ヒンメルはもういないじゃない   作:HAJI

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第五十一話 「家族」

「起きて下さい、フリーレン様。もう朝ですよ」

 

 

いつものようにそう言いながら体を揺するも起きる気配がない。うーん、と子供がぐずるような声を上げるだけ。私にとってはいつもと変わらない日常。いつからそうなってしまったのか分からないぐらい、これが当たり前になってしまった。そのまま何度も起こそうとするも

 

 

「タマネギ嫌い……」

 

 

そんなよく分からない寝言を口にしながらうなされてしまっている。きっと苦手なタマネギに囲まれてしまっている悪夢でも見ているのだろう。

 

 

「もう……相変わらずだらしがないんですから」

 

 

相変わらずよく分からないお方だ。これで千年以上生きているというのだから驚きだ。エルフという種族はみんなこうなのだろうか。いや、きっとこれはフリーレン様だからに違いない。今朝はあきらめるしかないだろう。

 

それにしても、せっかくアイゼン様の所にお邪魔しているというのに寝坊をするなんて。どこまでもマイペースだ。もっとも、ハイター様の所に来てからもそれは変わらなかったのだから当然と言えば当然なのかもしれないが。

 

 

(この音は……?)

 

 

そんな中、外から音が聞こえてくる。私たちがここにやって来た時にも聞いたもの。そのままずっと聞いていたくなるような、どこか心地良い金属音。それに導かれるように、玄関から外に出てみる。

 

そこには初めて会った時と同じように、鍛冶場で作業をしているアイゼン様の姿があった。

 

その光景に知らず目を奪われてしまう。アイゼン様は慣れた手つきで、手に持っている槌を振り下ろしている。その度に金属音と共に火花が散る。どこか絵になるような光景。ドワーフという種族は手先が器用な方が多いと聞いたことがあるが、アイゼン様もそうなのだろう。知らずそのまま見蕩れてしまうも我に返る。

 

 

「おはようございます、アイゼン様」

「ああ、おはようフェルン。昨日はよく眠れたか?」

「はい。ぐっすり眠れました」

 

 

作業の邪魔にならないようなタイミングを見計らって挨拶すると、アイゼン様もすぐに答えて下さる。もしかしたら私が見ていたのも気づいてらしたのかもしれない。少し緊張してしまっている自分がいる。

 

 

「そうか。フリーレンは寝坊か?」

「はい。お昼までは起きそうにありませんね」

「相変わらずだな」

 

 

何故ならアイゼン様と二人きりで話すのはこれが初めてだったから。元々人付き合いが得意ではないのもあるが、やはりフリーレン様がいない中で話をするのには若干の気まずさを感じてしまう。アイゼン様は勇者一行のお一人であり、ハイター様のご友人でもある。どういう距離感で、態度で接すればいいのか掴めていない。何よりも

 

 

「アイゼン様……その、昨日はすみませんでした。失礼なことを言ってしまって」

 

 

先日、本当に失礼なことを言ってしまったからだ。今思えば私もどうかしていたのだろう。フリーレン様はともかく、アイゼン様がそんな方であるはずがないというのに。きっとこの旅の中で色々なことに影響を受けてしまったのだろう。そう、改めて謝罪するも

 

 

「構わん。あいつがふしだらなのは事実だからな」

「だらしないのは間違いありませんね」

 

 

こちらの意を汲んでくれたのか、いつもと変わらない声色でそんな冗談を口にされている。思わずそれに胸をなでおろす。もしかしたらアイゼン様は顔に似合わず、お茶目な性格もされているのかもしれない。

 

 

「毎日されているんですか?」

「日課……趣味のようなものだ。昔は体を鍛えていたのだがな。お前たち魔法使いが魔法の鍛錬をするのと同じだ」

 

 

少し空気が和んだのを見計らって鍛冶場を、手に持たれている道具を見ながらそう尋ねる。何でもアイゼン様にとってはそれが日課らしい。昔は、ということは今は鍛えていないということなのだろうか。アイゼン様は人類最強の戦士と呼ばれるほどの方。きっと屈強な肉体を持っているはず。やはりお年を召しているからなのだろうか。確かドワーフの寿命は三百年ほどだとフリーレン様も言っていた。魔王を倒したのが八十年前だとしたら高齢だとしてもおかしくない。フリーレン様に聞いたがはぐらかされてしまった。間違いない。フリーレン様もちゃんと覚えていなかったのだろう。

 

 

「何を作られているのですか?」

「剣だ」

 

 

そう言いながらアイゼン様は一本の剣を見せて下さる。まだ完成はしていないのだろうが、それでもその出来が優れているのは素人の私でも分かる。やはり戦士という方は自分でも武器の手入れをするのだろうか。

 

 

「確か、アイゼン様は斧を使われていたのでは……?」

 

 

そんな中ふと気づく。確かアイゼン様は斧を使われていたはず。なのに何故。もしかしたら斧だけでなく、剣も使っていたのだろうか。だがそれは

 

 

「これはリーニエに渡すための物だ。もうすぐあいつの誕生日だからな」

「リーニエ様の?」

 

 

アイゼン様の物ではなく、リーニエ様のための物だったらしい。その答えに思わず聞き返してしまう。まさかここでもその名前が出てくるとは思っていなかった。でもそうだった。リーニエ様からも聞いたことがあった。アイゼン様と親交があるのだと。

 

 

「リーニエ様はよくここに来られるのですか?」

「半年に一回ぐらいだな。特に誕生日が近くなると必ず来ている。プレゼント目当てだな」

「リーニエ様らしいですね」

 

 

思わずそう笑みがこぼれてしまう。本当にフリーレン様とは違う意味で子供のような方だ。きっとこの剣を贈られれば、目を輝かせて喜ぶに違いない。

 

 

「ハイターから聞いたぞ。リーニエに振り回されて大変だったようだな」

「いえ、本当に良くして頂きました。たくさん遊んでもらいました」

「そうか。なら良かった」

 

 

どうやらその気持ちはアイゼン様も同じなのだろう。ハイター様からも手紙でそのことを聞かされていたようだ。会ってもいない内から自分のことを知られてしまっているのは何だがちょっと恥ずかしい気もする。当時の私も恥ずかしさからリーニエ様には遠慮してしまってもいた。それでもあの時の思い出は私にとってはかけがえのないもの。

 

 

「アイゼン様は……リーニエ様とどんな関係なのですか?」

 

 

改めてそう尋ねてみる。ヒンメル様はリーニエ様とは師弟関係だったということだったが、アイゼン様とはどういう関係だったのか。その辺りのことはあまりフリーレン様は教えて下さらない。もしかしたら知らないだけなのかもしれないが。

 

 

「俺にも分からん。恐らくリーニエもそうだろう。だがそうだな……フリーレンにも言われたが、娘のようなものかもしれんな」

 

 

少し考えるような仕草をされた後、ぶっきらぼうにアイゼン様はそう口にされる。でもそれが恥ずかしさからくる照れ隠しなのは私にも分かる。きっとそれは真実なのだろう。

 

 

「それはとても良いことでございますね」

「あいつがどう思っているかは分からんがな」

「きっとリーニエ様もアイゼン様をお父さんのように思われているはずです。頼りになる人だと仰っていましたから」

 

 

なのでそう私なりにリーニエ様のことを伝える。魔族には家族という概念がない。それは私も書物やフリーレン様から学び知っている。でもきっとそれに近い何かが二人の間にはあるはずなのだと。頼りになる人だとリーニエ様も仰っていたのだから。

 

 

「お父さん、か……そういえば最初はそうだったな」

 

 

私の言葉が何か気になったのか、アイゼン様はそのまま何かを思い出しているかのように目を閉じられてしまう。お父さん、か。言った後に気づいたが、アイゼン様は何だがお父さんみたいだ。もしかしたら私が緊張していたのはそのせいもあったのかもしれない。アウラ様の時もそうだった。

 

 

「やはりフェルン、お前はハイターが言っていた通りの優しい子だ。あいつはお前を娘同然に可愛がっていたからな」

「ハイター様が……?」

「手紙だけでも分かるぐらいの溺愛っぷりだ。お前が魔法使いとして一人前になったことを誇りに思っていたはずだ」

 

 

まるで私に言い聞かせてくれるように、穏やかな声でアイゼン様はそう伝えて下さる。きっとそれは本当なのだろう。だとしたらこれ以上に嬉しいことはない。口には出したことはないけれど、私にとってはハイター様はもう一人の父だったのだから。

 

 

「その……アイゼン様にお聞きしたいことがあるのですが」

「? 何だ?」

 

 

それからしばらく他愛のない会話をした後、意を決してそう切り出す。それは以前からアイゼン様に会うことがあれば聞かなくてはいけないと思っていたことだった。それは

 

 

「ヒンメル様のことです。アウラ様とずっと一緒に暮らしていたと聞いたのですが……その、ヒンメル様はフリーレン様と」

 

 

ヒンメル様のことだった。端的に言えばそのふしだら疑惑のこと。朝帰り云々もそれに影響されてしまったことは否めない。フリーレン様にこの話題を振るのは酷すぎる。そもそも聞いても答えてくれないに違いない。これ以上魔力の揺らぎに巻き込まれるのは御免だった。

 

 

「なるほど。ヒンメルがふしだらな奴だと思ったわけか」

「……はい。失礼だとは分かっているのですが」

 

 

事情をすぐに悟ってくれたのか、アイゼン様はそう答えて下さる。本当に尊敬できるお方だ。こんな勝手な質問にも嫌な顔一つせず付き合ってくれる。フリーレン様と一緒に十年旅した方なのだから当然なのかもしれない。しかし

 

 

「いや、それは間違いじゃないぞ。あいつはふしだらな奴だ」

「え?」

 

 

アイゼン様はさも当然のように、そんな私の言葉を肯定してしまった。思わず私も固まってしまう。きっとそれを否定して下さるとばかり思っていたのに。

 

 

「いつもこれと決めたら突っ走る奴だったからな。アウラやリーニエのこともそうだ。自分が周りからどう見られているか分かっていただろうに。勇者が魔族に篭絡されていると噂が俺のところまで流れて来たぐらいだ」

 

 

そんな私の心境を知ってか知らずか、アイゼン様は色々な話を聞かせて下さる。主にヒンメル様がふしだらだと言われる理由を。私でも幻滅してしまいかねない奇行の数々。女性の敵だと言われて仕方ないような内容。やっぱりヒンメル様はふしだらだったのか。

 

 

「旅でもそうだった。寄り道ばかりしていてな。勝手に依頼を受けてくることなんて日常茶飯事だった。特にダンジョンが酷かった。その階を全て踏破するまで進もうとしなかった」

 

 

でもそれだけでは終わらなかった。さらにふしだら……ではなく、だらしない話が続いていく。旅路の中でのヒンメル様の下らないエピソード。私もフリーレン様から聞いたことのある内容もたくさん含まれている。もしかしたらフリーレン様もそれに影響されてしまっているのかもしれない。

 

 

「銅像を作る時もそうだったな。何度も作り直させて、フリーレンも呆れかえっていた。イケメンポーズ集を覚えさせられていたな」

 

 

その極めつけとも言えるのが銅像だった。ここに来るまでにそれを幾つも目にしてきた。その度にその時どれだけ苦労したかをフリーレン様に聞かされてきた。あの時間感覚がおかしいフリーレン様に長いと言わせるなんて偉業と言えるかもしれない。

 

でも知らず、そんな昔話に聞き入ってしまう。いや、それを話してくれるアイゼン様に目を奪われる。一見すると不愛想で長い髭もあって表情が分かりにくいのに、楽しそうにしているのがはっきりと分かる。その仕草が、瞳が、声が。

 

 

「だがそれだけじゃなかった。あいつは旅先で出会った人たちの心に寄り添っていた。その生き方を変えていった。当たり前のように。俺たちもそうだ。本当に下らなくて、楽しい旅だった」

 

 

十年の旅路が、アイゼン様にとってどれだけ大切な物であったのか。それを物語っていた。

 

 

「そんなヒンメルのことが俺たちは好きだった。今でも誇りに思っている」

 

 

それはきっと、アイゼン様だけでなく、ヒンメル様と関わった人たち全ての気持ちなのだろう。ヒンメル様が勇者である、何よりも証。

 

 

「……だからこそ思った。何故俺の方が生き残ったのかと。あいつの方が長寿だったらと。俺よりあいつが長生きしてくれればきっと多くの人を救えたはずだ」

 

 

だからなのだろう。アイゼン様は目を閉じながらそう告白される。私ではなく、自分自身に言い聞かせるように。それに知らず私は目を見開く。そうだ、私はそれを知っている。聞かされたことがある。

 

 

(これは……もしかして、ハイター様と同じ……?)

 

 

思い出すのはかつてのハイター様との出会い。戦争によって全てを失い、失意の中、身を投げようとした私を救ってくださったハイター様の言葉。

 

今死ぬのは勿体ない、とあの方は仰った。そこで聞かされたヒンメル様の話。ひたすらに真っすぐで、困っている人を決して見捨てないような人間だったのだと。

 

だからこそハイター様は後悔していた。自分ではなくヒンメル様が生き残っていれば、多くのものを救えたはずだと。

 

それでもハイター様は思い至った。自分がそのまま死んだら、ヒンメル様から学んだ勇気や意志、友情や大切な思い出までこの世から無くなってしまうのではないかと。

 

だから大切な思い出があるのなら、それを胸に生きなさいとあの方は私に示してくださった。救ってくださった。だからこそ今の私がいる。

 

 

「だから俺も弟子を取ることにしたんだ。ヒンメルならそうしただろうからな。ハイターもきっとそうだ」

 

 

アイゼン様も、きっとそうだったのだろう。だからハイター様と同じように誰かを救われた。シュタルク様、という弟子を。昨日聞かされた、私と同い年ぐらいの男の子。きっとその男の子も、私と同じなのだろう。

 

 

「そうですね。なら、私はヒンメル様に救ってもらったことになりますね」

「……そうかもしれんな」

 

 

そういう意味では私はもうヒンメル様に救ってもらったのかもしれない。私だけではない。ヒンメル様によって、人生を変えてもらえた人々が、また誰かの人生を良い方向に変えていく。それがきっとヒンメル様が本当の勇者である所以なのだろう。

 

 

「だがあいつを神聖視することはない。あいつは勇者だが、子供っぽくて下らないことばかりしているような奴だった。アウラからも怒られてばかりだったからな」

「そうですか。何だか目に浮かびます」

 

 

そんな私に釘を刺すのを忘れないのがアイゼン様らしい。そう、勇者様も人間なのだ。良いところも、悪いところもある。だからこそ魅力的なのだろう。スカート捲りについてはどうしても理解できないが仕方ない。きっとアウラ様が代わりに怒って下さっていたはず。

 

 

「気になるのならフリーレンからあいつの日記を借りて読んでみるといい。その方が分かりやすいはずだ」

「ヒンメル様の日記……ですか?」

 

 

そんな中、唐突に聞かされるヒンメル様の日記なる存在。一体何の話なのか。

 

 

「知らないのか」

「はい。フリーレン様からは何も……」

 

 

何でもヒンメル様は五十年間日記をつけていたらしい。そしてそれをフリーレン様は所持されているのだと。だがそれで色々なことに合点がいった。初めて会ったばかりの頃はリーニエ様どころか、アウラ様のことも何も知らなかったのに、いつの間にか私よりも詳しくなっていた。てっきりハイター様に聞いたのだとばかり思っていたのだがそういうことだったのか。

 

 

「あいつのことだ。きっと自分の恥ずかしいところを見せたくなくて黙っていたんだろう」

 

 

アイゼン様の考えはそのままズバリなのだろう。あのいつもの変顔で何でもないよと嘘をつくフリーレン様の顔が目に浮かぶ。というか今までも何度かそれであの顔をしていたのだろう。本当に嘘をつくのが致命的に向いていないお方だ。でも、きっとそれだけではないのだろう。

 

 

「ですが、私が読むのはやっぱりまずいのでは? 日記、なんですよね? それを読む資格があるのはフリーレン様か、アウラ様ぐらいなのでは……?」

 

 

思い出すのは幼い頃。夜一人で書斎で本を読んで涙を流しているフリーレン様を一度だけ見たことがある。それがきっと見てはいけないものだったのだと、子供心ながら私も理解していた。きっとその理由が、ヒンメル様の日記だったのだろう。そんな日記を私が読んでいいのか。それが許されるのはきっとあのお二人だけだろう。

 

 

「かもしれん。ハイターならきっとそう言うだろうな。だが俺の考えは違う。お前はあの日記を読むべきだ、フェルン。ヒンメルのことを知るためではなく、フリーレンのためにな」

「フリーレン様のため、ですか?」

 

 

しかしそれを分かった上で、アイゼン様はそう勧めてくる。ヒンメル様のことを知るためだけではなく、フリーレン様のためにそれを読んで欲しいと。一体どうして。

 

 

「そうだ。あの日記はフリーレンの過ちの記録でもある。お前にはそれを知っていてほしい。これから誰よりも長くあいつと一緒に生きるお前には。あいつがまた同じ間違いをしないように」

 

 

その理由を、アイゼン様はどこか憂いを帯びながら明かしてくださる。過ちの記録。そう、私もおおよそは理解している。フリーレン様がどんな過ちを犯したのか。それを償うために、フリーレン様は旅を続けている。だからこそ、アイゼン様は私にそれを知ってほしいのだ。それは自分がいなくなった後のことを気にされているからこそ。私が、フリーレン様と一番長く一緒に生きる人間になるのだと確信しているのだろう。そんな私にその想いを託してくださろうとしている。

 

 

「それにヒンメルの話ができる相手がいるのはきっとあいつにとっても必要なことだ。知っている、覚えてくれている者がいてくれることがな。そのためにヒンメルは銅像をあちこちに建てたんだ。あいつがひとりぼっちにならないように」

 

 

そしてそれはヒンメル様も一緒だったのだろう。あの銅像に、そんな意味が込められていたなんて。私もフリーレン様のことは言えないかもしれない。なら、一緒に学んでいかなくてはいけない。私たちは師弟なのだから。

 

 

「そうだったのですね。やっぱりヒンメル様は勇者です。でも心配いりません。しばらくは私がいますから。その想いは私が引き継ぎます。この先も、きっと」

 

 

なので、ヒンメル様とアイゼン様、そしてハイター様の想いは私が引き継がせてもらうことにする。託されるのには重すぎるものだが、決して落とさないように。もし落としそうになったら他の誰かと一緒に。持てなくなったら、今度は新しい誰かに。悠久の時を生きるあの方に、置いて行かれないように。

 

 

「でもフリーレン様はきっと日記を見せてくれないと思うのですが」

「問題ない。俺の読む権利をお前に渡すことにする。あいつは断れん」

「流石ですね、アイゼン様。でもアイゼン様は日記を読まなくてもいいのですか?」

「構わん。俺はこの目でそれを見てきたからな。今更読む必要もない」

 

 

どこか得意げにそう宣言するアイゼン様に思わず笑ってしまう。そういえば最初に感じていた気まずさなんてどこかに行ってしまった。やっぱり勇者様一行は凄い方たちばかりなのだろう。だというのに

 

 

「フェルン、どこー?」

 

 

そんな余韻を台無しにする我が師の声が響き渡ってくる。本当にあの方は変わらない。いや、変わっている最中なのだろう。寝坊に関しては千年経っても変わらないかもしれないが。

 

 

「お目覚めだな。のんきな奴だ」

「そうですね。はいはい、ここですよフリーレン様」

 

 

やれやれと呆れ気味なアイゼン様にお辞儀をした後にフリーレン様の元へと向かう。ただその足取りはいつもよりも何故か軽い気がした――――

 

 


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