ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第十四章 解放の刻
第六十六話 「手紙」


多くの人が行き交う大通りで一際目立つ二人の女性がいた。その背丈はほぼ同じ。小柄なため少女と言ってもいいかもしれない。一人は法衣を身に纏っていることから教会の関係者であることが見て取れる。だがもう片方の少女はそうではなかった。コルセットドレスという珍しい洋装で着飾っている。何よりもそれが絵になっていた。美少女言っても過言ではないほどに。二人に共通しているのは頭に角が生えていること。すなわち魔族であるということ。

 

それが天秤のアウラと例外のリーニエ。聖都でも姉妹、いや親子だと噂されている魔族の姿だった

 

 

「おはようございます。アウラ様、リーニエ様。今日もお元気そうで何よりです」

「ええ。見ての通りよ」

「おはよう! 私も元気だよ」

 

 

リーニエと並んで大通りを歩いていると、女性信徒の一人からそう声をかけられる。もうすっかり当たり前になってしまった習慣。その顔と名前もほとんど覚えてしまった。違うのはリーニエぐらいか。この子は知らない人間に声をかけられても同じように反応するだろう。警戒心も何もない。その在り方は人間たちから見れば天真爛漫に見えるらしい。そのせいもあり、ここでは偶像的に扱われてしまっている。ある意味、リーニエに皆騙されていることになるのだろう。そう仕向けたのは私なのだがまさかここまで嵌るとは思わなかった。当のリーニエからしてもその扱いは満更ではないらしい。何故なら

 

 

「そういえば、ちょうどそこで手に入れまして。良かったらどうぞ。お二人ともお好きでしょう?」

「っ! リンゴだ! ありがとう!」

 

 

こうして色々な物がもらえるのだから。 全く遠慮することなくリーニエはリンゴをもらって目を輝かせている。相変わらず分かり易い奴だ。 私たちの好物がリンゴであることも知れ渡ってしまっている。それ以外のことも。唯一、私たちが親子であるという噂だけは間違っているが。やはり人間たちにはそう見えるのだろう。最近はその容姿の変化のせいで姉妹だと思われることも増えているが。否定しても私には利益はないので好きにさせているが。リーニエは主従だと否定しているが冗談だとしか思われていない。

 

 

「あんまり甘やかさないで頂戴。癖になるわ」

「すみません。でも本当に仲が宜しいのですね。今日はどちらへ?」

「ハイターのところよ。呼び出されて仕方なくね」

「そうですか 。流石はアウラ様。ハイター様からの信頼も厚いのですね」

「いい迷惑ね……それと、あんたはちゃんと私以外の神父の集会にも参加しなさい。度が過ぎると面倒よ」

「いいえ、そんなことは決して。私たちにとってはアウラ様こそが信仰に捧げるに足る存在なのですから。天秤の加護がありますように」

「…………どうなっても知らないわよ」

 

 

こっちの忠告も何のその。そのまま膝をつき、天秤のアクセサリを手に祈りを捧げ始めてしまう。女神ではなく私に。こいつだけではない。顔を上げれば通りを歩いている人間たちの何人かも同じようにしている。そしてその様子を冷たい表情で見つめている他の通行人たち。その視線を私に向けている人間たちに、同じように魔族としての視線を向けているリーニエ。さっきまで天真爛漫に振舞っていたとは思えないような変わりよう。だが私は知っている。こっちがリーニエの魔族としての貌であることを。

 

 

「行くわよ、リーニエ」

「分かった、アウラ様!」

 

 

それを振り切るようにその場を後にする。その命令に従うようにリーニエは私の後に付いてくる。さっきまでの態度が嘘だったかのように。それが今の私たちの日常だった────

 

 

 

「邪魔するわよ、ハイター」

「ハイター遊びに来たよ!」

 

 

そのまま雑に入室する。ここは聖都の総本山、その中でも限られた者しか持つことが許されない執務室。腐っても司祭なのだろう。その証拠に室内には多くの女神に関する書物や品で溢れている。外面だけ見れば敬虔な信徒なのだろう。中身はただの生臭坊主だが。

 

 

「待っていましたよ、お二人とも。お疲れ様です」

「もっと褒めてもいいよ」

「あんたは何もしてないじゃない」

 

 

定型的な挨拶にも関わらず、本気でそれを鵜呑みしているリーニエに呆れるしかない。いくら私たちが騙されることに慣れていないとはいえ度が過ぎる。やはり育て方を間違えてしまったかもしれない。

 

 

「相変わらずですね。仲が良いのはいいことです。女神様もきっと喜ばれていますよ」

「余計なお世話よ。女神の奴もそんな暇があるならさっさと姿を見せればいいじゃない」

「はっはっはっ、貴方には敵いませんね。聞かなかったことにしましょう」

 

 

何が面白かったのか、ハイターはそういつものように大笑いしている。本当にこいつは変わらない。自分の信仰する女神を馬鹿にされたというのにこの態度なのだから。もっとも嘘偽りない私の本音なのだが。天地創造までしたと言われる女神。ならさっさと姿を現して人間を救って見せればいい。

 

 

「それにしても貴方のドレスも変わりませんね、リーニエ。この前贈った法衣はどうしたのですか?」

「臭いから着てないよ。何で坊主たちの服ってあんなに変な臭いがするの?」

「香のせいでしょうか。私が預かっていたせいかもしれませんね」

「あと単純に臭かった。ヒンメルと同じ老いぼれた人間の臭い」

 

 

言っていて思い出したのか、そのまま鼻をつまんでいるリーニエ。話題に上がっているのはつい先日ハイターから贈られた法衣のこと。ハイターなりの厚意だったのだろうがリーニエにとっては全く意味をなしていない。 魔族なのもあるだろうが、この子は特に嗅覚にも優れている。独特な香、臭いで満ちているここ聖都に慣れるのにも時間がかかったほど。それは抜きにしてもこの子はあのドレスが気に入っている。私が着ていたものだというのもあるのだろう。もっとも着ない一番の理由は加齢臭だったのかもしれないが。

 

 

「あんたもヒンメルも老いぼれただけでしょ」

「失礼な。私はまだ髪がありますよ」

「白髪坊主だね」

「そんなことを言う悪い子にはもう飴はあげませんよ?」

「私はもう大人だから。そんな物じゃ釣られないよ」

「そうですか……ちょうど貰い物のリンゴのお菓子があったのですが仕方がありません。これは私だけで」

「ハイター大好き」

「仕方ありませんね」

「……あんたたち何も変わってないじゃない」

 

 

いつかと全く同じやり取りをしている二人に呆れるしかない。本当に揃いも揃って中身は成長していないのだろう。変わったのは見た目だけらしい。その証拠にハイターの髪は白くなり、顔は皺だらけになっている。本人曰く貫禄が出てきたとのことだが老いぼれているだけだろう。飴と白髪、どちらが似合っているのかは分からないが。そして流れ弾を受けているヒンメル。いい迷惑だろう。

 

 

「仰る通りですね。見た目はともかく、私の心は子供の時と大して変わっていません」

「偉そうに言うことじゃないでしょ」

「ですが、本当に貴方は変わりませんね。美しいままです」

「当たり前じゃない。私は魔族よ」

「私も!」

 

 

心にもない世辞を言う余裕はまだあるらしい。その開き直りっぷりがあるならまだまだお迎えは先だろう。魔族に変わっていないなんて世辞にもならない。当たり前のことなのだから。

 

 

「そうでしたね。しかしこう目の当たりにすると羨ましくもありますね。不死の魔導書でも探してみたくなりますよ」

「不死の魔導書? 何よそれ?」

「賢者エイヴィヒが遺したとされる伝説の魔導書です。時の権力者がこぞって探しているものでもあります」

 

 

そんな私たちをどこか羨むように見つめながら、ハイターはそう零す。賢者エイヴィヒ。確か人類の魔法の開祖と呼ばれるフランメよりもさらに昔の人間だったか。そんな奴が不死、つまり死ななくなる魔法を生み出したということだろうか。

 

 

「馬鹿じゃないの。そんな物があるわけないでしょ」

「仰る通り。そんな物があればエイヴィヒ本人が使っているでしょう」

 

 

本当に人間は愚かな生き物だ。生き物である以上、いつかは死ぬ。そんな簡単なことも理解できないのか。魔法でもできることとできないことがある。そんなものを追い求める暇があるならもっと他のことをすればいいだろうに。魔族ですら寿命からは逃れられない。私は五百年以上を生きる大魔族であり、魔王様は千年以上を生きていた。それでも不死ではない。もしそんな奇跡が起こせるとしたらそれこそ人間たちが大好きな女神ぐらいだろう。もっともこの調子ではそれが現れる前に人類は死に絶えるかもしれないが。あえて他に挙げるとしたら

 

 

「この世でそれに一番近いのはきっとエルフなのでしょうね」

 

 

エルフという種族なのだろう。ハイターもどうやら同じことを考えていたらしい。少なくともあのエルフは千年以上、ゼーリエにいたっては神話の時代から生きていると言うのだから。案外女神とやらも人間たちがエルフをそう勘違いしただけなのかもしれない。

 

 

「不死の前にもっと早く禁酒すべきだったわね。女神の加護も飲みすぎには効かなかったわけだし」

「耳が痛いですね。ですがあなたのおかげで間違いなく私の寿命は延びていますよ」

「感謝するならアイゼンにしなさい」

「やっぱりアイゼンは頼りになるね」

 

 

ようやく自分でも理解できる話になったからか。リーニエがここぞとばかりに出張ってくる。それはともかく、驚くべきことに今ハイターは禁酒をしている。どうやら長年の酒が祟ったらしい。自業自得だろう。あれだけ飲んでいれば誰だってそうなる。 私が魔法でアルコールを抜いてもこれなのだ。少しはアイゼンに感謝すべきだろう。

 

 

「そういえばリーニエはアイゼンとよく会っていましたね。元気にしていましたか?」

「あんたたちいつも文通しているんじゃないの?」

「手紙だけでは分からない部分もありますから」

 

 

確かこいつらはヒンメルも含めてまめに文通をしていたはず。本当に気持ち悪い奴らだ。それでも手紙だけは分からないこともあるらしい。 面倒な奴らだ。その点はリーニエの方が頼りになるだろう。その理由はともかく、リーニエは半年に一度はアイゼンの元を訪ねているのだから。

 

 

「元気にはしているけど、やっぱり老いぼれてきてるみたい。前みたいに剣を体で受けてくれなくなったし、修行にも付き合ってくれなくなった。もう斧を振れるような歳じゃないって」

 

 

頬を膨らませ、どこか拗ねたようにリーニエは愚痴を漏らしている。どうやらアイゼンもまた老いぼれてきているらしい。ドワーフと言えども老いからは逃れられないのだろう。一度その腕が細くなっているのを目にしたこともある。もっともあの筋肉馬鹿の言うことだ。私達とは感覚が違う可能性もある。化け物は化け物なのだから。

 

 

「……そうですか。でも鍛冶は続けているんでしょう? 手紙にも書かれていましたよ。今度の誕生日のために剣を打っていると」

「ほんと!?」

 

 

そんなリーニエの機敏を察したのか、ハイターは別の方向から攻めることにしたらしい。それによってリーニエは一転、機嫌を直してしまう。 本当に小癪な奴だ。老いぼれてもこいつには口では敵わないに違いない。

 

 

「しかし、本当に時間の流れは早いですね。ちょっと前までリーニエはこんなに小さな子供でしたのに」

「そんなに小さくない」

「失敬。ですが五十年では背は抜かれませんでしたね。もう五十年すれば分かりませんが」

「その頃にはもうハイターは老いぼれて死んでる」

「こらこら、老人は労わるものですよ」

「ならもっと老人らしくしなさいよ」

 

 

お前が言うなと言われること請け合いの戯言をほざいているハイター。それは別としても、あの頃から色々なことが変わっているのは間違いない。

 

一つは魔法協会。 二十年ほど前からその活動が活発になっている。ゼーリエが言っていたように本格的に動き始めたということなのだろう。何でも魔法使いに階級を設けて、それを定期的に試すような制度を導入したらしい。相変わらず物好きなエルフだ。

 

王都で一度、最初の一級魔法使いであるレルネンとかいう人間の魔法使いと会ったことがある。ゼーリエのお眼鏡にかなっただけはあるのだろう。間違いなく化け物寄りの存在だった。私が万全だったとしても油断ならないほどの手練れ。今の私からすれば逃げ出さなくてはならない状況だったのだが、何でもゼーリエから私には手を出さないように厳命されていたらしく命拾いした形。もっとも王都で、しかもヒンメルもいたので最悪の事態にならないことは分かり切っていたのだが怖いものは怖い。どうやらフリーレンとは違い、問答無用で襲い掛かってくるような人間ではなかったらしい。 何でも表向きは別として、内部の人間たちにとって私はゼーリエに特権を与えられた、魔族の一級魔法使いのように扱われているらしい。何の嫌がらせなのか。侮辱でしかない。もう二度と会わないことを願うのみだ。

 

次に魔族について。これについてはほぼ今まで通り。勇者が健在である以上、残党たちは身を潜めている。魔族として正しい判断だろう。もっともそれすら理解できない下等な連中は狩られているようだが。そういえば私には直接関係はないが、北側でマハトが人間たちに封印されてしまったらしい。何でも街ごと人間たちを黄金に変えてしまい、それを魔法協会によって封印されてしまったのだと。何を考えているのか分からない薄気味悪い奴だったが、その実力は七崩賢の中でも際立っていた。業腹ではあるが七崩賢でも最強と呼ばれていたほど。それが何故。魔王様がいなくなったことで愚かな行動に出たのか。それとも魔法協会の連中が化け物だったのか。何にせよ私には関係のないことだろう 。クヴァールのように私がそれを助ける理由もない。もっとも今の私には何もできはしないが。

 

最後は人間たち。行ったことも見たこともないが、何でも南側諸国が戦争状態にあるらしい。それも魔族の残党相手ではなく、人間同士で。ヒンメルたちも尽力したようだがそれでも収められなかったらしい。本当に人間というのは愚かなのだろう。そこで活躍しているのがゾルトラークだ。研究開発され、人間たちの魔法体系に組み込まれたそれによって死者は増え続けているらしい。本当の意味でゾルトラークが人間を殺す魔法になるのも遠くないだろう。それに貢献してしまったのが勇者一行の魔法使いだというのだから皮肉でしかない。

 

 

「アイゼンではありませんが、私もそろそろ隠居を考えなければいけませんね」

 

 

そんな世界の情勢のことも当然理解しているだろうに。どうやらこいつはそれをどうにかしようとする気はないらしい。こいつらしいと言えばこいつらしいが。ヒンメルがそうしたからそうしているだけで、こいつは基本的に積極的に人助けをするような性格ではない。そもそもそれは個人でどうにかできるような事柄ではない。それこそ魔王様のように全てを支配できるような存在でなければ。

 

 

「とっくに家まで確保してるくせに何言ってるのよ」

「そういえばそうでした。今は貴方の家、いえ別荘ですね。どうです? 老後は一緒に悠々自適に暮らしてみませんか?」

「お断りよ。なんでそこまで付き合わなきゃいけないのよ」

「貴方はみんなのお母さんですからね」

「アウラ様はお母さんじゃなくて私の主人だよ」

「そうでしたね。これは失礼。なら私の後を任せるとしましょうか」

 

 

変わらずそんなふざけたことを口走るハイター。これ以上こいつの面倒見るなんて御免だ。お母さんは魔族にとってだけなく、人間にとっても魔法のような言葉なのだろう。人間の老人が口にするのは惨めでしかないが。何にせよ、私にとっては迷惑でしかない。しかも後のことを私に押し付けようとすらしている。本当に愚かなのだろう。

 

 

「馬鹿じゃないの。あんたがいなくなった聖都に私たちの居場所なんてあるわけないじゃない」

 

 

こいつがいなくなれば、私にそんなことができるわけがないのは分かり切っているだろうに。

 

 

「……何故そう思うのですか?」

「そんなの当然でしょ。これまで散々人間(あんた)たちの悪意に振り回されて来たんだから。あんたの庇護がなくなったらそれを排除できないわ」

 

 

どこか真剣な表情で聞き返してくるハイターを訝しみながらもただ当たり前の返事をする。考えるまでもない。私には悪意が感じ取れない。それが利用されるのを防いでいたのはハイターだ。それがいなくなるならそれに抗うことが私にはできない。私はどうでもいいがそれによってまた王位の継承のように争いごとが起こるのは目に見えている。何よりも

 

「悪意そのものは感じ取れないけど、それらしい動きが最近私の周囲でも見られるわ。きっと私の影響力、権力が強くなりすぎてるのね。遠からず聖都も王都も私を排除しようとするでしょうね。それとも飼い殺しか。どっちにしろ碌なことにならないわね」

 

 

こいつがいなくなれば、私は人間共の悪意によって排除されることになるだろう。私はそれを理解できず、感じ取れないが悪意がどんなものであるかを私なりに調べてきた。書物から、経験から。それによって起こるであろう人間の行動を。それに合致する動きが私の周りで起き始めている。

 

恐らくは私の影響力が大きくなりすぎたのだろう。女神よりも、私自身を信仰する人間が増えてきている。それは聖都からすれば好ましくないのだろう。実際魔族であることもあり、私を排除しようとする勢力も出てきている。今はハイターの存在によって表立ってはいないが、それがなくなればどうなるかなど火を見るより明らか。

 

それに抵抗することは私にはできない。服従によって私は人間に手を出すことはできないからだ。そう、私は人間にとっては奴隷であり愛玩動物なのだから。駆除されるか飼い殺しにされるかの違いでしかないだろう。

 

 

「……本当に貴方は人間(わたし)たちのことを理解してしまったのですね」

 

 

気づけばどこか神妙な顔をしながらハイターはそんなことを口にしている。本物の神父のような、らしくない態度。

 

 

「何よ? 何か文句があるわけ? それを教えたのはあんたたちでしょ?」

「……ええ。その通りです。できればそれだけではないことを願いたいものです」

 

 

相変わらず遠回しな、もったいぶった言い回しをする奴だ。何を言いたいのか分からないが、どうせ魔族のわたしにとっては下らないことだろう。

 

 

「それで、アウラ。 貴方はこれからどうするつもりなのですか?」

「はぁ? どうするも何もそれを決めるのはヒンメルよ 。私にできることなんて何もないわ。あんただって分かってるでしょ?」

 

 

一体どうしたというのか。前ヒンメルにも同じようなことを言われた気がする。それこそ意味のない質問だ。服従させられている私には何もできないのだから。せいぜいできるのはこうして無駄なことを喋ることだけ。ある意味魔族らしいかもしれない。もっとも私にはこいつを騙すことなどできないが。

 

 

「なるほど……アイゼンではありませんが、やはり罪な男ですね。ようやく拾った責任を取る気になったということですか」

「何の話よ? 遠回しな言い方は止めなさい。飽きてリーニエが居眠りしてるじゃない」

「……え? ここはどこ? リリーは?」

「本当に悪意がない子ですね。 ここでも人気が出るわけです」

 

 

そんな私を見て何を思ったのか。ハイターは変わらず独り言を呟き続けている。ついに老いぼれて頭までおかしくなったのか。そのせいで飽きてしまったリーニエが眠りこけている。どうやら村にいると思ったのだろう。きょろきょろとリリーを探している。ハイターと同じで中身は子供のままなのだろう。

 

 

「話が逸れましたね。貴方をここに呼んだのは他でもない。あなた宛てにラブレターが届いているんですよ」

 

 

一度咳払いをしながら、いつもの飄々とした調子でハイターはそう告げてくる。その手には一通の手紙がある。それを目にしてうんざりするしかない。

 

 

「またそれ? そんなのあんたで処理しなさいよ。いつものことでしょ」

 

 

何故なら私にとっては見慣れた光景だからだ。 ラブレターなんて言い方も。どうせ私を利用しようとする連中からの手紙だろう。もう開けて読む気すら起きない。本当に懲りない連中だ。その処理をするのがハイターの仕事でもある。にも関わらず

 

 

「それが私では処理できない案件でして。貴方でなければ意味がないんですよ」

 

 

どこか楽し気にハイターは半ば強引に手紙を手渡してくる。一体何故。辟易しながらも仕方なくそれを手にした瞬間、全てを理解した。

 

何故ならその差出人は、こういったことが大好きな勇者様だったのだから。ご丁寧に友人へ、なんて言葉も添えられている。相変わらず癪な奴だ。

 

それが私へのヒンメルからの王都への招待状(ラブレター)だった────

 

 

魔王討伐から五十年後。 聖都シュトラークにて。

 

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