ハルミヒトセと願いの叶う薬   作:白梅つばめ

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惚れ薬

「あの!」

 

 よくとおる少女の声が廊下をかけていく。少女の声に応えようと数人が振り向いたが、少女はその綺麗なアッシュブロンドをはためかせながら振り向いた少年たちを追い越していく。

 

「あっ待って!」

 

 クロエはすたすたと声なんて気にとめず歩き去ってしまいそうな少女を追いかけた。

 

「ヒトセ……ハルミ、ヒトセ!」

 

 ヒトセは体半分だけ振り向いて声をかけてきた少女を見つめ返した。

 クロエはそれを返事だと判断して、話を続けた。

 

「お願いがあるの!」

 

 

 

「嫌」

「そこをなんとか!」

 

 もうすっかり興味を失った、というように目も合わせずに早足で次の教室に向かうヒトセにクロエはぴったりと歩幅を合わせながら追いすがる。

 

「貴女、次の授業は私と同じじゃないんじゃなくって?」

「隣の教室よ!」

 

 返事は別に聞いてなかった、というような表情のヒトセにクロエは畳み掛けた。

 

「ヒトセしか頼める人がいないんだもの!」

「お店でも売ってあるでしょう、惚れ薬なんて」

「あんなのジョークグッズじゃない!」

「あら?そうかしら」

 

 クロエとヒトセが並んで早足でかけていくのを周りは興味深そうな顔をして見物している。

 アッシュブロンドの髪にとびきり綺麗な空の色の瞳、息をしているだけで目立つ容姿のクロエが、彼女と同じくらいに注目の的であるヒトセを追いかけて話しかけているのだから興味をひかれるのも当然のことかもしれない。

 ヒトセはちら、とその観客たちを視界にいれ、ため息をつくと

 

「お昼休みに話をしましょう」

と教室に逃げ込んだ。

 

 ばたん、と勢いよく閉められた扉の前でクロエは小さくガッツポーズをしたのだった。

 

 

「お昼休みに話をするとはいったけれど」

「ええ」

「ドアの前なんかで待って、その上授業が終わってすぐに私を呼んだりなんてしなくったっていいじゃない!」

 

 ヒトセはぶるぶると震えながらクロエを心底恨めしい、という表情でにらんだ。

 

「だって逃げちゃうかもしれないでしょう」

 

 しれっとした表情でクロエはそう返した。

 

「それになんで貴女とランチなんて」

 

 食堂の上にはテラスがあり、昼休みには食事をする人々でよく賑わっている。クロエとヒトセはそこの4人がけの席にそれぞれのランチボックスを広げながら座っていた。

 

「寮に帰ればご飯があったのに……」

 

 ヒトセははあ、とため息をついた。

 

「おごるっていったわ」

「それで借りの1つでも作ろうって魂胆が見え見えじゃない」

「あら、そんなこと考えてなかったわ」

 

 にっこり、とした作られた口角の角度にヒトセはまたため息をつき、だから関わりたくなかったのよ、こっちの子ったら強かでやりづらいんだもの……などと思いながらランチボックスをあける。

 

「どうして惚れ薬なんか必要なの」

「そりゃあ好きになって欲しい人がいるからに決まっているじゃない!」

「じゃあ、なんで私なのよ」

「そりゃあ私に先輩の知り合いがいなくて、貴女が3年生の魔法薬学の授業を受けてるからでしょ、惚れ薬、3年生の内容だわ」

 

 クロエはぽい、と放り込むような動作でサンドイッチを口に放り込み、咀嚼しながら続ける。

 

「1年生で3年生の授業を受けていて、しかも薬学推薦。貴女以外に頼む他はないじゃない」

 

 貴女なら頼みようはあるでしょう、と言いそうになったヒトセはデリカシーにかけるな、と箸でつまんだ唐揚げと一緒にその言葉を飲み込んだ。

 

「そのお箸ってほんと分かんないわ。それに東の出身の子たちはよく食べてるわよね、その、オベント?」

 

 サンドイッチボックスを食べているクロエに対し、ヒトセはお米に焼き魚、酢の物に漬物、といったヒトセにはなじみ深い『お弁当』を食べていた。

 

「お箸じゃなくっても食べられるものばかりだからフォークでも食べられるわよ」

「海藻とか酸っぱいのとかばっかりだから嫌よ」

「なに、食べたの?」

「いいえ?他の人から聞いたわ。あと思ったより量がないって聞いた」

 

 クロエの食べているサンドイッチのボックスと比べれば確かに量は少ないかもしれない。

 

「なんにせよ、諦めて欲しいわ。私は作りません」

「そこをなんとか!」

 

 ヒトセは少し悩んで仕方がない、と話し出す。

 

「言い方を変えるわ。私は作れません」

「どうして!」

「1、2年生の魔法薬学で扱ったり作ったりする薬剤や物の材料はどんなもの?」

 

 ヒトセは先生のような動作でクロエを指す。

 

「植物とか、薬草が多いわ。そうじゃあなくても基本的にはどこでも手に入るものばかり」

 

 クロエは勤勉な生徒のようにかしこまって返した。とん、と左手で机を神経質そうに叩いたヒトセは続ける。

 

「さて、私は今年入学したのにも関わらず、1、2年の魔法薬学は免除されて、3年生からになりました。何故3年生からになったでしょうか」

 

 むむ、といった顔でクロエが悩みだす。

 

 ヒトセはこれ幸いと、クロエが悩んでいる隙にお弁当を食べた。食べるのが遅いからおしゃべりしながらじゃあ、昼休みが終わってしまう。午後1番の授業は基礎妖精学。なるべくいい席に座りたい授業なのだ。

 

「ねえ、もしかしてだけど……ヒトセ」

 

 これが正解でありませんように、というような顔をしてクロエは導きだしただろう答えを告げようとヒトセの顔色を伺った。

 

「なにかしら?」

「ヒトセは魔法を使えない?」

「そうよ」

 

 この学校には簡単に別けて3種類の人間がいる。生粋の魔法使いと、道具や方法があれば魔法を使える魔法術師、そして魔法は使えないが魔法や妖精を見ることは出来る魔法渉者(しょうしゃ)

 

「だから魔法生物の材料がいくつかあるような……まさに貴女がつくって欲しいような惚れ薬は、少なくともきっと貴女が望むだろうこっそりとした形では作れないの」

 

 ヒトセは魔法渉者だ。

 惚れ薬に必要な人魚の鱗を魔法で液状になんて出来ないし、ユニコーンの角だって、チョラの実だって1人では処理出来ない。魔法薬学教室で出来ているのはそこにある道具や妖精の力を借りているからだ。

 今のヒトセは方法と理論を学んでいるだけであって手段を持っている訳ではない。

 

「そんなあ……」

「それに作れたとしても作ってあげるほど殊勝じゃないわ」

 

 ごちそうさま、と手を合わせて食事を終えたヒトセは席を立った。

 クロエは追いかけては来なかった。

 

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