【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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第2章『過去とトラウマ』、開幕。


○城ヶ崎の転生後の名前をマリアライトにした理由について

由来となった宝石『マリアライト』。実はこの”マリア”は聖母マリアとは関係ありません。発見者の妻『マリアローズ』から取られたものです。
アイドルの歌詞にも含まれるマリア=聖母マリアはアイであり、マリアライトは『似てる様で違う』という意味で名前に選びました。城ヶ崎とアイは境遇が限りなく近く、それでいて表社会と裏社会という別々の道を歩んだからです。アイと同じ特徴の瞳に黒い星のハイライトも、裏社会へ沈んだ=闇へ落ちたアイを意味しています。

ただし”マリア”の名が付いているので、慈愛や強いヒーリング効果も持つと言われるパワーストーンでもあります。
また石言葉には『自立』や『問題解決』、『癒し』、『魂の向上』、『達成』などがあり、精神的に弱い人やトラウマを抱える人などの心を癒し、自立を促す意味合いが含まれています。

バグ大動画でも城ヶ崎が死にゆく自分から母を解放する為に優しい嘘を吐いて諦めさせたところが、この宝石の持つ効果とピタリと一致した行動だと思いました。本作でも前世に縛られているアクアとルビーの楔を壊し、原作にあった問題のいくつかを解決してみせています。

他にもマリアライトは紫が特に希少で、イメージカラー(戦闘時に放つオーラの色)が紫で、希少な能力(嘘を見抜く能力)を持つ城ヶ崎にピッタリな名前だと思ったのも選んだ理由です。


……ちょっと長くなりましたが、そろそろ本編に入ります。今回はマリアがある日に見た夢の中のお話です。純真無垢な幼子がぶっ壊れていく様を描写しています。少し見辛い部分もありますが、ご了承下さい。


9話

――今日も父親が母さんを占有している。僕は何時も通り部屋の隅で蹲り、アイツが母さんを解放するまで一人ずっと待ち続ける。

 

『っ……!』

 

昨日アイツに棒で殴られた箇所が腫れていて、鋭い痛みに顔が歪む。でもそれ以上に孤独でいる時間の方が何十倍も辛かった。まだかな……まだかな……お母さん。

 

『――賢志、お待たせ。遅くなってゴメンね?』

 

夜も11時を過ぎた頃、やっとあの男が眠りに就いた。母さんは物音を立てない様に注意しながら僕の元へやって来る。

 

『ううん、今日は母さんと一緒に居れるなんて凄く良い日だよ!』

 

母さんと一緒に過ごす僅かな時間。この生き地獄の中で、その時だけが僕の幸せだ。

 

『ありがとう……はい、今日のご飯。お父さんが眠っている内に食べなさい』

 

母さんはアイツの世話で酷く疲れていた。体のあちこちが僕と同じように傷だらけで、とても痛々しくて、見るだけで悲しくなる。母さんの痛みや傷を僕が全部引き受けれたら良いのに……

 

そんな状態でも僕の為にアイツの目を盗み、こうしてご飯を用意してくれる。僕にとって世界でたった一人の、大好きな家族だ。

 

『あ、じゃこお握りだ!』

 

今日の夕飯に僕は目を輝かせた。アイツが仕事もせずお酒ばかり飲むせいでウチはとても貧乏だ。おまけにアイツは僕が食事をするだけで怒り狂い、殴ってくる。どうやら僕を餓死させるつもりらしい。だからご飯なんて滅多に食べられず、食べられても乾パンやビスケットが少しくらいの日が多い。

 

でも今回はご馳走だ! お母さんのじゃこお握りは凄く美味しくて、僕の大好物なんだ!

 

『いただきます!』

『召し上がれ』

 

僕は勢いよくそれに齧り付いた。母さんはそんな僕を微笑ましそうに眺める。

 

『美味しい! 今日も美味しいよ、母さん!』

『ふふ、良かった』

 

じゃこの塩気が温かいご飯に絡んで良い塩梅だった。痛くて辛い毎日ばかりの僕に力をくれる”ははのあじ”! これでまた暫くご飯を抜かれたり、殴られたりしても頑張っていけそう!

 

そんな時、僕はふと出てきた疑問を母さんに聞いてみた。

 

『……でも母さん、どうしてお握りの時は毎回じゃこなの?』

 

そう。全く具材が入っていなかったり、じゃこ以外の具が入ったお握りが出た事は一度も無い。その質問に母さんは僕の頭に手を乗せて、優しく答えてくれた。

 

『じゃこにはね、カルシウムがいっぱい入ってるの。賢志の骨を丈夫にして、体を大きくしてくれるのよ?』

『へー、そうなんだ……?』

 

よく分からないけど、じゃこの入ったお握りを沢山食べれば体が大きくなれるんだね!

 

『――あ、ごめんね。もしかして他のお料理が良かったかな……?』

 

母さんの顔に影が差した。……嫌だよ、母さんがそんな辛そうな顔をするのは。

 

『ん~ん、ウチが大変なのは分かってるし、美味しいから大丈夫だよ! 僕、母さんの作るじゃこお握り、大好き!』

 

僕は元気いっぱいに笑った。そうすれば――ほらっ、母さんも笑ってくれた! 

 

『えぇ、ありがとう。――大きくなってね、賢志』

 

そう言って僕の頭を撫でて、そのままギュッと抱き締めてくれた。母さんの腕の中、ポカポカで気持ち良い……

 

『愛してるわ』

『うん! 僕も母さん大好き!』

 

待っててね、母さん。早く大きくなって、今度は僕が母さんを守ってあげるから!

 

 

 

 

 

…………でも、そんな幸せな日々が唐突に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

『ちょっと待ってよ母さん!! 何処行くの……!? 行かないで……!!』

『だ、大丈夫よ賢志……ちょっとお父さんと出掛けるだけだから……』

 

次の日、母さんはアイツと二人だけで旅行に行くと言い出した。

 

『何で僕だけ置いて行くんだよ……!? 母さん、おかしいよ……!!』

 

僕はすぐに分かった。それが嘘だって。だから必死に母さんを止める。

 

『いい加減にしやがれクソ餓鬼が!!!』

 

『ぎゃっ!!?』

『賢志……!!』

 

でも痺れを切らしたアイツの拳が僕の頬を捉え、床に叩き付けられてしまう。母さんが血相変えて僕の元へ向かおうとするも、アイツが母さんの髪を乱暴に掴んで無理矢理引き寄せた。

 

『おら、行くぞ! ぐずぐずしてんじゃねぇ! それとも餓鬼の方をもっと痛め付けてやろうか……!!?』

『わ、分かった……! 分かったから子供にだけは乱暴しないで……!』

『うぅ……か、母さん……!』

 

母さんはアイツに恐怖で支配されている。逆らう事なんて出来なかった。……そしてそれは僕も。震えるだけで何も出来ず、母さんがアイツに連れて行かれるのを見る事しか出来ない。

 

『ご、ごめんね……賢志……』

 

その時、振り返った母さんが僕に見せたのは……

 

『すぐ……帰るから……』

 

鉛色に濁った眼の光。

 

(なんだこの目は……? 母さんの目って、こんな色だったっけ……?)

 

今の母さんは僕に嘘を吐いている。じゃあこれって嘘を吐いた時になる目なのかな……?

 

そんな事を考えている内に、母さんとアイツは出て行ってしまった。バンッという扉が勢いよく締まる音を合図に、僕の身体はやっと動き出す。

 

『母さん……!!』

 

扉に縋り付いた僕は何度も何度も母さんを呼び、強く叩いた。手の皮膚が裂けて血だらけになっても、何度も、何度も……! ……でも僕と母さんを隔てるそれは、ビクともしなかった。

 

鍵なんて掛かっていない。扉を開けて外に出て、まだ近くに居る母さんの元へ追い付く事も出来た筈なのに……この時の僕は動揺のあまりその考えに至る事はなかった。

 

『あ……あ……』

 

どうする事も出来ない現実に打ちのめされた僕は、扉の前で泣き崩れた。

 

『嫌だ……嫌だよぉ……母さん……』

 

玄関の冷たくゴツゴツとした床に涙が沢山こぼれ落ちる。

 

『一人にしないで……置いて行かないでぇ゛!!!』

 

自分以外誰も居ない静かな部屋の中で、僕は狂った様に叫ぶ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

行く当てなんて、ある訳がなかった。

 

『帰って来てよ、母さん……お腹空いたよぉ……』

 

ひたすら母さんの帰りを待ち続けた。嘘を吐かれたのに、それでも僕は母さんを信じていた。

 

大丈夫。あの時は嘘だったけど、すぐに考えが変わって僕を迎えに来てくれる。そんな何の根拠もない理屈に縋り付き、僅かに残された食糧で食い繋ぐ毎日。

 

1週間……2週間……どれだけ経っただろうか。食糧も完全に底を尽き、部屋の隅で縮こまって座り続ける毎日が、突如終わりを迎えた。

 

ガチャリという音。扉が開く音だった。

 

『か、母さん!?』

 

やっぱり帰って来てくれたんだ! 僕、母さんの事を信じてたよ!!

 

 

 

 

 

……そう思っていた僕は困惑する。

 

 

 

 

 

『――城ヶ崎賢志くんだね? 君を保護しに来たよ?』

 

え、誰……このおじさんたち? 知らない人たちだ。

 

『僕らは児童養護施設の職員だ』

『これからはおじさんたちと一緒に、お父さんとお母さんを待とうね?』

 

聞いた事ある。お母さんが居ない子が暮らす場所だって……え、待って? どういう事……? 母さん居ないの……?

 

『ま、待ってよ……か、母さんは何処にいるの?』

 

そう尋ねると職員のおじさんたちは難しそうな顔になり……そして笑顔を僕に向けた。

 

『大丈夫だよ賢志くん。僕たちと一緒に居れば、お母さんはきっと迎えに来てくれるから』

 

でもその目は……母さんと同じで酷く濁っていた。嘘を吐く……人の目だった。

 

『ちょっと待っててね? 一度車の方に戻って準備してくるから』

 

そう言っておじさんたちは家から出て行く。僕はまた一人になり、その場で立ち尽くしていた。

 

『………母さん、嘘だよね?』

 

母さん、迎えに来てくれないの? 帰って来てくれないの?

 

『すぐ帰るって……言ったよね……?』

 

信じたくない。信じたくなかった。……だって母さんは僕を愛してるから。

 

『嘘……だったの?』

 

あぁでも、おじさんたち嘘を吐いてたじゃないか。……母さんは必ず迎えに来るって。母さんは迎えに来ないって事じゃん。それって……つまり……………

 

『僕……捨てられたの……? 母さんに……?』

 

捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 捨てられた……? 

 

何度も頭の中で繰り返す内に、その認めたくない事実が自分の心に深く根付いてしまった。

 

『あぁ……そっか…………母さん…………』

 

 

 

 

 

僕を裏切ったんだね。

 

 

 

 

 

『……………………………………………………………………………あはっ』

 

それを理解した瞬間、僕の中で何かが壊れた気がした。

 

『あはは……』

 

何故か笑いたくなった。笑いたくて仕方なかった。だから思いっきり笑った。

 

『あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!』

 

でも不思議。涙が溢れて止まらないんだよ、母さん。笑うって、楽しい気持ちになるから笑うんでしょ? どうして僕は泣いてるの……?

 

あれ? 何だか力も抜けてきちゃった。 僕はその場で膝を付く。

 

『け、賢志くん!?』

『大丈夫かい……!?』

 

おじさんたちが駆け付けて、僕は無理矢理押さえ込まれる。僕に掛ける言葉は優しいのに、手付きは凄く乱暴で痛い。

 

『母さん……!! 何でぇ……!!? 何でだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

どうして……どうして母さんは僕を捨てたの……!!? 何で? 何でこんな事に……!!?

 

『嫌だぁ!! こんなの嫌だぁ!!! 一人にしないでよぉおおおおおおおお!!!!』

 

……簡単だ。僕が弱かったから。だからアイツに母さんを奪われたんだ。

 

『許さない……!! 絶対……!! アイツだけは……!! 絶対に……!!!』

 

力が無ければ、全て奪われちゃう。それがこの世界の理なんだ。

 

『殺してやる……!! 何時か絶対、殺してやる……!!!』

 

じゃあどうすれば良いの……? 

 

『放せぇ!!! 放せよぉおおおおおおお!!!』

 

………あ、これも簡単な事じゃん。

 

 

 

 

 

――俺が奪う側になれば良いんだ。

 

 

 

 

 

そうだ。全部奪ってやろう。全部支配してやろう。その為に力をとことん付けよう。逆らう奴等は全部殺して、俺の言う事をきちんと聞く奴だけを生かすんだ。

 

そしたら……もう奪われる心配は無くなる。何も失わないから、こんな辛い思いをしなくて済む。

 

……そうだよね……………母さん?

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――こうして”人間”だった少年は”悪魔”となり、お金と暴力と恐怖と死を沢山ばら撒いていきました。

 

 

――少年は闇の世界で頂点を目指す事にしました。……そんな事をしたって、本当に欲しい物なんて永遠に手に入らないのにね。

 

 

――その道中で少年はある”家族”を傷付けました。任侠を掲げる大家族です。

 

 

――固い絆で結ばれた大家族は激怒しました。少年は彼らと戦い、そして追い詰めます。

 

 

――奇跡が起きたのはそんな時でした。間違った道へ進む少年を見かねた神様が微笑んでくれたのです。

 

 

――お陰で少年は母との再会を果たしました。明日に全く期待を持てなかった彼は、初めて”生きたい”と願う様になりました。

 

 

――でも神様はその願いを叶える事が出来ません。だって少年は”生きたい”と願う人たちをいっぱい殺したんですから。

 

 

――少年は愛する家族の為に命を懸ける一人の青年に敗れました。”生きる”為に死の恐怖を越えてくる青年に、”死ぬ”為でしか死の恐怖を越えられない少年では勝ち目などありません。

 

 

――少年は死ぬ間際で最後の力を振り絞り、自身から母を突き放しました。これで母は未練なく明日を生きられるでしょう。

 

 

――そして”人間”としての心を取り戻せた少年は、母の愛を渇望しながら孤独に死にました。

 

 

――結局全てを得ようとした少年の元に残ったのは、幼子の頃に受けた母の愛だけでした。しかし、その母の愛が少年を止めてくれたのです。

 

 

――消え行く運命にあった大家族は、母の愛により救われましたとさ。

 

 

――めでたしめでたし。

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