? お尋ね者だぜ、きっと」

「…………」

 

 

弟子には逆らえなくとも、それでも魔族の国であるフリージアには入国したくなかったのだろう。苦肉の策として隣国のグラナトに戻ることを画策するも、それはすぐさま破綻する。まさに自業自得だ。恐らくはリーニエもそれに加担しているので、同情の余地がないわけでもないがそれはそれ。信書もまだ出せていない。届いたところで脱獄の罪が許されるかは怪しい。下手すればまた投獄されるのがオチだろう。

 

 

「じゃあこの辺で野宿を」

「駄目です。捨て猫や犬じゃないんですから。フリーレン様がフリージアの周りをうろついているなんて迷惑です」

 

 

全ての誇りを捨て、野宿を決意するもそれすらも許されない。野良エルフがうろついているなんてフリージアではなくてもお断りだろう。しかも魔族の大敵たる葬送のフリーレンが。一体何の冗談なのか。

 

 

「そもそもフリーレン様、自分の怪我のこと分かってるんですか?」

「あ」

「本当に忘れてたのかよ。戦士顔負けだな」

 

 

そしてようやく自分の状態に気づく間抜けっぷり。怪我の度合いで言えば、この中でも一番重傷だろうに。そんな有様でどこに行く気なのか。きっと格好をつけて出発しようとしていて気づけなかったのだろう。

 

 

「…………」

「…………何よ」

 

 

ついに八方塞がり、追いつめられたのか。無言のまま、フリーレンは私を見つめてくる。野良ではない、捨てられたエルフのように。拾ってくれるのはヒンメルぐらいだろう。私はそんなことをするほど暇ではない。むしろ捨てる側だろう。

 

 

「……フェルン」

「駄目です。ちゃんとご自分で伝えて下さい」

 

 

拾ってくれないことであきらめたのか。助けを求めるように飼い主という名のフェルンに縋りつくも結果は同じ。この子はお母さんとしても子供を厳しく躾けるのだろう。散々私に伝言を煽ったくせに、自分は言葉を伝えられないのか。一体私は何を見せられているのか。それがいつまで続いたのか。

 

 

「…………アウラ。仕事紹介してくれない?」

 

 

苦虫を嚙み潰したように、さっきの盗人のような情けない顔をしながらフリーレンはそんなことを頼んでくる。まるで入国審査のように。きっとその真似事なのだろう。フリージアに入国するための、往生際の悪い、自分に言い聞かせるための、ぎりぎりの嘘をつくために。魔族の私に許しを乞いている。それはきっとこいつにとっては私が自分の魔法を捨てたのに匹敵する覚悟だったに違いない。

 

 

「…………いいわ。フェルンに免じてね。問題起こすようならすぐに追い出すわよ」

「……ありがとう」

「良かったね、フリーレン!」

 

 

その惨めさとフェルンに免じて入国を許可する。これ以上は付き合いきれない。しかもこいつに嘘とはいえ、お礼まで言われてしまう始末。怖気が走る。こいつに倣うなら反吐が出る、か。だがこれも避けられなかったのだろう。

 

そう、こいつは最後の勇者一行の一人なのだから。ヒンメルに、ハイターに、アイゼン。あいつらがそうだったように、私がこいつに振り回されるのは決まっていたのだ。違うのは、それが八十年遅れてやってきたということ。何よりも

 

 

「ヒンメルはもういないじゃない……」

 

 

こいつの面倒を見る、責任を取ってくれるはずのヒンメルはもういない。本当に罪な男だ。面倒事だけ私に押し付けて。本当に

 

 

「本当にいい迷惑だわ……」

 

 

溜息を吐きながら、そういつもの口癖が出てしまう。でも仕方がない。あいつと友達になるとはそういうことなのだ。やることは山積みだ。思い出すのはかつての、ヒンメルが守らなかった、私が保留にしたもう一つの約束。分かることは一つだけ。

 

 

『君に、フリーレンと友達になってほしいんだ』

 

 

これからの私の人生は、退屈とは程遠いものになるであろうことだけだった────

 

 




今話は内容的には最終回に近い物になっています。長くかかりましたがようやく次が最終話となります。内容はエピローグに近い物になりますがお楽しみに。
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