ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第二節 従う者。従える者。
第一話 『入国』


勇者ヒンメルの死から二十年後。

北側諸国。魔族国家フリージアにて。

 

 

(ここがフリージア……アウラ様の国)

 

 

ただその光景に圧倒されるしかない。入国する際に通った大きな関所もそうだが、中に入ってから目にした光景もまたすごかった。それはまるで聖都を思い出させるような街並みと雰囲気があったから。その証拠に至る所に教会があり、法衣を纏っている人の姿もある。この街の匂いも原因だ。神父や僧侶の方が纏っている香の匂い。私にとっては安心する、身近な匂いでもある。知らずそれにあてられてしまうも

 

 

「大丈夫ですか、フェルン。目を回さないように気をつけて下さい」

「は、はい……すみません」

 

 

私の体を支えるように、ハイター様がそう気遣ってくださる。いけない。どうやらきょろきょろしていたせいで、心配させてしまったらしい。恥ずかしい。これでは小さな子供のようだ。

 

 

「しかし私も同じですよ。まるで聖都のようですね。これはきっとアウラが聖都の真似をしているのでしょう。彼女は私と一緒に聖都で暮らしていたこともありますから」

「何をごちゃごちゃ言ってるわけ? さっさと付いてきなさい」

「これは失礼。仰せのままに」

「殺すわよ」

「あいにくもう死んだ身でして」

「早く早く! 置いて行っちゃうよ!」

 

 

遅れてしまっている私たちに、アウラ様たちはそう急かしてこられる。やはりここはお二人にとっては自分の国、故郷なのだろう。足取りに迷いがない。心なしか、機嫌も良さそうだ。特にリーニエ姉さんは目に見えて上機嫌になっている。きっと私たちを案内してくれているのだろう。

 

 

(やっぱり本で読むのと、見るのは全然違う……)

 

 

知らず鞄の中にある本に目が行ってしまう。アウラ様に頂いた魔導書ではない。ハイター様から頂いた教典。女神様の教典ではない、ここフリージアの教典だった。

 

私たちがフリージアに行くのが決まった次の日。ハイター様はこの教典を私に下さった。この国、フリージアで生きていく上では欠かせない物なのだと。少しだけではあるが、その内容も読み聞かせて下さった。やっぱり私はまだまだ子供なのだろう。でもそのおかげで、目の前の光景を理解することができた。

 

行き交う人々のほとんどが。大人から子供、男の人も女の人も。みんな同じ物を手にしていた。それは天秤のような装飾品。この世界で一番信仰されているのは女神様で、それを信仰する人たちは十字架をその心の拠り所としている。なのにここの教会にはそれらは見当たらない。つまり、この国の人たちが信仰しているのは女神様ではないということ。それを私は教典を読んで知っていた。そして

 

 

「っ! アウラ様! お戻りになられたのですね」

「……ええ。あんたたちは変わりなさそうね」

「はい。これもアウラ様のお導きのおかげです。全てはアウラ様の天秤の下に」

 

 

それが嘘ではなく、本当であることを目の当たりにする。それを疑っていたわけではない。でも、いざそれを目の当たりにすると驚いてしまう。アウラ様が戻ってきたことに気づくや否や。通りを歩いていた人々がみんな足を止め、そのまま膝をつき、頭を下げて祈り始めてしまう。まるで女神様に祈りを捧げる信徒のように。違うのはそれがこの国の人々にとっては女神様ではなく、アウラ様だということ。

 

 

「もういいわ。さっさと仕事に戻りなさい。時間の無駄よ」

 

 

でもそれはアウラ様にとってはあまり嬉しいことではないのだろうか。どこかそっけない態度をとりながら、当たり前のように一言二言言い残してそのまま去っていく。知らない人が見れば冷たい態度だと思えるようなもの。でもそれは違うのだ。それは初めて私がアウラ様と出会った時と同じ。アウラ様は演じているのだ。騙しているのだ。自分が女神様であるかのように。それが良い噓なのか、悪い噓なのか。今の私には分からない。でも

 

 

「懐かしいですね。聖都にいた頃を思い出します。そういえば覚えていますか、ヒンメルたちと一緒に王都に行った時のことを。ヒンメルとアイゼンにも祈られていましたね。加護はあったのでしょうか」

「うるさいわよ。そもそも原因はあんたたちの悪ふざけじゃない。他人のせいにするんじゃないわよ」

「おや、そうでしたかな。私の記憶違いでしょうか。昔、王都の裁判で大立ち回りをしたどこかの魔族さんの尻拭いをした気がするのですが」

「……本当に口の減らない奴ね」

「それだけが取り柄でして」

 

 

お二人のやりとりを聞いていたら、そんなことは気にならなくなってしまった。本当にお二人は仲が良いのだろう。きっとアウラ様には怒られてしまうけど。ハイター様も、アウラ様が来られてから以前よりも元気になった気がする。お二人はきっと友達なのだろう。リーニエ姉さんもそう仰っていた。なら間違いない。あの方は噓をつかないのだから。

 

 

「やっぱりアウラ様はすごい方だったのですね……」

 

 

ハイター様には口では勝てないと思ったのか、それとも呆れてしまったのか。アウラ様はそのまま背中を向けて再び歩き出してしまう。それを見つめながらも、今更なことをハイター様に尋ねてしまう。大魔族という、魔族の中でもすごい存在であり魔法使いであることは知っていた。でもそれとは違う意味でも、アウラ様はすごい方だったのだと。偉い方、といった方が正しいのかもしれない。

 

 

「そうですね。ここではアウラは女神様なのです。人ではない魔族だからこそでしょうか。アウラはこの国では誰にでも公平、平等なのです。残酷なほどに教典の下で人々を裁き、支配している。それは信仰の本質でもあります。加えて彼女は服従の魔法(アゼリューゼ)という人知を超えた力を持っている。そんな存在を目の前にすれば当然の流れでしょう。もっとも本人は鬱陶しがっているようですが」

 

 

今のアウラ様がどんな存在なのか。ハイター様が教えてくださるも、その半分も理解できない。そんな私でも分かることがある。信仰という考え方。自分ではない誰かに救いを、助けを求めること。私にもそれはあった。何もかもなくして、生きる意味を失くしてしまった私。もしあの時、アウラ様がいたなら、きっと私もアウラ様を信仰するようになったのだろう。人ではない魔族という存在に。

 

でもそれは人間に限った話ではない。その証拠に

 

 

「あれを見て下さい。フェルン」

 

 

人間たち以外にも、アウラに頭を下げている人たちがいる。平伏している。まるで王様に忠誠を誓う臣下のよう。そもそもそれは人間ではなかった。人間にはない、角が頭に生えている。彼らが魔族である証。なのに誰もそれに怯えることも、騒ぐこともない。自然体そのもの。ありえない光景。でもここフリージアでは、きっと当たり前の光景なのだ。ここは、人間と魔族が共に暮らしている楽園なのだから。

 

 

「なぜ魔族がアウラに頭を下げているのか分かりますか?」

「? それは……アウラ様に祈りを捧げているのでは」

「違います。彼らはアウラに忠誠を誓っているのです。従っているのですよ。魔族の習性でね。魔族がどうして他の魔族に従うのか、覚えていますかフェルン?」

「それは確か……魔力が大きい方が偉いからです」

「その通り。よく覚えていましたね。褒めてあげましょう」

 

 

そう頭を撫でながらハイター様が褒めて下さる。嬉しいがちょっと恥ずかしくもある。でもそれに浮かれすぎないように気を引き締めながらハイター様の話を思い返す。魔族は魔力が大きい方が偉い。なのでそれに従うようになっている。ハイター様に教えてもらったこと。人間も強い人に従うことはあるけれど、魔族はもっと単純なのだと。なら、リーニエ姉さんもそれでアウラ様に従っているのだろうか。とてもそうは見えない。

 

人間と魔族。アウラ様に祈りを捧げているように見えるのに、そうではなかったらしい。同じようにアウラ様に従いながらも、中身は全然違う。まるでそれはそのまま人間と魔族の関係のようだ。同じなのは嘘つきだということだけ。

 

 

「人間には信仰を。魔族には忠誠を。人間も魔族も彼女にとっては等しいのでしょう。アウラが天秤と呼ばれている理由です」

 

 

いつもの穏やかで優しいハイター様とは違う。厳かな、僧侶としての顔を見せながらハイター様はそう教えて下さる。それはきっと忘れてはいけない、大切なことに違いない。でも

 

 

「ごめんなさい……少し難しいです」

「フェルンには少し早すぎたかもしませんね。心配しなくてもここで暮らせばすぐに分かるようになります。私も教えてあげましょう」

 

 

やっぱり私にはまだ早いのだろう。ハイター様が何を仰っているのかが分からない。それに申し訳なさを感じるも、どこか嬉しかった。それは、ハイター様がこの先も私に教えて下さる、一緒にいて下さることを意味しているのだから。そんなことを考えていると

 

 

「あ、リュグナーだ! ただいま! 元気だった?」

 

 

元気一杯の声とともに、リーニエ姉さんが手を振りながら駆け出していく。とてもお姉さんとは思えないような、私にとってのお姉さん。まだそう呼ぶのに不慣れだが、そのうち慣れていくのだろう。

 

リーニエ姉さんはそのまま向かいにいる人に向かって飛び込んでいく。いや、それは人ではなく、魔族だった。頭に二本の角が生えている男性。神父のように法衣を纏い、手には教典を持っている。

 

 

「リーニエ。私たちは神官です。信徒の目もあるのですよ」

「むぅ……」

 

 

リュグナー様と仰られるのだろう。リュグナー様は淡々と、どこか慣れた様子で手を繋ごうとしていたリーニエ姉さんを躱しながらそう苦言を呈している。それによってリーニエ姉さんは不満げに頬を膨らませている。まるでアウラ様に叱られてしまったように。一目見て分かる。リーニエ姉さんはきっと目の前のリュグナー様と仲良くなりたいのだ。きっと友達になりたいのだと。残念ながらそれを叶えるのは、私の時よりも時間がかかってしまいそうだけど。

 

そんなリーニエ姉さんを横目に、リュグナー様はそのまま堂に入った所作でアウラ様の前で膝をつき、首を垂れる。先ほどまで目にしてきた人間や魔族とは全く違う。思わずこっちが委縮してしまいそうな礼節。いや、忠義。

 

 

「よく分かったわね、リュグナー」

「当然です。アウラ様の偉大な魔力に気づかぬことなどあり得ません。ご帰還をお待ちしておりました。お変わりないようで何よりです」

 

 

それを前にしても全く自然体のまま。でもどこか私が知らない雰囲気を纏いながらアウラ様はリュグナー様を見下ろしている。まるで王様のように。そうか。ここではアウラ様は女神様であり、王様なのだ。魔族にとってはそちらの方が大事に違いない。なら、アウラ様は魔王様なのだろうか。

 

 

「相変わらず大げさな奴ね……まあいいわ。手間が省けたわ。予定より遅くなったけど、教典の改定は済んだわ。教典科の連中に明日謁見に来るよう伝えなさい。シュトロはどこにいるの?」

「おそらく大聖堂かと。不在であれば農業科かもしれません」

「相変わらず好き勝手してるのね……まあいいわ。こっちは変わりない?」

「はい。滞りなく魔族も人間も管理しております」

「そう。ならいいわ。詳しい報告は後でよこしなさい。とりあえずはこっちが先ね」

 

 

そのままお二人は私には分からないやり取りを始めてしまう。でもそれは言葉が理解できないという意味ではない。何だろう。変な感じがする。それが分からないのがもどかしい。言葉にできない違和感。

 

 

「そちらの方々は……?」

 

 

その正体に、ようやく気付く。それは目だった。私たちを見るリュグナー様の視線。そこに異物感を覚える。一見すれば何の問題もない。穏やかな神父様のように思える表情に所作。なのに、それが感じられない。まるでそれは

 

 

「見ての通りよ。年老いた方はかつての勇者一行の僧侶よ。私が従えてきたわ。教典の改定もこいつにやらせたのよ。これからはここでも使役するわ」

「勇者一行……」

「私の言葉が信じられないわけ? あんたなら分かるでしょう。こいつのふざけた魔力が」

「は。失礼しました。お見苦しいところを」

「無理もないわね。勇者一行はこんなのばかりよ。勇者が死んだといっても油断しないことね」

 

 

それに気を取られている間に、どんどん話は進んでいく。どうやらハイター様のことを話されていたらしい。それもそうか。ハイター様はかつての勇者一行の僧侶様。魔族の王様である魔王を倒して平和をもたらした存在。魔族にとっては怖い存在、恐れられて当然なのだから。

 

 

「こいつの処遇についても定例報告であげるわ。とりあえず神官たちにはこいつの存在だけは知らせておきなさい。魔力にあてられて妙なことをされると目障りだわ」

 

 

それに関してはきっと大丈夫だろう。アウラ様ならそれを見越していたに違いない。その証拠に流れるように次々リュグナー様に命令している。王様のように。お母さんのように私たちの面倒を見てくれたアウラ様とは別人のように。そのどちらが本当のアウラ様なのか。リーニエ姉さんなら分かるのだろうか。

 

 

「仰せのままに。それと、その人間の子供はどのように?」

 

 

瞬間、知らず息を飲んだ。何のことはない。ただ見られただけ。なのに体が震えた。強張った。魔力にあてられたのか、それとも。やっぱりその瞳が私を捕らえて離さない。

 

 

「この子は私の獲物よ。手を出さないように厳命しておきなさい。面白いことを考えているの。暇つぶしよ。あんたにも協力してもらうわよ、リュグナー」

「心得ました。その際には何なりと。では」

 

 

まるで金縛りにあってしまったように身動きが取れない私をよそに、アウラ様とリュグナー様はそんなやり取りをされている。話半分で、内容が頭に入ってこない。私のことを話されているはずなのに、実感が沸かない。まるでそう、私を人間ではない、動物か物かのように扱われているような感覚。

 

そのまま再び礼を示しながら、リュグナー様は去っていく。それに応えることが私にはできなかった。いや、そもそもリュグナー様は最初から私を見ていなかった。まるでいないかのように。見ていたのはアウラ様だけ。

 

 

「……どう? あれが魔族よ。私たちのような異端ではない。純粋な、ね」

 

 

そんなどこか、悪戯をするような笑みを見せながら囁いてくるアウラ様。きっと最初から私がどんな風になっているか分かっていたのだろう。もしかしたら、わざとそれを見せつけていたのかもしれない。

 

 

「……はい。何となく、アウラ様やハイター様が言っていたことが分かった気がします」

 

 

魔族とはいかなる者か。他でもない魔族自身であるアウラ様によって。ハイター様にも何度も言い聞かされていたこと。お二人は特別なのだと。本当の魔族の姿。それが先のリュグナー様なのだろう。なら、私はもしかしたら生まれて初めて魔族と会ったのかもしれない。その意味を噛みしめる。

 

 

「ならいいわ。魔族との付き合い方も教えてあげるわ。慣れれば人間を相手にするよりよっぽど楽よ。少なくともそこの嘘つきを相手にするよりはね」

「はて。誰のことでしょうか」

「私はイタンじゃなくて例外だよ、アウラ様!」

「そうね。忘れてないから安心なさい」

「うん!」

 

 

そんな私の緊張を和らげるためだったのだろう。アウラ様とハイター様はいつものようにやり取りをされている。先ほどまでの魔族同士のやり取りとは全く違うやり取り。それに混ざろうとしていくリーニエ姉さん。そうか。ようやくわかった気がする。この二人が特別、いや例外だとハイター様が仰っていた意味が。

 

 

「そういえば言い忘れてたわ。ハイター、今日からあんたはエーヴィヒよ。覚えておきなさい」

 

 

そんな安堵もつかの間。まるで忘れ物を思い出したとばかりの気軽さでアウラ様はハイター様にとても重大なことを命じられた。

 

 

「……聞き違いでしょうか。歳を取ると耳が遠くなっていけませんね。今なんと?」

「何度も言わせるんじゃないわよ。あんたの名前は今からエーヴィヒよ。良かったわね。偉大な賢者様と同じ名前よ。喜びなさい」

 

 

そんないつも通りの嘘をつきながら、ハイター様は聞き返すもアウラ様にはお見通しなのだろう。全く通じていない。そして明かされる命令の内容。エーヴィヒ様……聞き覚えがある。確か、大昔の偉い魔法使いの名前だっただろうか。でもどうしてハイター様がそれを名乗らなくてはいけないのか。

 

 

「いやはや参りましたね……偽名というわけですか。とても恐れ多くて名乗れませんね」

 

 

でもハイター様はとっくにその理由に気づいておられたのだろう。そうか。ハイター様はもう表向きは死んだことになっている。ならその名前を名乗ることもできない。魔族の国であるここフリージアであればなおのこと。きっとアウラ様は最初から考えてたのだろう。やっぱりすごい。でも

 

 

「ちょうどいいじゃない。そいつが遺したありもしない不死の魔法を探してたくせに。私に天秤なんて二つ名を勝手につけたのを忘れたとは言わせないわよ。それとも二つ名もつけてあげましょうか。あんたにお似合いの生臭」

「何を言いますか。素晴らしい名前ですね。ぜひ名乗らせてもらいましょう」

「そう。良かったわね」

「二人ともどうしてそんな嘘つくの?」

 

 

アウラ様にとってはハイター様をからかうための嫌がらせだったのだろう。あのハイター様がたじたじになっている。やっぱりアウラ様はお母さんなのだろう。リーニエ姉さんはどうして二人が嘘をついているのか分からず首を傾げてしまっている。たった一月なのに、当たり前になってしまった私の日常。

 

 

「そういえばフェルンの二つ名も考えないといけないね!」

 

 

その象徴でもあるリーニエ姉さんの言葉によって、今度は私もそれに巻き込まれてしまう。

 

 

「二つ名、ですか? どうしてそんなことを」

「かっこいいからだよ! ヒンメルもそう言ってたんだから!」

 

 

そういいながら、その剣を手に格好いいポーズを取っているリーニエ姉さん。偉大な勇者様の言葉なのだろう。でも私にとってはそうではない。というか恥ずかしい。そう思ってしまうのは私が子供だからなのだろうか。

 

そもそも二つなんて私には早い。恐れ多い。それはアウラ様やリーニエ姉さんのような魔法使いにつけられる、名乗ることができる称号なのだから。

 

 

「いいかもしれませんね。魔法使いの醍醐味でしょうか。ヒンメルならきっと同じことを言ったでしょうね、アウラ?」

「知らないわよ」

「何がいいかな? 頑張り屋? それとも私と同じ例外にしてみる?」

「え、えっと……」

 

 

なのにハイター様はそれに賛同してしまう。きっと私をからかわれているのだろう。アウラ様はそれに呆れているだけ。そしてもう二つ名を考え始めているリーニエ姉さん。もう二つ名をつけることは決まってっしまっているらしい。あたふたするしかない私を見て勘違いされたのか。

 

 

「あ、じゃあアウラ様に決めてもらえばいいよ! 私もつけてもらったんだから!」

「アウラ様が……?」

 

 

リーニエ姉さんは思い出したとばかりに目を輝かせながらそう提案して下さる。アウラ様にそれを決めてもらえばいいと。

 

 

「そういえばそうでしたね。いや懐かしいですな」

「白々しいわね。あんたとヒンメルが考えたくせに」

「おやおや選んだのは貴方ですよ。名付け親のようなものですから。やはり貴方はお母さんですね」

「……謀ったわね。生臭坊主」

 

 

どうやらリーニエ姉さんの二つ名をつけたのはアウラ様だったらしい。アウラ様は納得しかねるようだが、今度はハイター様に丸め込まれてしまっている。やはりハイター様はすごい。アウラ様を言い包めることができるなんて。アウラ様をお母さん呼びして許されるのはきっとハイター様だけだろう。

 

 

「フェルン……あんたはそれでいいわけ?」

 

 

それに音を上げたのか。それとも付き合いきれなくなったのか。アウラ様は呆れながら私に尋ねてくる。この場を収拾するために。私の意思を確かめるために。あの時、私の本音を問い質してくれたように。子供ではなく、一人の人間として。

 

 

「はい。ご迷惑でなければ」

 

 

なので嘘をつくことなくそう答える。同じように。それがリーニエ姉さんとアウラ様から学んだ大切なこと。ここにハイター様と一緒に来れたのは、アウラ様たちのおかげなのだから。

 

 

「……そう。ま、気が向いたらね」

 

 

一度リーニエ姉さんに目を向けながら、どうでもよさげにアウラ様はそう零される。きっと私が嘘をついていないか、リーニエ姉さんに確認していたのだろう。見ればうんうんと頷いているリーニエ様。

 

 

「無駄話はここまでね。さっさと行くわよ。やることが山積みなの。付いてきなさい」

 

 

それを切り上げながら、アウラ様は再び歩き出す。その遅れを取り戻すかのように。その歩幅に合わせるように、少し早足に付いていく。ハイター様と一緒に。五百年以上を生きている、この方に置いて行かれないように。いつかもらえるであろう、二つ名を楽しみにしながら────

 

 

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