ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第二話 「勇者一行」

「それにしても、こうして集まると昔一緒に旅したのを思い出しますね……」

「私たちは勇者一行じゃないわよ」

「これは失敬。すっかり馴染んでいたのでつい……」

「生臭坊主」

 

 

開口一番。ふざけたことをのたまってくるハイターに辟易するしかない。私たち魔族を勇者一行扱いするなんて。これ以上ない侮辱だろう。そういえば前も同じことを言ってきた気がする。ようするにわざとなのだ。しかも今回はさらに質が悪い。何故なら

 

 

「私も呆れたよ。勇者一行が揃いも揃って魔族に騙されてるなんてね」

「人聞きが悪いわね。こいつらが勝手に騙されてるだけよ」

「お前は魔族でしょ」

「あんたこそエルフじゃない」

「まあまあ、二人とも」

 

 

今私の隣には、正真正銘の勇者一行。その魔法使いがいるのだから。正確にはリーニエを挟んでの隣合わせだが関係ない。今私たちは騙されて誘き出された生贄二人を連れ、家に帰ってきたところ。道中、村人たちから奇異の目を向けられたが全て無視して。説明するのも面倒だ。ただでさえ憂鬱だというのに。

 

売り言葉に買い言葉。本当にこいつは口が減らないエルフだ。私の神経を逆撫でするのにこいつの右に出る者はいないだろう。いや、左に出る奴はいたか。情けないことこの上ない。

 

 

「だが、こうして見てもやはり信じられんな。フリーレン。お前が魔族と一緒にいるとは」

「ですね。騙されているのではないですか?」

「……見世物じゃないよ」

 

 

そんなもはや日常になりつつあるやり取りを、どこか興味深げに眺めている勇者一行の僧侶と戦士。見世物か。言い得て妙だろう。私達よりもよっぽどこのエルフの方が珍しく、見世物になるだろう。こっちはお金を払っても御免だが。

 

 

「そんなに驚いてくれるなら、招待した甲斐があったかな。僕も嬉しいよ」

「何か言っているぞ、ハイター。言い返してやれ」

「はて。空耳でしょうか。偽物の勇者の声が聞こえますね」

 

 

それをまるで自分の手柄のように誇っている偽物の勇者。本当にこいつは勇者なのか。かつての仲間にすら偽物扱いされる始末。それもそうだろう。まんまと騙されてここまで誘き出されてしまったのだから。家に着くなり、作戦会議だと言い残し、なにやら男連中だけで話し合いをしていた。何でも困難な相手を攻略する時はよくそうしていたのだと。なるほど。その程度の知恵はあったらしい。ただその相手がかつての仲間であるというのはどういうことなのか。本当にふざけた連中だ。

 

 

「逃げ出そうとしてた癖によく言うわよ。とんだ臆病者ね」

「照れるな」

「褒めてないわよ」

「フリーレンは薄情者だよ?」

「……一緒にしないで」

 

 

人間の皮肉を真似てそう告げるも、全く通じていない筋肉馬鹿。本当に都合が良い奴だ。臆病者が聞いて呆れる。そしてリーニエから流れ弾を食らっている薄情者。一体このパーティはどうなっているのか。まともな奴が一人もいない。

 

 

「どうやら一段落しているようだな。てっきり癇癪を起こしているとばかり思っていたが」

「全くです。流石の私も舌打ちするほどでしたから」

「お前いつもそうだっただろ」

 

 

そんな生贄二人だが、どうやら安堵しているらしい。最悪の状況を想定していたからだろう。恐らくはフリーレンが襲来したばかりの頃のことか。もしそれに巻き込まれれば、こんな風に話すことすらできなかっただろう。それによる癇癪を恐れていたのか。なるほど。今なら私もその気持ちが分かる。分かってしまう。舌打ちで済ませるだけ、ハイターは温厚なのだろう。

 

 

「残念だけど、もう終わった後よ。本当にいい迷惑だったわ」

「…………私じゃないよ」

「ああ、そうだったわね。あんたはさっさと森に逃げ込んでたものね。そこの偽物の勇者様は役立たずだったし」

「…………」

 

 

私もまた、間接的にその被害を被った被害者なのだから。

 

リーニエによる癇癪事件。恐らくはこの村の後世まで伝えられるであろう伝説。あの後、三日三晩続くことになったリーニエの癇癪によって村は混乱に包まれた。二日目に起きたヒンメルがあやすも効果はなく、リリーとシュトロが奔走するも通じず。その主犯であるフリーレンは行方知れず。それを探し出すために村総出でエルフ狩りが敢行された。それでも完璧な魔力の隠匿によって見つけ出すことができなかったのだが、試しに使った迷子を見つける魔法でクソエルフを探知することに成功。それによってエルフを引きずり出し、リーニエを預け、森に放逐。その後、ボロボロの老婆のようになったエルフが村に戻ってきた。年齢相応になったのだろう。

 

 

「言い返さないのか」

「貴方らしくありませんね。やはり偽物なのでは」

「……ヒンメルに怒られたんだよ」

 

 

その時ほどではないが、まるでリーニエが私に叱られた時のような情けない顔を晒しながらフリーレンは白状する。いつもとは違い、しおらしくなってしまっている理由。

 

それがヒンメルからのお叱りだった。私もこの十年で初めて見る、本気で怒ったヒンメルの姿。思わずリーニエを連れて家から離れてしまうほど。しばらくして、戻ってきた時には叱られた犬のように縮こまってしまっていた。何でもこんなに怒られたのは、かつての私の不死の軍勢を吹き飛ばしてしまった時以来だとか何とか。

 

 

「ヒンメルがお前を怒ることがあるのか」

「どんなに寝坊しても本気で怒ったことがないヒンメルがですか。一体何をしでかしたんです?」

「ま、まあいいじゃないか二人とも。もう反省してるんだし……」

「あんたも同罪よ。ヒンメル」

「……はい」

 

 

それが分かっているからだろう。ハイターとアイゼンも目を丸くしている。どれだけこいつらはこのエルフに甘かったのか。だからつけあがるのだ。だというのにまた甘やかそうとしているヒンメル。本当に学ばない奴だ。鼻血を出して昇天していたのはこいつも同じなのだから。どっちも有罪だろう。そして

 

 

「あ、そういえば聞いてアイゼン。私お姉ちゃんになったんだよ! フリーレンは私の妹なんだって!」

 

 

リーニエが聞いて聞いてとアイゼンにせがんでいく。その内容こそが、ヒンメルから言い渡された、科せられた薄情者への刑罰だった。同時に、リーニエにとっては念願が叶った瞬間でもある。ようするに、フリーレンは我が家の主従の序列の中で最下位になったのだ。

 

 

「でもフリーレン、お姉ちゃんって呼んでくれないの」

「……それは許してよ。リーニエ」

「むぅ」

 

 

甘んじてそれを受け入れたものの、そこだけは譲れない一線だったらしい。それに頬を膨らませ、お冠のリーニエ。どうやらお姉ちゃんと呼んでくれる偽物の妹ができる日はまだ当分来ないようだ。

 

 

「はっはっはっ、これは傑作ですね。随分年上の妹ができたものです」

「よせ。ハイター」

「失敬。しかしこれで二児の母ですか。お母さんは大変ですね、アウラ」

「貫禄がでてきたかもしれん」

「うるさいわよ。お父さん」

 

 

流石は仲間なのだろう。それだけで事情を察したのか。今度はその矛先を私に向けてくる二人。本当に食えない奴らだ。未だ私をお母さん呼ばわりしてくるのはこいつらぐらいだろう。言い返してやるが、全く堪えていない。だが

 

 

「違うよ、アイゼン。今のアウラ様はお母さんじゃなくて奥さんなの」

 

 

リーニエの何気ない、悪意のない言葉によってさしもの二人も言葉を失ってしまった。

 

 

「……奥さん。お前がか?」

「ええ。尻に敷かせてもらってるわ。お母さんよりよっぽど役に立つわね。あんたも喜んでるものね、ヒンメル?」

「そ、それはちょっと語弊があるかな」

「ただのままごとだよ。本当に悪趣味だね」

「あらそう? あんたも混ぜてあげましょうか? ああ、もうあんたは妹役だったわね」

 

 

間抜けな顔をハイターと見合わせた後、アイゼンがそう尋ねてくるのを面白おかしく眺めながら返してやる。嘘ではない嘘。今の私にとってはお母さんよりも役に立つ魔法の言葉だ。それによってヒンメルは冷や汗をかき、フリーレンはタマネギを食べた時のような変顔を晒している。いい気味だ。

 

 

「二人の女性を天秤にかけているのですか。罪深いことです。罰が当たるかもしれませんね」

「罪な男だ。見損なったぞ、ヒンメル」

「二人とも、後で少し話をしようじゃないか」

 

 

そんなことになれば、こいつらがどう動くかなんて決まっている。流れるように裏切り、私の味方になる勇者一行の半数。こいつらには私の魔法よりも言葉の方が効果があるのだろう。本当に一々癪に障る奴らだ。

 

 

「ごほん。それはともかく、リーニエ、少し大きくなりましたね」

 

 

このままでは収拾がつかないと思ったのか。一度咳払いしながら、ハイターが強引に話題を変えてくる。ある意味、ここに来るたび繰り返している習性。挨拶のようなもの。

 

 

「いっぱい食べてるから。すぐにフリーレンにもリリーにも追いつく」

 

 

それに乗せられているとも知らぬまま。僅かに伸びた背を自慢しているリーニエ。普通なら魔力の大きさなのだが、リーニエにとってはそれは自分の地位向上のために必要不可欠な物。変わったのは、リリーだけではなく、フリーレンもその競争相手に含まれてしまったということ。ようするに同列なのだ。

 

 

「そうだな。だがリンゴばかりではいかんぞ。他の物もちゃんと食べることだ」

「まるでお母さんですね。しかし魔族でもそれは同じなのでしょうか。本来は人間を食べて生きている種族でしょうに」

「問題ないよ。こいつらは人間を食べなくても生きていけるんだから」

「なるほど。流石はフリーレンですね。魔族のことなら何でもお見通しということですか」

「……何か言いたげだね」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 

やはりこいつは生臭坊主なのだろう。口八丁では誰も敵わないに違いない。フリーレンも例外ではないのか。いいように弄られてしまっている。人類のくせに、魔族のような奴だと言われているに等しい。そんな中

 

 

「……固い。美味しくない。リンゴの方がいい」

 

 

本物の魔族の子が、勇者一行の戦士の二の腕に齧りついている。きっと魔族なら人間を食べているからと話に出たから試しているのだろう。だが悲しいかな。期待した味ではなかったのか。まるでフリーレンがタマネギを食べた時のような顔をしている。そんなところまで真似しなくてもいいだろうに。本当に碌なことを教えないエルフだ。

 

 

「こら、リーニエ。アイゼンを齧るのは駄目だって言っただろ?」

「問題ない。竜に齧られるのに比べたら甘噛みのようなものだ」

「誰もあんたの心配なんてしてないわよ。リーニエの歯が折れるわ」

 

 

悪戯した子供を叱るように、ヒンメルがリーニエを剝がそうとするもそれに抵抗するように未だにアイゼンに嚙みついたままぶらぶらしている。遊んでいるつもりだろうか。それをとんだ勘違いしている人類モドキ。誰がこいつの心配なんてするのか。リーニエの歯が砕けてしまいかねない。断頭台でも首を落とせないような奴が何を。

 

 

「何なの、こいつら……」

「そういえばアイゼンってこういう奴だったね」

 

 

十年一緒に旅していたくせに、その光景にドン引きしているハイター。そういえばこいつは見るのは初めてだったか。前アイゼンが来た時に鍛錬のために人を傷つけてはいけないというリーニエの枷を、アイゼンに対してのみ外していたのだが、そのままにしてしまっていた。いや、人を食べてはいけない縛りは残っているはず。そもそもこいつが人類かどうかは甚だ疑問だが。

 

そんなハイターとは違う意味で感心しているエルフ。たった十年前なのに忘れてしまっていたのか。薄情者だと言われるも当然だろう。

 

 

「そういうあなたは全然変わりませんね」

「頭撫でんな」

 

 

現実逃避か、それとも狙っていたのか。ハイターは椅子から立ち上がり、フリーレンの頭を撫で始める。それを嫌がっているのは子ども扱いされるのが嫌だからなのか。きっとされたのは一度や二度ではないのだろう。私にも覚えがある。どうして人間というのは他人の頭を撫でたがるのか。未だに理解できない。

 

 

「相変わらず寝坊しているのか?」

「うん。毎朝私が起こしてる。いい迷惑」

「ごめんて」

 

 

腕を齧るのは飽きたのか。今度はリーニエを肩車したまま、アイゼンがそう問いかけている。このエルフの三つの悪癖の一つ。それは今も継続したまま。それを毎朝起こす仕事を私に命じられ、さしものリーニエも迷惑しているらしい。今は妹を起こすのは姉の役目だと騙しているが、それが嘘だと気づかれるのも時間の問題だろう。それもこれもフリーレンの寝坊の酷さにある。最近はどうしても起きない場合には、悪夢を見れる壺を使っている。ヒンメルが以前面白そうだからと買ってきた物だが、こんなところで役に立つとは。やはりこいつらは似た者同士なのだろう。

 

 

「寝坊と言えば、新年祭のことを思い出しますね。あの時も貴方は寝坊して、あまりのショックで私も寝込んでしまいましたから」

「ただの酒の飲みすぎでしょ」

「はて。何のことでしょうか」

「生臭坊主め」

 

 

そんなことを考えていると、どうやら寝坊の話はいつの間にか昔話に変わっていたらしい。ただ聞くまでもない、下らない話であるのは私にも分かる。

 

 

「しんねんさいって何?」

「海の近くの村のお祭りだ。その日に日の出を見る習慣があってな。海に日の光が反射してとても綺麗だったぞ」

「なら今度はみんなで見に行こうか。こうしてみんなが集まったことだし。リーニエがいるならフリーレンも起きれるかもしれない」

「日の出っていつのこと?」

「太陽が昇る時のことだ」

「無理」

「無理かぁ」

 

 

魔族らしく、天秤と呼ばれている私よりも無慈悲に判決を下すリーニエ。当然だろう。こいつを日の出前に起こすなんて不可能だ。そんなことができるのなら、魔族も人間になれるだろう。

 

 

「それで? 今までお前は何をしていたんだ、フリーレン?」

「そうですよ。ダンジョンでミミックに食べられているんじゃないかと心配していたんですから」

「ソンナコトナイヨ」

「どうしてそんな嘘をつくの?」

「相変わらずだね。ならあの縦ロールになってたのかな。見れなくて残念だったよ」

 

 

そのまま今度はこの十年でのエルフの動向に話題が移っていく。そういえばいつか、似たような話を聞かされた気がする。それは間違いではなかったのだろう。リーニエでなくとも分かる、子供のような嘘だ。縦ロール云々は理解できないが、どうせ碌でもないことだろう。

 

 

「そういうみんなは何をしてたの?」

「決まっています。私は司教ですからね。それはもう忙しくてお酒を飲む時間も」

「聞いた私が馬鹿だったね」

「俺は新しく鍛冶を始めてな。中々面白いぞ」

「最後は僕かな。何を隠そう僕は」

「魔族とままごとでしょ」

「ひどくない?」

 

 

だがこのエルフのことも言えないのが勇者一行の連中だ。誰一人まともではない。それぞれが好き勝手にしている。極めつけがヒンメルだろう。それに巻き込まれているこっちは堪ったものではない。念願のままごとの相手がやってきたのだから、私を解放してくれればいいものを。

 

 

「たった十年じゃ、みんな何も変わってないね」

 

 

その一点のみにおいては、こいつに同意してやってもいい。こいつらはきっと百年経ってもこのままに違いない。学ばない、成長しないと言い換えてもいい。

 

 

「貴方らしいですね。ですがヒンメルを見てください。すっかりおっさんになってしまいましたよ」

「知ってるよ。みんな老けたよね。ハイターは元々だけど」

「こらこら、失礼ですよ。アイゼンを見てください。さらにダンディになっていますから」

「照れるな」

「アイゼンはドワーフでしょ。何も変わってないよ」

 

 

だがそれは避けられないのだろう。再びトラウマを刺激されたのか。ヒンメルは何とも言えない間抜けな顔を晒している。対してハイターはそれどこか楽し気に刺激している。どうして同じ歳の人間のくせにこんなに反応が違うのか。

 

 

「ですが一安心しました。てっきり流星までやってこないかと思っていましたから」

 

 

ひとしきりヒンメルに仕返しして満足したのか。今度はフリーレンに狙いを定める。恐らくはこの場にいる全ての者が抱いている感想。それに対してたった十年でしょ、と言い返してくるのを期待したもの。だが

 

 

「……ごめん」

 

 

私の予想に反して、薄情者のエルフは謝罪の言葉を口にしてきた。そもそもこいつがそんな言葉を知っていたことの方が驚きだが。

 

 

「謝ったぞ……」

「嘘だろ……いつもはどんなに自分が悪くても謝らないのに……」

「やっぱり偽物かもしれません」

「私を何だと思ってるの」

 

 

それはきっと他の連中も同じだったのだろう。そのせいで再び偽物ではないかと疑われている始末。正直に謝ると疑われるなんてどうなっているのか。正直者の魔族であるリーニエですらこうはならないだろう。

 

そのまま、まるで終わりがないかのように無駄な、下らない話が続いて行く。途中からはずっと、ただ何となくをそれにを聞くだけになっていた。一々反応するのが面倒になったのもあるが。それだけではない。それは

 

 

「どうしたんだい、アウラ? さっきからずっと静かだけど」

「……あんたたちが騒がしいだけよ」

 

 

やはりこいつはヒンメルなのだろう。ついさっきまで楽しそうに騒いでいたくせに、いつの間にか私にそう声をかけてくる。目ざとい奴だ。油断ならない。考え事一つ、させてはくれないのだから。

 

 

「……たった十年じゃ、私は、あんたたちのこと何も知らなかったのね」

 

 

ただそれだけ。この十年で、こいつらのことを知った気になっていたが、どうやら間違っていたらしい。どころか知らないことだらけだ。たった十年ぽっちでは足りなかったらしい。

 

 

「──ふふっ」

「何がおかしいのよ?」

 

 

そんな私が可笑しかったのか。ヒンメルはいつものように気持ちの悪い笑みを浮かべている。やはり理解できない。魔族が人間を理解できないのは当たり前だが、こいつもまた魔族を理解できていないのだろう。それなのに

 

 

「君らしいね。とてもいい」

 

 

この人間は、いつも知った風なことを口にしてくる。人間のくせに。本当に癪に障る奴だ。

 

 

「心配ないよ。君は知ろうとしてくれた。それだけで十分なんだから」

「何よそれ?」

 

 

相変わらず遠回しな言い方をする奴だ。それの何が嬉しいのか。何を言いたいのか分からない。もしかしたらこいつも分かっていないのかもしれない。ようするに気にするだけ無駄なのだろう。

 

 

「それに君も知っていることがたくさんあるよ。見ててごらん」

 

 

そんな私の反応に気を良くしたのか。まるでリーニエにするように、私に命令してくる。一体何を見せたいというのか。

 

 

「もうこんな時間か。そろそろ準備するとしよう。アウラ、台所を借りるぞ」

「……ええ。好きにすればいいわ」

「私も手伝う、アイゼン!」

「これは楽しみですね」

 

 

腕まくりをしながら私に許しを乞うてくるアイゼン。それに付いて行くリーニエに、手伝いもせずに眺めているハイター。何のことはない。いつもの、当たり前の光景。だというのに

 

 

「? 何のこと?」

 

 

フリーレンだけが首を傾げている。まるで人間の言葉が、習性が理解できない魔族のように。それをどこか嬉しそうに見つめているヒンメル。そこでようやく気付く。ヒンメルが私に何を見せたかったのか。

 

本当にこいつは薄情者なのだろう。いや、忘れっぽいのか。勇者一行のくせに。

 

 

「決まってるだろう。俺からの精一杯頑張った戦士への贈り物だ」

 

 

誰かの誕生日に、この筋肉馬鹿が何を作るかなんて、私でも知っているのだから────

 

 

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