目が覚めた。
どうやら俺はソファで寝落ちしていたらしい。
「………そういや、アイは何処だ?」
俺の記憶が間違っていなければ、寝落ちする前の最後の記憶ではアイが俺の上に乗っている状態でソファで横になっていた。だけど目を覚ました今、アイは俺の上にだけではなく、見渡す感じこの部屋のどこにも見当たらない。
「……っ」
何故だか胸が痛い。
それも尋常じゃないほど胸が痛い。はち切れそうな痛みで涙が溢れてくる。痛い。痛い。痛い。いたいいたいいたいいたいいたいたいた───
「レー君?」
──みが止まった。
アイを視界に確認できた瞬間に胸の激痛は治った。そこで俺は完全に理解した。アイがいなくなった気がして胸がこんなにも痛かったのかと。
「………どこいってたの」
「え?なんか、怒ってる……?」
「………別に、アイがどっか行っちゃったんじゃないかって不安になってただけ」
「そっかぁ……えへへっ」
「………なんで笑うのさ」
「嬉しいなぁ……って」
「………こっちは凄い怖かったってのに」
できれば、もう二度とあんな思いはしたくない。
………あんな想いをするのはもう嫌だ。
「ねぇ、レー君?」
「………なに」
「………拗ねてて可愛いなぁ」
「うるさいうるさい」
「………で何?」
「あ、いやあのね?明日の劇楽しみだねって言いたかっただけだよ?」
「………なんだそれだけか」
「なんだとはなんだぁ?」
そう言って彼女は僕の髪の毛を掴んで乱暴に掻き乱す。
────あぁ、凄く心地がいい。アイといることがこんなにも幸せだなんて。こんなに心地がいいと、離れるのが嫌で学校とか全部どうでもよくなっちゃうな……。
「………アイ、愛してる」
やっぱり言葉にしないと
「…………へぁっ!?////」
ダメなんだ
「え、ちょ、レー君!?今なんて言ったの!?」
この言葉は嘘じゃない
「……なーいしょ」
だからちゃんと伝えなければならない
「えぇ!? お願いっ!! ね!?もう1回言ってよぉぉぉぉぉ!?」
─────手遅れになってしまう前に。
☆ ☆ ☆
劇をちゃんと観たのは初めてだったが、とても面白いものだった。横にいたアイに関しては終始涙を溢していた。………いや、泣き過ぎね?俺の服びっちょびちょなんですけど?
劇名は『 廻る星 』。なんでも、今回僕たちが観た劇団『マーガレット』の方々が自分たちで脚本を考えて形にしたものらしいのだ。パンフレットに書いていること曰くは、ある女性の団員さんがこの脚本考えて、それを他の団員で纏めて形にしたもの。
そのため、この作品は劇団『マーガレット』がみんなで協力して0から作り上げた作品ですってのが売り文句らしい。実際、もともと脚本家とかでもないただの演者さん達だけで考えた脚本にしてはかなり細かく作られていて、素人が自分たちで考えたと言われても少し疑ってしまうほどには完成度は高かった。
「……いい作品だったな」
話の大まかな内容は、何度も転生している主人公の少年と同じく何度も転生しているヒロインの少女が何度も出会っては恋に落ちていくというもの。何度も転生していくことで次第に記憶が薄れていき、愛していた相手のことを一度は忘れてしまうものの、後に徐々に記憶を断片的ではあるが思い出していき、最終的にはお互い全てを思い出してまた恋に落ちて幸せな人生を送っていった。
内容を言葉で表すとそこまで感動するようなお話ではないが、実際に見てみればわかる。あれは誰が観ても心が動かされる作品であることだろう。特に、ヒロインの少女を演じていた彼女の演技はより一層客の心を動かしたことだろう。
言葉では表せないが、彼女の演技を見ているとついつい感情移入してしまうのだ。そのせいか、このお話のヒロインの気持ちが痛いほど伝わってきて、ヒロインの喜怒哀楽全ての感情を彼女を通して観ているような気分だった。
「アイおっそいなぁ……」
現在、彼女はトイレに行くついでにコンビニで飲み物を買っている。本当は俺も一緒に行こうと思っていたのだが、何故だか彼女にここで待ってろと言われてかれこれ10分近くこの場所で待っている状況である。
「おぉ?ありゃ、劇団の人たちか?何人か見覚えがあるような……」
劇の最中に観たはずの顔ぶれが何人かいる。流石にこんなにすぐ退散することは不可能なはずなので、きっとアイと同様に飲み物とかを買いに外に出てきたって感じだろうか?
まぁ、見た感じは何人かは夜風を当たりに来たって感じっぽい。
「……まぁ、踊ったりもしてたし流石に建物の中じゃ暑いよな。一般客の俺がいると少し気まずいだろうし、移動するか」
そう思って移動しようとしていたその時
「あ、あのっ!!」
「はい?」
「すみません、少し時間大丈夫ですか?……」
「え、あ、はい、少しぐらいなら別に大丈夫っすけど……」
どういうことだ? 何故、俺は彼女に話しかけられているのだろうか?
───そんなことを考えていると彼女が
「えっと……私のことわかりますか?」
「え?く、黒川あかねさん……ですよね?劇団『マーガレット』の」
「え?あ、はい」
「……それが何か? あ、今日の劇凄く面白かったです」
「あ、はい。ありがとうございます……」
「…………」
「…………」
気まずいんだが?
何故だか知らないが、お互いに黙り込んでしまった。この地獄みたいな空気を俺にどうしろと? 普通に何を言えばいいのか分からなくて、ただただ気まずいんだが……。
「………やっぱり、人違いかな」ボソッ
「え?人違い……ですか?」
「あ……聞こえてました?」
「あ、はい。誰が僕に似てる知り合いでもいたんですかね? あはは……」
「……まぁ、そんな感じです。すいません、急に話しかけちゃって……」
「………ずっと会いたかった知り合いに似ててつい」
そんなに似ていたのか。
そこまで言われるほど似ていたとは………その人がどんな見た目なのか少し気になるじゃないか。
「えっとぉ……そろそろ行きますね」
「あ、そうですか。さっきまで劇で観ていた人と話せて嬉しかっです。暑さには気をつけてくださいね?」
「お気遣いありがとうございます……。では、えっとぉ、お名前を教えてもらっても大丈夫ですか……? ここで会ったの何かの縁ということで……」
「な、名前ですか?……別にわざわざ教える必要ありますかね?」
「あ、そうですよね……」
いや、凄くやりづらい……。
なんていうか、全体的に態度が弱々しい。こんなんで大丈夫なのだろうか?俺相手だったら関係ないが、人によってはあんまりよく思わない方もいるんじゃないだろうか? それにこの人と今話してみた感じ、この人の性格はどんな内容のことでも頼まれたら上手く断れないタイプの人だ。
……少しだけ、心配だな。原作では、アクアに救われてからだいぶ目に見えてわかるほど変わっていった人だったこの人は。
だが、
まぁ、今ガチに出る可能性も同じく低いだろうから、少なくとも同じ理由で炎上することもないだろうけど。
「……まぁ、黒川さんの言うとおりここで出会ったのも何かの縁でしょうし軽く自己紹介程度はさせてもらいますね」
「あ、はいっ!」
すっごい嬉しそだなぁ……。
「えっと、
「……あ…まみ……や…れ……い………?」
「…………零………君……?」
「えっ?」
え?
「……零君なの?」
なんだよその反応
「……ねぇ、本当に零君なの?」
それじゃまるで俺を
「……………答えてよ」
知っているみたいじゃないか
「……俺は天宮 零だから確かに零君ではあるかもしれないけど、黒川さんとは今日初めて会ったと思うんだけど?」
───本当は気づいてるんだろ?
「………
───本来じゃ、あり得ないはずかもしれない
「…………っ!」
───けど、あの時見ていた夢はなんだ?
「………聞き覚えある?」
───何故、アクアの名前が出てきた?
「……ない」
───俺と思わしき人物が話していた相手はアクアだったのではないか?
「嘘だね。………相変わらず、嘘つくとかに手首を触る癖は変わってないんだね」
───あれは明らかに夢なんかじゃない
「な、なにを言って………」
───あれは
「……覚えてないって言い張るなら、教えてあげるね?」
「改めて、私の名前は黒川あかねっていいます」
───そう、あれは
「私と零君はね?前世では恋人関係だったんだ」
───あれは
次回、『アイとあかね』(予定)
衝撃の展開ですが、次回はアイとあかねが出会ってしまいます。一体、何が起こるんでしょうね?……あはは。