ヒンメルはもういないじゃない【完結】   作:HAJI

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第七話 「感謝」

「…………悪夢だわ」

 

 

知らずそんな独り言が口から零れてしまう。そう、夢なら覚めてほしい。何かの間違いであったならどれだけ良かったか。だが夢ではない。その証拠に目の前にある、姿見の鏡には現実が映し出されている。

 

この世の終わりのような気怠い表情をした自分の顔。寝癖のついたぼさぼさの髪に、見すぼらしい寝間着姿。よく見れば目の下には隈まである始末。五百年以上生きてきた中で最悪の目覚めであることは間違いない。

 

 

(何でこんなことに……!? 決まってるわ、あれもこれも全部あのクソ勇者のせいよ……!)

 

 

覚醒し切っていない頭で思い出すのは昨夜の出来事。結局勇者に乗せられてしまった自分はあのまま魔導書を全て読破する羽目になった。それだけならまだ良かった。問題なのはあの勇者。人が魔導書を読んでいる隣でひたすら喋り続ける。その魔導書はどこでもらっただの、何に使えるだの、何の役にも立たない情報のオンパレード。もはや嫌がらせを疑うレベル。最終的にはこちらの剣幕を察したのか先に就寝してしまった。そこでもう止めてもよかったのだが、それでは何だか負けた気がする。また何を言われるか分かったものではない。命令されてやる羽目になれば本末転倒。結局朝方まで魔導書と格闘する羽目になってしまった。

 

 

(あいつは……いないみたいね。よかったわ……起きてすぐあの顔を見るなんて吐き気がするわぁ……)

 

 

部屋を見渡すも勇者の姿はなし。先に起きてどこかに行っているらしい。僥倖だ。そのままどこかに行ってくれれば、いやこのまま逃げ出してしまえばと頭によぎるもあきらめるしかない。服従の縛りがある以上それはできない。試してはいないが恐らくこの村を離れるようなことはできない。逆を言えば勇者はまだこの村にいることを意味する。ようするに今の自分は見えない鎖でつながれた獣なのだ。愛玩動物にもなりきれない憐れな存在。その事実から目を逸らすように洗面所で身支度を整える。顔を洗い、髪を整え、服を身に着ける。人間と何ら変わらない、人間を騙すための擬態。ただ違うのは今の自分は騙す事すら許されないということ。

 

 

(これは……朝食ってこと……?)

 

 

一通り整容を終えたところで机の上に食事が置かれていることに気づく。果物を中心とした朝食と水。窓から差してくる陽の高さから見れば昼食かもしれないがそれはともかく。その果物を一つ手に取って無造作にかぶりつく。不味くはないが特段美味くもない。ただ咀嚼し、腹を満たすためだけの行為。本来の捕食、人間を食らう行為に比べれば物足りない。魔族としての欲求。それが満たされることはない。人間を食べることは禁じられてしまっている。私たちは生きるために人間を食べることを必ずしも必要としない。餓死することもない。だがこのまま長期間人間を食べなければどうなるのか。私自身も分からない。食指は動かないが背に腹は代えられない。そのまま仕方なく黙々と食事を続けていると

 

 

「おはよう、アウラ! ようやく起きたみたいだね!」

 

 

さらに食欲が失せる存在が現れる。本当に癪に障る。狙ってやっているのではないかと疑いたくなるぐらい。

 

 

「……ええ、誰かさんのおかげでよく眠れたわ。もう昼になっちゃったけど」

「ああ、気にしなくてもいいさ。フリーレンのせいで動き出すのが昼からになるのは日常茶飯事だったからね」

 

 

こっちの皮肉も何のその。そもそも皮肉だと気づいていない。そのくせこっちを煽ってくるのは何なのか。どうやら昨日の一件でフリーレンの名前を出せば私を焚きつけられると勘違いしているらしい。本当に癪に障る。何で私があんなエルフにいいようにされなければならないというのか。そもそもそれで旅が成り立つのか。突っ込みたくなるのを抑え、食事を終わらせる。

 

 

「? もういいのかい? やっぱり口に合わなかったか」

「いいえ。でもたった今、食欲が失せたわ」

「そうか……やっぱり肉類の方がいいのかな? 何か好きなものは?」

「…………別に。食べれないわけじゃないから気にしないで頂戴」

 

 

食事を中断した理由を勘違いしたのか、勇者はぶつぶつと自分の世界に入り込んでしまう。好物はと聞かれ、思わず人間の子供と答えそうになるも口を噤む。いくらこんな勇者とはいえ、不用意なことは口にすべきではない。今更ではあるが、警戒されないに越したことはない。

 

そんな中、ふと気づく。それは勇者の格好。それが昨日と異なっている。あまりにもどうでもいいことだったので気づくのが遅れてしまったらしい。

 

 

「やっと気づいてくれたみたいだね。どうだい、この姿の僕もなかなかイケメンだろう?」

「そうね……そこの鏡で見てみたらどう? きっと面白い物が映ってるわよ」

 

 

待ってましたばかりにポーズをとっている勇者を無視して朝食を片付ける。起きて早々にこんなものを見せられるなんて何の拷問なのか。心底どうでもいいが、触れてやらなければ止めそうにないので渋々付き合うことにする。これではどっちが主従か分かったものではない。

 

 

「それで……? そのふざけた格好は何のつもり?」

 

 

改めてその恰好を見つめ直す。いつも身に着けている服ではない、普通の村人が身に着けているような軽装。勇者の剣も持っていない。何より目立つのがその頭。麦わら帽子がそこに乗っかっている。似合わないことこの上ない。

 

 

「ふざけてなんていないさ。昨日言っただろう、仕事だって。これはそのための準備さ! さあ、行こうか!」

 

 

そんなこっちの感想なんて最初から聞く気がないのか。勇者は早く早くとこちらを急かしてくる。こうなれば私に拒否権はない。そのまま飼い主に引っ張られる犬のように、理由も行先も分からぬまま部屋から連れ出されてしまうのだった――――

 

 

 

「どうやらみんなもう集まっているようだね」

 

 

あれよあれよという間に宿屋から連れ出され、連れてこられたのは村の外れ。そこには草木が生い茂っている荒れ地が広がっている。いや、よく見れば人の手が加わった跡がある。それを囲むように村人たちの姿もある。その数も一人や二人ではない。老若男女。村人全員がいるのではないかと思えるほど。

 

 

「何よこれ?」

「見て分からないか? 畑仕事さ。これから村総出で新しい畑を耕そうってことだよ」

「ふぅん……」

 

 

気づけば勇者の手には農具が握られている。いつの間に。なるほど、これなら似合っていると言ってもいいかもしれない。勇者よりよっぽどお似合いだろう。そんなことを考えていると

 

 

「おお、本当に来て下さったのですね勇者様。助かります。ですが宜しかったのですが? 我々としては勇者様がこの村に逗留して下さるだけでも恐れ多いというのに」

「もちろん。最近はこの辺りも魔物や盗賊が多くなっているらしいしね。こっちも無理を言ってこの村にお世話になるんだし、このぐらいは当り前さ」

 

 

よろよろと老人がこっちへとやってきて何やら勇者とやり取りを始めてしまう。私とは関わりのない、興味も湧かない内容。そういえばこの人間には見覚えがある。確か……そう、村の長の老人。どうしても人間の見分けはつきづらい。人間が動物の見分けがつかないのと同様。そもそも普段なら覚える必要がないこと。すぐ食べていなくなる餌のことなどいちいち気にはしていられない。

 

 

「勇者様、そちらにいるのは」

「ああ、見違えただろう。彼女、アウラにも仕事を手伝ってもらおうと思っているんだ。構わないかい?」

「……ええ、勇者様がそう仰るなら。村の者には私の方から伝えておきます」

 

 

こそこそと何やらやり取りをしている勇者たち。今度は何を企んでいるのか。だが今の私にできることは何もない。すると

 

 

「どうですか、昨日はよく眠れましたかな?」

「はぁ……?」

 

 

人間、村長が私に向かってそう話しかけてくる。理解できない。昨日私に操られ、殺されそうになったはずなのに懲りずに話しかけてくるなんて。こいつに学習能力はないのか。捕食者として見ても心配になる頭の悪さ。

 

 

「……君を気にかけてくれているんだ。ちゃんと返事をしないと」

 

 

そんな私の態度が気に入らなかったのか。耳打ちするように勇者がそんなことを命令してくる。気に食わないがそれには従わざるを得ない。なので

 

 

「……残念ながらほとんど眠れなかったわぁ。そこの誰かさんが寝かせてくれなかったせいでね」

「っ!? アウラ、君は何を――」

「……勇者様?」

 

 

恐らくは一番勇者に有効な方法で意趣返しすることにする。嘘は言ってはいない。魔族としてはあるまじきことだが真実のみを伝える。効果覿面。面白いほど勇者は狼狽し、弁明している。いい気味だ。

 

だがふと気づく。それは他の村人たちからの視線だった。勇者や村長とは違う、こちらを訝しみ、嫌悪するような視線。

 

 

「あの角……本当に魔族よ」

「一体村長は何を考えて……勇者様も勇者様よ。魔族を村に入れるなんて」

 

 

こちらに聞こえているのが分かっているのかいないのか。そんな会話が、言葉が聞こえてくる。安心した。どうやらこの村長がおかしいだけだったらしい。これが本来の人間と魔族の関係。狩る者と狩られる物。捕食者と餌。その在り方。この身が万全であれば全員縊り殺して食らってやるところなのだがそれは叶わない。忌まわしいことこの上ない。

 

 

「アウラ……」

 

 

いつの間に戻ってきたのか。どこか怪訝な表情を見せながら勇者がこちらを見つめている。油断した。知らず態度に、気配に出てしまっていたか。どう取り繕ったものかと思案するよりも早く

 

 

「あ、やっぱりあの時のお姉ちゃんだ! 本当に村に来てたんだね!」

 

 

麦わら帽子を被った人間の子供が走りながらこっちへとやってくる。流石に私でも忘れられない。村長と同じく、私を魔族だと理解できていない愚かな人間の一人。

 

 

「そうね……あんたもここで仕事とやらをする気ってわけ?」

「あんたじゃなくてシュトロだよ! 良かった、勇者様とは仲直りできたんだね!」

「仲直り……?」

 

 

コバエのように私の周りに纏わりつきながら子供はそんな意味が分からないことを言ってくる。仲直り、という言葉の意味がではない。何故自分と勇者の間にそんな言葉が成り立つのか。本当に生き物なのか疑いたくなるような思考回路。

 

 

「――ああ、僕とお姉ちゃんは仲直りして友達になったんだ。もう悪いこともしないって約束してね。今日も畑仕事を手伝ってくれるんだよ」

「は? あんた何言って」

「本当!? よかったー、村のみんなが言ってたんだ。お姉ちゃんとは仲良くしちゃいけないんだって。でも勇者様がそう言うんなら大丈夫だよね! 一緒に頑張ろうね!」

 

 

私が反論する間もなく、手を振りながら子供はあっという間に他の村人たちの下へ去って行ってしまう。その自由奔放さに呆気にとられるしかない。一体何が嬉しいのか。

 

 

「……もういいわ。それで? 私もその畑仕事ってやつをすればいいんでしょ。さっさと道具をよこしなさい」

 

 

全てをあきらめ、そう勇者に要求する。これ以上やり取りしても時間の無駄。ならさっさと済ませて終わらせた方がマシだ。だが

 

 

「? 道具なんて君にはいらないだろう。君は魔法使いなんだから」

 

 

勇者はお前こそ何を言っているんだとばかりの表情を見せながら、こっちのなけなしのやる気を台無しにしてくれる。

 

 

「何を言ってるの? もしかしてまた私を馬鹿にしてるわけ?」

「そんなわけないだろう。魔法だよ、魔法。僕が何のために君に魔導書を渡したと思ってたんだ? 畑仕事に使ってもらうために決まってるじゃないか」

「――――は?」

 

 

今度こそ言葉を失ってしまう。いや、呆れ果ててしまう。あまりにも無駄なことをしていた自分とあまりにも自分勝手な目の前の勇者に。

 

 

「『雑草を抜く魔法』と『土を耕す魔法』さ。魔導書の中にあっただろう? それを使えば君でも畑仕事ができるんだから」

 

 

その言葉でようやく理解した。勇者が自分に何をさせたかったのか。だがそんなこと分かるわけがない。そもそも魔法で畑仕事をする、なんて発想自体私にはない。魔族でそんなことをしてるやつなんて見たことも聞いたこともない。そんなことをしているのは人間ぐらいだろう。それはいい。高尚な魔法を貶めているも同然だが、まだ理解の範疇にある。理解できないのは

 

 

「――――なら、私はその二つの魔法だけ覚えれば良かったんじゃないの?」

 

 

何故自分は全ての魔導書の魔法を習得する必要があったのか。徹夜して読破したあの山のような魔導書には一体何の意味があったのか。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

無言の静寂。勇者は目を丸くしている。そう、まるで今気づいたといわんばかりの表情。間違いない。こいつ、何も考えていなかったに違いない。

 

 

「――――よし、じゃあそろそろ始めようか! みんな、待たせて済まない! 僕たちも参加させてくれ!」

 

 

全てをなかったことにしながら勇者は農具を担ぎながら去っていく。取り残される私。もはや言葉もない。

 

 

(――――覚えてなさい)

 

 

いつかこの恨みを晴らす。そう深く心に誓うのだった――――

 

 

 

(ようやく終わったわね…………)

 

 

時刻は既に夕刻に達しようかという頃。大きなため息を吐きながら肩をなでおろす。目の前には荒れ果てていた畑はなく、雑草一つない耕された新たな畑が広がっている。これが正しいのかは定かではないが、村の人間たちの様子から見るにこれで合っているのだろう。

 

それはまさに嵐のような時間だった。紆余曲折はあったが魔法を使っていいのであれば特に問題はない。さっさと終わるだろうと思っていた私の目算は誤っていたのだとすぐに思い知ることになる。

 

民間魔法の扱いづらさによって。

 

魔法はイメージだ。魔力量や練度もあるが、イメージがなければそもそも扱うことができない。そして私が使おうとしているのは雑草を抜くことと土を耕すこと。どうなるかは火を見るより明らか。雑草とそれ以外の物の区別なんてつくわけがなく抜いてはいけない草木まで抜いてしまう、加減が分からず畑を穴だらけにしてしまう私。それを楽しそうに弄ってくる勇者。雑草の見分け方、土の耕し方を麦わら帽子の子供に教えてもらいながら何とか作業を続けるも、競争だと煽ってくる勇者。一体どっちが子供か分かったものではない。そのくせ仕事が恐ろしく早いのだから始末が悪い。結果的に村人そっちのけで私と勇者がほとんど仕事をしてしまうような有様だった。

 

 

「やるじゃないか。途中からは追い抜かれたかもね。まあ結果的には引き分けってところかな?」

「……好きにすればいいじゃない」

 

 

うんうん、とどこか満足げな勇者にまともに返答する気力すらない。これなら魔導書を読み漁る方がマシかもしれない。それぐらいの疲労感。さっさと戻って休みたい、そう思っていると

 

 

「あの…………」

「ん?」

 

 

聞いたことのない女の、いや女の子供の声がかけられる。見ればそこには村長とそれに隠れるようにこちらを覗き見ている女の子供の姿。麦わら帽子の子供と同じぐらいの年齢だろうか。そういえば畑仕事中に何度か視線を感じていた。害はないようだから放置していたが甘かったか。そんなことを考えていると

 

 

「こ、これ……!」

 

 

何故か緊張した面持ちで自分に何かを差し出してくる。一体何なのか。

 

 

「……何よ、それ?」

 

 

それは花だった。何の変哲もない、ただの白い花。そういえば生えていた草木の中に似たような花があったような気がする。だが分からない。何でそれを私に差し出してくるのか。それを植えろということなのか。意図が分からずただ差し出された花を見つめることしかできない。

 

 

「……君にくれるってことさ、アウラ。きっと仕事を手伝ってくれたお礼だよ。そうだろう?」

 

 

そんな私の困惑をよそに、何故か嬉しそうな笑みを浮かべながら勇者がそう代弁してくる。それが正しかったからなのか、女の子供は小さく頷いている。猶更分からない。何故自分がお礼をされなければならないのか。自分は勇者の命令に従って働いただけ。目の前の子供には何の関係もないはず。答えの出ないまま、言われるがままに花を受け取る。手のひらに収まるほど、小さな白い花。

 

 

「こういう時にはありがとう、と言うんだ」

「ありがとう……?」

「感謝の言葉さ」

 

 

感謝、という言葉。ありがとう、という使ったことのない言葉。理屈としては理解できる。だがこの状況で何故感謝なのか。頼んでもいない物をよこして、何故こっちが感謝しなくてはならないのか。意味が分からない。

 

気づけば女の子供は村長の後ろに再び隠れてしまっている。恥ずかしかったのかな、と勇者が呟いているがそんなことはどうでもよかった。あるのは疑問だけ。この花に、一体何の意味があったのか。

 

 

「それでは勇者様、私たちはお先に失礼します。今日は本当にありがとうございました。村を代表してお礼を申し上げます」

「こちらこそ。また力になれることがあったらいつでも言ってください」

 

 

勇者と村長がまた理解できないやり取りをしている。どちらが上でもない、命令ではないやり取り。それが感謝なのか。それとも。結局答えは出ない。そもそも魔族の自分に人間の感情を理解することなどできるわけがない。

 

 

「よし、じゃあ僕らもそろそろ……」

 

 

だがふと、思い出す。そういえば――――

 

 

 

――――瞬間、一面に白い花が咲き乱れた。

 

 

「――――」

 

 

ただ息を飲んだ。いや、呼吸を忘れてしまったのかもしれない。それほどに、その花々は美しかった。何の変哲もない、どこにでも咲いているような白い花。だからこそ、その花弁が夕日に照らされ煌めいているのが分かる。その数の多さもそれに拍車をかけていた。きっと初めて使ったせいで、魔力の調整ができていないのだろう。一面を埋め尽くして余りある花畑が、村に生まれていた。

 

 

「――――綺麗だ」

 

 

思わず、そう漏らす。同時に思い出すのは二つの記憶。一つは小さい頃、迷い込んでしまった森で見せてもらった花畑。もう一つが、仲間たちと一緒に見た花畑。どちらも同じ、憧れた、大切な魔法使いによって見せてもらった光景。

 

その彼女はここにはいない。一体今もどこで何をしているのやら。きっと変わらず、魔法収集の旅を続けているのだろう。

 

ふと、目をやるとそこには彼女ではない魔法使いがいた。ただ退屈そうに、無感動に花畑を見つめている。たまたま花が手に入ったから、試しに使ってみた。ただそれだけ。きっとがっかりしているんだろう。

 

 

『花畑を出す魔法』

 

 

いつか再会したとき、渡したいと思って集めていた魔導書の中の一冊。もう覚えているよ、と言われるのを分かっていても手放せなかった物。

 

彼女(アウラ)からすれば何の意味もない魔法。でも僕にとっては初めて魔法が綺麗だと思えた、彼女(フリーレン)と出会えたきっかけの魔法。だから

 

 

「――ありがとう、アウラ。これは、僕が一番好きな魔法なんだ」

 

 

ありがとう、と感謝を伝える。彼女にとっては何の意味もない魔法でも、自分にはそうではなかったのだと。僕の気持ちのほんの欠片でも、伝わればいいと願いを込めて。

 

 

「……こんな魔法が好きなんて、本当に変なやつね」

 

 

案の定、呆れながら彼女はそう悪態をついてくる。でも構わない。きっとこれからもっと機会はあるはずだ。いつかきっと、この光景を下らなかったと笑い合える時が。

 

 

それがアウラとヒンメルが初めて過ごした、村での一日の終わり。そして始まりだった――――

 

 

 

 

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