ハルミヒトセと願いの叶う薬   作:白梅つばめ

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手紙

 コンコン。

 

 もう少ししたら眠ろうかしら、とヒトセがペンを置いて伸びをしていたところで、部屋のドアがノックされる。ドアの方に頭を向けるとギ、と椅子が軋んだ。

 

「あ、ヒトセ~入っていい?」

「……?どうぞ」

 

 クロエがヒトセの部屋を訪ねて来たのは例のパウンドケーキの時以来だ。なんだろうとヒトセが入室の許可を出してドアの方を見ていると、よいしょ、という掛け声と共に椅子を抱えたクロエが部屋に入ってくるところであった。

 クロエはヒトセの傍まで椅子を運んで設置すると、はじめから椅子がここにあったかのように平然と腰掛け優雅に足を組んだ。

 

「私の部屋、持参物に椅子なんて書いたかしら?」

 

 じわじわとクロエの一連の動作が染みてきてヒトセは思わず口を押さえる。そんなヒトセにクロエは気取った顔つきをしながら、前に垂れていた髪をファサ、と貴族のお嬢様のように肩の後ろにやる。

 

 卑怯だ。

 

 椅子を持参して入ってくるのも予想外だったのに、自分の部屋のようにその椅子に座り出すし、何もかもの所作にはもうこの部屋の主のような貫禄すらあった。堪えきれなくなったヒトセが声を出して笑うのに満足したのかクロエは話し始める。

 

「今日、昼休みに願い事の叶う薬の話を聞いたの」

「え」

 

 クロエは昼休みに聞いた女の子たちの噂話をヒトセに伝えた。

 

「手紙……」

 

 そう呟いたヒトセは、クロエの暖かそうな刺繍のついたカーディガンの小さなポケットからはみ出ている手紙に気がついた。

 クロエは封も切っていないそれをヒトセの手に渡す。

 ヒトセも、クロエも、噂話を聞いてすぐに手紙が届いたなんて話が出来すぎている、と思い眉をひそめる。

 

「ヒトセは?」

「もらっていないわ」

「なんだか気分がよくないわね」

 

 これまでクロエがまじない屋を訪れた際には集まった者同士で会計をまとめて支払う形をとっていて、クロエは自分の会員カードを作る機会がなかった。そのためヒトセやライリーと一緒に行ったこの間に会員カードを作ったのだ。あの日カードを作った人にこの手紙が届く仕組みだったならヒトセにも来ていないとおかしいのだ。

 

「クロエの会員カードは?」

「ここに」

 

 ひら、と手紙と同じポケットからカードも出てくるが、刑事物の遺留品のように透明の袋に入っていてヒトセは思わず目をむいた。

 

「こういう会員カードってすごくときどき魔法がかかっているのだけど」

「こんなに小さいのに?」

 

 はあ、とヒトセが感心したような顔をする。クロエが魔法の話をすれば、ヒトセはまるで初めて外に出た子供のように真剣になるから、そんな表情に毎度どきり、とするのだ。

 

「そう、例えばセールの日に店の近くに来たら音が鳴るように、とかね。コストに見合わないから大規模な魔法がかけてあることはほとんどないけれど……」

 

 店の近くに行くと、であれば店側にも魔術や魔法を仕掛けておけば可能そうだ、とヒトセは机の上に並ぶ魔術の教科書の背表紙を見つめながら思う。

 

「ヒトセの会員カードを見ていい?」

「ええ、少し待ってね」

 

 ベッド横にかけてある制服から財布、そしてカードを取り出して来て、カードをクロエに手渡した。

 

「……あ」

「どうしたの?」

 

 ヒトセの目には同じように見えるのだが、クロエはカードを凝視しながらじっとしている。

 

「カードはライリーのも見比べてみないと分からないけど、とりあえずここ、見てちょうだい」

 

 ここ、とクロエがヒトセのカードの端を指差す。そこには切符の改札ペンチのような切り跡があり、続いて指差したクロエのカードの端はその切り跡がとても小さくほとんどない。

 

「もし誰かが気に留めても手作りなので、と言えば皆そうか、となるけれど、もし魔法がかかっているのなら……」

 

 ヒトセはクロエがカードを袋に入れてきた理由が分かってきた。

 

「大きく切り跡があると発動しない……?」

「可能性がある、と思う。カード、何か魔法がかかっていることくらいは分かるのに、この間のまじない薬を調べたヒトセみたいにあれこれ分からないのが歯がゆいわ」

 

 ヒトセは悔しそうなクロエの手をとった。ヒトセからクロエの手に触れてくるなんて初めてで、クロエはぶるり、と震えそうになるのを堪えた。確かに不甲斐ない自分が悔しいのに嬉しい、が勝ちそうな自分に少し呆れる。慰めるようにきゅ、と握ってくるその優しい加減にクロエは喉をきゅう、と鳴らした。

 

「ヒトセ、鋏か何かあるかしら」

「ペーパーナイフもあるわよ」

 

 ヒトセから手紙とペーパーナイフを受け取りクロエは手紙を開けた。

 

「本当になにも書いてないわ」

 

 熱心に表に、裏に、と確認したが何も書いていない。

 

「まずヒトセのカードを手紙ごしに見てみましょう」

 

 2人の膝を付き合わせてカードを置き、そのうえに手紙をかざしてみる。

 

「なんともならないわね」

「ええ」

 

 なんとなく空気が緊張してきて、自然と無口になる。パリ、とクロエが袋から自分の会員カードを取り出す音が部屋によく響いた。

 

「あ」

 

 先ほどと同じようにして膝に置いたカードを手紙ごしに見れば、手紙にうっすら文字が見えてきた。

 

『裏通りのゴースト、6-5』

 

「なんのことだか分かる?」

 

 ヒトセに問われてクロエは口を開いた。

 

「私たちが行ったお店が沢山あるのが表通り、お店屋さんたちの家や居住区があるのが裏通りになるんだけど……」

「そこにゴーストが出るの?」

「まじない屋のものと違って何十年ものの噂なんだけどね。裏通りの、ランベッド通りに人と思えないほどの容姿の言葉を話す何かが現れて二、三質問をしてくるって話があるのよ」

「本当にここの人たちは噂が好きねぇ」

「それはホントにそう……」

 

 クロエはまじない屋の噂と、裏通りのゴーストの噂が繋がることになんとなく違和感を覚え、む、と考え込む。ヒトセはヒトセでまた噂という言葉を聞いて嫌そうな顔をしていて、2人して神妙な面持ちで手紙とカードを見つめていた。

 

「それじゃあ、この6-5って」

 

 ヒトセの言葉にクロエはカードを袋に戻しながら言う。

 

「願いの叶う薬に関する場所の住所でしょうね」

 

 

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