ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第二話 『仕事』

(さて、どうしたものかしらね……)

 

 

騒がしい朝食を終えて、いつも通りに台所で洗い物をしながら考える。これからのこと。正確には自分のこれからの行動か。つい最近あのエルフに言われた通り、私がこんな家事をする必要なんてない。ヒンメルからの命令なのだから。癪に障るが、魔法で見るなら私の主人はあのエルフ。だがふと気づいた。それは

 

 

(そういえば、あいつはまだ何も私に命令してないわね……)

 

 

私を服従させてから、あのエルフは私に命令していないということ。ヒンメルから引き継いだ三原則は例外だが、それ以外には何もしてきていない。口では何だかんだと命令してきているが、服従の魔法を利用したものではない。もっと理不尽な、めちゃくちゃな命令をしてくるとばかり思っていたのに。

 

まさか私に遠慮しているとでもいうのか。あり得ない。あいつが魔族である私に。本当ならすぐさま自害を命じたいほど私たちを憎んでいるだろうに。なら答えは一つしかない。

 

 

(ヒンメルならそうしたってやつね……)

 

 

やはりこいつも勇者一行なのだ。ヒンメルに倣っているということか。もしかしたらヒンメルに口添えされているのかもしれない。さっきも約束だのなんだの言っていた。人間社会で生きていくうえで必要なもの以外の、ヒンメルの機嫌を損ねるような命令を私にはできないのだろう。それを教え込まれているのか。もしかしたら十年の旅の中でもこうやってあのエルフを躾けていたのかもしれない。だが強烈に覚えがある。そう、今の状況はまるで、私が服従させられたばかりの頃のよう。

 

 

(結局私もあのエルフも、あいつにまんまと捕まったってわけね……)

 

 

悪い冗談でしかない。魔族にエルフ。本当に物好きな勇者だ。それを自分好みに調教しようなんて。まだあのエルフは気づいていないようだが。狙われてしまったのが運の尽きだろう。

 

だが同情などしない。考えなければいけないのはどうあのエルフを出し抜くかだ。捨てられる、媚びを売る云々を鵜呑みにするわけではないが、それには一理ある。私がこの十年やってきたことがまさにそれだ。自分の有用性を示し、地位を確立する。私の存在について懐疑的だった王国ですら今やその掌を返しつつある。聖都においてはその一部を掌握したと言ってもいい。その対象をヒンメルにするだけ。その点で言えば、とりあえずはこれまでと同じように生活するのが大前提だ。その上で、私の方があのエルフよりも役に立つと証明すればいい。さて、何から手を付けたものかと思案するも

 

 

「おはようございます。お邪魔します、姉さん」

 

 

狙ったかのようなタイミングで、恐らくは今私が一番見倣うべきであろう人間がやってきた。

 

 

「おはよう。リリー。こんな時間から珍しいわね。何の用?」

「お洗濯の仕事の依頼です。今日は雨なので。お願いできますか?」

 

 

そう言いながら籠一杯の洗濯物を抱えているリリー。きっとそれは嘘ではないのだろう。今日は雨なのだから。こういう日には洗濯ができず、乾かすこともできないので必然的に仕事が増える。

 

だがそれにしては来るのが早すぎる。村中から洗濯物を集めてからなのであれば、早くてもお昼前になるだろうに。ようするに、この子は雨など関係なく最初からここにやってくる気だったのだ。きっと私に見抜かれるのも折り込み済みだったのだろう。意味ありげな視線を送ってくる。

 

 

「……ええ。構わないわ。どうせ暇だったし」

「私も手伝う! 任せてアウラ様!」

……おはよう、リリー

 

 

嘘ではない嘘でそう答える。本当にこの子も変わったものだ。平気で噓をつくのだから。魔族でもあるまいし。そんなことは知らない、嘘をつかないリーニエは自分の出番が来たとばかりに張り切っている。同い年でもここまで差が出るのか。種族差だけではないのだろう。そういえばヒンメルが大人しい。聞こえないような声で挨拶だけして、届いた手紙に目を通しているようだが、全く進んでいない。一体何なのか。

 

 

「……これは何の騒ぎ?」

 

 

そういえばいたのか。どこか他人事のように、静観していたフリーレンがそう口にする。本当に感情を感じさせない奴だ。無表情で何を考えているのか分からない。まだアイゼンの方が分かりやすいだろう。

 

 

「おはようございます。フリーレン様。お洗濯の仕事です。姉さんは村では色々な仕事をして下さっているので」

 

 

そんなフリーレンに嫌な顔一つ見せず、どこか楽しそうに事情を説明するリリー。そこでようやく気付く。それがリリーがここにわざわざやってきた理由だったのだと。ようするにさっき私が考えていたことをしにきたのだ。違うのはその対象がヒンメルではなく、フリーレンだということ。この村で私が有用であると、役に立つと伝えるために。なるほど。この子らしいと言えばらしい。私の味方云々は嘘ではなかったのだろう。

 

 

「そうなんだよ、フリーレン。村でも評判でね。何を隠そう、それを思いついたのは僕で」

「そんなことは聞いてないよ。そんなことまで仕込んで利益を得ていたの? 相変わらず趣味が悪いね」

「ひどくない?」

 

 

それに気づいているのかいないのか。そのままそれを自分の手柄にせんとしながら、自慢話にすり替えようとしているヒンメル。どれだけ調子がいいのか。さっきまでのしおらしさはどこに行ったのか。それに容赦なく突っ込みを入れているフリーレン。なるほど。そういう見方もできるのか。流石は薄情者のエルフだ。奴隷に働かせて利益を得るのは当然の権利のはずだが、勇者失格なのは間違いない。同時に思い出す。あれはそう、確か

 

 

「そういえばあの頃はヒンメル様も仕事をされていませんでしたね。昨日も夜遅くまで出かけられていたみたいですが、お疲れなのでは?」

「そ、そんなことはないよ。さあ、一緒に働こうかリーニエ!」

 

 

今と同じように、私が洗濯の仕事をするようになってから、村で囁かれていた噂であり、ヒンメルの二つ名。恐らくはヒンメルにとっては今の村での扱いに匹敵する居心地の悪さを感じていた時期のこと。きっとリリーも私と同じことに思い至ったのだろう。いや、それ以上なのか。

 

勇者であるはずのヒンメルがただ一人の村娘に恐れおののいている。ただヒンメルの体調の心配をしているだけの言葉のはずなのに、それが恐怖を与えている。普通の魔族であれば気づけないであろう、言葉の使い方。非常に参考になる。これからはこの子に色々と教えてもらうべきかもしれない。とりあえずはどのタイミングでアクセサリを着けるべきか教えてもらわなくては。

 

 

「私はもうやってる。私はアウラ様の従者でリリーよりもお姉さんなんだから!」

 

 

そんなやり取りの意味など理解できないリーニエには目の前の仕事しか目に入っていない。いや、リリーに対する対抗意識か。

 

 

「……お姉さん?」

「言っただろう? リーニエとリリーたちは歳が近くてね。リーニエは自分が一番お姉さんだと主張してるのさ」

 

 

まだそれを知らないフリーレンにヒンメルが説明している。フリーレンからすれば理解できないことだろう。魔族がお母さんと声真似するのとは全く違う。私がお母さんの振りをするのと同じように、この子はお姉さんの振りをしようとしているのだから。ようするに人間社会に溶け込むための、騙すための擬態。だがことリーニエにとってはそれだけではない。それを

 

 

「そう。ようするに誰が一番偉いか競ってるってことか」

「言い方ひどくない?」

 

 

身も蓋もない。実に魔族らしい感性でフリーレンは言い当てる。この私が賞賛してもいいと思うぐらいに、こいつは本当に私たちを理解している。やはりこいつは耳が長いだけの、角を失くした魔族に違いない。だがそんな魔族をして

 

 

「でもそれなら私が一番かな。私ほどのお姉さんはいないからね」

 

 

全く理解できないことを、このエルフはない胸を張りながら主張している。鼻を鳴らしながら。どうやらこの場で一番偉いのは自分だと主張したいらしい。頭が花畑になる魔法でもかかっているのか。

 

 

「寝言は寝て言いなさい。ただの老婆じゃない」

 

 

ただの寝言。老害でしかない。ただ無駄に生きてきた年月を誇るのは人類の愚かさだが、こいつにもそれが当て嵌まるのか。千年以上生きている老婆のどこがお姉さんなのか。いつから言葉の意味が変わったのか。イケメンを騙っているおっさんよりもみっともない。

 

 

「…………あと一回だよ」

「はぁ? 何の話よ」

 

 

そんな私の指摘が堪えたのか。みすぼらしい顔をしながらそんな意味不明な回数を告げてくる老エルフ。意味が分からない。言葉も理解できなくなったのか。

 

 

「フ、フリーレン!? それは違うんじゃないか!? 昨日の僕の年寄り扱いと一緒になってるんじゃ」

「じゃああと一回だよ」

「え? 今のも?」

「馬鹿じゃないの」

 

 

そんなフリーレンにまるで死の宣告でも受けたかのように慌てふためき、絶望しているヒンメル。一体何をやっているのか。そういえば、こいつを年寄り扱いすると癇癪を起こすんだったか。下らない。そんな風に甘やかすからつけあがるのだ。たかが癇癪で。老人で子供なのか。合算は免れたようだが、結局カウントが減っている。

 

 

「下らない話はもういいわ。さっさと始めるわよ」

 

 

これ以上は時間の無駄でしかない。私の時間はこのエルフほど長くはないのだから。

 

 

私の言葉を合図にしたかのように、仕事が始まる。そういえば最近は聖都にばかりいたので、こうしてここで仕事をするのは久しぶりだったか。それでも流石にそれを忘れたりはしない。リーニエもそれは同じなのだろう。洗濯物を取り出し、並べ、運んでいく。せっせと従者として働いている。きっとリリーに対抗しているのだろう。当のリリーはそれをどこか微笑ましく眺めているのだが、リーニエは気づけていない。そしてまるで隠匿魔法を使っているかのように、こそこそと働いているヒンメル。私に媚びを売っているのかそれとも。そんな中

 

 

「……何よ。物欲しそうな顔して。何か文句があるわけ?」

 

 

ただ一人、馬鹿みたいにその場に突っ立ったまま。手伝いもせず、こちらを卑しそうに見つめている一匹のエルフがいた。

 

魔族が人間で言う仕事をしているのが、きっとこいつからすれば理解できない光景なのだろう。あの時の言葉を真似るなら、ヒンメルの命令なんて聞く必要はないのにどうしてそんなことをしているのか、といったところか。またそう指摘してくるのかと思うも

 

 

「……お前。その魔法はもしかして」

「魔法? ああ、これのこと。服を乾かす魔法よ。本当に人類の魔法は下らないわね。魔法を何だと思ってるのかしら」

 

 

どうやらそれは違っていたらしい。なるほど。盲点だった。こいつからすれば、魔族が人類の魔法を使うなんてきっと天と地がひっくり返るぐらいあり得ないことなのだから。かくいう私もそれを忘れかけてしまっていたのだから。本当に慣れというのは恐ろしい。いや、この場合はあきらめなのか。

 

『服を乾かす魔法』

 

それが私が使っている。曰くそれは神話の時代に存在したとされる伝説級の魔法。こんなもののどこか伝説級なのか。人類が魔法を愚弄しているのは間違いないが、こと洗濯という分野においてはこの魔法の右に出る魔法は存在しないだろう。

 

何故ならこの魔法は、全ての洗濯系魔法の原典とでもいえる物なのだから。

 

洗濯の魔法といってもその種類は多岐に渡る。白い服の黄ばみを取る魔法。どんな天気や気候でも服がちゃんと乾く魔法。しわしわの服をまっすぐにして綺麗に畳む魔法。服の汚れを綺麗さっぱり落とす魔法……は同じ伝説級だったか。

 

だがこの魔法は違う。これはその全ての効果を持つ魔法なのだから。どんな天気や気候でも、どんな色だろうと、汚れがあろうと。新品のようになり、畳むことができる。リリー曰くフローラルな香り、だったか。そんなおまけつき。そのせいで使用する魔力量が膨大であり、並みの魔法使いでは数回使用するだけで魔力切れを起こしてしまう欠陥品。大魔族である私だからこそ扱える物。

 

 

「……どこでその魔法を手に入れたの?」

「はぁ? 何であんたにそんなこと」

「まあまあ。確かそれは十年前、行商人がやってきた時に君が買ったものだったかな。何でも伝説級の魔法らしいんだけど、扱うのが難しいからって売れ残っててね」

 

 

だがそんなことなどどうでもいいかのように、フリーレンはどこか食い気味に迫ってくる。まるでそう、人間の子供を前にした魔族のように。無表情を装っていても、その瞳が爛々としているのが隠せていない。それに呆れながら言い返そうとするよりも早く、間にヒンメルが割って入ってくる。さっきまで完全に気配を消していたくせに何なのか。そんな私の抗議の視線に、どこか気持ちの悪い笑みを見せながら目配せしてくる始末。いや、あれはウインクのつもりなのか。反吐が出る。まだ自分が若いと勘違いしているのか。フリーレンのことも言えないに違いない。

 

 

「……そう。宝の持ち腐れだね」

 

 

そのエルフは流れるように私を馬鹿にしながら踵を返す。もう用はないと言わんばかり。こっちの台詞だ。そもそもこんな物、宝でも何でもない。

 

 

「どこに行くんだい、フリーレン?」

「書斎だよ。まだまだ調べ物が残ってるからね。私も忙しいんだよ」

 

 

そんなフリーレンの反応をどこか楽しそうにヒンメルは見つめながら、その背中に話しかける。だがそんなヒンメルなどどうでもいいとばかりさっさとフリーレンは二階へと消えていく。本当に自分勝手な奴だ。こんな奴にご執心なんて、本当にヒンメルも趣味が悪い。まあいい。視界から消えてくれるならそれに越したことはないのだから。そのまま仕事に戻ろうとするも、

 

 

「…………」

 

 

ヒンメルがこちらに何やら合図を送ってくる。まるで内緒話をするように、寝静まったリーニエを起こさない時のようにしーっと言いながら、指を口の前に立てたまま。

 

 

「……?」

 

 

見慣れたはずのヒンメルの新たな奇行に、首を傾げていると

 

 

「────やってくれたね、アウラ」

 

 

すぐさま、まるで魔族に騙されてしまった人間のような情けない顔をしたエルフが階段を下りてきた。

 

 

「何のことよ……?」

「しらばっくれても無駄だよ。書斎を魔法で封じたでしょ。昨日のは予行練習だったってことか。用意周到だね」

 

 

そこでようやく事情を察する。思わず肩が落ちそうになる。あまりにも下らない、馬鹿げた理由に。そういえばすっかり忘れてしまっていた。宝物庫の魔法を書斎にかけていたことを。ヒンメルを締め出す方ばかりに気が行っていたからだろう。そうとは知らず、意気揚々と書斎、いやこいつにとっては宝物庫に入ろうとしたはいいものの、入れなかったということか。ダンジョンでいうならミミックに引っかかったようなもの。齧られないだけ有難いと思えばいい。

 

 

「~♪」

(なるほど……フリーレンをわざと煽ったわけね。本当にクズね、この勇者は)

 

 

その首謀者であり、裏切り者は知らぬ存ぜぬを通しているが騙せているのはフリーレンだけだろう。ようやく理解した。ヒンメルはわざと私が洗濯の魔法を使うのを見せたかったのだ。同時にその魔法が伝説級であること、その魔導書が書斎にあるであろうことを含めて。ハイターも顔負けの手練手管だ。もっとも一つ読み違えているようだがそれはまあいいだろう。ようするにヒンメルはフリーレンをまんまと罠にかけたのだ。いや、動物に例えるならお預けされたのか。

 

 

「…………」

「…………何よ? あそこは私の書斎よ。どうしようが私の勝手でしょ。気に入らないなら破るなり、命令なりすればいいわ」

 

 

してやられたことにようやく気付いたのか。いつもの無表情が嘘のような不細工な顔を晒している葬送の魔法使い。呆れるしかない。私は、いや魔王様はこんな奴らに負けたというのか。夢なら覚めてほしい。

 

 

「用がないならさっさとどきなさい。仕事の邪魔よ」

 

 

いつまでもこんな奴に付き合ってはいられない。文句があるなら好きにすればいい。その力がこいつにはあるのだから。一番手っ取り早いのは私に魔法を解除するよう命令することだ。それに抗うことは私にはできない。私の魔法に例外はない。服従させられているのは私の方なのだから。それでも

 

 

「……ヒンメル」

「それは僕にもどうにもできないかな。あの書斎はアウラの物だからね。ならアウラにお願いしないと」

 

 

どうやらそれを行使するにはヒンメルの許可がいるらしい。予想通りだ。私には言葉が通じないと判断したのか、ヒンメルに許しを乞うている。だが悲しいかな。ヒンメルもその命乞いには耳を傾けてくれない。無様なことこの上ない。万策尽きたのか。そのまましばらく立ち尽くした後

 

 

「…………いいよ。一つだけ命乞いを聞いてやる」

「…………あんた、本当に魔族なんじゃないの?」

 

 

葬送のフリーレンは、これ以上にない無様な命乞いをしてきた。

 

 

本人は命令のつもりなのだろうが、威厳も何もあったものではない。言っていることはまるで魔族そのものだ。人間を人質にされたかのような勢い。違うのは、今私が人質にしているのは魔導書だということ。ふざけているのか。魔族にすら劣るだろう。

 

 

「いいからさっさと答えろ。時間の無駄だ。こんな機会めったにないよ」

 

 

きっとそうやって命乞いをする魔族を無慈悲に葬ってきたのだろう。だがやっていることはその逆。命乞い、いや媚びを売っているのだ。葬送のフリーレンが魔族に。どこにこんなに偉そうに媚びを売る奴がいるのか。

 

そこでふとヒンメルと目が合う。それに目配せで返してくる。なるほど。これがヒンメルの思惑だったのか。宝物庫の魔法を使って、フリーレンを操ること。やっていることは動物の前に餌をぶら下げて言うことを聞かせるのと同じだ。流石は人間様、いや勇者様か。これがきっと悪意なのだろう。こんなもの、私たちに理解できるはずもない。したくもない。

 

 

「……いいわ。とりあえずここで暮らす上で絶対に欠かせないことをしてもらうわ」

「何のこと?」

 

 

だが手段は手段。奴隷である私が主人に対抗できる唯一の魔法だ。せいぜい利用させてもらう。命じたいことなど山ほどある。考えればきりがない。なので最初はヒンメルに倣うとしよう。こいつらが大好きな、ヒンメルならそうした、という奴だ。

 

 

思い出すのは十年前。奇しくも同じように、ヒンメルに服従させられて間もなく命じられたこと。いや、お願いだったか。それは

 

 

「仕事よ。さっさと働きなさい。ヒモエルフ」

「…………ハイ」

 

 

さっきまでの威勢はどこに行ったのか。その場にいる全ての者の視線を感じ取り、見るに堪えないしおしお顔になりながら、フリーレンはそう返事をする。

 

 

それが魔族(アウラ)が初めて魔法を使わずに、言葉で葬送のフリーレンを服従させた瞬間だった────

 

 

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