「おはようございます、リーニエ様」
「おはよう! 今日もみんな元気そうだね」
いつものように村を歩いているとそう挨拶される。見れば見知った顔がいくつもある。ここ最近はこうして挨拶されることが当たり前になっている。みんな楽しそうに、元気そうに。それがアウラ様の目指す物。それが上手くいっている証。
「はい。これもアウラ様のおかげです。朝から見回りですか?」
「うん! 私はアウラ様の神官だから!」
腰にあるヒンメルの剣と手に持っている教典を見せびらかしながらそう胸を張る。私がこの箱庭……じゃなかった。フリージアでアウラ様の神官をしている証。箱庭は一年ほど前に終わって、今はここ中央でフリージアに生まれ変わった。それで私の役目も増えた。今までは外敵からアウラ様と村を守るだけだったが、今は村人、じゃない信徒たちの喧嘩を止めて仲直りさせることも私の仕事。神官というらしい。本当はあの臭い法衣を着なければいけないのだが、許してもらっている。やっぱり私はこのドレスが好きだ。アウラ様のお下がりなのだから。
そのまま引き続き見回りを続ける。みんな思い思いに過ごしている。箱庭と違うのは、どこかハイターと一緒に暮らしていた聖都のような雰囲気があること。その証拠に、あちこちには教会があり、みんな胸に天秤のアクセサリを着けている。ここでは女神の代わりがアウラ様になっている。信仰と言うらしいが私にはまだよく分からない。でもみんなアウラ様が好きなのは分かる。ならそれはきっと良いことなのだろう。そんな中
「あ、シュトロ。また畑仕事してるの? もう歳なのによくやるね」
畑で農作業している人たちの中に、麦わら帽子をしている見慣れた人影がある。シュトロだ。人間で言えばもうずいぶん老いぼれているのにそんなことばかりしている。何が楽しいのだろうか。そういえばシュトロがいるのが箱庭の頃とは違うことだろう。このフリージアができてからすぐに、シュトロはここにやってきた。何でもアウラ様の手伝いに来たらしい。アウラ様は何故か困っていた、恥ずかしがっていたが私は嬉しかった。ヒンメルがいなくなって悲しんでいてばかりだったアウラ様だったけど、シュトロが来てからは少しそれが減ったから。きっとシュトロもそれが分かっていたのだろう。本当ならリリーも来てほしかったが、家で留守番しているらしい。残念。なら今度帰らなければ。アウラ様も一緒に来てくれるかな。
「ならもう少し労わりなさい。暇なら手伝っていきなさい。お姉さんでしょう?」
「むぅ……でも私は神官で」
「私は司祭ですよ? 終わったらリンゴを御馳走しましょう」
「ほんと!?」
畑仕事は苦手なのでそう断ろうとするもシュトロの口車に載せられてしまう。最近はいつもそうだ。私の方がお姉さんなのに。まるでハイターみたいなことを言ってくる。でもリンゴは欲しいので手伝うことにしよう。これも仕事だ。きっとアウラ様も褒めてくれるに違いない。
そのままみんなに混じって農作業。それ自体は村にいた頃からしているので問題ない。でもどうしてもこういう作業は性に合わない。私が魔族だからだろうか。そう思いながらふと目を向ける。そこには自分と同じように、いや自分以上に淡々と作業をしている集団がいた。違うのはそいつらは人間ではなく、魔族だということ。
(やっぱりみんな仲良くできないのかなー)
ここフリージアで一番他の村や国と違うのは魔族が一緒に暮らしていることだろう。人間と魔族が仲良く暮らす国。それがアウラ様の目指す国の姿。でもそれはまだまだ上手くいっていない。農作業をしている中でも、人間と魔族の集団で別れてしまっている。人間たちは魔族を怖がって嫌い、魔族たちは人間を見下している。なんでみんな仲良くできないのかな。私たちの村ではそんなことなかったのに。何が違うんだろう。
(私もまだ魔族のみんなとは仲良くなれてないし、難しいなー)
同じ魔族である私もそれは同じ。きっと人間よりも嫌われているかもしれない。それは私がしている魔力の偽装のせい。そのせいで私は弱い魔族だと思われてしまっているから。魔族にとっては魔力の大きい方が偉いのだから。戦いでは役に立つのだが、こういう時にはちっとも役に立たない。アウラ様の神官であることと、実際に強いところを見せたこともあるからか、以前よりは仲良くしてくれる魔族もいるが、まだまだ全然だ。人間は一目見れば嘘をついているか分かるが魔族は分からない。嘘をつくのが当たり前だから。もっと楽しくおしゃべりができる魔族の友達ができればいいのに。
「お疲れ様でした、リーニエ。報酬のリンゴです。姉さんにも届けてあげてください。はしたないから途中で食べないように」
「うるさいな。シュトロのくせに生意気」
「そう言っているうちは妹のままでしょうな」
ようやく畑仕事が終わり、報酬のリンゴを手に入れるもいつものようにそんなことを言ってくるシュトロ。最近アウラ様にもよくそれで叱られているというのに。本当に生意気だ。いつか私をお姉さん扱いさせてやる。頬を膨らませながら、リンゴに手が出そうになるのを我慢しながらそのままアウラ様のいる教会へと向かうのだった────
「アウラ様! シュトロからリンゴもらってきたよ!」
両手でリンゴを抱えながらいつもよりちょっと遅れて到着する。少し遅刻してしまったがきっと許してくれるはず。シュトロの手伝いをしていたのだから。もしかしたら褒めてもらえるかもしれない。そう胸を高鳴らせるも、それはすぐに収まってしまう。何故なら
「それはやりすぎじゃないの? 平等に反するわ」
「確かにそうね。でもまだその段階ではないわ。魔族と人間に全て同じルールを強いるのはまだ先ね。特に魔族側にはその下地ができていない。私たちはもっと動物的よ。矯正、躾をする感覚でなければ通じないわ」
アウラ様の隣には、もう先客が座っていたのだから。
(……ソリテール。またアウラ様に会いに来てたんだ)
そのまま思わず立ち尽くしてしまう。ソリテール。それがアウラ様とお話ししている魔族の名前。一月ほど前からフリージアに居ついている魔族。何でもアウラ様の知り合いらしい。ソリテールがここにやって来た時は大変だった。何故ならソリテールは大魔族だったから。その莫大な魔力量は私が生まれてから初めて見るほどの物。私が知る最も大きい魔力の持ち主であるアウラ様を遥かに凌駕する。その魔力の大きさによって、思わず私でさえソリテールに従ってしまいそうになるほどだったのだから。他の魔族たちもそれは同じだっただろう。今はその弊害もあり、ソリテールはその魔力を抑えているが、私はこの大魔族が苦手だった。魔力だけではなく
「……そうね。あんたが言うと説得力が違うわね」
「ありがとう。そのままお返しするわ。でも本当にこの教典はよくできているわ。人間が作ったとは思えない。私たち魔族の習性をよく理解しているのね。本当にここにはいないの? 是非直接お話ししてみたいわ」
「それは無理ね。年老いて隠居している奴だから。あんたに会って玩具にされたらそのままくたばりかねないわ」
「そう、残念」
難しい話ばかりをする変わり者だったから。何でもお話しすることが好きらしい。研究者だとか何とか。それに何度も付き合わされたが、さっぱり理解できない。頭が痛くなってしまうほど。でもアウラ様にとってはそうではなかったのだろう。どうやらフリージアのためにソリテールの力は利用、ではなく頼りになる物だったらしい。なにやらよくアウラ様とお話ししている。どうしても私はそれに割って入れない。邪魔をしてしまうからだ。どうしたものかと考えていると
「あら、リーニエ。来てたのね。ごめんなさい、お話に夢中で気づかなかったわ」
「ううん、大丈夫。ソリテールはまたアウラ様とお話ししてたの?」
「ええ。アウラとお話しするのはとても楽しいの。魔族には私のお話に付き合ってくれる人はいなかったから。本当に素敵ね」
「いい迷惑だわ」
「むぅ……」
ソリテールは私に気づいたのか、そう話しかけてくる。ソリテールにとってはお話しすることは楽しいことらしい。魔族はみんな魔法が好きなのだが、ソリテールはそれ以外のことも好きなのだろう。魔族では変わり者扱いされているらしい。私もよくそう言われるが、きっとソリテールほどではないはず。アウラ様もそれに言い返しているが私には分かる。アウラ様も本心でそう言っているわけではないことが。魔族でも、私はアウラ様の嘘を見抜くことができる。だからこそ、知らず頬を膨らませてしまう。まるで大好きなアウラ様を取られてしまったような感覚。
「心配しなくてもアウラを取ったりはしないわ。貴方も一緒にお話ししない? 難しい話じゃなくて、もっと簡単な話にするから大丈夫よ」
「私だって神官だから大丈夫だよ。ちゃんと教典だって読んでるんだから」
「なら枕にして寝るのは止めなさい。はしたないわよ」
「……うん」
「本当に仲が良いのね。羨ましいわ。まるで人間の親子みたい」
「? 私とアウラ様は主従だよ?」
「そうね。本当に興味深いわ」
それを逆に見抜かれてしまっていたのか。ソリテールにからかわれるも、結局アウラ様に叱られてしまう。これではシュトロの時と同じだった。でも仕方がないのかもしれない。生きた年月で言えば、私は二人に比べればまだまだ子供なのだから。親子みたいだと、みんなからもよく言われる。私とアウラ様は主従だけど、人間たちからはそう見える、騙されるのだろう。騙す気もないというのに。魔族であるソリテールからもそう言われるとは思わなかったけど。
(うん。やっぱりソリテールは魔族だね)
その目で見ながら、改めて確信する。ソリテールが魔族なのだと。その魔力も、在り方も。変わり者ではあるが、間違いない。中々私とお話ししてくれる魔族がいない中、その例外がソリテールだ。難しい話は苦手だが、それでも魔族がどういうものであるかや、外の世界の話を教えてくれる。私にとってはアウラ様以外の、初めての魔族だった────
「本当にアウラは変わったわね。まるで別人、人間みたい」
祝福と裁判のために出て行ったアウラ様のことを、ソリテールはそう口にする。それに私は何も言い返せない。それは他でもない、私自身が感じていたことでもあったから。知らないのは
「アウラ様は魔族だよ? そんなにアウラ様は昔と違うの?」
「ええ。七崩賢の頃は魔族らしく、本能のままに人類を蹂躙していたわ。愚かなぐらいにね」
天秤ではなく、断頭台と呼ばれていた頃のアウラ様のことだけ。何度かその頃の話を聞いたことはあるが、やはり今の、私が知っているアウラ様からはかけはなれた存在だった。でもそれは事実なのだろう。アウラ様に付き従っている魔族たちもそれを口にしていたのだから。魔族は平気で噓をつくが、魔力には嘘をつけないのだから。
もし今アウラ様がそうなったら私はどうするのだろうか。ヒンメルならどうするのか。きっと止めようとするのだろう。でも、きっと私はアウラ様に付いて行くのだろう。私はアウラ様の従者なのだから。
「でも今は違うわ。彼女は人間社会で生きる中で、魔族にはない、人間の強みを手に入れてしまった。私もそれには到底及ばないぐらいの。魔王様ですら、例外ではないでしょうね」
ソリテールはどこか興奮したように、長々と話を始めてしまう。こうなってしまっては私には止めることはできない。できるのは黙って聞くことだけ。でもその内容はアウラ様のこと。なのでもう少し頑張って聞かなければ。気を抜けば居眠りしてしまいかねない。
「そのせいで歪んでしまっているけど、それも魅力的ね。今のアウラの方が私は好きよ。私のお話にも付き合ってくれるし。友達になれるかしら」
そんな眠気を覚ますような言葉が耳に届く。私にとって、いやアウラ様にとっても特別な意味を持つ言葉が。
「友達? ソリテールはアウラ様と友達になりたいの?」
友達、という言葉が。魔族ではほとんど使われない、人間が好きな言葉。ソリテールはそれになりたかったらしい。他ならぬアウラ様と。
「ええ。人間みたいで素敵でしょう? アウラには断られてしまったけど」
でもそれはアウラ様に断られてしまったらしい。きっと恥ずかしかったんだろう。もしかしたら本当に嫌だっただけかもしれないが。
「友達なら私にも分かるよ。アウラ様はヒンメルとも友達だったんだから!」
ようやく私にも分かる内容になったのでそう教えてあげる。アウラ様にとってはヒンメルが一番の友達だったのだと。人間たちには夫婦だったり、番だったりと言われていたが、やっぱりあの二人は友達だったのだろう。だって二人とも一緒にいると本当に楽しそうだったのだから。一緒にいると楽しい、嬉しい。それが友達なのだろう。
「ヒンメル……勇者ヒンメルね。本当に皮肉ね。勇者と魔王様が同じ夢を抱いていたなんて。本当に興味深いわ。ねえ、リーニエ? アウラと勇者の話を聞かせてもらえないかしら? アウラは恥ずかしがって教えてくれないの」
「え? ううん、私もソリテールには喋っちゃダメだってアウラ様に言われてるの」
「本当に抜け目がないのね。まだまだ楽しめそうだわ」
残念がりながらもどこか楽し気なソリテールに首を傾げるしかない。聞きたかった話が聞けないのに、何がそんなに楽しいのか。でも流石はアウラ様。ソリテールが私に聞いてくることも分かっていたのだろう。やっぱりアウラ様は凄い。きっとヒンメルとのことは誰かに話したくないのだろう。ヒンメルがいなくなってから、アウラ様は私にもヒンメルのことを話さなくなってしまったのだから。
「友達といえば……そういえば似たようなことを言っている人間がいたわね。魔族と友達になったとか。目が見えない男の子で。名前は何だったかしら……」
その瞬間、思わず体が跳ねた。友達、という言葉にではない。ソリテールが話している内容に。それが誰のことを言っているのか。私にはこれ以上にない心当たりがあったのだから。
「っ!? もしかしてヴィルのこと!?」
それはきっとヴィルのことだ。間違いない。目が見えない男の子なんてそんなにいるわけない。何よりも、魔族と友達になっている人間の男の子なんて、きっとヴィルだけだろう。
「ああ、そういえばそんな名前だったかしら。思い出したわ。その友達が貴方だったわね。すっかり忘れてしまっていたわ。ごめんなさい、興味がないことはすぐに忘れてしまうの」
本当に忘れてしまっていたのだろう。でも私にも覚えがある。興味がないことは本当に覚えることができない。もしかしたら、魔族の習性なのかもしれない。でもそんなことはどうでもよかった。
「ヴィルに会ったの? いつ? 元気にしてた? 私のこと覚えててくれた?」
今はヴィルのことが気になって仕方がなかった。何時会ったのだろうか。元気にしているだろうか。覚えてくれているだろうか。いや、きっと覚えていてくれているのだろう。だって私のことを友達だと言ってくれたのだから。村や聖都以外でできた、私を魔族だと知らないままでも友達になってくれた初めての人間の友達。
「ええ。貴方やアウラのことをたくさんお話ししてくれたわ。目が見えない分、お話が好きだったのね。とても参考になったわ」
ヴィルはやはりヴィルのままだったらしい。そういえばヴィルもお話が好きだった。目が見えない分、きっとお話が上手なのだろう。私もヴィルとお話ししていて楽しかった。ソリテールならきっともっとだろう。
「そっか、良かった! 今度会う約束してるの。忘れないようにまた会いに行かなくちゃ」
思い出すのは約束のこと。もう一度会ってお話しする約束を私はした。魔族の将軍のこともあって、それは叶わなかったが今度会うことがあれば。約束は破ったら駄目だとも言っておいた。なら私も忘れないうちに会いに行かなくては。そう思うも
「? それはもう無理よ。もうあの人間はいないもの」
それはソリテールの何気ない言葉によって否定されてしまった。
「え? いない? ヴィルが? どうして?」
────動悸がする。眩暈がする。立ち眩みがする。
こんなこと、生まれて初めてだった。私が私じゃないみたい。分からない。何でこんなことになっているのか。分からない。
「だって私が殺したもの。もう食べてしまったわ。当たり前でしょう?」
目の前の魔族が何を言っているのか。私には理解できない。いや、違う。理解できていた。何で理解できない振りをしているのかが。
「……何でヴィルを殺したの?」
私はただ問いかける。何も考えることなく。そんな当たり前のこと。聞くまでもないことを。誰よりも、魔族である私がそれを理解しているのに。知らない振りをして。
ようやく気付いた。今の私が、あの時のアウラ様と同じなのだと。ヴィルを、村人たちを殺した魔族の将軍を前にした時のアウラ様と。あの時、アウラ様が何を言っているのか。どうしてそんな風になっているのか私には分からなかった。でも今は違う。私には分かる。目の前にいるのが
「おかしなことを聞くのね。魔族だからに決まってるわ。それに私はお話しした人間は必ず殺すようにしているの。私は臆病だから、人間たちに私の顔や名前を知られたくないのよ」
天秤の従者として、勇者の一番弟子として、許してはならない存在であることを。
「っ! お前────!!」
瞬間、叫んでいた。自分の声ではないように。衝動のままに。そのままその手を剣の柄にかけるも
「私に手を出そうとしているの? 止めた方がいいわ。魔族なら分かるでしょう? 私と貴方の力の差が」
その剣を抜くことが、私にはできなかった。
「────」
身体が動かなかった。まるで拘束魔法にかかってしまったかのように。微動だにできない。そう、ただ魔力を向けられただけで。アウラ様の倍以上あるであろう魔力の奔流が私に向けられている。ただそれだけで。
知らず身体が震える。汗が滲む。何度も、何度もその剣を抜こうとするもできない。まるで剣が私を拒んでいるかのように。私には、ヒンメルの剣を、勇者の剣を抜くことができない。
ヒンメルならできたはずなのに。ヒンメルならそうしたはずなのに。
「人間の真似をしているの? そういえば貴方は勇者ヒンメルの弟子だったわね。なら勇者の真似かしら? でも貴方は遠く及ばないわ。私は実際に勇者ヒンメルと対峙したこともある。とても素晴らしかったわ。命乞いをしたぐらいよ。あれは正真正銘の怪物だった。貴方のはただの真似事よ」
その答えをソリテールは明かしてくる。私が偽物で、真似事だからと。誰よりも私自身が分かっていたこと。ヒンメルの剣を持っていても、私はヒンメルにはなれない。魔族である私には、勇者の真似事すらできない。一番弟子だと言ってくれたのに、私は魔族に、敵に立ち向かうことができない。
それに屈するように、私は剣から手を離す。まるでアウラ様の魔法にかかってしまったように。魔族の本能に負けてしまった私の姿。
「そう。それでこそ魔族よ。良かったわね。貴方はアウラほど歪じゃなかったようね。無駄なことはするべきじゃないわ」
それをソリテールは褒めてくる。それでこそ魔族だと。私が正しいと。私の中の私がそれを肯定する。それが正しいと。命を無駄にするのは愚か者だと。ただ生き延びること。それが私の生き方。なら何も間違っていない。なのに
「私と敵対するのはアウラの望むところじゃないわ。お互い利用価値があるんだもの。同じ研究者としてね。いいえ、友達かしら」
なのにどうして私の手は拳になっているのか。唇を嚙んでいるのか。
そう、私の判断は正しい。ここでソリテールを敵に回すのはアウラ様にとっても得策じゃない。危険に晒すこと。互いに利用する関係。それが魔族には相応しい。私とアウラ様がそうであるように。でも、それでも
「あんたは、アウラ様の友達なんかじゃない……」
それだけは認めることはできない。それは、あの二人に対する侮辱に他ならない。
「そう、残念。そういえば共犯者だって言われたわね。それも悪くないけど、友達も興味があるの」
それを全く気にすることなく、理解することなくソリテールは楽し気にしている。ようやく分かった。こいつにとっては興味があるかないか。それが全てなのだ。こいつは誰ともお話なんてしてない。ただ独りで勝手に喋っているだけ。相手を理解しようなんて、これっぽっちも考えていない。
「一つ約束して……ヴィルのこと、アウラ様には言わないって」
それでも言わなくてはいけなかった。しても全く意味がないことだとしても。それだけは。何かに縋るように。
「んー? 何でそんなこと……」
その意味に、こいつは気づけない。自分のことしか考えない魔族だからこそ。
「それを知ったら、アウラ様が悲しむから……」
自分ではない、誰かのことを考えられないこいつには。きっと一生、死んでもこいつには理解できないに違いない。
「? ────ああ、そういうこと。心配しなくても最初から言う気はないわ。そもそも今まで忘れてたんだから」
ヴィルの名前も、存在すらも忘れていたこいつには。きっとこの約束ですら例外ではないだろう。
「今のアウラにそれを伝えるのは私にとっても好ましくないわ。教えてくれてありがとう。助かったわ。だから仲良くしましょう? 仲直りかしら?」
偽りの笑みを浮かべながら魔族が手を差し出してくる。他者でなく、自身にとっての利害でしか物事を判断できない魔族。人間が私たちを嫌悪する理由がようやく分かった気がした。私たちがこんなに嫌われるのも当然だろう。でもそれを謝ったりはしない。これが私たちなのだから。
「嫌よ。私、あんたのことが嫌いだもの」
「素敵ね。でもまだまだ時間はあるわ。もっとお話ししてくれると嬉しいわ、リーニエ」
その手を取ることなく、欺くことなく告げる。私の言葉を、気持ちを。それすらもこいつにとっては興味の対象でしかないのだろう。今はそれでいい。これがヒンメルならそうしたからなのか、アウラ様の役に立つためなのか。それとも私自身なのか分からない。それでも
「────私は、あんたを許さない」
私の友達を殺したこいつを、私は決して許さない。
ソリテールは気づけなかった。魔族であるが故に。自らが自身の
前話と合わせて、リーニエとソリテールに関するエピソードを間章という形で投稿させていただきました。これで過去のエピソードは全て終了となります。次話からは終章であるフリージア編に突入します。お楽しみに。