ヒンメルはもういないじゃない   作:HAJI

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第五十二話 「赤面」

「どうしてこんなことになってるの……?」

 

 

挙動不審になりながら、まるで裁判にかけられる被告のようにフリーレン様は椅子に座ったまま。私もテーブルを間に挟みながらそれに向かい合う。確かにそう見えるかもしれないがそこまで怯えなくてもいいだろうに。フリーレン様は私を何だと思っているのか。流石にちょっと失礼だ。

 

 

「フリーレン様がだらしないからです」

「だ、そうだ。何か心当たりはあるか?」

「ありすぎて分かんない」

「そうか」

「……フリーレン様?」

 

 

そんな私たちを見かねたのか、フリーレン様の隣に座っていたアイゼン様が話を振って下さるも意気消沈したままのフリーレン様。本当なら私達だけで話し合うつもりだったのに、フリーレン様が強引にアイゼン様を巻き込んでしまった。というか縋りついて離さなかった。せめて私の側に座っていただこうとしたのに自分の隣に座らせてしまう。きっとアイゼン様がいれば私が手心を加えてくれると思っているのだろう。

 

 

(本当に困ったお方ですね……)

 

 

内心溜息を吐きながらこれまでのことを思い返す。私たちがここ、アイゼン様のところを訪れて一月が経とうとしている。つい先日まで私たちは大魔法使いであり、フリーレン様の師匠でもあるフランメ様の手記を探していた。広大な森の中から探し出すのは大変だったか、三人でできるだけ効率よく動いたおかげもあったのか何とか見つけ出すことができた。その内容も本当に御伽噺のようなものだった。

 

魂の眠る地(オレオール)

 

大陸の遥か北の果て。人々が天国と呼ぶ場所。そこでは死者との対話ができるとされている。私たちはそこへ向かうこととなった。それは構わない。元々当てもない旅だったのもある。フリーレン様にとってヒンメル様と再会することは何よりも価値があることのはず。私ももう一度ハイター様にお会いしたいと思っていた。でもそれとは関係なく、私は一度フリーレン様と話し合うことが必要だった。だというのに

 

 

「俺は席を外そう」

「え? ダメだよ、アイゼン。隣にいてよ」

「俺もフェルンには怒られたくない」

「お二人とも……真剣に聞いてください」

「ほら、怒られてしまったぞ」

「私じゃなくてアイゼンだよ」

 

 

当の本人はこの有様だった。きっと私に叱られると思っているのだろう。落ち着きなくアイゼン様に縋り、アイゼン様もアイゼン様でそれをどこか楽しんでおられるかのよう。やはりお二人は仲間なのだろう。変なところで息が合っている。しかしいつまでもそれに付き合っていると日が暮れてしまう。

 

 

「話したいのはこれからのことです。これまでは行き当たりばったりでしたが、そういうわけにはいきません」

 

 

なので単刀直入に切り込む。フリーレン様を相手にする時にはこのぐらいでなければいけない。それはこれからの旅のこと。これまでは行き当たりばったりで何とかなっていたがこれからはそうもいかなくなる。それを話し合うための場だった。

 

 

「エンデに向かうんでしょ。だったら大丈夫。道のりは覚えてるから」

 

 

そんな私の意図が分かっているのかいないのか。どこか得意げにそう胸を張るフリーレン様。エンデ。それはオレオールがある場所であり、今は魔王城が残されている地でもある。その道のりを覚えて下さっているのは助かるが、私が今心配しているのはそこではない。

 

 

「その前に行く場所のことです」

「分かってるよ。シュタルクがいる村に寄ればいいんでしょ?」

 

 

なのにフリーレン様は今度はそう口にしてくる。それは間違いではない。ここを発てば次に向かうのはアイゼン様の弟子であるシュタルク様が滞在している村になる。アイゼン様から頼まれたことでもある。だが確信する。やはりフリーレン様があえてそれを避けていることを。

 

 

「私が話し合いたいのはその次の場所のことです」

 

 

もう言い逃れはできないようにそう問いかける。本人もそれは分かっていたのか、明らかに表情が固まっている。それを黙って横目で見つめているアイゼン様。きっと私と同じ心境なのだろう。それを感じ取ったのか。

 

 

「…………フリージアのこと?」

「アウラ様のことです」

 

 

ようやくその名をフリーレン様は口にするも、あえて私はその先を言い当てる。瞬間、さらにフリーレン様の顔が曇ってしまう。まるで嫌いなタマネギを前にしたかのような有様。失礼極まりない。

 

 

「そもそもどうしてフリーレン様はアウラ様に会いに行かれるんですか? 私、ちゃんと聞かせてもらったことがありません」

 

 

あえてそれには触れず、淡々と尋ねることにする。それはこの旅が始まって以来、ずっと聞きたかったことだった。今まではフリーレン様にも触れられたくない事情があるのだと思い、避けてきたのだがそうもいっていられない。遠からず私たちはフリージアに辿り着くことになるのだから。

 

 

「それは、フェルンがあいつに会いたいって言うから……」

「フリーレン様」

「……白状しろ、フリーレン。言い逃れはできんぞ」

 

 

事ここに至ってそんな言い訳をするフリーレン様に呆れるしかない。しかも私のせいにするなんて往生際が悪すぎる。アイゼン様の言う通り、もう言い逃れはできない。私はアウラ様のように魔法で嘘を見抜くことはできないが、フリーレン様が嘘をついているかは分かる。

 

 

「……ハイターに頼まれたんだよ。ヒンメルの日記を渡してほしいって」

 

 

ついに観念したのか、ようやくフリーレン様は自白する。やはりそうだったのか。ハイター様が頼みそうなことでもある。そもそもそれは私に隠すようなことでもない。なのにここまで頑なに教えようとしなかったのは

 

 

「そうですか。ならそう言ってくださればいいのに」

「日記のこと、話したくなかったんだよ……」

「でしょうね。私も同じ立場ならそうするかもしれません」

 

 

ひとえにこのヒンメル様の日記のせいなのだろう。そのまま机の上にあるヒンメル様の日記に目を向ける。それを私はこの一月で読み終えた。もちろんフリーレン様はそれを渋ったのだが、流石はアイゼン様。お見通しとばかりの手際でそれを認めさせてしまった。だが私にとっても誤算だったことがあった。

 

それはフリーレン様が今、日記を一冊しか持っていなかったこと。

 

本当は五十年分、何十冊もあるはずなのだがあろうことかフリーレン様はそのほとんどを置いてきてしまったのだ。その理由も

 

『だって重かったから……』

 

という嘘丸分かりの理由で。もちろん日記が重かったのは事実だろう。旅の中でやたら鞄が重そうだなと思ったことは一度や二度ではない。しかしそれが本当の理由でないのは明らかだった。何故ならそれを置いてきたのはアウラ様とヒンメル様が暮らしていた家の書斎だったのだから。本当に不器用な方だ。この方なりに成長している証かもしれない。

 

そんなこんなで私は日記を一冊しか読むことができなかった。でもそれは逆に良かったかもしれない。何故ならこの一冊でも十分すぎるほどにアウラ様とヒンメル様のことを知ることができたのだから。時期で言えばお二人が主従になってから、リーニエ様と一緒に暮らし始める頃まで。それで十分だった。そこにはフリーレン様を待ち続けるヒンメル様の想いが綴られていたのだから。同時にアイゼン様が仰っていた過ちの意味も。

 

 

「ヒンメル様がふしだらだなんて思っていた自分が恥ずかしいです。本当にふしだらなのはフリーレン様の方です」

「ふしだらって言わないでよぉ……せめてだらしないって言って……」

「罪な女だ……」

 

 

なので私なりにその感想をフリーレン様に伝えることにする。どうやら日記を読まれてしまったことよりもふしだら扱いの方が堪えているらしい。ヒンメル様の気持ちを考えればこんな物では済まないだろうが、私ができるのはこのぐらいだろう。アイゼン様も気持ちは同じらしい。唯一の味方を失ったフリーレン様はうなだれたまま。このまま放っておけば森に引き籠もってしまいかねない。

 

 

「それはともかく、フリーレン様はどうやってその日記をアウラ様に渡すつもりなんですか?」

 

 

なので話題を少し変えることにする。具体的な、これからフリージアを訪れる上での問題点。それをどうするか相談するためにこの場を設けたのだから。だというのに

 

 

「? どうって……普通に渡すだけだけど……?」

 

 

当の本人は目をぱちくりさせながら首を傾げているだけ。呆れるしかない。本当にこの方は人の心が分からないのだろう。いや、この場合は魔族の心なのか。

 

 

「本気なんですか、フリーレン様……?」

「重症だな」

「二人して私を何だと思ってるの?」

「薄情者だな」

「人でなしですね」

「ひどいよ」

 

 

アイゼン様と一緒にそれを遠回しに伝えるもやはりフリーレン様には届かないらしい。少し成長したかと思ったらこれである。アイゼン様が私にフリーレン様の過ちを知ってほしいと言った理由が分かった気がする。まだまだこのお方は歩き出したばかりの子供のようなものなのだろう。

 

 

「フリーレン様……アウラ様とお会いして、それだけで済むと思ってるんですか?」

「少なくとも、私から手を出す気はないよ。リリーとも約束したしね」

「リリー様と……? いつの間にそんな約束を……そういう大事なことはちゃんと教えてください」

「ふふん……言葉にしないからこそ伝わることもあるんだよ、フェルン?」

「全然意味が違うぞ、フリーレン。それに手を出さなくとも、口は出すつもりだろう?」

「……ソンナコトナイヨ」

「……だろうな。お前たちが穏やかに話し合いができるような関係なら、俺もハイターも悩むことはなかった」

 

 

いつもの変顔を披露しているフリーレン様にアイゼン様も呆れかえってしまっている。それもそうだろう。知らない間にそんな約束をリリー様としていたのもそうだが、その内容も自分は手は出さないなんて曖昧なもの。アイゼン様の指摘も図星だったのだろう。

 

 

(アウラ様もきっと、フリーレン様と同じような気持ちなのでしょうね……)

 

 

今この場にはいない、アウラ様に思いを馳せる。ヒンメル様の日記を読むことで、私もまたアウラ様のことを知ることができた。ヒンメル様の主観ではあったが、それでもアウラ様がヒンメル様と出会うことでどんな風に変わっていったか。そして何を思っていたかを知った。だからこそ、私に下さった花畑の魔法の魔導書の意味も。この魔法はヒンメル様が一番好きな魔法だった。その魔導書だけを持ち歩いていたアウラ様の気持ち。それを譲ってくれた理由。

 

そして日記には記されていない、お二人のヒンメル様との別れ。アイゼン様から私はそれを聞かされている。その最期を看取ったフリーレン様と、看取れなかったアウラ様。色々な意味で鏡合わせのように対照的なお二人。同じなのは共にヒンメル様に惹かれた女性であるということ。そのお二人が出会えばどうなるのか。アイゼン様とハイター様が危惧していた理由がようやく分かった形。

 

 

「そもそもフリーレン様はどうやってアウラ様に会うつもりなんですか?」

「どうって……何か問題があるの?」

「大ありです! フリージアは魔族の国なんですよ? フリーレン様が普通に入国できるわけないじゃないですか」

「あ」

「自分の二つ名も忘れていたのか、お前は?」

 

 

それを一旦棚上げしながらそもそもの問題に切り替える。そう、アウラ様がいるのは魔族が中心となった魔族国家フリージア。私たち人間がそのまますんなり入国できるかどうかも怪しいのに、フリーレン様がそれができるわけがない。むしろ追い払われるか、狙われてもおかしくない。

 

『葬送』

 

それが魔族によってつけられたフリーレン様の二つ名。

 

歴史上もっとも多くの魔族を葬り去った魔法使い。魔族からは恐れられ、畏怖されている称号。フリーレン様は魔族からすれば、人間にとっての魔族のような存在とも言えるだろう。

 

それが真正面から入国してくるなんて何の冗談なのか。というかこの方は本当にそのつもりだったのか。呆れを通り越して尊敬してしまうほど。

 

 

「自分でつけたわけじゃないよ。それに人間の国に入る時には何の問題もなかったし……そもそも私のこと知ってる人も少なくなってるしね」

「そうですよね。おばあちゃんですもんね」

「いくらフェルンでも今度言ったら怒るからね?」

 

 

魔王が討伐されてからもう八十年。フリーレン様が勇者一行の魔法使いだと気づかれることも少なくなっている。現にこの旅の中でもそれは数えるほどしかない。だが魔族にとってはそうではないかもしれない。あとおばあちゃんは少し言い過ぎたかもしれない。老魔法使いぐらいにしておくべきだったか。それはともかく

 

 

「でも困りました……一体どうしたら」

「使い魔で本を送っちゃおうか。会えないのは残念だけど仕方な「駄目です」

「冗談だって」

 

 

手詰まりとなってしまった現状に頭を抱えるしかない。だというのに何故か嬉しそうにそんなことを言い始めるフリーレン様。本当に分かり易すぎる。絶対に冗談じゃなかった。こういうところはきっと昔からなのだろう。

 

 

「……フリージアにはシュトロという司祭がいる。アウラとも旧知の人間だ。あいつに取り次いでもらうといい。リリーから言伝を預かっている、と言えば会うことができるはずだ」

 

 

それを見かねたのか。それまで静かに私たちを見守って下さっていたアイゼン様がそう提案して下さる。それはまさに起死回生の一手だった。そう、確かフリージアにはリリー様の夫であるシュトロ様がいたはず。きっとこちらの事情も察してもらえるはず。まさに渡りに船のようなもの。

 

 

「流石はアイゼン様ですね」

「……そうだね」

 

 

それに感謝するも、どこか残念そうにしているフリーレン様。あてが外れてしまったのだろう。本当に困ったお方だ。

 

 

「とにかくフリーレン様……アウラ様と二人きりで会わないように気をつけてください。くれぐれも先走って余計なことをしないように」

「……うん」

「なるほど、お母さんだな」

 

 

なので目下の問題はそこだけ。お二人だけで会うことがないようにすることが一番だろう。出会っていきなり殺し合いをするようなことにはならないだろうが、万が一もある。大魔法使いと大魔族のお二人が本気で戦い始めたら止めることなどできるはずがない。余計なことはしないように釘を刺しておかなくては。どこか楽しそうなアイゼン様の言葉で、とりあえず三者面談はお開きとなったのだった――――

 

 

 

「じゃあ行ってくるね、アイゼン」

「ああ、気をつけてな」

 

 

まるで散歩に行ってくるような気軽さで別れの挨拶を交わしているお二人。もしかしたら長命種のお二人にとってはそんなものなのかもしれない。本当ならもう少し滞在してもよかったのだが、あまり長居すると迷惑なのとフリーレン様の気が変わってしまう恐れもある。昨日の話し合いが良いタイミングだったと言えるだろう。

 

 

「本当にアイゼン様は一緒に来られないのですか?」

「もう一緒に旅ができるような歳じゃないからな。足手纏いになる。ヒンメルたちに宜しく伝えてくれ」

 

 

そうアイゼン様は私たちを送り出してくださる。アイゼン様が一緒に来てくだされば心強いのだが、やはり無理なお願いだったらしい。見た目には分からないが、やはりご高齢なのだろう。

 

もっとも探索の際には大きな岩を軽々持ち上げたり、湖の上を走っていたような気がするがあれはアイゼン様としてはできて当たり前のことなのだろうか。もしかしたら私たちとアイゼン様では足手纏いの基準が違うのかもしれない。残念だが仕方がない。これ以上アイゼン様に甘えるわけにはいかない。

 

 

「そうですよ、フリーレン様? ちゃんとヒンメル様を喜ばせてあげてください」

 

 

なのでそういう意味でもフリーレン様にそう告げる。フリージアもだが、オレオールへ向かうのがこの旅の一番の目標。ヒンメル様の想いに報いること。きっとそれがフリーレン様にとって最も大切なことのはず。だというのに

 

 

「大丈夫だよ、ちゃんと投げキッスをするつもりだから」

「えっち」

「え? じゃあスカートを捲らせてあげ」

「ふしだらです」

「私はどうしたらいいの……?」

「素直に指輪を見せておけ」

 

 

えっちだった、とんでもなくえっちだった。投げキッスだけでもそうなのに、スカートを捲らせるだなんて。ヒンメル様は喜ばれるかもしれないが、そんなことのために北の最果てにまで行くなんて恥ずかしすぎる。やはりフリーレン様だけではなく、ヒンメル様もふしだらなのだろう。ヒンメル様の日記にあてられて頭がお花畑になってしまっているのかもしれない。そうなってもおかしくないほどの想いが込められていた。もしかしたらそれが分かっていたからこそアイゼン様もハイター様も日記を読まなかったのかもしれない。ようするに読むのが恥ずかしかったのだろう。

 

 

「……ついでだがシュタルクにも宜しく伝えてくれ。俺に似て臆病な奴だが、盾ぐらいにはなれるはずだ」

 

 

アイゼン様は少し間をおいてそう私たちに託される。フリージアへの道中にある村、そこにいるシュタルク様のこと。きっと彼のことが気にかかっているのだろう。弟子を想う師匠、いや息子を心配する父親なのかもしれない。それを聞きながら

 

 

「アイゼン、言葉は自分で伝えないといけないんだよ?」

「……まさかお前に教えられるとはな。なら俺は土産話を楽しみに待つとしよう」

 

 

いつものような得意顔で、らしからぬことをフリーレン様は口にする。まるで覚えたての言葉を披露する子供のように。それを前にして同じようにどこか楽し気に答えるアイゼン様。きっとこういうのを、気心の知れた関係というのだろう。

 

そのままフリーレン様は手を振りながら、私は頭を下げながら旅立つ。それをアイゼン様は私たちが見えなくなるまで見送って下さったのだった――――

 

 

 

「本当に素敵な方でしたね。あんな方が仲間だなんて、ちょっと羨ましいです」

 

 

もう見えなくなってしまったアイゼン様を思い出しながら、そう呟いてしまう。気兼ねなく、久しぶりに会っても変わらない関係。それをきっと仲間と言うのだろう。私にはそういう相手がいないのもあって、少し羨ましくなってしまう。これから先、私にそういう仲間ができるのだろうか。

 

 

「何言ってるの? フェルンも私の仲間だよ」

 

 

そんな私の心を読んだかのように、当たり前のようにフリーレン様はそう仰って下さる。本当にこの方らしい。きっと、それがこの方の魅力なのだろう。ヒンメル様も、アイゼン様たちもそんなフリーレン様に惹かれたに違いない。私もそれは同じだ。でも

 

 

「それは……」

「? 違うの……?」

 

 

これに関しては少し違うかもしれない。私を仲間だと思ってくれている、それは本当に嬉しいこと。でもそれだけではない。私にとってのフリーレン様。それが何なのか。いつもなら恥ずかしくて言うことができないもの。きっとこれからの旅でも言うことができないに違いない。

 

でも今は違う。ヒンメル様の日記を読んで、私はそれを知り学んだ。さっきフリーレン様自身が言っていたこと。言葉にしなければ伝わらない。それはきっと、私にも当てはまること。だから

 

 

「フリーレン様は……私にとって、もう一人のお母さんですから」

 

 

勇気を出して、絞り出すようにそれを伝える。出会ってからずっと、人生の半分以上を一緒に生きてきたのに一度も伝えたことのない私の想い。

 

 

「…………え?」

 

 

それが聞こえたのか、フリーレン様は今まで見たことのないような顔をしたまま鞄を落とし、そのままその場に固まってしまう。思わずこっちが驚いてしまうほど。そのまま視線が合う。お互い無言のまま。それがいつまで続いたのか。

 

 

「……ごめん、フェルン。よく聞こえなかったからもう一度言ってくれる?」

「…………」

 

 

満面の笑みを浮かべながらフリーレン様は私に迫ってくる。本当にこのお方は嘘つきだ。聞こえていた癖にそんなこと。やはり早まってしまったかもしれない。本当に人の心が分からないんだから。

 

 

「ねえ、フェルンってば」

「知りません」

 

 

そのまま纏わりついてくるフリーレン様を振り切るように先を急ぐ。赤くなってしまっているであろう顔を隠すように俯きながら。その先に待っているであろう、新たな出会いに向かって――――

 

 




今話でアイゼン編は終了となります。アウラの過去編も含めて、アイゼン編は家族がテーマになっていました。過去編ではアウラが、現代編ではフェルンがその影響を強く受けることになりました。次話からは再びアウラの過去編。ちょうどアニメとリンクする部分もある予定です。お楽しみに。

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