ハルミヒトセと願いの叶う薬   作:白梅つばめ

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マダム

「あら、よかったわね、お友達来たわよ」

 

 ヒトセとクロエはひどく脱力していた。

 

 あのときライリーは『やっぱり』と言った。

 つまりライリーはコールがここに現れるかもしれないことをあらかじめ知っていたことになる。

 振り返れば妙ではあったのだ。

 

 ライリー・コップスは特別噂好きと言うわけではない、とヒトセとクロエは思う。この学校には常にといっていいほどいろいろな噂が流れている。だけど、彼が気に掛けるのは願いの叶う薬のことだけ。

 

 それならば願いの叶う薬の噂を駆け回って確かめたり、そのうえでのめり込んだりしているのは叶えたい願いがあるからか、といえば、どうもそれにしてはあまりに欲がなかった。

 

 ライリーが願いの叶う薬を追っていたのはコールに理由があった、となればこれまでの何もかもに説明がつくのだ。

 

 ヒトセとクロエだって、互いに何もかもを話すことはないだろう。それぞれにそれぞれの思うだけの秘密があって、考えがあって、必要なだけ教えあえばいいのだから。きっとコールのことはライリーにとってとてもとても大事なことだったから、おいそれとこの事情を言わなかったのだ。

 

 それでもヒトセとクロエはライリーに話を聞かなくては、と思った。

 力になりたかったから。

 友達として。

 

 聞いても何も出来なかったら?そもそもライリーが話をしたくなかったら?ヒトセとクロエはそんな不安な気持ちを誤魔化すように手を繋ぎながら、ライリーの元に急いでいた。

 

急いでいた、というのに。

 

「あ、あの、ありがとうございます、もう、大丈夫なので、あっもうポケット入らない、から……ああ」

「食べ盛りでしょう、美味しいわよ」

 

 ライリーはモテていた。

 

 5人のマダムにベンチの両脇と前を固められ取り囲まれたライリーは汗をかき、しどろもどろになりながら……モテていた。

 ポケットにはお菓子やら果物やらを詰め込まれ、もしかして今日はハロウィンだったかしら、といった有り様であった。

 

「ああ、その子ね、探し人って。見つかってよかったわね」

 

 マダムの1人がヒトセとクロエの繋いだ手を見て言う。

 

「こりゃあ、探すわね、ふふ」

 

 ばしばしと叩かれたライリーはひたすらに困ったようにえへえへと笑った。

 

「この子ね、顔真っ赤にしてるのにそれでも走ろうとしてて、聞けば友達と来ていて探し人がいるっていうじゃない、でももう限界に見えたからねえ」

 

 マダムたちの包囲網はライリーを走り出させないための優しさであったらしい。

 

「じゃあおばちゃんたち行くからね、無理はしちゃだめよ」

 

 それを合図にマダムたちは3人のお礼の声に賑やかな声を返しながら、各々立ち去っていった。

 

 マダムたちが去れば途端にしん、とした緊張感のある空気がはりつめた。沈黙の中、寒さを余計に感じさせるような白い息がふうふうと空気を漂っていく。

 

 そんな中ヒトセがぶるぶるとしながら口を開いた。

 

「……ねえ、私が迷子になったと思われたみたいなのだけれど?」

 

 ヒトセは何処に向ければいいのか分からないなんとも悔しいような気分であった。誰も悪くないのにヒトセの気分だけは悪くなった。

 

 そんなヒトセを見て、クロエとライリーは吹き出した。

 

「そんなに笑わなくったっていいじゃない、もう!」

 

 ヒトセのそんな声と2人の笑い声は緊張を溶かしていった。

 

 

 

「ごめん、取り逃がしたわ、足、速かった」

 

 そう言いながらクロエは悔しそうな顔をした。それを見てライリーははっとしたような顔をする。

 

「そういえば兄さん飛行クラブ、だった……」

「3年も続いているとしたら納得ね」

「納得って?」

 

 ヒトセのその問いにクロエは降参、というような手振りをしながら言う。

 

「飛んでいるより地面を走っている方が多いようなクラブなのよ。飛行コースの下見にその距離走るとかね」

「理屈は分かる、けど顧問が走りたいだけなのかも、って……あ、ごめん、少し」

 

 ライリーはよたよたとまだ本調子でなさそうな足取りで少し先の道をゆっくりと歩いていたマダムの元へ歩いていく。

 

「先程はありがとう、ございました。あの、どうしてもお礼がしたくて、荷物を少し持たせていただけませんか?」

 

 よく見れば先程ライリーの横に座っていたマダムの1人であった。マダムは少し大きな鞄をえっちらおっちら抱えて運んでおり、どうにも難儀そうな様子であった。

 

「あの類の鞄って収納力はまあまああるのだけれど、荷物の重さまでなんとかしてくれる物は少ないのよね」

「あら、そうなの?じゃあ、学校の鞄ったら特別なのね」

 

 ヒトセはいつも持っている学校の鞄のことを思い浮かべた。かなりの量の教科書をつめても思っているより重くならないのだ。

 

「ヒトセはきっとアタリをひいたのね」

「アタリ?」

「家に引き継いでいる鞄や制服がなければ……いえ、鞄の場合はあっても大体の生徒は鞄室から受け取った鞄を使っていることが多いの。ヒトセもそうでしょう?」

「ええ、鞄室なんて物があったのも驚きだけれど、入学前に好きなものを選びなさいってイン先生に連れて行っていただいたわ」

 

 入学前、制服や鞄を仕入れる際、ヒトセはインに連れられ、鞄室や制服室などに足を運んだ。シャツや靴下のような消耗品は個人で買うことになるが、作りのしっかりしている鞄や上着やスカート、ズボン、コート等はここにあるものから選んで必要であれば直しを入れてもらえばいいだけだから費用の心配はしなくていい、と説明されたのを覚えている。

 

 学校側でも補充しながら、卒業生が伝統的に置いていくこれらを綺麗にして、修繕して、受け継いでいるらしい、と聞いて、こんなにも新品のように見えるのに?と選んだ鞄や制服を眺めたことを覚えている。

 

「上級生の授業だけどこの鞄に魔法や魔術をかける授業があるの。この鞄は頑丈だし、練習にはもってこいの素材で出来ているから。それで、各々好きな魔法をかけるでしょう?鞄にかけるなら、って収納をよくしたり、重さを軽くしたりしようとするのよ。大抵は上手くいかないけれどね 」

「ああ、だからアタリなのね」

「そうなの」

 

 ライリーの制服に彼の祖母が施したという魔術のことを思いだし、ヒトセは少しどきどきした。きっと魔法の鞄だわ、そう思ってはいたけれどはっきりとそうだと意識すると、余計にどきどきしてしまう。

 

 2人がそうこうやっているうちに、ライリーのナンパが成功したのか、よっ、と重そうな鞄を抱え上げた。そしてライリーが見事によろけたのを見て、ヒトセとクロエは駆け寄った。

 

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