「美味しいね」
そう言いながら新たな物に手を付ける。それはアップルパイだった。今、私はリリーに誘われてお茶会に参加している真っ最中。もっともお茶会と言ってもほとんど私が食べては飲んでを繰り返しているだけなのだが。
「よかったわ。それはリーニエの好物でね。お菓子では一番自信があるの。気に入ってもらえたのなら嬉しいわ」
そんな私の様子を本当に楽しそうに、嬉しそうに見守っているリリーにどこか気恥ずかしさを感じてしまう。これでは祖母に餌付けされてしまっている孫のよう。本当なら逆でなければいけないはずなのだが、そうなってしまう。そうさせてしまうほどリリーには母性があるのだろう。そのせいもあるのか、いつもなら私には敬語なのにそれがなくなってしまっている。私からすればそっちの方が話しやすいので助かる。
「でも小柄なのに本当によく食べるのね。エルフというのはみんなそうなのかしら?」
「エルフは関係ないかな。私は冒険者だからね。冒険者ならこのぐらい食べて当たり前だよ。甘味は活力だからね」
「そうなのね。だからフェルンちゃんもあんなによく食べてくれるのね。作り甲斐があるわ」
「……そうだね」
ただアップルパイを頬張りながらそう相槌を打つ。そう、嘘は言っていない。根無し草で荒事が多い冒険者稼業において甘味は大きな活力だ。それに加えて私はエルフ。旅先で美味しい物に出会ってももう二度と味わえなくなることも少なくない。だからこそ本当に美味しい物はお腹いっぱい食べることを信条にしている。フェルンに関しては活力云々は間違いないだろうが、あれは本人の……いや、あえては触れまい。明日も怒りの三つ編みにされかねない。
「フェルンちゃんといえば、もうそろそろ出発するかもしれないと言ってたわね。早いものね。もうフリーレン様たちが来られてから一週間になるのね」
「そうだね。私はまだこの村に滞在してもいいんだけどね。フェルンがそう言うならそうなるかな。滞在の時間はフェルンが決めることになってるから」
「ふふ、本当に仲が良いのね。この村も気に入ってもらえたのなら嬉しいわ」
そのフェルンはやはりそろそろこの村を出発するつもりらしい。本当にどうしたものか。まだ持っていく三冊が決まっていないのに。このままではまた夜更かしすることになってしまう。
「フリーレン様たちは次はどこに向かわれるのですか?」
「次はアイゼン……仲間の戦士アイゼンのところかな。三十年も待たせちゃってるからね。会いに行くつもりだよ」
「なるほど。きっとアイゼン様も喜ばれると思います」
「そうか。アイゼンも知ってるんだったね」
「リーニエがお世話になっていますから。今もよく遊びに行っているようです。本人はいつも頼りに行ってくるとよく分からないことを言っていましたが」
「本当に変な
まだ伝聞でしか知らないが、リーニエという魔族は本当に変な魔族だ。その理由も経緯も私は知っているが、それでも理解し切れない。例外なんて二つ名を付けたみたいだが、言い得て妙なのかもしれない。そして違う意味でやはり目の前のリリーも自分にとっては妙な存在だろう。初めて会うはずなのにそんな気がしない。共通の認識があるのに、それを私は自覚し切れない。そんな感覚。
「それはともかく……アイゼンの所が終わったら次はフリージアかな。その先はまだ決めてないけど」
それを誤魔化すようにそう漏らす。同時に憂鬱になってくる。そうか。もうそんなところまでやってきてしまったのか。フェルンと一緒だからなのか。時間の流れがいつもより早く感じる気がする。私一人なら先延ばし癖のせいでまだこの村にも辿り着けていなかったに違いない。みんなの感覚に追いつくのは本当に大変そうだ。そんなことを考えていると
「そうですか……フリーレン様は何故フリージアに?」
リリーはそう私に尋ねてくる。何のことはない、普通の会話。だがそうではないことを私は感じ取る。それは空気だった。さっきまでの穏やかな雰囲気がほんの少し揺らいでいる。きっと以前の私なら気づけないような僅かな差異。
「ハイターとの約束だからね。フェルンも行きたいって言ってたし……私はできれば行きたくないんだけど」
手に持ったティーカップから紅茶を飲みながらそう答える。ただ淡々と。正直に。何も隠すことなどない。それによってリリーは黙り込んでしまう。どこか物憂げに。やはりそうなのだろう。薄々感じ取ってはいたが、私とお茶会をしたかったのはそれが理由なのだろう。
「何か聞きたいことがあるんでしょ?」
なので単刀直入にそう告げる。私はハイターのように腹の探り合いができるほどの話術はない。フェルンにも何度も言われるが、分かり易く直接伝えなければ私には伝わらないらしい。反論したい気持ちはあるが、思い当たる節がないでもないので納得するしかない。その反省もあって旅先で出会った人と話す時には単刀直入に話すようにしている。というかそうしてもらっている。
そんな私の事情なんて分かるわけもないが、リリーはそのまましばらく黙り込んでしまう。そのまま何度か紅茶を口に運ぶ。それが何度繰り返されたか
「フリーレン様は、アウラ様を討伐されるおつもりですか……?」
意を決したように、静かにリリーはそう私に問い質してくる。そういえばいつの間にか口調が敬語に戻っている。きっとリリーの今の心情を表しているのだろう。その内容もおおよそ私が予想した通りの内容。私と二人きりで話したい内容なんてそうそうあるわけがない。そしてフリージアの名を口にした時の反応。ならあいつに関連することなのは火を見るより明らか。
「そうだね。
それにそう答える。一切の逡巡もなく淡々と。千年間変わらない、葬送としての私の答え。魔王を討伐してもそれは変わることはなかった。ならそれはそれに匹敵凌駕するようなことでも起きない限り変わることはない。一切の嘘偽りなく、冷徹に。
「そうですか……」
そのこともきっと分かっていたのだろう。動揺することも、困惑することもなくリリーは口を噤んでしまう。もしかしたら私の二つ名も知っているのかもしれない。だからこそこんなことを聞いてきたのだろう。アウラの身を案じていたからこそ。きっとリリーだけではなく、この村の住民全てなのだろう。本当に馬鹿げている。呆れるしかない。魔王が討伐されてから八十年。変わらず魔族に騙されてしまっている人間の愚かさに。
「……以前の私ならそう言っていただろうね」
だが今の私は違う。無論、魔族に対する考え方が変わったわけではない。奴らが人食いの化け物であることは決して変わらない。その上で、私は付け加える。
「少なくともアウラたちに関しては出会い頭に手を出す気はないよ。あっちから手を出してきたら話は違うけど」
以前の私なら考えられないような、甘い対応。魔族相手に話し合いなんて時間の無駄なのに、それをする気になっている。さっきの二つ名ではないが、例外的な考え。ハイターからの話、ヒンメルの日記。そしてこの村で見聞きした話。その全てを度外視して葬送に徹し切れるほど私は冷徹にはなり切れなかったらしい。本当に私らしくない。
「色々理由はあるけど……一番はフェルンかな。フェルンはあいつらに懐いてるから。怒ると怖いんだよ」
きっとそれが一番の理由だろう。ただでさえ最近は師匠の威厳がなくなってきてしまっているのに、そんなことをすればますますそれが悪化してしまう。背も追い抜かれてしまったが、まだまだ師匠として情けないところを見せるわけにはいかない。決して怒られるのが怖いだけではない。
「それに私も個人的に確かめたいことがあるからね」
何より、私も個人的にあいつに確かめたいことがある。それはあいつ自身の本音。結局私が知っているのは全て伝聞によるあいつの姿だ。あいつが一体何を考えて、何をしようとしているのかは直接会わなければ分からない。魔族は嘘つきだ。正直に話すのはきっとリーニエとやらだけだろう。ならそれを聞き出すのが葬送としての、勇者一行としての私の役割。
「そうですか……ありがとうございます。フリーレン様」
「お礼を言うのは早いかな。手を出さないとは言ってないからね」
そんな私の答えの何が可笑しかったのか。リリーはさっきまでとは打って変わって笑みを零している。やはりこの人間の前では私は子供扱いなのだろう。だがそれが不快ではない。ハイターとは大違いだ。
「でもリリーたちはそれでいいの? いくらあいつが昔とは変わったんだとしても、あいつがこれまでしたことがなくなるわけじゃない」
それに水を差しかけないと思いながらもそう告げる。きっとこの先避けては通れないであろう問題。人であっても、魔族であっても逃れられない罪と罰の在り方。もっとも魔族自身にはそんなものはないだろうが、人間側の受け止めという意味では変わらない。
「そうですね。子供の頃の私にはそれが分かっていませんでした。でも大人たちは分かっていたんだと思います。この村もクヴァールに、魔族によって蹂躙されたのですから。きっとアウラ様によって犠牲になった人たちは決してアウラ様を赦しはしないだろうと」
そんなことはきっと、私に言われるまでもなく分かっていたのだろう。余計なお世話だったかもしれない。そう、他でもないこの地もまた魔族によって蹂躙されたのだから。きっとアウラを受け入れることができなかった村人も一人や二人ではなかったに違いない。いくら勇者であるヒンメルがいたとしても。例え直接アウラがこの村に危害を加えたのではないとしても。フランメや私も同じだ。今でも私は魔族を根絶やしにしたいほど憎んでいる。北側諸国でアウラに蹂躙された人たちもそれは同じだろう。
「だからこそ、アウラ様はきっとフリージアを作られたんだと思います。本人はきっと認めはしないでしょうけど」
その全てを理解しながらリリーはそう代弁する。アウラの心の内を。私には分からない、共に五十年以上生きていたリリーだからこそ分かる今のアウラの姿。贖罪。この村に来てからアウラが向き合い続けているもの。魔族であるアウラがそれを理解することは決してできない。なのにその真似事をあいつはしているのだろう。嘘をつきながら。欺きながら。真似をしていればいつかそれが本物になると本気で信じているかのように。
「だからこそ、私はアウラ様に生きてほしいと思っています。きっとヒンメル様もそう仰られるでしょうから」
リリーはそう結ぶ。例え理解できなくとも、認められなくとも生きてほしいと。それがアウラにとっての救いになるのだと。それを前にして私が言えることは何もない。肯定も否定もしない。ただ
「ヒンメルならそうしたから……か。結局そうなるんだね」
それを口にされては敵わない。狙ったわけではないだろうが、やはりヒンメルはヒンメルなのだろう。間違いなく同じことを言うだろう。一体どれだけの人に影響を与えているのか。人たらしもいい加減にしないとその内後ろから魔法で吹き飛ばされるだろう。もしこの場にいたら私がそうしていたに違いない。
「フリーレン様は、アウラ様やリーニエのことをどのくらいご存じなのですか?」
「ヒンメルがいなくなるまでなら大体知ってるかな。それ以降はほとんど知らないけど」
閑話休題。新しく紅茶を淹れてもらいながらお茶会は続行される。もう先程までの緊張感はない。きっと一番懸念していた事態にはならないとリリーは安堵したのだろう。それでも変わらず話題はアウラのことだった。それに思うところがないわけではないが付き合うことにする。何よりも私自身、知る必要があると思っていた事柄でもある。それは日記に記されていない、ヒンメルが亡くなった後のアウラの動向。
「そうですか……アウラ様が変わられたのはヒンメル様が亡くなられてからでしょうか。いいえ、変わっていないからこそなのかもしれません」
「変わっていない……?」
思わずそう聞き返してしまう。変わっていないのに変わってしまった。完全に矛盾してしまっている。一体どういうことなのか。
「はい。今でも鮮明に覚えています。あれは
「二人が? 村に住んでたんじゃないの?」
「その時にはもうアウラ様は自由になられていましたから。二人は当てもなく旅をされていたのだと聞いています。村に戻るのがきっと恥ずかしかったんでしょうね。リーニエにせがまれて渋々帰ってきた、そんな感じでした」
リリーの説明にそうだったかと思い出す。そういえばヒンメルの晩年にはアウラはその支配から解放されていた。確かヒンメルが亡くなる半年ほど前だったか。そのままてっきり村にいたのかと思ったがそうではなかったらしい。それもそうだ。元々それから脱して自由になることがあいつの目的だったのだから。当時はハイターと共に聖都で暮らしていたはずだがそれはともかく。アウラからすれば自由になったのだから村に縛られることもなくなった。そういうことなのだろう。もしかしたらリリーの言う通り恥ずかしかったのかもしれない。今までは服従させられていたことが村に留まる理由になっていたのに、それがなくなったのに村に、ヒンメルに会いに帰っては言い訳できない。そんな子供みたいな理由。
だがそんな下らない理由はどうでもよかった。気になったのはそう、
「でも私たちは嬉しさよりも痛ましさの方が勝っていました。アウラ様はその時、ヒンメル様が亡くなられていたのを初めて知らされたのです」
「…………」
その事実を前に、私は何も口にすることはできない。きっとアウラは知らなかったのだろう。ヒンメルがもう帰らぬ人になっていることを。それをこの村で知らされることになった。その時にはもう一月の時間が過ぎ去った後。同時に、蘇ってくるのはヒンメルとの最後のやり取り。私にとっても辛く、思い出すことを避けていた記憶。それによって全てが繋がっていくような感覚に襲われる。
(そうか……ヒンメルの言ってた紹介したかった友達って……)
ことここに至るまでそれに気づけなかった自分の鈍さにも呆れるが仕方ないだろう。友達。私とあいつの間でこの言葉ほどあり得ない組み合わせはないだろう。魔法の世界では天地がひっくり返ることもあるがこれはあり得ない。今の私ですらそうなのだ。当時の私がそんなことに気づけるわけがない。そもそもこの件に関してはヒンメルが全面的に悪い。
(なるほど……だから、あいつはあんなことをハイターに)
唯一私に関係があるとすればそれだろう。ハイターに懺悔したあの日。ハイターから伝えられたアウラの言葉。私を死神扱いするあんまりな物。今ならその理由が分かる。
(私のせいであいつはヒンメルの死に目に会えなかったってことか……)
(もしかしたらアウラは私を恨んでるのかもしれない……私からすれば恨まれる覚えもない逆恨みだけど……)
そう考えれば色々納得もいく。魔族がそんなことを気にするわけがない。そもそもそのことで私を恨まれてもお門違いなのだが、そう言い切れるほど今の私は薄情ではない。もし私がアウラと同じ立場だったのなら、きっと恨むに違いないのだから。その理由が自分自身だったとしても。
「その時のアウラ様の姿は今も忘れられません。その後、すぐにアウラ様たちは王都へと出立されました。それからアウラ様はほとんど村には戻られていません」
そんな私の心境と同じくするように、リリーは話を続ける。ヒンメルの葬儀は亡くなってから二週間ほどで全て終わっていた。だからこそ私はアウラと鉢合わせることはなかった。そのことだけはお互い僥倖と言えるのかもしれない。もし何も知らないまま再会していれば間違いなくそのまま殺し合いになっていただろう。
「私たちがアウラ様の動向を知ったのはそれから数年後でした。アウラ様が新興宗教のような物を立ち上げていると風の噂で耳にしまして。それに助力したいと夫のシュトロも村を出て行ったのです」
「シュトロが?」
「はい。元々前の村長やアウラ様に憧れて神父になったような人ですから。子供たちも独り立ちしましたし、きっとアウラ様に恩返ししたかったのでしょう。役に立てているかは分かりませんが」
「そう。リリーはどうして付いて行かなかったの?」
「私が行っても力にはなれませんから。できるのはこの家を守ることぐらいでしょうか」
どこか寂しさを滲ませながらも、決意に満ちた瞳でリリーはそう告げてくる。なるほど、リリーがこの村に残っているのはそんな理由があったからだったらしい。だからこそ家は綺麗に維持されているのだろう。いつでもアウラたちが帰ってきてもいいように。形は違えどシュトロも同じなのだろう。
「なので六年ほど前に一度アウラ様が戻られた時には驚きました。フェルン様に魔導書を贈るためだったみたいです。道中だったのもあるのでしょうが、それでも泊まることなくそのまま。リーニエは年に一度ほどは帰ってくるのですが……」
六年前ということはハイターのところに教典の改定に寄った時のことだろうか。そのついでにフェルンへの魔導書を贈るために立ち寄ったのだろう。それを考えるとアウラのフェルンへの入れ込みは凄まじい。何かアウラの琴線に触れるものがあったのだろうか。それでもやはり長く滞在することはなかったのだとリリーは答える。リーニエは帰ってくることはあるがやはりアウラは戻ってこない。
だからこそこの家は時間が止まってしまっているのだろう。住人が戻ってこない、戻ってくることがないからこそ。まるでそう、何かを受け入れられない誰かの心が形になったかのように。
「何でアウラはこの村に戻ってこないの……?」
そう、単刀直入に、馬鹿正直に尋ねる。フェルンがいたら、本当に人の心が分からないのですねと呆れられてしまうこと間違いなしの言葉。知らず苛立ってしまう。自分自身に。それは分かっていたから。アウラが村に戻ってこない理由を。なのにそれをあえてリリーに問う。その答えが自分と違って欲しい。そんなひねくれ者の思考。だが
「きっとアウラ様にとってこの村に、家に戻ることが辛くなってしまったんだと思います。ヒンメル様を思い出してしまうから」
その理由は残念ながら、自分のそれと全く同じだった。
『花畑を出す魔法』
師であるフランメが好きだった、ヒンメルと出会うきっかけになった私の好きな魔法。でも最初から私はこの魔法が好きだったわけではない。むしろ逆だった。できるだけ使わないようにしていた。
『君はきっと
そう、ヒンメルが教えてくれたから。私の心に寄り添いながら。
『思い出していいんだ。フリーレン』
「思い出してもいい。きっとヒンメルならそう言うんだろうね」
私はそうヒンメルに言われて救われた。思い出していいんだと。でもアウラはそれに気づいていないのだろう。こんな簡単なことを。あの時の私のように。それを教えてくれるヒンメルももういない。なら誰かが教えなければいけない。ならそれは――
「フリーレン様……?」
「……何でもない。気にしないで。ただの同族嫌悪だから」
知らず態度に、顔に出てしまっていただろうか。リリーが心配そうにこちらを覗き込んでいる。仕方がない。本当に業腹だが、この気持ちはきっと私以外には分からないだろう。薄情でひねくれ者の私以外には。
「でもリリーは本当にアウラを信じていいの? 魔族は嘘つきだからね。騙されてるかもしれないよ」
なのでそれに相応しい最後の意地悪を口にする。もっとも、答えが分かり切っている下らない問い。
「はい。信じています。嘘つきなのも含めて姉さんなので」
それに臆することなく、即答するリリーにはもはや何を言っても無駄だろう。ここまで完全に人間を騙しきるのなら、もはやそれは魔族すら超えている。私の常識では理解し切れない次元の話。
「……人間に命乞いをしてもらえる魔族なんてあいつぐらいだろうね」
そう言った意味であいつは本当に異端なのだろう。人間に姉さん呼ばわりされるのもそうだ。そういえばどっかの魔族もどきも自分を姉呼ばわりさせようとしていたらしい。もしかしたらあいつが姉呼ばわりされているのが羨ましかったのかもしれない。いや、真似をしようとしていたのか。
「アウラ様のこと、宜しくお願いします。フリーレン様」
「約束はできないかな。私も嘘つきだから。それはフェルンに頼んだ方がいいよ」
誤魔化すようにアップルパイを食べながらそう告げる。そう、私もあいつと同じ嘘つきなのだから。一生をかけて魔族を欺くなんて馬鹿なことをする卑怯者。なのでそれはきっとフェルンに頼んだ方がいい。お母さん扱いするほど、フェルンはあいつに懐いているのだから。決してそれが羨ましいわけではない。きっと私より、フェルンの言うことの方があいつには届くに決まっている。
「そうですね。じゃあフェルンちゃんにも頼んでおきます。私たちの村の嘘つきさんを宜しくってね」
リリーはそう微笑みながら締めくくる。もう心配はないだろうと安堵したかのように。ここにはいない、村の家族たちに思いを馳せながら。
数日後、村の出口で駄々をこねるエルフとそれを引きずっていく少女の姿が村中の噂となったのだった――――
最新話を投稿させていただきました。
今話にてフリーレン側のエピソードはひとまず一区切り。次はアイゼン宅訪問になります。
今章ではフリーレンが日記の内容を現実と擦り合わせ、知らないアウラの過去を知ることが一番のテーマでした。同時にフリーレンの成長とアウラたちに対するスタンスも明らかにできたかと思います。
次話はアウラ側の過去編に再び戻ります。お楽しみに。