ハルミヒトセと願いの叶う薬   作:白梅つばめ

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まじない薬

「まじない屋の薬なのだけど」

 

 クロエとライリーが食事の手を止めてヒトセを見つめる。ライリーはかぶりつこうとしていたハンバーガーからずるり、とトマトを皿に落っことした。

 

 気づけばヒトセ、クロエ、ライリーの3人でランチをしていることが多くなった。というのも、ヒトセとクロエはそれぞれ薬学と魔法に関する授業を多く取っていたり、受ける授業のレベルが違っていたりして同じ教室で受ける授業はたったの2つだけ。だが、ヒトセとライリー、クロエとライリーはそれぞれ同じ教室で受けるものがいくつかずつあり、授業終わりにそのまま食堂に歩いていくうち、同じ席で昼食をとるのが習慣づいたという訳だった。

 

「今の時点でもはっきり分かったことがあって、聞いて欲しくて」

 

 ヒトセの興奮した様子にクロエは頬をほころばせた。クロエはヒトセの目がきらきらとしているのが大好きだった。

 

「何種類のものがどれだけの分量ずつ入ってるかがまず分かったから、そこから材料を割り出していったのだけれど、今分かっている材料でも配合が絶妙だってことがはっきりと言えると思うの!」

「配合が絶妙って?」

「わざと薬にならない量だけ材料を入れているのよ」

 

 ヒトセの手に入れた『おしゃべり上手の薬』は少し頭が冴えたような気になって、重く閉じた口だって閉じていたことを忘れて喋ることが出来る……かもしれない薬、といったところだろうか。全部の材料を特定しなければ確実な答えは出せないが、短くいえば『緊張しいや勇気の出ない貴方のきっかけ薬』、だろう。まさにまじないらしい効果であるといえる。

 

「薬は勿論万能ではないけれど、条件が揃えば確実な効果があるように作られている、でしょう?」

 

 そう言うヒトセにクロエもライリーも頷く。

 

「でもまじない屋の薬は効果があるか、ないかの瀬戸際を狙い済ましたかのような配合で作られている、と見て間違いないと思うの」

 

 ライリーは話を聞きながら大事そうに両手で持って、口と皿の間をふらふらとさ迷わせていたハンバーガーをようやく皿に置き、口を開いた。

 

「効果がなかったら意味がないんじゃあ」

 

「そこが肝よ。所詮おまじないだ、って言いきれるくらいの効果なの。摂取した人物が主導権を握ることの出来るくらいの」

 

 クロエはああ、と納得した声をもらす。

 

「『いたずら』に使っても、それまでってことでしょう?」

 

 そう言いながら、クロエはヒトセの方をちらりと流し見るような目で見つめながらわざとらしく、いたずらっぽく笑った。

 

 クロエの言うように、まじない薬は『いたずら』に使って効果があるというものでもなければ、誰かへの『いたずら』に使うとしても確実性がない。いたずらに使うなら多少は計画が必要となるだろうし、計画までしたのならまじない薬を使った結果というのは比較的ましな部類になるだろう。

 

 そういう意味ではまじない屋は学生生活において、必要な店に違いない。

 

 それにしても、クロエのわざとらしい笑み、はそれはそれは魅了的な表情ではあるのだが、ヒトセはクロエがわざとそんな風に笑ったこと、が分かるようになった自分にむず痒さを感じた。感じたむず痒さを誤魔化すようにヒトセは続ける。

 

「効くも効かないも気持ち次第だなんて、思わず懸命になってしまうでしょう?」

 

 そう聞いたライリーは理解が追い付いて来たようだ。

 

「ああ、だから、所詮、おまじない」

 

 ライリーはこのヒトセのおまじない薬の分析結果に満足したのか、トマトを慎重に元の位置だろう位置に戻した後、ハンバーガーを食べ始めた。

 

「ヒトセって土曜の午後は空いているのよね?今週は空いている?」

「ええ、空いているわ」

「ここにアドレイ先生が採点したレメナスとハチエムの茎のレポートがあります」

 

 クロエがちら、とレポートの端を見せながらヒトセをじっと見た。さあ、評価をあててみて、ということだろう。ヒトセは少し悩みながら言う。

 

「……A」

「惜しいわ!A-」

「どうして減点なんてされてしまったの」

 

 ヒトセは、クロエから手渡されたレポートをぱらぱらとめくり内容を確認する。およそ申し分ない内容だと思うのだが、何がどうマイナスなのだろう、と首をかしげながらクロエの方を見る。クロエは何か恐ろしいものかのようにレポートを見ており、ヒトセはさらに首をかしげた。

 

「それ、アドレイ先生に、手伝ってもらいましたね?と一言ぽつ、と呟かれながら渡されたの」

 

 ヒトセはそっとレポートを閉じながら天井を見上げた。

 

 アドレイは少しの言葉で人を縮み上がらせる才を持っておられるのかしら、とヒトセはしきりに関心した。そして、何もかもお見通しですよ、と言うような厳しい顔でこちらを見つめるアドレイが脳裏をよぎり、心底恐ろしくてたまらなくなる。天井には神はいないし、そもそもヒトセは祈る相手を持たないが、なんとなく神にすがりたくなる心地だった。

 

 恐らくは普段のクロエなら選ばないような本が参考文献の欄に並んでいたために、察しがついたのだろうが、理屈が分かっても恐ろしいことはあるのだ。

 

「軒並み減点、失点の中、A-は大きいわ、とても!ありがとうヒトセ」

「いいのよ」

「ねえ、ライリーはどうだったの?褒められていなかった?何かが素晴らしいって……」

「人を頼ってさえこのようですが、人を頼ることを覚えたのが最も素晴らしい、だって、B-だったよ。アドレイ先生の授業でB-なんてとれると思ってなくって、あ、ありがとう2人とも」

 

 にへ、と屈託のない笑顔を見せるライリーにヒトセもクロエも目をしぱしぱとさせた。

 

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