ハルミヒトセと願いの叶う薬   作:白梅つばめ

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ドーナツ

『特異性魔法使い。系統的な魔力を有する者のうち、一般的なヒト的特徴と異なった身体的変異または形質的変異を持つ魔法使いのことを指す。狼男、人魚、吸血鬼などが顕著に特異性を示している例であると言える。また、彼らにおいて最も注目すべきは……』

 

 ヒトセはセスに言われた『特異性魔法使い』について調べるべく図書館へ足を運んでいた。どうにも難しい内容なのは間違いないな、とヒトセは口を尖らせた。魔法植物や魔法薬のことでなければ、滅法知識が少ないものだから、余計に複雑に感じてしまう。

 

 あの後、クロエが戻ってきて少しほどで、続けざまにライリー、コール、そして魔術具が戻ってきた。

 

 お菓子を少しつまみながら勝手に帰っていいものかしら、と皆で思いはじめた頃、職員の方に声をかけられ、トレイに並べられた沢山のドーナツの前まで連れて行かれた。ご褒美です、なんて優しそうに微笑まれてしまったものだから、なんだか断れず勧められたままに1人2つずつドーナツを選んで、それぞれ選んだものを袋に詰めてもらい、最後には丁寧に表通りの近くまで送ってもらった。

 

 なんだかぼんやりとしながら、ぽくぽくと袋を抱えて連れ立って歩く……そんな様子は傍から見ればそれはそれは仲良くドーナツ屋へ行った帰り、それ以外の何ものでもなく、そのことに十数歩ほど歩いてから思い至ったのだろうコールは

「妙なことに巻き込むのはこれきりにしてほしいね」

などと声をあげてから、今朝方からの疲れなんて忘れたように勢いよく駆け出した。

 

 軽い足音数歩ほどでうんと遠くまで跳ねていきそのまま走り去っていってしまった。それを見つめながらライリーが

「そもそもを巻き起こしたのは兄さんじゃあないか」

なんて言ったものだからヒトセたちは誰からともなく笑いが漏れて、次第に大笑いしあった。どこか緊張していたのだろう気分がやっと落ち着いて、そうして、晴れ晴れとした気分で学校まで帰ってきたのだ。

 

 借りていた備品の類をきちんと返却して、ライリーは空腹だからと食堂へ、クロエは寄るところがあるからと何処かへ、ヒトセはヒトセで調べ物のために図書館へ。それぞれ好きなように過ごすことのほうが多いから、解散もあっさりしたものだ。

 

「あ、だめだよ……」

 

 外から戻ってそのまま手に持って来てしまったから、机の端の方に置いておいたドーナツの袋が妖精たちにつつかれている。

 

「食べたいの?」

と問えば、こくこくと頷く様子にヒトセは思わず頬が緩んだ。

 

 図書館内での飲食には特に制限はない。火器を持ち込んでバーベキューでも始めようものなら流石に注意されるだろうけれど、本には魔法がかかっているためそうそう汚れはしないのだ。とはいえ、あまり食事をしている人は見ない。サンドイッチを頬張りながら勉強をしている人くらいはみたことがあるけれど、ドーナツはポロポロこぼれないかしら?とヒトセは少し不安に思った。

 

 少し本から離れたところにハンカチを敷いてそこで食べてもらいましょう、となんとか思いつき、また一言声をかける。

 

「2個入っているでしょう?私も後で食べたいの。でも、2個は多いから、片方どうぞ」

 

 ニコリとコソコソ話をするようにそう伝えた。きっと喜ぶぞ、と思ったものだけれど、想像と違って、妖精たちは険悪な雰囲気になってしまった。

 

 シュガーたっぷりのドーナツか、いちごのかかったドーナツか。意見が別れてしまったようだった。

 

「ああ、あー、ええと……2つのドーナツをそれぞれ半分にしてその片方ずつを食べて欲しいの!そうしたら私、両方の味が食べられるでしょう?きっちり二等分に割って欲しいのだけれどお願い出来る?」

 

 ヒトセが慌てて懸命に身振り手振りも交えてそう言い直すと、妖精たちはああ、なるほどと言った様子で険悪な雰囲気はどこへやら、楽しそうにドーナツを持ってヒトセの敷いたハンカチに移動して行った。

 

 全部あげたっていいけれど、ヒトセは妖精たちとはんぶんこすることが多い。全部あげようとすると困った顔をされてしまうのだ。

 

 今日はあまりに美味しそうなものだから食べてみたかったので、はんぶんこ、なのだけれど。

 

 今度は楽しそうにドーナツのどこが半分か話し合っているのを目の端に捉えながら、ヒトセはまた本に目を向けた。

 

『魔法使いの魔法を意識的に使う物だとするならば、特異性魔法使いのそれらは体質的に備わっている魔法である。そのため彼らの血肉は魔法そのものであり、彼らの多くもそれを用いた活用の術を持っている』

 

 だからこそその血肉にこそ価値を見出されてきたのだろうな、とヒトセはなんだか気分を悪くしながら、文字を目で追っていく。

 

 セスが特異性魔法使いについて調べるといい、そう言ったのはヒトセがアーレンフルイヤの維持やランプフィルの管理をフィローナがその血を使った魔法で成したのだろう、と言ったすぐあとであった。

 

「つまり、血を使った彼女の特別な魔法ではなくて、彼女の特別な魔法の備わった血の効果だということが言いたかったのかしら?」

 

 もしかすれば特異性魔法使いの存在はとても常識的なことで、それに無知なようだから調べるように勧めたのかも知れない。それとも……といろいろを考えてはみるものの、彼の意図の判断をできるほどヒトセはセスのことを知らない。

 

 かかっている魔法すら見抜く彼がヒトセが魔力を持っていないことに気が付かないことはないだろう。だからこそ。もし、ヒトセの植物に対しての様々な『得意』を体質的な能力だと捉えて、まるで特異性魔法使いに近いもののようだ、そう伝えようとしていたなら。

 

 セスの意図は

『気をつけろ』

と言うことなのだろう。

 

 さらに付け加えるのなら、君はもっと沢山のことを知るべきだ、だろうか。

 

 ふわりと目の前を妖精が横切る。そうしてヒトセの目線を奪うとするりとドーナツの方へと誘導する。そこには綺麗に半分ずつ残ったドーナツと、その作業を自慢気にする妖精たちの姿があった。

 

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