芽吹
あれから約10年。
僕たちは中学生になった。外見が多少変わっただけで、中身は対して変わってはいない。僕は170cm代前半とかなり身長が伸びたものの、童顔のせいか色んな人に下に見られることが多い気がする。逆にアイの身長は150cm代前半で少し小柄ではあるが、持ち前の人を惹きつける魅力と本人の性格で男女問わずファンが多い。そのため僕は、いろんな人に敵視され続けてきたのであった………。別に悲しくないよ?レー君嘘つかないよ?うん。
「おーい!!零ー!!!」
うわぁ、バカの声が聞こえる気がする。
絡まれる前に逃げるか。
「……って逃げんなよ!?」
そう言ってこのバカは僕の首を後ろから思いっきり掴む。
「………おいバカ、痛いからやめろ」
「あ、わりぃわりぃw」
「笑ってんじゃねぇぞ?ぶっ○すぞ?」
「いやお前、ほんと俺にだけ口悪いな!?」
このバカの名前は 尾崎
小学校の頃にアイに一目惚れしたよくあるモブの1人だ。
アイと距離が近い僕が気に食わなかったらしく、何度も絡んできた。だが、最終的には僕のことを認めたらしく、今ではすっかり僕とアイを推すカプ厨もどきである。…………いやなんで?
「………で、何の用?」
「お前さ、総合の地域探求の班ってもう決めた?」
「あー………まだだったと思うけど」
「ならさならさ!俺と組まねえか!?」
こいつ確か僕とアイ以外の友達いなかったよなぁ………。
だから、わざわざ僕を探してたってわけか。
「あれって確か最低2人でも班組んでいいんだっけ」
「そそ、最低2人の最高5人」
地域探求。この札幌に限定して我々中学生たちが各地にある伝統的な建物などに自ら赴き、歴史や文化をレポートにまとめるという授業である。
僕個人としては、この手の授業はあまり得意ではないためサボろうと思っていたため、まだ誰とも班を組んでいなかったのだ。
「悪いけど、僕その日サボるつもりだから……」
「えぇ……そこを頼むよ!お前が行きたいそうなところにするからさ!」
「いや、特に行きたいところなんてないんだけど? 家で篭ってたいんだが?」
そうだ、僕は家に篭っていたいのだ。
アイはここ数年でそれはそれは誰もが振り向く美少女となった。そのため、一緒にいる僕は周りから常に敵視に晒されてきたのだ。
一時期は、それで学校に行くのが嫌になって引きこもってたほどだ。アイはそんな僕を心配して学校ではあまり接してこなくなった。そのため、放課後しかアイと一緒にいれる機会はないのだ。
今回の総合の授業を僕がサボるならアイもサボらしく、僕からしたらここ最近はあまりアイとの時間を確保できてないため、サボってでもして一日中一緒にいたいわけなんだが………。
「………アイと一緒にいれる貴重な時間なんだよ、諦めてくれ」
「そっかぁ………悪いな」
相変わらずこの男はアイと僕が絡むと随分とおとなしくなる。
………まぁ、そこまで推してくれるのは嫌な気はしないけど。
「しっかしなぁ………せっかくお前が喜ぶと思って先生に話して許可もらってきたのになぁ………」
「許可?」
「おう、先生に許可もらってた」
「なんのさ」
「行こうと思ってた場所、普通じゃ入れんところだから先生に許可もらえないか頼んでもらってたってわけ」
「あぁ、そゆこと」
「にしたって、普段行かないとこって………どこ行く気なんだよ?」
「ん? 本町小学校だよ」
「………それは」
それはあの爆破事件があった小学校の名前だ。
詳しく話せば長くなるが、色々な理由から爆破されて廃墟となった小学校は今もそのままとなっている。
「小学校の頃さ、お前よく図書館とかで新聞集めて調べてただろ?あの小学校のこと」
「もしかしたら、ここに行けば記憶も戻るかもしれないしありかなって」
こいつは俺らが前世持ちであることを知っている。
アイが僕らを推す彼を見てうっかり漏らしてしまったのだ。それ以降、僕らに対してはカプ厨と化してしまったわけだが。
…………本町小学校か、確かに行けるなら行きたい。
僕とアイは小学生の頃の修学旅行をサボって僕の母を含めた3人で旅行に行ったことがある。僕の前世の記憶と思われる夢を見た際に、かろうじて『アクア』と『マリン』という名前が出てきたのを覚えていたため、星野アクアに接触したら何か思い出すのではないか?となり、接触するために僕たちは向かった。
母さんがいることもあり、事務所の名前で待ち伏せしたものの中々出会うことはできなかった。帰り際に彼女の子供たちだと思われる人物の後ろ姿を見かけただけだった。それでも、彼女は元気そうな彼らを見れて喜んでいた。
僕は、表向きは彼らを心配して彼女に会いに行かないかと誘ったため、それ以上無理に接触するのは控えた。それ以降、記憶のヒントとなる出来事も何もないまま今に至る。
「………アイには悪いけど、行くよ」
「あ?いいのかよ、アイが悲しむぞ?」
「分かってるよ。けど、僕はやっぱり自分が何者だったのかまだ気になるんだよ」
「………ダメか?」
「いや、誘ったのは俺だから別にいいんだけどよ………」
「………アイにはちゃんと言っとけよ」
「………うん」
ごめん、アイ。
せっかく2人きりでいれる時間を作ると約束したのに、こんな我儘を言う僕を彼女は許してくれるだろうか?
「まぁ、そうと決まったら色々決めんぞ!」
「はいはい……」
「ふーん?私よりもはっすとの時間を優先したんだ?」
目の前に阿修羅がいる。
めちゃくちゃ怖いんだけど。ちょっとでも動かしたら首を持っていかれそうなぐらい力強く僕の首を掴んでは目を合わせてくる。
…………いや、怖いってば!?
「最近ただでさえ、一緒にいれる機会少なかったのになぁ?」
「すいません、はい」
「………しょうがないか」
「え?」
「ちょっと待っててねー?」
そう言うと彼女は何処へいってしまった。
一体、何をしに行ったのだろうか?
「ただいまー!」
「………は?」
戻ってきた彼女の手にはビニール袋が握られていた。
………いや、そんなことは別にどうでもいいのだ。肝心なのは、その中身である。
全体的に赤色で、0.01と白い文字で書かれている縦長の箱がその袋には入っていた。
いや、それゴ○やん!?!? ちょっとちょっと!?
「……え、いや、アイさん?」
「なにかなー?」
「その………、その袋に入ってる物ってもしかして………」
「うん?ゴ○だよ!」
「いや、アウトだよ!?」
「何が?」
「いや、あの、一体何する気なんすか………」
「何ってナニだよ?」
はい終わりです。僕は間違いなく明日には干からびて死んでいることでしょう。心なしか目の前にいるアイがサキュバスに見えてきたのは気のせいだろうか?
というか、箱の数が10個以上はあるように見えるのも気のせいだろうか?本当に僕搾り取られて死ぬんじゃないかな。
「本当はね? 高校生になってからしようって思ってたんだけどね? 最近のレー君はちょっとおイタが過ぎるからさ、しょうがないよね?」
「………ハイ」
「じゃあ、朝までいっぱい愛し合お?」
「この体はまだ初めてだから一緒に慣れてこーね?」
「あはは………あは……は……」
「お手柔らかにお願いします………」
「うん!」
「それじゃあ………」
────このゴ○全部なくなるまで愛し合おっか。
そんな悪魔の囁きがその日の僕の最後の記憶であった。
腰が痛い。
というか全身筋肉痛だ。まさか、中学生で初めてを捨てるとは思わなかった……。
というか、やりすぎでしょあの元アイドル。朝までするとは言ってたけど、まさか18時から初めて次の日の14時まで続くとは思わなかった…………いや、それもう朝じゃなくて昼なんですが??
幸いにも次の日が土曜日で母さんがいなかったから何もなかったけど、もし母さんがいたら間違いなくバレていただろう。アイはきっと母さんがいてもやめないだろうし、母さんもそんな僕らの為に外泊するような性格だ。きっと、ろくなことにはならないだろう。
「あ、そういえばレー君」
リビングに一瞬行ってたアイが何かを持って戻ってきた。
「………んー?」
ダメだ、疲れすぎて腑抜けた声しか出ない。
………というか、何でアイはそんな元気なんだよ。
「演劇って興味ある?」
「はぇ?……急になんで?」
「いや昨日、レー君のお母さんに演劇のチケット貰ったんだよねー」
「あー、なるほど」
「まぁ、嫌いではないよ?」
「ならさ、一緒に観に行こ!?」
「いいけど、それいつやるの?」
「明日」
「随分急だね………わかったよ、行こっか」
「本当!? えへへ、楽しみだなぁ……」
劇団かぁ、僕もちょっと楽しみだな。
僕は明日の劇への期待を抱きながら、彼女が持ってきたチケットを見る。
「………これって」
劇団員のメンバーかが書かれた名前を見ていると1つだけ見覚えのある名前があった。
僕はこの名前を知っている。星野アイや星野アクア、星野ルビーと同じくこの『
………だか、彼女は劇団ララライ所属だったはずだ。
何故、札幌の劇団にいるのだろうか。やはり、この世界は僕の知る『
────まさか、こんな形で会うことになるとは思わなかったな。
「…………黒川、あかね」
神の悪戯だろうか?
偶然か必然か、奇しくもチケットの裏側にはその名がしっかりと記されていた。
ようやく蓮くん登場です。1話の後書きに紹介だけ書いて出せてなかったのでようやく出せて良かった………。
あかねちゃんが札幌にいることに関してはちゃんと理由もありますが、やはり主人公が存在する以上このお話の世界は少し歪で『推しの子』の世界とは何処か違うのかもしれませんね?