あれから半月余りが経過した。
彼女とは少しだけ打ち解けることができた気がする。それ以降という我が家と星野家は度々交流することになり、僕と愛も次第に仲良くなっていった。今ではよく、一緒に遊ぶぐらいだ。
最初会った時の緊張した表情が嘘だったかのように彼女は楽しそうに笑う。
「ねぇ!今度はブランコで遊ぼ!!」
「いいけど、はしゃぎ過ぎて転ばないでね?」
「はあい!」
こうやってみたらただの年相応の少女である。
しかし、どうしても行動のどこかしらに
───すると、奥の方から声が聞こえてくる。
「先輩…まだ泣いてんスか?」
「うるせぇ!推しが死んで泣かない男なんていねぇだろぉ!?あぁ!?」
「いやいやそんな怒んないでくださいッスよ……てか、アイちゃんが亡くなったのもう半月も前ですよ?悲しいのはわかるッスけど、それで仕事を押し付けられるこっちにも身にもなってくださいッスよ…」
奥のベンチに座ってる会社員と思われる2人の会話が聞こえてくる。おそらく、昼休憩か何かだろう。
会社員と思われる2人はコンビニで買ったであろうお弁当食べながらアイの話をしている。
「……………」
そんな彼らの会話を聞いて顔を顰める存在がここに1人いる。
そう、アイである。
何故か愛はアイの話が出ると少し顔が顰めるのだ。しかも、一度や二度ではない。
「愛、大丈夫?」
「……ぁ……ぅん……」
明らかに大丈夫ではなさそうであるが、どうしたものか。
僕がどうしようかと悩んでいると、向こうのベンチから再び声が聞こえてくる。
「アイを殺した奴をぶっ殺してやりてぇのに、そいつも自殺で死んでるって………怒りの矛先はどこに向けりゃいいんだよ……」
「そーッスねぇ………」
「んー、そーいや少し話は変わるんスけど」
「あ?」
「アイに隠し子がいるんじゃないかって噂知ってますか?」
「あ?急になんだァ?隠し子だァ??」
「自分もよく知ってるわけじゃないんスけど、そういう噂があって今回の犯行が起きたっていう噂?みたいなもんがネットでちょっとだけ広がってるっていう話ッス」
「別に自分はもちろん信じてないッスよ!ただ、そーゆー噂を最近よく聞くもんで先輩はどう思うかなって」
「アイはアイドルだぞ?アイドルが恋愛をするのはいいが、流石にガキなんか作ってりゃあスキャンダルだぞ?それもかなりの」
「流石にそんなことしねぇだろ───」
噂というものは独り歩きするものだが、時には酷く残酷に事実へと辿り着くこともある。まさしく今のがその例である。
……にしても、さっきからアイの様子が少しおかしい。どうかしたのか?
「………っ……はぁ……ん」
「ん…?……愛!?大丈夫!?」
愛が胸を抑えつけながら苦しんでる。辛そうな顔で、ただ一言「ごめんなさい」を繰り返し呟いて。
「だ、大丈夫……」
「ぁ……ぅ…ん……気にしな…ぃ…で…」
僕が引っかかっていることはもう一つある。愛はよく些細なことで嘘をつく。別にそれは構わないが、笑顔が不気味なのだ。なんというか作り物というか。嘘っぽいというか。引っかかるというか気に入らないのだ。
「いや気にするよ…」
「とりあえず愛菜さんのとこに連れてくか…」
僕は愛を背中に背負いながら彼女の家に向かう。
まさか誰も家にいないとは…。
僕の両親までもがいないとは流石に驚いた。愛がこんなふうになるのは今まで何度かあったけど、ここまで酷かったことはなかった。だから、少し心配で連れてきたが………どうしようか……。
「愛、落ち着いたか?」
「…うん」
まだ顔は暗い。
いつも『アイ』の話題が出てる度に彼女は辛そうな顔をする。何かあるのだろうか?
…いやきっと心の奥底ではわかっている。ただそれを僕は見ないようにしているだけ。ほんとはわかっている。この子とアイには何かある。何かどころではない。きっと僕と同じ………。
「ごめんね…せっかく遊んでたのに」
「いいよこれぐらい。……ねぇ、愛」
「どうしたの?」
あまり聞かない方がいいのはわかってるけど、やはり心配だ。少しぐらい聞くのは許してほしい。
「いっつもさ、『アイ』ってアイドルの話を聞くたびに辛そうな顔をするけど……何かあった?」
「………」
「……別に」
「……何もないよ」
そっか。
そんなありきたりな言葉こそが彼女が一番求めていた言葉かもしれない。きっと彼女はそう言われるのを待っているのだろう。
だけど、我慢ができそうにない。
言ってはいけないことを口に出してしまいそうになる。
「…なんもなくないよ」
「……愛はさ、どうしていっつもそんな嘘っぱちの笑顔で誤魔化すの?」
僕は素朴な疑問を彼女に問いかける。
たかが半月の付き合い。けど、たくさん愛をこの目で見てきたのだ。
だからこそ、納得がいかない。いつも辛い事があっても悲しいことがあっても、その嘘っぱちの
どうやら僕は、彼女に嘘をつかれるのが嫌みたいだ。
「……何がかな??」
「別にいつも通りだよ?」
「…ね?」
「…全然違うよ」
「まだ出会ってから半月ばかりしか経ってないけど、僕にはわかるよ」
「愛のその笑顔が嘘っぱちだって」
「愛が何かを隠してるのもなんとなくわかる、それを教えてとは言わない」
「けど、だからってそんな嘘っぱちの笑顔で辛いことをいつも誤魔化されるのは僕はあんまり好きじゃないかな」
「普通に辛かったら辛いって言えばいいし、助けてほしいなら助けてって言えばいいと思う」
「して欲しいことがあるなら求めてくれたらしてあげるし、何か嫌なことがあるなら配慮はするよ」
あぁ…ダメだ。
この感じはダメだ。僕にはわかる。
一度口にしたらきっと止まることはないのだろう。その言葉がもしかしたら愛を傷つける言葉になるかもしれないのに、僕の口は止まろうともしない。
「僕は生まれてこの方、友達なんて一回もできたことがない。家から全然出たことないからね」
「それにこんな大人びた4歳児、誰が仲良くしたいと思うかな」
「周りからはいつも怖がられたり、避けられたりばっか」
「でも、そんな僕と仲良くしてくれた君のことを僕は」
「大切な友達だって思ってる」
「だからこそ何かあるなら言って欲しい、そんな嘘っぱちの笑顔で誤魔化さないでほしい」
「僕にとって君は初めて出来た友達なんだ。だから、いつもありのままの僕を君に見せている」
「だからとは言わないけど、僕はやっぱりありのままの君が見てみたい」
「初めて出来た大切な友達のことを知りたいと思うことはおかしなことじゃないだろう?」
「だから僕は、君が知りたい」
前世で誰と友達だったかなんて覚えていない。僕に記憶なんて殆どない。唯一ある友人と思わしき人物との会話も特別多いわけではない。きっと僕には友人と呼べる間柄の人間がその人しかいなかったのだろう。
そのせいかわからないが、僕は他人との距離を詰めるのが苦手なようだ。肉親である母や父とも、いまだに家族という実感がしっくり湧いてこないためか、たまに何を話したらいいかわからない時があるぐらいだ。
そんな僕と君の出会いは、僕からしたら最悪だった。
前世の知識から死ぬことがわかっていた主人公達の母親である国民的スターでアイドル。そんな彼女の生き写しのような君を初めて見た時は戸惑いでいっぱいだった。
だけど、そんな僕の心とは裏腹に君は僕に容赦なく歩み寄ってきてくれた。そして、気がついたらほぼ毎日遊ぶようになっていた。それも外でだ。普段家から出ない自分の変化に驚いてる。
君には沢山の感謝をしている。
最初は死んだ彼女を君に重ねて、恩返しのような気持ちだったのがしれない。けど、本当は心のどこかで何かに気づきかけていた。
でも僕は、君にそのことを伝えたりはしない。いつか君が自分から伝えてくれるまでは何も言わない。僕にとっての今の君は、初めて出来た大事な友達なのだ。
だから、僕は君が困っているのなら救ってあげたいのだ。
「いいの?…」
「助けてくれるの?…」
「受け止めてくれるの?………」
「あぁ、どんとこい」
僕にはずっと後悔していたことがあった。
救いたい人がいた。
けど、救えなかった。
所詮は子供。出来ることなんて何もなかったのだ。
結局、僕に出来たことは
そんな日々にどれだけ僕の心は荒んでいったことか。
───本当は気づいてる、君があの
だから、今度こそ僕に君を救わせてほしい。
大切な友達としての。
書き直したら文字数、倍近く増えちゃった⭐︎