「ちょっと待ちなさいよ」
呆れながら自分の前を進むヒンメルに声をかける。対してヒンメルはいつも通り、いやいつも以上にやる気を見せている。この一年の中でも上位に入るであろう有様。
「? どうかしたのかい? もう疲れてしまったとか?」
「そうじゃないわぁ……もう少し歩くのを遅くしなさいって言ってるの。早く歩いたからって魔物が見つかるわけじゃないのよ」
「そうかな? いつも通り歩いてるつもりだったんだけど」
どうやら本人はそのことには気づいていないらしい。ここは森の中にある山道。何でもこの辺りで魔物が出るらしく、それを討伐することをヒンメルは依頼されたらしい。それ自体は構わないのだが、巻き込まれるこっちの身になってほしい。何が楽しいのか、子供のように山道をどんどん進むヒンメルに辟易するしかない。遊びに来ていると勘違いしているのではないか。
「そもそも何であんたもローブを着てるわけ? 必要ないじゃない」
その最たるものが今のヒンメルの姿。自分とお揃いのような青いローブを纏っている。意味が分からない。私には角を、魔族であることを隠すという理由があるがこいつにはない。むしろ勇者であることを誇示したいだろうに。周りに人気がないことだけは幸いだった。こんなところを誰かに見られたらどう思われるか。一体何の冗談なのか。
「そんなのかっこいいからに決まってるじゃないか! みんなが知っている勇者の僕がお忍びで人助けをする、どうだい? 後日譚にはもってこいだと思うだろ?」
「馬鹿じゃないの」
予想の斜め上を行く回答。まともな理由が返ってくるとは思っていなかったがまさかここまでとは。
「そういう君だって人のことは言えないだろう? 村を出る時にそわそわしてたし、楽しみにしてたんじゃないのかい?」
「……そんなわけないでしょ。あんたと一緒の魔物討伐が不安だっただけよ」
思わず図星を突かれてしまい、そんな嘘をつく。いや、不安だったのは嘘ではないが村の外に出るという行為には少なからず期待する部分はあった。一年振りにあの村から解放されるわけなのだから。あんな小さな村に閉じ込められていたなんて今も信じられない。そう感じてしまうほどに、村の外の世界は広かった。知らずそれに高揚している自分がいる。これでヒンメルがいなければ完璧だったのだがそこまでは望むまい。隙を見て逃げ出すことも考えたが
「大丈夫さ。今回の討伐対象は魔族じゃないからね。流石に同族を一緒に倒してくれなんて言わないさ」
「……? 妙なことを気にするのね。魔族だろうと魔物だろうと邪魔をするなら私の敵よ」
私の沈黙を勘違いしたのか、ヒンメルはそんなことを言ってくる。どうやら私が魔族、同族と戦うことになるのを気にしていると思ったらしい。意味が分からない。魔族だろうが人間だろうが魔物だろうが、私の邪魔をするなら等しく敵でしかない。そういう意味では目の前の勇者が一番の敵なのだが、今は直近の障害として魔物を敵としている。ただそれだけ。何より人間同士でも争っているのに何を言っているのか。
「だとしても僕が気にするのさ。村人の話だと大きな犬型の魔物で、ここ最近街道で人が襲われたり行方不明になってるらしい。それを退治するのが僕らの仕事さ」
「あんたの仕事の間違いでしょ?」
「報酬として珍しい魔導書がもらえることになってるんだ。他にも気に入った本を持って行ってくれていい、とその村の村長さんが言ってるんだけどいらなかったかな?」
「……あんたね。本当に勇者なわけ?」
「一応魔王を倒した勇者だね」
相変わらずの強かさを見せるヒンメル。いや、こんな奴だからこそ魔王様を倒すことができたのか。従わされてから一年になるが、ヒンメルの行動力と人間で言うところの気遣いには圧倒されることがある。カリスマ、とでもいうのか。周りを巻き込む力が常軌を逸している。自分もその例外ではない。もしかしたらそれに一番巻き込まれているのは自分なのかもしれないが。
「それにしても全く魔物の気配がないな。もうかなり探してるはずだけど……」
「場所を間違えてるんじゃないの? もしかしたら勇者様に恐れをなして逃げ出しちゃったとか」
「そんなことはないと思うけど……君じゃないんだから」
「……本当に癪に障るやつね」
さらっとこちらを馬鹿にしてくるのも忘れない。私にとっての最大限の皮肉。本当に癪に障る奴。
「いや……でも待てよ、もしかしたら本当に……?」
「何よ?」
何を気にしているのか。ヒンメルは突然足を止め、ぶつぶつと独り言を始めてしまう。今度は一体何なのか。仕方なく同じようにその場で小休憩しようとするも
「アウラ、今君は魔力をどうしている? 隠さず出しっぱなしにしているのか?」
「はぁ? 当たり前でしょ。何でそんな馬鹿なことしないといけないのよ」
どこか真剣な表情でそんな訳の分からないことを尋ねてくるヒンメル。一体何を言っているのか。どこに自分の魔力を隠す魔法使いがいるというのか。そんな奴がいるとしたらただの馬鹿でしかない。だが
「やっぱりそうか……理由が分かったよアウラ。僕じゃない。魔物は君に恐れをなして姿を見せていないんだ。その魔力のせいで」
「っ!?」
そんなヒンメルの言葉によって私も理解する。そう、相手は魔物。魔族ほど知能が高くないがその分本能に従って生きている。それはつまり魔族以上に相手の魔力、強さに敏感であるということ。大魔族である私の魔力を前にして襲い掛かってくるほど馬鹿な魔物ではないということなのだろう。
「でもこれでようやく謎が解けたよ。僕らがあの村に来てから魔物の被害が全くなくなってしまってたんだ。村のみんなは勇者である僕が逗留してくれているおかげだと感謝してくれてたんだけど、本当は君のおかげだったってわけだ」
「あっそう。どうでもいいわよ、そんなこと」
「どうでもよくないさ! おかげで僕の活躍の機会が……ごほんっ、村の平穏を君が人知れず守っていたんだからね。まさに村の女神様……いやアウラ様かな」
「……あんた、ちょっとは本音を隠しなさいよ。後今度それ言ったら許さないわよ」
「ごめん」
そして明かされる私の功績と勇者の愚かな企み。どうやら魔物から村を守るという役目、仕事を狙っていたらしいが目論見が外れ無職になってしまっていたらしい。同時に私を村に一つ欲しい魔除け扱いしてくるヒンメル。私を一体何だと思っているのか。今度様付けしてきたら一週間無視してやる。
「とにかくこのままじゃ依頼を達成できない。アウラ、魔力を抑えてくれ」
「…………分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば。命令なら仕方ないわ」
「命令じゃなくてお願い……なんだけど、どうしたんだ? 魔力を制限するのはそんなに難しいものなのかい?」
「……そうじゃないわ。魔力の隠匿なんてさして難しい技術でもないし……まあ、相手は魔物、魔法使いじゃないんだもの。気にするだけ無駄ね」
「……?」
人間には、魔法使いではない者には理解できないのか。ヒンメルは首を傾げている。魔族にとって魔力を隠すなんて魔法を愚弄する卑怯者のすること。その誇りが理解できないのだろう。だが命令されてしまっては仕方がない。相手は魔物でもある。ここは我慢するしかない。
だがそれが功を為したのか、それからしばらくしてようやくその時が訪れる。どうやらヒンメルもそれに気づいたらしい。
「……アウラ」
「ええ。こっちの魔力探知にも引っかかったわ。数はざっと十匹ってところかしら」
魔力探知によって相手の居場所と魔力の大きさを把握する。数はおよそ十。まだ目視はできないが犬型の魔物というのは恐らく間違いだろう。その中の一匹が特に魔力が大きい。それに従うように統率された動きを他の魔物が行っている。既に私たちは囲まれてしまっている。
「で、どうするの? あんたの援護をすればいいってわけ?」
それを前にして知らず血が騒ぐのを感じる。争いを、血を求める魔族の本能。一年振りの昂ぶりを抑えながらヒンメルに問う。業腹だが今の私は従者であり主人はヒンメル。強いものに従うという意味ではあの魔物たちとそう違いはないのかもしれない。だが
「いいや、そんな必要はないさ。君は自由に戦ってくれればいい。あとは僕が何とかする」
「は?」
そんなことはどうでもいい、とばかりにヒンメルはそう答えてくる。思わず素で呆れてしまうような返事。なら一体何のために私を連れてきたのか。従者を持つ者としてあり得ないような言葉。勝手に戦え、と。それではまるで魔物以下ではないか。なのにヒンメルは不敵な笑みを浮かべているだけ。こっちをまるで試すように。それを前にして退くなんてあり得ない。
「……どうなっても知らないわよ。せいぜい私の魔法に巻き込まれないように気を付けるのね」
「了解」
その手に魔法を生み出しながらヒンメルに宣言する。言葉通り好きにさせてもらうと。巻き込まれても知ったことではない。なのにヒンメルは剣を手にしながらもどこか楽しそうにしている。本当に癪に障る奴。
それが私とヒンメルの初めての討伐依頼の始まりだった――――
「……ちっ!」
思わず舌打ちしてしまう。放った魔法によって山林は荒れ果ててしまっている。だが未だに魔物は殲滅できていない。三匹ほどはすぐに葬ることができたがそこからは膠着状態に陥ってしまっていた。
(思ったよりも厄介ね……!
今この手にはない天秤。それを思い出して顔を歪めるしかない。今私が使っている魔法は
「どうしたんだい? やっぱり
その元凶があろうことかこっちを煽ってくる。さっきから何もしていないのに何でそんなに偉そうなのか。
「っ!? 馬鹿にするんじゃないわよ……私を誰だと思ってるの……私は五百年以上を生きた大魔族よ!」
もはや我慢ならない。そのまま勢いのまま身を隠している魔物に向かっていく。
――――勇者の剣が魔物たちを両断した。
「――――」
それは私だったのか。魔物たちだったのか。ただ息を飲むしかない。瞬きもできないような間に二匹の魔物は切り捨てられてしまった。残るは五匹。だがそんなことは問題ではない。その速さではない。その連携の速さ、上手さに驚愕する。まるで長年一緒に戦ってきた仲間であるかのようにこいつは私の動きに合わせてきた。それを肌で感じて戦慄する。確かに知識としては理解していた。人間が魔族よりも連携に優れていることを。だがその本当の意味を私は理解していなかったのだ。思い出すのはかつての勇者一行との戦い。結果的に勇者によって斬られてしまったのが私の敗因。しかし違っていたのだ。本当の敗因はそう、他の勇者一行が連携し、私に隙を生み出したから。
「うん、悪くないね。さあ、残るは五匹か。どっちが多く倒せるか競争だね」
間違いなく、目の前にいる男は勇者なのだと思い出させるに足る威風。それが敵ではなく、味方であることの安堵。それを感じながら私は苦も無く、初めての討伐依頼を達成するのだった――――
「やっぱり魔法使いがいると助かるね。特にこういう旅の時には助かるよ」
「本当に調子がいい奴ね」
焚火を前にして暖を取り、コーヒーを飲みながらヒンメルはどこか満足げにしている。なんでも苦も無く魔法で火を起こしたりできる魔法使いは旅では重宝されるとか何とか。火種扱いされるのに不満はあるが仕方がない。こういった面でも人間の、民間魔法は役に立つのだろう。今いるのは山道から少し離れた山の中。依頼は達成したものの、既に日は暮れてしまったため今日は野宿することになってしまった。それを想定して荷物を持ってきているのは流石と言うべきか。伊達に十年旅をしてきたわけではないらしい。
「でも本当に助かったよ。僕も魔物との戦いは久しぶりだったからね。本調子に戻すには苦労しそうだ」
「何でそんな嘘をつくわけ? あんただけでも問題なかったじゃない」
「そんなことはないさ。おかげで早く片付いたし、それに昔のフリーレン……仲間たちを思い出して懐かしい気持ちにさせてくれたからね。やっぱり冒険は楽しいってことをね」
そんな理解できない理由を口にしながらヒンメルは本当に楽しそうにしている。さっきの戦いのどこにそんな要素があったのかは分からないが。はっきり言って私は足手纏いでしかなかったのに。冒険……確か旅と同じような意味だったはずだが何が違うのか。一年経つが人間の、こいつの考えていることは未だに理解できないことが多すぎる。
「……そういえばあんたに前から聞きたいことがあったんだけど」
そんな中、ふと思い出す。理解できないことの中でも特に気になっていることがあったことを。どうせここではできることはヒンメルと喋ることぐらいしかない。ならちょうどいい。
「! 君からそんなことを言ってくるなんて珍しいね。いいよ、何でも聞いてくれ。僕に答えられることならなんでも」
私から話を振ったのがそんなに珍しかったのか、何でも来いとばかりに自信を見せているヒンメル。ならばと
「あんたは、あのエルフのことが好きなわけ?」
単純な、これ以上にない分かりやすい言葉でヒンメルに疑問を投げかけた。
「ぶっ――!?」
「汚いわね。何をそんなに慌ててるわけ?」
だが何でも聞いてくれと豪語していたヒンメルは狼狽し、飲んでいたコーヒーを吹き出してしまう。幸いにもこっちに飛んでこなかったが汚いことこの上ない。何をそんなに慌てることがあるのか。それとも言葉が上手く通じていなかったのか。特に問題はなかったはずだが。
「ごほっ!ごほっ! あ、慌てるに決まってるだろう!? 何でいきなりそんな話になるんだ?」
「今さっきあんたがそのエルフのことを考えてたからに決まってるじゃない。あんたがそんな顔になるのは決まってそうだもの。いくら魔族の私でも分かるわ」
「……そんなに分かりやすいかい?」
「当たり前じゃない。使えもしない魔導書を集めている物好きなんているわけないでしょ。毎日届いてくる手紙に一喜一憂するのを見せられるこっちの身にもなりなさい。どうでもいいから無視していたけど、最近いい加減鬱陶しくなってきたから聞いただけよ」
「そうか……」
どうやらヒンメルはそのことを隠しているつもりだったらしい。正気を疑うしかない。あれで気づかないのはせいぜいシュトロぐらいだろう。いや、シュトロですら気づくかもしれない。最初の頃、私とあのエルフを同一視している頃から分かっていたことだがヒンメルはあのエルフを特別視しているのは分かり切っていた。この一年の観察からそれが好意を抱いている異性に対するものだということも。私にとってはどうでもいいことだったので無視していたのだが、最近はどうにもそれが鬱陶しくなってきたので今回たまたま触れただけ。なのにヒンメルはどこか意気消沈している。意味が分からない。
観念したのか、それとも本当は聞いてほしかったのか。ヒンメルはあのエルフとの馴れ初めを語り始める。朝起きるのが遅いだとか、老人扱いすると怒るだとか、ミミックによく食べられていたとか。どうでもいい情報のオンパレード。何でもヒンメルは小さい頃、森に迷い込んだ時に助けてもらったのが初めての出会いだったとか何とか。
「あっそう。妄想じゃなくて実在していたのは唯一の救いね。でも、そんな小さい頃から狙ってたなんて随分マセたクソガキだったのね。シュトロといい勝負ね」
「な、なにを言うんだい? そこは年上のお姉さんに憧れる純粋な子供心で」
「でもあのエルフのスカートを捲ってみたかったんでしょ?」
「…………はい」
素直に白状するしかない現在進行形で心はクソガキのままの勇者様。精神年齢では本当にシュトロといい勝負だろう。もっともスカートを捲ってみたい云々はただのこいつの趣味に違いない。あのコルセットドレスも本当はあのエルフに着せるつもりだったのだろう。本当にいい趣味をしている。それはまあ置いておくとしても
「そんなに気になるならさっさと探して会いに行けばいいじゃない。中央諸国にはいるんでしょ?
そう尋ねるしかない。そんなに気になるならさっさと探しに行けば、会いに行けばいい。子供でも分かる単純な答え。何故そうしないのか。聞いた話通りならあのエルフは中央諸国にいる。勇者であるヒンメルなら色んな手を使って見つけ出すことは難しくないはず。
「そう簡単な話じゃないさ。中央諸国も広いからね。それに僕には君を見守るという大切な使命が」
なのにヒンメルはそんな理解できない答えを返してくる。意味が分からない。何故そんなことを言うのか。私はそもそも関係ない。何よりも
「下らない嘘は止めなさい。あんたは
何故魔族のように嘘をつく必要があるのか。あの時、自分は嘘をつかないなんて言っておきながら。
「――――そうだね、すまなかった。これじゃあ君たちのことを嘘つき呼ばわりできないね」
「? 何で謝るわけ?
一瞬、驚いた表情をしながらヒンメルはそう謝ってくる。何故謝っているのか分からない。私はただ思ったことを口にしただけ。怒ってなどいない。以前にも似たようなことがあった気がする。あれはいつだったか。
「いいや、これは僕の問題さ。君の言う通り、僕は嘘をついてしまった。僕はね、フリーレンとの約束を信じてるんだ」
「約束?」
どこか遠くを見つめながら、ヒンメルはその言葉を口にする。『約束』という言葉。確か契約に近い意味合いだったはず。欺くことが当たり前である魔族においては意味がない概念。あのエルフと何か魔法的な契約を結んでいるということなのだろうか。
「ああ。五十年後、
どこか嬉しそうにヒンメルはそう明かしてくる。だがその内容にこっちはただ目を丸くするしかない。聞き違いだろうか。あまりにも荒唐無稽な約束とやらに耳を疑うしかない。当たり前だろう。そもそもそれは約束と言っていいのかどうかも疑わしいものだったのだから。
「五十年後……? あんた今幾つなわけ?」
「前にも言っただろう? 今二十八歳さ」
「……あんた、その時にはもういないかもしれないじゃない」
五十年後。それは人間にとってはとてつもない時間。人間を捕食する魔族ですらその年月が意味することは理解できる。なのにあのエルフはそれすら理解できていないというのか。十年間一緒に旅をしていたにも関わらず。エルフというのはそんなに馬鹿な種族なのか。それ以上に
「そんなことはないさ。きっとその時には老人な僕もイケメンに違いないからね」
それを気にせずに、いや理解した上で約束を守ろうとしているヒンメルの姿。決してお人好しでは済まされないような勇者の在り方。何でそんな無駄なことをしているのか。その時にはもう自分がいないかもしれないのに。そんな約束を守って何の意味があるのか。
「……あのエルフも馬鹿だけど、あんたはそれを超える愚か者ね。お似合いだわ」
「そう言われると照れるね」
心からの本音に何故か照れているヒンメル。どうかしている。私が魔族だからではない。この人間とあのエルフを理解できる奴なんているわけがない。そういう意味では本当にお似合いに違いない。
「それにたまには顔を見せると言ってたしね。もしかしたら明日ひょっこりやってくるかもしれない」
「それが百年後にならないことを祈ってあげるわ」
皮肉でもなんでもなくそう口にする。話で聞いただけだが、本当にあのエルフならやりかねない。そもそも約束自体覚えているか怪しいがもはや言うまい。考えるだけ時間の無駄だ。だが
「君にとってはその方がいいかもしれないよ。フリーレンと会えば、君は真っ先に命を狙われるだろうから」
自分にとってもあのエルフは切っても切り離せない存在であることを突きつけられる。そう、あのエルフがやってくるということはすなわち、自らの命の危機に直結するのだから。
「っ!? あ、あらそう……でもそうね、その時はあんたが何とかしてくれるんでしょ?」
「…………さあ、そろそろ寝ようか!」
「あ、あんたね……」
さっきの討伐依頼は嘘だったかのように、頼りない返事と共にヒンメルはさっさと寝床に就こうしてしまう。前言撤回。あのエルフはこいつが死ぬまで現れなくていい。百年でも二百年でも放浪してくれれば。
「そういえば忘れるところだった。明日は村に帰る前にちょっと寄り道していこうと思ってるんだ」
「寄り道……? どこよ?」
「君も知っている、とっておきの場所だよ」
そんなこっちの心情を無視して話を進めてくるヒンメル。もはやそれ自体はあきらめているが一応その場所を尋ねる。だが分からない。私が知っている場所で行くような場所があるのか。しかしすぐ私は思い出すことになる。勇者のその一言によって。それは
「――王都さ」
一年前、先送りにされた私の命運を握る場所。
フリーレンよりも先に、アウラはそのまま自らの命運を懸けた旅路に向かうことになるのだった――――