ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第五話 「悪戯」

「本当に一緒に行かなくてよかったのか、フリーレン?」

「ゼーリエの機嫌を損ねてしまったからね。本当に子供みたいな人だよ」

 

 

呆れながら何とはなしに目の前にある施設、大陸魔法協会の北部支部に目を向ける。今そこでは一級魔法使いの合格者の特権の授与式が行われている。フェルンも今頃慣れない行事に悪戦苦闘しているだろう。表には出さないが、あの子はそういうことは苦手にしているから。本当なら同伴者も許されていたのだが、残念ながら私にはその権利はない。まあ、元々参加したくはなかったのでちょうどいいといえばいいが。フェルンは不満げだったがこればかりはどうしようもない。なので今はシュタルクと一緒にお留守番中。本当に子供みたいな人だ。

 

 

「……何?」

「何でもねえよ」

 

 

そんなことを考えているとふとシュタルクと目が合う。何か言いたげにしているがそのまま。何だか居たたまれない。シュタルクが何を言いたかったのか。それが分かってしまったから。それを直接言ってこないあたり、やはりこの子も臆病なのだろう。

 

 

「でもこれでフェルンも一級魔法使いか。凄えよな。何だか置いて行かれた気分だぜ」

 

 

そんな空気を変えるためだったのか。シュタルクはそう話題を変えてくる。だがそれは本心だったのだろう。どこか羨望のようなまなざしを見せている。それもそうか。私もそれは同じだ。ただの称号だとはいえ、一級魔法使いは現代の魔法使いの最高峰を意味するもの。それにフェルンが選ばれたというのだから。それは私にとっても喜ばしいことだ。自分が合格するよりもずっと。でもシュタルクはそれが少し寂しいらしい。同い年の仲間が先に行ってしまった、進んでしまった気がしたのだろう。私がみんなに置いて行かれてしまうように。なので

 

 

「……何だよ?」

「アイゼンの代わりに褒めてあげてるんだよ。シュタルクも頑張ってるからね」

「分かってねえな、フリーレン。もう師匠は頭を撫でたりしねえぜ」

「だから代わりだよ」

 

 

背伸びをして、シュタルクの頭を撫でてあげることにする。フェルンがいると嫉妬されてしまうのだが、今なら大丈夫だろう。かつてハイターがしてくれたように、それに倣いながら。ここにはいないアイゼンの代わりに。あいつは不器用だからできないに違いない。いや、背が届かないからか。それが恥ずかしいのだろう。それでもされるがままのシュタルク。うん。やはり私はお姉さんよりもお母さんなのだろう。リーニエではないが、その方向性で頑張ることにしよう。それはともかくとして

 

 

「何なら魔法使いみたいに戦士も組織を作ったらどう? 大陸戦士協会になるのかな」

 

 

フェルンに追いつきたいのならそれが一番手っ取り早いかもしれない。魔法使いではない、戦士の組織を作ればいい。それがあれば、シュタルクならきっとすぐに一級戦士になれるだろう。

 

 

「勘弁してくれよ。俺、受かる気がしねえよ……絶対崖から落とされたりするんだろ」

「リーニエが試験官ならそうなるかもね」

 

 

だというのに、違う意味でシュタルクは震えてしまっている。きっと私と同じ想像をしたに違いない。魔族であり、魔法使いでもあるのに何故かそこに所属しているリーニエ。きっと試験内容は崖から落とされても耐えること。創設者はアイゼンだろうか。本人も満更でもないかもしれない。そんな下らないことを話していると

 

 

「フリーレン様」

 

 

聞き慣れない声が後ろからかけられる。私のことを知っている人間となれば限られてくる。それは

 

 

「……誰?」

「大陸魔法協会の人だね。確か……」

 

 

初老の男性だった。知らない人物にシュタルクは首を傾げているが、私は違う。確か最初にここで受付をした時に会ったことがあるはず。聖杖の証を見せたことで、私も試験に参加できるように取り計らってくれた人物だ。他の試験官たちと同様に一級魔法使いだったはず。名前は確か

 

 

「ご挨拶が遅れました。一級魔法使いのレルネン。ゼーリエ様の弟子の一人です」

 

 

そう頭を下げながらレルネンは挨拶をしてくる。その物腰から礼儀正しさが、貫禄が滲み出ている。まるでハイターのようだ。いや、あいつと比べるのはレルネンに失礼か。ゼーリエの弟子か。そういえば一級魔法使いはゼーリエの弟子のような扱いになるらしい。なるほど。あいつが私を合格させないわけだ。フェルンにもくれぐれも気を付けるように言い聞かせなくては。

 

 

「申し訳ありません。ゼーリエ様がご迷惑をおかけしたようで」

「いいよ。あの人は昔からそうだから。弟子たちの方が大変でしょ」

「流石フリーレン様。よくご存知で。ですが心配ありません。ゼーリエ様の我儘は今に始まったことではないので」

「弟子に面倒を見てもらってるのか。私のことも言えないね」

 

 

どうやら私とゼーリエのいざこざもレルネンは知っていたらしい。それを詫びるためにわざわざやってきたということか。本当に律儀なことだ。いや、謙虚なのか。その物腰からはとてもあのゼーリエの弟子とは思えない。あの人も変わらず我儘に弟子を振り回しているらしい。散々人のことを言っておいて。年寄らしく大人しくしていればいいものを。そう呆れながらも

 

 

「…………」

 

 

目の前の魔法使いの視線に、知らず惹かれてしまう。まるで自分を見透かされているかのような感覚。魔法使いとしての本能。目に見える魔力によって相手の強さを計る物。それは人間でも魔族でも変わらない。違うとすれば

 

 

「やっぱり見えているね。とんでもない手練れだ。平和な時代には似つかわしくないね」

 

 

レルネンには、私の魔力の揺らぎが見破られているということ。千年かけている私の鍛錬の結晶が。たった一目で。魔王以来だろうか。いや、リーニエがいたか。あの子は色々と例外だが、この短期間に二人に見破られるなんて。だがそれも仕方がないだろう。

 

 

「そうですね。私は戦いしか知らない時代遅れの魔法使いですから」

 

 

それほどまでに、目の前の魔法使いは洗練されている。恐ろしいほどの手練れだ。時代遅れの魔法使い、か。言い得て妙だろう。まるでかつての魔王軍との戦いの時代にいた歴戦の、熟練の魔法使いを思い出させるほど。明らかに他の一級魔法使いとは格が違う。恐らくこいつが現在のゼーリエの一番弟子なのだろう。

 

 

「ゼーリエ様にもよく言われます。生まれる時代を間違えたと。老い先が短いとも」

「そう。ゼーリエらしいね。でも何でそんな話を私にするの?」

 

 

歯に衣着せぬ物言いはゼーリエらしい。本当にどの口で私に説教しているのか。だが話が見えてこない。何故そんな話を自分にするのか。ただの世間話ではない。それは直感だった。ゼーリエのような直感ではない、私の魔法使いとしての経験に基づいたもの。

 

 

「その時に言われたのです。私がフリーレン様と戦うことは一生ないだろうと。例え勝てる戦いであっても────」

 

 

瞬間、空気が変わる。まるで周囲の温度が下がってしまったかのように。魔力の波。それに反射的に杖を取り出し、構える。魔力でなくとも戦士の勘で感じ取ったのだろう。既にシュタルクは斧を構えて私の前に立っている。私が試験官なら文句なく合格だ。先のフリージアの戦いによって、死線を超えたのもあるだろう。フェルンと同じように、シュタルクもまた戦士の高みに、アイゼンに近づいている。それに頼もしさを感じながらも

 

 

「……意外だね。てっきり手合わせを挑んでくるのかと思ったのに」

 

 

一向に動きを見せないレルネンを訝しむしかない。杖を構えてもいない。もしや殺気は私の勘違いだったのかと思ってしまうほど。時代遅れの魔法使い、あの時代の魔法使いなら手合わせという名の力試しをさせられるのは珍しくもなかった。優れた魔法使いというのはどうしてああも血の気の多い連中ばかりなのか。目の前のレルネンもその例に洩れないかと思ったのだが。

 

 

「ゼーリエ様もそう思っているでしょうね。あれは私にフリーレン様に挑んで来い、という意味の言葉だったので。本当に不器用な方です」

 

 

どうやらそれはゼーリエの差し金だったらしい。本当に子供みたいな人だ。きっとこいつを、弟子を私に見せびらかしたかったのだろう。私がそうしたように。わざわざ弟子を焚きつけてまで。それはゼーリエはそうすればレルネンが私に挑むだろうと理解していたからでもある。ならきっと、こいつが時代遅れの魔法使いというのは本当なのだろう。

 

 

「素直じゃないだけだよ。私への嫌がらせもあるだろうね。本当に子供みたいな人だ」

「フリーレン様のように、ですね」

「……やっぱりゼーリエの弟子だね。そっくりだよ」

「ありがとうございます。これ以上にない誉め言葉です」

 

 

こちらの嫌味も全く通じない。まるで魔族のようだ。私にとっては最大級の侮辱だろう。恐らくはゼーリエにとっても。間違いなくこいつはゼーリエの弟子だ。師弟揃って趣味が悪い。

 

 

「それで? 結局何の用だったの? 手合わせする気はないんでしょ」

「はい。ゼーリエ様のお詫びにこれをお渡ししたいと」

 

 

杖をしまい、若干不機嫌になってしまいながらそう尋ねると同時に、レルネンは私に向かって何かを差し出してくる。それを目にした瞬間、思わず顔をしかめてしまう。まるでタマネギを目の前にしたかのよう。だが仕方ない。

 

 

「それって確か……」

「……アウラが使ってたゴーレムだね。お前が作ったものだったのか」

 

 

そこには人型のゴーレムが収められた小瓶があったのだから。

 

見間違えるはずがない。シュタルクもそれは知っているのだろう。あの場にいたのだから。私もそれを目にするのはこれで三度目だ。二次試験でも脱出手段としてこれを持たされていたのだから。その高性能さから、一般で流通しているような魔道具ではないのは明白だったが、まさかこいつが作った物だったとは。なら納得だ。一級魔法使いの造り出した魔道具だったのだから。何よりも

 

 

「はい。アウラ様には試作型を試してもらったようで。言伝があったのです。フリーレン様に会うことがあれば、感想を聞いてみろと」

 

 

私にとってはその事実の方が不愉快だった。まさかここでもまたあいつに振り回されるなんて。振り払おうとしても振り払えない、腐れ縁のようなものすら感じてしまう。明確な悪意を持った嫌がらせ。

 

 

「そうだね……最悪だったよ。思い出したくもない」

 

 

それに嘘偽りなく本音を吐露する。私にとってはこのゴーレムはちょっとしたトラウマなのだから。夢にも出てきそうなぐらい。

 

 

「ありがとうございます。最高の誉め言葉です。よければぜひこれを。それを基に改良したものです。どこかでお役に立てるかと」

「……アリガトウ」

 

 

しおしおになりながらそれを受け取るしかない。とんでもない価値がある物のはずなのに、全然嬉しくない。泣きそうになってくる。もしかしたらアウラだけじゃなく、レルネンなりの私への嫌がらせなのかもしれない。何で私ばっかり。そう落ち込むも

 

 

「これだけの技術があるんだ。兵器以外のゴーレムも作ってみればいい。平和な時代の魔法使いなら尚更ね」

 

 

手に収まった最高峰の技術のゴーレムを前にそう告げる。そう、これだけの才能。戦いだけに使うなんてもったいない。ゼーリエを喜ばせるだけでは宝の持ち腐れだろう。

 

思い出すのは幼い頃の記憶。珍しく兵器ではないゴーレムを作っていたフランメの姿。そういうものがなければ平和になった時に困るだろうと。魔王がいた頃から。本当にあの人は先ばかり見ていた。ヒンメルのように。平和な世界が来るのを信じて疑っていなかった。今もあの調理用のゴーレムはきっと動いているのだろう。

 

 

師匠(せんせい)も昔作ってたから。ゼーリエに見せればきっと嫌がるだろうね」

「そうですか。なら老い先は短いですが、挑戦する価値はありそうですね」

 

 

ならきっと、レルネンならもっとすごいゴーレムが作れるだろう。平和な時代の魔法使いとして。ゼーリエはきっと嫌がるだろうが、良い薬だろう。私の悪意が伝わったのだろう。レルネンも満更ではなさそうだ。師匠を困らせるのは弟子の特権なのだから。

 

 

「フリーレン様。お待たせしました。授与式が終わり……レルネン様?」

「お邪魔しています。フェルン様」

「おかえり。フェルン」

 

 

そんな下らない話をしていると、いつの間にかフェルンが帰ってくる。もうそんな時間か。レルネンがいることに驚いてしまっている。そんなフェルンに挨拶するも様付けをしているレルネン。同じ一級魔法使いであっても孫ほど年が離れているだろうに。私の弟子だからというのもあるのかもしれない。実に謙虚だ。少し羨ましくなってしまうほど。

 

 

「長居してしまいました。それでは私はこれにて。またぜひお越しください。ゼーリエ様も嫌がられると思います」

「そうだね。とりあえず千年は御免かな」

「フリーレン様? 失礼ですよ」

「……冗談だよ」

「絶対本気だっただろ」

 

 

私に倣いながら、そんなことを言ってくるレルネンにお断りをするも、フェルンに叱られてしまう。やっぱり師匠は弟子には敵わないのだろう。まだリーニエに嘘を見抜かれないだけフリージアにいた頃よりはマシかもしれない。そのまま魔法協会を、オイサーストを後にする。本当は千年は御免なのだが、きっとそれは叶わないに違いない。私の隣にフェルンがいる間は。

 

 

「あ、そういえば……レルネン様。一つお伝えしておきたいことが……」

 

 

そんなフェルンが、別れ際にレルネンに何事かを伝えている。一級魔法使いに関連する事柄だろうか。だがそれはすぐに伝え終わったのだろう。足早にフェルンも戻ってくる。

 

 

そのまま私たちは旅立つ。新たな出会いと別れを繰り返しながら。魂が眠る地へと向かって────

 

 

 

(今年も終わったか……)

 

 

誰もいなくなった講堂の、玉座のような椅子に腰かけたまま。どうやら思いの外、物思いにふけってしまっていたらしい。まあいいだろう。ようやく一級魔法使い選抜試験の全てが終わったのだから。フリーレンのせいで試験官の真似事までさせられる羽目になってしまったが、それを帳消しにできるほど今回の受験者は豊作だった。その特権の授与こそが私の本来の役目でもあり、趣味でもあった。暇つぶしと言い換えても良い。私が授けた魔法で弟子たちが何を為すのか。それを見届けることが。授けた魔法を再び学び直すことが。悠久の時を生きなくてはならないエルフの性。それが幾ばくか満たされていくのを感じていると

 

 

「お疲れ様でした。ゼーリエ様」

 

 

相変わらずの態度で最初の一級魔法使いがやってくる。この子がそうなってからもう半世紀か。本当に時間の流れというのは早いものだ。しかし、私もまだまだらしい。先もそうだったが、直感もあてにはならない。この子のことは理解していたつもりだったが、予想とは違ったらしい。

 

 

「レルネンか。どうやらフリーレンには手を出さなかったようだな」

「はい。私はフリーレン様を試すような器ではありませんので」

「ふん。つまらん。お前はいつまで経っても臆病な坊やのままだな」

 

 

頬杖を突きながらそう零すしかない。つまらない。そのためにけしかけたというのに、おめおめと帰ってくるとは。フリーレンへの意趣返しにもちょうどいいと思ったのだが上手くはいかないものだ。この子の臆病さも筋金入りだろう。しかし

 

 

「お言葉ですが、ゼーリエ様も宜しかったのですか? あのままフリーレン様を行かせてしまって。心にもないことを仰ったようですが」

「……本当にお言葉だな、レルネン。放っておけ。どうせすぐに会う羽目になる。愚かな奴だ」

 

 

どうやら違う方面では成長しているらしい。老い先短い癖に、口答えをするようになってしまった。こんな子ではなかったはずだが。いつからだったか。誰かに入れ知恵でもされたか。何にせよ余計なことを。

 

レルネンが言っているのはフリーレンの出禁のことだろう。放っておけばいい。あの子にとっては罰にも何にもなってはいない。むしろ厄介なのはその先だろう。私の直感が告げている。遠からず、すぐにあいつと再び会うことになるのだと。直感が外れてほしいと思ってしまうほどだ。

 

 

「そういえば、アウラ様からの手紙はもう読まれたのですか? フェルン様から受け取られたと」

 

 

そんな中、レルネンがそう尋ねてくる。どうやらフェルンに直接聞いたらしい。あの子も本当に変わっている。やはりフリーレンの弟子なのだろう。あれだけの才を持っていながら野心がない。燃え滾るような野心が。どころかもう燃え尽きてしまっているかのよう。あの幼さで。なのに私はそれに興味をひかれてしまっていた。もしかしたらそれがフランメが言っていた、平和な時代の魔法使いなのかもしれない。ようするに私も老いてしまっているのだ。時代に取り残されてしまいつつある。鍛錬は怠っていないつもりだが。心まではそうはいかない。

 

それは抜きにしても、あの子が変わっているのは間違いない。特権に洗濯の魔法を望むなどあの子以外にはいないだろう。ふざけているのか。せっかくあの魔族の分の特権もくれてやったのに、それすら下らない魔法に使ってしまった。かつてのアウラを思い出させる魔法。本当にフェルンはフリーレンの弟子なのか。疑わしくなってしまうほどに似通っている。

 

 

「これのことか。わざわざあの子に持ってこさせるとは。一体何を考えている?」

 

 

渡された手紙を取り出す。特権の授与の後にあの子から渡された物。どうやら面接の際に渡そうとしていたがうっかり忘れてしまっていたらしい。きっと花畑に気をとられていたせいだろう。しかし解せない。それはこの手紙の意図だった。あの魔族が私に手紙を送ってくるなど。あり得るとすればフリージア関係のことだろうか。だがそれこそあり得ない。そんな信書を、いつここにやってくるか、どころか来るかどうかも分からないフェルンに託すなど。

 

面倒事の気配を感じながらもそれを取り出し、目を通す。レルネンに言われるがままに。しかし、それは一瞬だった。もはや確認するまでもない。

 

 

「────下らん。こんな物を寄こすとは。実に不愉快だ」

 

 

そのまま無造作に手紙を魔法で粉々に裁断する。本当にふざけている。こんな内容の手紙をよこすなど。いや、その内容に苛立っている私自身か。これほどまでに不愉快なのは久しぶりだ。先のフリーレンとの面接にも匹敵する。

 

だがそこでふと気づく。それはレルネンだった。いつもならそんな私に苦言の一つでも口にしてきそうなものだと言うのに、無言のまま。どころかどこか楽しげですらある。まるで笑いを堪えているかのよう。

 

 

「何が可笑しい?」

「いえ、フェルン様から伺っていた通りだったもので。アウラ様が仰っていたそうです。手紙を読めばゼーリエ様はお怒りになって破り捨てるだろうと」

 

 

その理由に今度こそ言葉を失ってしまう。今自分がどんな顔をしているのか分からない。フリーレンのことも言えないような醜態を晒してしまっているに違いない。それはまさに恥晒しだった。あの魔族もどきに、私の行動が読まれてしまっていたということに他ならないのだから。いつぞや、私があいつを手紙で脅した意趣返しなのだろう。それを魔族が悪意を持ってやりかえしてくるなど。

 

 

「────本当に癪な奴だ」

 

 

まるでそう、千年前。フリーレンがあの子の遺言を持って来た時のように。小さい頃のあの子がしてきた、小さな悪戯のよう。

 

 

見るも無残な有様になってしまった、もう読めなくなった手紙。そこにはたった一文、こう記されていた。

 

 

 

弟子を横取りできなくて残念だったわね

 

 

 




今話で一級魔法使い選抜試験編は終了となります。
アウラやリーニエは直接出てはきませんが、その影響によって様々なところで差異が生じています。それを楽しんでもらえれば嬉しいです。本誌の方でもゼーリエとフランメの回想があったりとタイミング的にもちょうどよかったと思っています。
少し蛇足になるかもしれませんが、期待されている方も多かったようなので黄金郷編も投稿させてもらう予定です。お楽しみに。では。
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