第四十六話 「観測」
「本当に二十年前とは比べ物にならないほど発展している。素晴らしいわ」
「……そうですか。気に入って頂けたのなら何よりです」
まるで貴族のように紳士的に振舞いながら、一人の男性が女性をエスコートしている。非の打ちどころのない、絵になるような光景。だがそこには人間はいなかった。その証拠に二人の頭には二本の角がある。人間ではない、魔族の証。その片方、男性の魔族リュグナーは顔色一つ変えないまま女性の魔族の案内を行っている。だがその外見とは裏腹に内心は全く異なっていた。その名の通り、欺くことこそが魔族であると示すかのように。
(私は一体何をさせられているのだ……?)
ただただ今の己の置かれた状況に辟易するしかない。本来なら今頃本部で入念な準備を行っていたはず。三日後に控えたグラナトとの和平交渉。魔族国家フリージアの行く末を決める重要な会談であり、私にとっての晴れ舞台でもある。アウラ様に仕え始めてからの二十年間で任された仕事の中でもこれ以上ない大役。本来なら私一人でも十分なのだが、リーニエを同行させることになってしまったのは思うところはあるが仕方ない。これもあのドラートの能なしのせいだ。せっかく私が神官にまで押し上げてやったというのに下らないことを。恐らく地位は剥奪されてしまうはず。先走ったのだろう。やはり若い奴は血の気が多くて困る。おかげでまたリーニエと組まされることになってしまった。
地位としては私とリーニエは同じ神官であり同格だが実際はそうではない。いくら国家とはいえここは魔族の世界。魔族間では魔力の大きさが、強さがその序列に直結する。その意味で私はリーニエに劣っている。それは認めざるを得ない。だがその振る舞いは別だ。アウラ様の威光を知らしめる神官としては相応しくないと言わざるを得ない。特に今回のような会談の場には不釣り合いだろう。一体何故アウラ様はことあるごとに私とリーニエを組ませるのか。何か深いお考えがあるのだろうが未だに理解できない。
「…………」
「リーニエ、失礼ですよ」
目下その理解できない相方はさらに理解できない有様になっている。無言だった。いつもなら嫌になるぐらいにこちらに絡んでくるのに今日はそれがない。どころか表情が乏しい。魔族なら珍しいことではないが、ことリーニエに限っては異常だ。見るからに不機嫌そのもの。だがその原因は明らかだった。
「いいわ、気にしないで。この子は昔からそうだから。中々私とお話ししてくれないの。どうして嫌われてしまったのかしら?」
その原因となっている女の魔族が手を合わせながらどこか困ったような表情を浮かべている。確かソリテールとか言ったか。この女の監視をすることが今の私の役目。つい先ほどリーニエによって伝えられたアウラ様からの密命だった。何でもこの女はフリージアにとって害になる可能性があるらしい。私とリーニエを同時に監視に付けるなどよっぽどのこと。故に緊張感をもって臨んだのだが結果はこれ。
目の前の女の、どこか観光に来たかのようなのんきな街巡りに付き合わされ、同僚は何故かそれを無言で不機嫌そうに見つめている。今すぐこの場から帰りたいと思えるような有様だった。
「……そんなことどうでもいい。私はあんたを見張るようにアウラ様に言われたからそうしてるだけ」
「っ!? リーニエ……!」
極めつけとばかりにさらっととんでもないことを口走るリーニエに思わず舌打ちしてしまいそうになる。監視している相手の前でそれを暴露するなど一体何を考えているのか。いや、何も考えていないのかもしれない。本当に魔族なのか疑いたくなるような言動。致命的にこの密命には向いていない。どうしてアウラ様はこんなことを。
「そう、残念だわ。貴方とお話しながらフリージアを回りたかったのだけれど。なら代わりに彼にお話し相手になってもらおうかしら?」
「……そんな奴の相手なんてしないでいいよ、リュグナー。どうせ放ってても勝手にしゃべるんだから」
だがそんなリーニエの言動など全く気にしていないかのような振る舞いを女は見せている。こちらもリーニエに負けず劣らずの変わり者だろう。どうやらこの二人は知り合いなのは間違いないらしい。ここまでリーニエが毛嫌いしている存在というのも珍しい。どころか初めて見る。この二人の間に何があったのか。それにわずかに興味は惹かれるものの
「申し訳ありません、ソリテール様。代わって私が案内させていただきます」
「ええ、宜しくね。それと呼び捨てで構わないわ。君の方がこの国では目上なのだから」
「いえ、そういうわけにはいきません。客人であり、大魔族でもあらせられる方を呼び捨てになど」
「そう。君は格式を重んじるのね。素晴らしいわ。アウラが副官にするわけね。でも遠慮なくお話に付き合ってくれると嬉しいわ」
「はい」
私は私の役目を果たすだけ。リーニエのような醜態は晒すわけにはいかない。どうやらこの女も最低限の見る目はあるらしい。もっとも、懐疑的な相手であることは変わらないが。
(リーニエからの報告が正しければこの女は大魔族らしいが……とてもそうは見えん。そもそもソリテールなどという大魔族など聞いたこともない)
『大魔族』
その名の通り、魔族における最高の称号の一つであり、人間はおろか魔族からも恐れられ、畏怖される存在。彼らは莫大な魔力を持ち、例外なく長い年月を生きている。自らの主であるアウラ様もそれにあたる。だからこそ目の前の女がそうであるなど信じられない。どころか魔族であるのかすらも疑ってしまうほど。
(この女の所作……人間そのものだ。これほどの擬態……アウラ様に匹敵する)
それはこの女の所作だった。限りなく人間に近い所作をしている。本当に魔族なのか疑うほどに。その点においてのみアウラ様に匹敵する。アウラ様はまだ理解できる。本人からすれば屈辱でしかないだろうが、人間共に従わされてしまっていたアウラ様ならばそれを身につけていても何らおかしくない。ならこの女はどうなのか。そういえば何やら人間の研究をしていたと先程口走ってもいた。その関係だろうか。
(しかしこの死臭……魔族なのは間違いないか)
しかしそんなことなど些事だと言わんばかりの証拠があった。それは死臭。この女からは隠し切れない死臭が漂っている。ここフリージアでは嗅ぐことがないもの。思わずそれにあてられてしまうほど。
「大丈夫、リュグナー? そいつ臭うからもっと離れた方がいいよ。リンゴ食べる?」
「結構です。それと女性にその物言いはいくら何でもやりすぎですよ、リーニエ?」
「むぅ……」
「ありがとう。でも気にしないでいいわ。アウラにも言われちゃったのよ。辛かったら遠慮せず離れて頂戴」
「お気遣いありがとうございます。ですがご心配なく」
こういう時には本当に察しが良い。そのままリンゴを差し出してくるリーニエ。どうして他の時にそれができないのか。そのリンゴも食人欲求を抑える意味で差し出してきたのだろうが、残念ながら私には意味がない。私の祝福はリンゴではなくワインなのだから。それ自体は後悔していないが、こういう時には手軽に口にできると言う意味でリンゴの方が利点が大きい。
それはそれとしてリーニエに釘を刺す。いくら魔族が性別の差に疎くとも限度はある。流石にやりすぎたと思ったのか、それとも私がこの女の肩を持ったのが面白くないのか。そのまま頬を膨らませて黙り込んでしまう。本当に子供のような魔族だ。いくら若いとはいえ幼すぎる。
「……ところで、ソリテール様は何故魔力を隠匿されているのですか?」
そんな空気を変える意味もかねてそう話題を振る。しかし、それは世間話ではない。明確に意図があっての問い。そう、目の前の女からは魔力がほとんど感じ取れなかった。完全に消えているわけではないが、体外に流れ出ている魔力量は下級の魔物程度、ほぼリーニエと変わらないような微弱な魔力だった。それが私が目の前の女が本当に大魔族なのか疑っている理由であり、同時に嫌悪にも似た感情を抱いてしまっている理由でもあった。
「気に障ったのならごめんなさいね。でも私は昔からとてもとても臆病者で、心配性で怖がりなの。リーニエのように欺こうとしているわけじゃないから安心して」
もしかしたら最初から分かっていたのか。それともこっちを試していたのか。女はそう言い訳をしてくる。どうやらリーニエのように相手を騙すために、魔法を貶めていたわけではなかったらしい。恐らく争いの際に行う一時的な隠匿のようなものなのだろう。魔法使いには似つかわしくないのは確かだがまだ理解はできる。もっとも一体何から存在を隠匿しているのかは謎だが。ここフリージアを警戒しているのか。だとしても理屈に合わないことが多すぎる。それを探るべきか思案するも
「……一緒にしないで」
リーニエの恨み節でそれを逸してしまう。どうやら自分が貶められていることに腹を立てているらしい。あの女も無自覚なのだろう。もしかしたら臭い云々に加えて、こういうところがリーニエがあの女を嫌っている理由なのかもしれない。
「嫌われちゃったわね。そういえばリュグナーはいつからここに? 私がいた頃にはまだいなかったと思うけれど」
「二十年ほど前からでしょうか。恐らく入れ替わりだったのかと。私が馳せ参じた時にはまだここまでの規模ではありませんでした」
「この土地に移ってからだったのね。私がいた頃はまだ中央諸国を転々としていたから。信仰集団ぐらいの規模でしかなかったのよ。これもひとえにアウラの努力の賜物ね。そういえば……ねえリュグナー? 君は何故アウラがこの土地で国を興したのだと思う?」
私と話がしたかったというのは嘘ではなかったのか、女はそう捲し立てるように尋ねてくる。その死臭も合わさって払いのけたい衝動に駆られるが何とか抑え込む。しかしその質問も不可解な物。何故そんな分かり切ったことを聞いてくるのか。
「それはかつて追いやられた人間共に雪辱を果たすためでしょう。それ以外に何かあるのですか?」
そう、それ以外にはあり得ない。この北側の地はかつてアウラ様が勇者一行によって退けられてしまった因縁の場所にあたる。その後、五十年近く勇者たちに隷属させられた無念さ、屈辱は察するに余りある。それを晴らし、人間共に宣戦布告するのにこれ以上の舞台はないだろう。ここフリージアの魔族であれば誰であれ答えは同じ。考えるまでもない下らない問い。
「そうね。良かったわ、リュグナー。君は間違いなく魔族ね。安心したわ」
「……?」
そんな私の答えに何故か女はどこか満足そうに笑みを浮かべている。理解できない。今の答えのどこにそんな要素があったのか。つくづく妙な魔族だ。
「そういえば、ソリテール様はアウラ様と以前から懇意にされているのですか?」
そう今度はこちらから話題を振る。個人的に興味があった事柄なのもあるが一番はリーニエの奇行を誤魔化すため。さっきから静かになったと思っていたのだが、気づけば柵に腰かけ、暇そうに、退屈そうに足をぶらぶらさせている。形式上とはいえ客人の前ではあり得ない失礼な行為。位置的にこの女からは見えていないのが唯一の救いだろう。そもそもこの女を監視するのが命令のはずなのに一体どういうことなのか。職務怠慢にもほどがある。
「そうね。彼女が七崩賢の頃から知ってはいたけど、深く関わるようになったのは勇者が死んでからね。ちょうど南側諸国の戦争をしている人間たちの研究に来ていた時にアウラの噂を耳にしてね」
「噂、ですか?」
「そう。魔族であるアウラが新興宗教を立ち上げているという噂。本当に驚いたわ。でも同じぐらい興味深かったの。そんな魔族なんて歴史上いなかった。よっぽど人間の心理を理解していなければできないことなのよ」
そんなこちらの事情を知らないまま、恐らく当時のことを思い出しているのだろう。どこか夢心地に女は語ってくる。だが少なからず私にも同じ思いはあった。勇者に敗れる前の、断頭台の二つ名で呼ばれていたアウラ様と今のアウラ様には大きな違いがある。それはそのままここフリージアの在り方にも表れている。信仰という魔族には理解できない概念。それを利用して人間を支配するなど。魔族の常識に当てはめれば決してできることではない。
「ソリテール様にもできないのですか……? 確か人類の研究をされていると伺いましたが」
だがもしかしたらそれができるのでは。目の前の魔族にはそう思わせる何かがあった。アウラ様と同じ域の擬態ができるこの魔族ならあるいは。
「真似事ならできるでしょうね。でもそれは一時的でしかない。言葉を人類を欺くだけの鳴き真似としか理解できない私達では到達できない領域ね。だからこそアウラは魔族として歪なの。素敵ね。友達として鼻が高いわ」
「友達……ですか」
「ええ。アウラには断られてしまったけど。同じ研究者としても尊敬しているのよ」
どうやらこの女にも信仰とやらを扱うことはできないらしい。やはりアウラ様が特別なのだろう。それよりも友達、というあまりにも唐突な言葉に思わず反応してしまう。私たちには似つかわしくない概念。しかしそんな言葉が出てくるほどにはこの女はアウラ様と親交があったのだろう。
しかしリーニエはそうではなかったのだろう。いつの間にかばたつかせていた足を止め、こちらを凝視している。いや、この女を、か。友達という言葉に反応したのか、それとも歪という表現が気に障ったのかは分からないが。どちらにせよこっちは気が気ではない。監視に留め、決して手を出さないこと。それがアウラ様の厳命でもある。しかしリーニエはそれを破りかねない。ことアウラ様に関する侮辱に対しては。アウラ様にとって敵か味方か。それがリーニエの判断基準。ある意味誰よりも魔族らしい、単純明快なもの。アウラ様の命令がある以上無茶はしないと思いたい。
「研究者……? アウラ様もソリテール様のように何か研究をなさっているのですか?」
「ええ。彼女は『人類と魔族の共存』というテーマを研究しているの。いえ、実験なのかしら。私はその研究に協力している協力者のようなものなの。アウラに言わせれば共犯者ね」
研究者に共犯者。どちらもアウラ様のイメージにはそぐわない表現に首を傾げるしかない。私が知るアウラ様は為政者であり絶対者だ。少なくとも目の前にいるような胡散臭い魔族とは違う。一体何の話をしているのか。そもそもこの女は私と会話しているのだろうか。リーニエではないが、本当に勝手に一人で喋っているかのよう。
「共存……? 確かに人間共からすればそう見えるかもしれませんが、支配の間違いなのでは? 実際ここフリージアはもちろん、周辺国も徐々に支配下に置きつつあります。私達では思いつかないようなアウラ様の深慮ぶりには敬服するばかりです」
その中でも最も理解できない単語を口にする。共存という、平等と同じようにいかにも人間共が好みそうな言葉。本当に愚かな生き物たちだ。自分たちが欺かれ、支配されていることにも気づけないとは。それも全てはアウラ様の策略によるもの。いつかの言葉を思い出す。力押しなど必要ないと。欺くことこそが魔族の武器なのだと。その意味でアウラ様はまさに魔族を体現しているといって過言ではない。
「なるほど。君たちにはそう映ってるのね。それも含めてアウラの思惑通りなのかしら」
そんな当たり前のことに今更気づいたのか。両手を胸の前で合わせながら女はどこか納得がいったかのように微笑んでいる。人間の研究ばかりしているせいで、魔族の何たるかまで忘れかけてしまっているのかもしれない。
「あれは何かしら? 農場かしら?」
「はい。あれは農業科の施設ですね。魔法を使っての農作業を行っているところです」
閑話休題。そのまま道すがらに歩いていると何かが目についたのか、女はそう尋ねてくる。それは農業科の施設だった。それに隣接して広大な農地が広がっている。ちょうど作業をしているところだったのだろう。人間と魔族が耕作を行っている。ここフリージアでは珍しくもない、日常風景。だが目の前の魔族にとってはそうではなかったらしい。
「魔法を使って農作業を……? もしかして、魔族が民間魔法を使っているのかしら?」
「ご慧眼ですね。その通りです。本来なら魔法をそんな下らないことに使うなどあり得ないのですが、国の方針でして。何でも経済面で隣国を取り込むための一環なのだと」
その着眼点は他の有象無象とは違っていた。なるほど。研究者云々は嘘ではないらしい。一目でそれを見抜くとは。同時に私たち魔族にとってはあまり歓迎すべきではないもの。魔法という生涯を懸けて探求するに足るものを、こんな下らないことに使うなど当初は私も認められなかった。しかし、これはアウラ様の教義にも記されている義務でもある。
労働という人間社会では不可欠とされる概念。それに付随する形で存在する貨幣、経済という仕組み。ここフリージアに入国した魔族たちは祝福と同時にそれを学ばなくてはならない。
魔族であれば欲しいものは奪うか献上させるのが当たり前。物々交換がないわけではないが、弱肉強食が当たり前の魔族の世界であればなおのこと。だが人間たちは違う。要は貨幣、経済は人間にとっては魔力、強さにあたるのだ。それを多く持つ者は強者であり、地位を得ることができる。例え勇者であってもその例外ではない。強さだけではない、もう一つの概念。個ではなく、群体としての人間の在り方。だがそれによって貧富の差が生まれている。それを人間たちは良しとしていないらしい。矛盾している。生き物である以上、弱肉強食の掟からは逃れられない。なのに何故教典や書物の多くでは平等などという概念を重んじているのか。やはり人間の考えることは理解できない。
だが目の前の魔族はそれを瞬時に理解したらしい。いや、元々理解していたのか。人間にあれほど擬態できるのだ。その社会、習性に詳しくてもおかしくない。仮にもアウラ様の友人を自称しているだけのことはあるということか。
「驚いたわ……魔族を労働力として、魔法を道具として捉えているのね。確かにそれを行おうとした人間の国も多くあったけど、全て頓挫したわ。何故だか分かるかしら?」
「いえ……」
「それは人類にとって魔法使いは希少な存在だからなの。人類の魔法使いの集団、大陸魔法教会ができて五十年以上になるけど、魔法使いの数自体は増えてはいない。むしろ減って行っている。魔王様が討伐されてしまった影響ね」
だがその博識ぶりは私の想像を遥かに超える物だった。興奮しているのか。口数が先程までの比ではない。さらに饒舌に、早口になっていく。
「だからそんな貴重な魔法使いを人間たちの国は労働力としては扱えなかったの。当然よね。国の防衛に私達や魔物の駆除、他にやらなくてはならない仕事がたくさんあるのだから」
そんなこちらの困惑など知ったことではないとばかりに、女は語り続ける。こちらがそれを理解しているかなど二の次なのだろう。その内容もさらに専門的になっていく。それに比例してリーニエの態度も悪化していく。とうとうスカートにも関わらず地べたに座り込んでしまっている。あくびを隠すこともない。
「でもここ、フリージアならそれができるの。何故なら魔法使いである
ようやく持論を結論まで持っていくことができたからか。そう女は、ソリテールは話を締めくくる。残念ながら話の半分も理解できなかったが、恐らくはその考えは正しいのだろう。魔法使いでもある
「流石はアウラ様ですね。同じ大魔族の貴方にそこまで言わしめるとは」
我が主であるアウラ様を魔王の器であると認める。その慧眼を持つソリテールもやはり侮れない。その言動には理解できない部分は多いが、見る目は確かなのだろう。その胸にある花に似せた聖杖の首飾りに目を奪われる。この国の住人である証。ソリテールが持つそれはその中でも限られた、国の建国から携わった者しか持つことを許されない特別な聖杖。私も持つことができていない物。リーニエやあの老いぼれの人間の司祭は持っているというのに。やはりそれは目の前のソリテールや私のように魔族として有用な者が身に着けるのが相応しい。
「……ごめんなさい、お喋りに夢中になっちゃうのは悪い癖ね。リーニエも退屈そうにしてるし、そろそろ違うところにも案内してもらおうかしら?」
「やっと終わったの? 本当に話が長いんだから」
「……リーニエ。もう少し態度を改めなさい。申し訳ありません。どこに案内いたしましょうか?」
本音を全く隠さないリーニエを諫めながらソリテールにそう尋ねる。もう少し嘘をついたらどうなのか。嘘をつくのに致命的に向いていないのだろう。嘘をつくのが苦手な魔族とは一体何なのか。
「教典科までお願いしていいかしら? 私も教典の作成には関わっていたの。それがこの二十年でどう変わったか、その実験の結果が知りたいの。本当に楽しみだわ」
「さっさと行くよ、リュグナー。そんな奴置いて行っていいから」
「それでは仕事になっていませんよ、リーニエ」
本当にソリテールが嫌いなのだろう。振り返ることなくリーニエは一人でさっさと先へ行ってしまう。監視の任務を本当に覚えているのか。そもそもそれをバラしてしまっている時点で破綻してしまっているのだがもはや言うまい。
『例外』と『無名』
あまりにも異端な二人の女性、魔族に振り回されるリュグナー。それ故に、彼は気づくことができなかった。
まるで実験動物を観測するように、背中から自分を見つめている