「零君の反応的に、前世があることは分かっているけど覚えてないって感じなのかな?」
「………さぁ?」
「へぇ……?」
いや怖ぇよ。
………いや、それにしても恋人ってなんだよ。俺と黒川さんが?意味わかんないんだけど。
この人の反応的に俺を知っていたのも、前世で付き合っていたのも多分本当のことなんだろう。であるならば、前世では『桜木 澪』と関わり深い人物だったってことになるが。
「………桜木 澪って名前はどこから?」
「前に零君が教えてくれたからだよ」
「……は?」
どういうことだ? だってこの人は俺の前世とは恋人関係にあるって言ったじゃないか。なのに、『桜木 澪』に関しては名前を知っているだけ……?
「………さっき、俺と前世では恋人だったって言ってたと思うんだけど」
「ん?そうだよ」
「なのに、『桜木 澪』のことは名前を知っているだけなのか……?」
「ん……? あー、零君は一つ勘違いをしているみたいだね」
「勘違い……?」
「うん、『桜木 澪』は零君の前世に当たる人じゃないってこと」
「………は?」
「それも含めて全部説明してあげたいけど、もう戻らないといけないから」
「はい、これ」
「これは………」
「今住んでる私の家の住所だよ」
「明日の昼頃に来てほしいな」
「その時に全部話してあげる」
「じゃあ……またね?」
「あ、あぁ……」
彼女はそう言った後に建物の中に戻って行った。
僕の知る原作での彼女はあんな感じだっただろうか? 少なくとも、僕の知る彼女はあんなに闇を抱えた瞳をしていただろうか?
「レー君っ!」
気がついたらアイが戻ってきていた。
彼女になんて説明しようか? どこかに行くと伝えれば間違いなく行き先を聞いてくるはずだ。それを誤魔化せば間違いなく何かを隠しているのはバレるだろう。
「………おかえり」
「いやぁ、すっごい混んでた……」
「おつかれ」
「あっ、これあげる!」
「ん?あぁ、飲み物か」
「レー君も喉乾いてるかなって」
「ありがとう」
「………レー君、何かあった?」
「………なんもないよ」
「あ、うん………そっか」
心なしか、帰り道は口数がいつもより少なかった気がする。
彼女は何度も俺に話しかけてくれたが、どうしても先ほどのことが頭から離れず適当な返事ばかりになってしまっていた。
そのせいで、家に着く頃には一切口が開いていなかった。
「………じゃあね、レー君」
「………あぁ、またね」
きっと、今の僕の顔は物凄く酷いことだろう。
明日はアイが家に来る前に家を出るか………。
……何考えてんだよ俺。最低じゃねぇかよ。
……ほんと、どうしたらいいんだろうな。
『酷いね、君は』
『彼女を愛してあげるんじゃなかったの?』
『彼女は君が大好きで大好きで君のことを信じているのに』
『そんな彼女を裏切ろうとするだなんて』
『彼女が可哀想だよ?』
『相変わらず、昔からそういうところは変わらないよね』
『………
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「……結局、来てしまった」
現在、僕は彼女の部屋にいる。
「それじゃあ、どこから話そうかな?」
「うーんとね、私の前世についてから話そうかな?」
「……あぁ、頼む」
「前世って言ったけど、厳密に少し違うんだよね」
「………どういうことだ?」
「私が君と付き合っていた時の君は『天宮 零』だったし、私は『黒川 あかね』だったんだ」
───は?
「え、いや、そんなことは……」
「ううん、本当のことだよ。私と零君は付き合ってて、一緒にいろんなところに行ったりしてたんだよ?」
「……でもある日、零君が急にいなくなっちゃったんだよね」
「……黒川さん?」
───様子がおかしい
「何処を探しても見つからなくてね?」
「黒川さん?」
「アクア君やかなちゃんに聞いてもわからないって言うの」
「あの……聞いてる?」
「ずぅっと探してたんだよ?」
───彼女の瞳に光がない
「ずっとずっと見つからなくて、凄く辛かったんだよ?」
───まるで何も写していないかのよう
「探し始めてから3年経ったある日、零君の部屋からある手紙が見つかったんだ」
───何故だろう
「………どんなことが書いてあったと思う?」
───逃さないって思いが瞳から伝わってくる
「……相棒を救ってくる」
「……相棒?」
「そう書いてあったんだ」
「………零君はこの意味がわかる?」
「………ごめん、わからない」
「そっかぁ……何にも覚えてないんだもんね」
───彼女が近づいてくる
「手紙には最後に私を含めてみんなへの謝罪とかが書かれてたんだ」
───顔に手を添えられる
「そしたらね?」
───1歩動けばキスしてしまうほど顔が近い
「ちょうどその時、テレビからあるニュースが流れてきたんだ」
───俺にはアイがいるから離れなくちゃならないのに
「どんな内容だと思う?」
───何故だか、逃げることができない
「……れいくんが、やまおくのいっけんやでくびをつってしんでいたのがはっけんされたんだって」
───誰かに似ている気がする
「ねぇ、なんでさきにいっちゃったの?」
───あぁ、わかった
「ずっとずっといっしょにいてくれるっていったのに」
───彼女は
「わたしはれいくんがいないといきていけないのに……」
───アイに、似ているんだ。
「なんで?なんでひとりにしたの?ひとりにしないってやくそくしてくれたじゃん」
───いや違う
「うそつき。わたしがえんじょうしたときいってくれたじゃん!ずっとわたしのそばにいるって!だからわたしいっぱいがんばってれいくんにおれいがしたかったのに………。あのときすくわれてかられいくんからのあいがないとつらくていきていけなくて、だからわたしがんばってれいくんさがしてたんだよ?なのにしんじゃってるし!!いちばんさいしょにみつけたのわたしじゃないだなんて!!!!」
───アイが彼女に、似ているんだ
「あかね………」
「え……なんで……おもいだしたの?」
「あ、いや、思い出したわけじゃないんだが」
「なんとなくそう呼びたくなったっていうか………」
何言ってんだろ。
彼女を思い出し彼女を受け入れるなんてことをすれば、それはアイへの裏切りになってしまうだろ。
───なのに、彼女を拒まないのは本当に俺が前に彼女を愛していたからだろうか。
「………なぁ、教えてくれ」
「俺は………一体、何者なんだ?」
「………いいよ、おしえてあげる」
「まぁ、わたしもぜんぶをしってるわけじゃないんだけどね」
「……それでも頼む」
「………れいくんがしんだことをしったわたしは、つぎのひにじさつしたんだ」
「……は?」
「れいくんのいないせかいなんていみがないんだもん」
「だから、しんだの」
「でも、きがついたらあかんぼうになっていた」
「かこのわたしにうまれかわっていたんだ。ぞくにいう、ぎゃっこうってやつ?」
「……ちょっと待ってくれ、その話だと俺があかねの付き合ってた『天宮 零』であると言い切れる保証はなくないか?」
「……あるよ」
「何を根拠に……」
「『推しの子』」
は?
「そのはんのうをするってことはまちがいないね」
「…い…ま……な……んて…」
「……ぜんぶしってるよ」
「…………は?」
「れいくんがぜんぶおしえてくれたんだ。わたしたちのことやこのせかいのことも」
「………だからって、それでも同一人物だって保証には………!」
「………れいくんはいってた。『俺の魂は永遠にこの世界で廻り続ける』って。だからこのせかいにしかれいくんはそんざいしない」
「廻る……?」
「………もくてきをはたすまではえいえんにだってさ、たぶんそれがきっと『相棒』をすくうことなんだろうね」
「なんだよそれ意味わかんねぇよ………」
「なんどしのうがこのせかいでまわりつづける。ときにはぎゃっこうしてでも」
「だから、きみがいてそのはんのうをするってことは」
「それは」
「きみはわたしのだいすきなれいくんであるってことなんだよ」
俺は何も喋ることができなかった。
彼女の言っていることは理解することはできていた。ただ、それを受け入れることが中々出来なかったのだ。
………こんな話、誰がすぐ受け入れられるって言うんだ。だって俺は、この『
だが実際は、転生はしていたもこれが最初の転生ではなかった。何度も転生して今に至っていた。少なくとも、一つ前の僕がその事実を知っているだけでなく、何故そうなっているのかも理解しているのに今の俺は何一つとして知らない。
………頭がおかしくなりそうだ。それにそれが本当かどうか知る術が俺自身の記憶しかないのに、失われている今どうしようもない。
「……あかね?」
「………んっ」
彼女は俺に覆い被さるように抱きついてきた。
俺を逃さんとばかりに強い力で抱きしめられている。
「……私ね、零君が北海道生まれなの知ってたから北海道に引っ越せば会えるかなって思ってたんだ」
「でも、全然会えなくて。毎日ずっと探してた」
きっと、彼女が俺を見つけられなかったのは俺が家からあまり出なかったりそもそもよく学校をサボっていたからだろう。単純に見る機会が少なかったんだろうな。
「……ようやく会えても記憶がなくて」
「ごめん……」
「ううん、許してあげる」
「だから、その代わり」
「たとえ覚えていなくても、またあの頃のように私を愛してほしいな」
「……………」
「………れ、れいくん?なんで黙るの?」
「………その」
「え……? ねぇ、なんで?え?なんで?私のこと好きって言ってくれたじゃん。零君に喜んでくれるよう頑張ったんだよ私。零君を追ってここまで来たんだよ!? ねぇ、黙るのさ!?」
「………ごめん、確かに前の俺はあかねを愛していたかもしれない。けど、今の俺はあかねのことを知らないんだ」
「別にそんなの後から好きになってくれれば……!」
「それに………」
「それに……?」
「今は付き合っている人がいるんだ」
「は? なんで……?意味わかんない。なんで?ねぇ、なんで?ねぇ…………」
「………ごめん」
「………なんで」
「わたしはいらないの?」
「………頼むからそんな言い方しないでくれ」
「だってれいくんは私のこと必要だと言ってくれたのに………」
「………それだけな生きがいなのに」
「あかね………ごめ「レー君が謝る必要はないよ」……なんでお前がここにいるんだよ……」
「………アイ」
「玄関の鍵は開いてから普通に入ってこれたよ」
「……そういうことを言っているんじゃない」
「どうしてここが?って言いたいんでしょ?わかるよ、レー君のことだもん」
「……なんでアイがここにいるんだよ」
「どうしてここがわかったんだよ………」
「レー君のスマホの位置情報が私のスマホに来るように設定してあるからだよ?」
「………いたの間にそんなことを」
「レー君がトイレ行ってる隙にちょっとねー?」
俺が知らぬ間になんちゅうことしてんねんこの元アイドルっ娘は……。
「にしても………ふーん?何度も生まれ変わってる………ねぇ?」
あぁ、終わった。
アイの瞳は軽蔑と失望で溢れている。俺はあかねもアイも両方傷つけることしか出来なかったのか。なんだよそれ、とんだクズ男じゃねぇかよ……。
「………ごめん」
「何を謝ってるの?黙って他の女に会いに行ったこと?その人とは元々恋人だったこと?………それとも今その人を受け入れようとしていたこと?」
「………違う。別に受け入れようとしていたわけじゃ……」
「じゃあ、何がごめんなの?教えてよ」
まるで先生に怒られた学生の気分だ。
何を言おうにも言葉詰まって頭が真っ白になる。
「……あなたはいったい」
「……あぁ、忘れてた。始めまして、黒川あかねさん」
「私はレー君の婚約者の星野アイって言います」
「急で申し訳ないんだけどさ、レー君は私のだから諦めて返してほしいな?」
「………え………嫌だ……。なんで……?やっと見つけたのに………。なんでまた零君と離れ離れにならないといけないの?絶対に渡さない。たとえアクア君のお母さんだろうと絶対に渡さない……。……そうだよ、そうだよ!零君は私の生きる希望なんだよ!?私だって零君の婚約者だったのに!!なのになんで後から現れた貴女に奪われないといけないの!?!?」
「……あく…あ?」
「………え?あ、その、さっきの話は聞いていたんですよね……?」
「………うん」
「………前世では私も零君もアクア君とは交友関係があります」
「……じゃあ、レー君のアクア達に会いたがってた理由って」
「ごめん……そこまで覚えていたわけじゃないんだけど、少しだけ記憶と思わしきものを夢で見て」
「そっかぁ。………アクアは元気だった?」
「え…?あ、はい。ルビーちゃんも一緒に元気でした」
「そっかぁ……、よかったぁ……」
アクアの話題になったおかげで場の雰囲気が落ち着いた。
アイの態度があからさまに変わったからか、あかねの様子も少し落ち着いたようだ。
「………怒るつもりだったのに落ち着いついちゃったじゃん」
「……しりませんよそんなの」
「2人とも………」
「まぁ?それでもレー君に対してはやっぱり怒ってるけどね?」
「……へ?」
「それは私もです。なんで私っていう恋人がいたのに他の人と付き合ったのかな?」
「え?いや、だから記憶が………」
「私が家に来るよりも前に家を出たってことは確信犯だよね?」
「え、いや、あの、アイさん?」
「………あかねちゃん、私はね?レー君を独り占めしたいって思ってるのは変わらないよ。でも、あかねちゃんが凄く辛い思いをしたのも知ってる。私だってレー君がいなくなって、見つかったと思ったら死んじゃってて、それでまた会えたと思ったら新しい恋人ができてる。そんなこと知ったら、私だったら絶対殺しちゃうもん」
「アイさん!?物騒なこと言わないで!?」
いやどんでもない事言うね!?君!?!?さっきの雰囲気どこいった!?
「だから癪ではあるけどね?あかねちゃんがレー君を愛すことを、レー君から愛されることを特別に許してあげる」
「………なんでそんな上から目線なんですか」
「だって今は私が恋人だもんっ。………あと、私に敬語なんて使わなくていいよ」
「今の私はあかねちゃんとそんなに歳が離れてるわけじゃないんだし」
「……で、どう?受け入れるの?受け入れるならこのまま穏便に解決できて、受け入れないなら………わかってるよね?」
「………受け入れます」
「うんっ!よろしい!」
「え、は?え、いや、あの、いやいやいやいやいやいやそれはおかしくない!?さっきまでの昼ドラのような雰囲気どこいったのさ!?そんなあっさり和解するの!?」
「ちょっとうるさいから黙ってて?………あかねちゃん、どうしたらいいと思う?この女たらし」
「うーん………零君は前世でも酷かったからなぁ、相当分らせないとダメだと思うな」
「ふーん、前世でも酷かったんだ………そっかぁ?」
「ほんとっ、零君って酷いよね?」
「え、いや、あの、2人ともジリジリ近づかないでくれる……と………」
「「ダメだよ?/ダメに決まってんじゃん」」
「「悪いレー君/零君にはちょっと痛い目見てもらわないとね?」」
「……は、は、はは」
「お手柔らかにお願いします…………」
俺はその時、生まれて初めて阿修羅を見た気がする。
でもまぁ、なんだかんだ和解したのはよかったよかった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
いやでもさ?流石にこれはやりすぎでしょ………。
……もう月曜日の17時なんですけどそれは。
「2人ともいい顔で寝てんなぁ………」
起きたらちゃんと話し合おう。
こんな曖昧なまままで何もかも決めるのは良くない。
「ちゃんと向き合わないとな……」
「俺にとってはアイが俺だけのアイドルだった」
「……けど、違った」
「俺の知らない俺には、あかねっていう俺だけのアイドルがいた」
「……今の俺は何も覚えていないけど、そんな俺でも彼女は愛していると言ってくれた」
「その環境をアイが許してくれるのなら」
「俺は思い出さないといけないか」
そうだ、思い出さなくてはならない。
───
シリアスが終わればあとはイチャイチャパラダイス………!!
あ、ちなみに2人が出会えば修羅場が起きるんじゃないか?みたいなことを予想していた方がいましたが、次回はちゃんと修羅場になりますので安心してください()