【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
今回はクリスマス&投票者100名&投稿話数100話記念という事で、マリア達が1歳になる前のお話を書きました。
俺の名前は城ヶ崎賢志。
「あ! 見て見て二人とも! 雪だよ雪!」
巨大半グレ組織、『羅威刃』を率いる武闘派マフィア……だった赤ん坊だ。
「へぇ、東京って雪が降ってそうなイメージ湧かなかったけど」
とある日の夕方。興奮気味なルビーの声を耳に拾った俺は、アクアに続くように窓へ注目する。すると曇天から舞い落ちる白い結晶の群れが、俺の瞳の中へ迎え入れられた。
「ここ数年は温暖化やら何やらでめっきり減っちまったが、別に珍しくもねえぞ?」
「そうなのか? 結構詳しいんだなマリア」
「前世の大半は東京暮らしなんだ、知ってて当たり前だ」
生まれは違うけど。
ふーんと短く反応するアクアを横目に、近くの壁に掛けられていたカレンダーに目を通す。今日は12月24日。世間ではクリスマスイブというイベントで盛り上がる日だっけ? 道理で最近ケーキやらチキンやらを熱心に販売する店員共をよく見かける訳である。
それにしても――。
「クリスマスって何をやるんだ……?」
「「え」」
おい、”何言ってんだコイツ”みいたな目ぇ向けてくんな。肉にすっぞコラ。
だって仕方ねえじゃん。屑親父が碌に仕事もしない所為でそんな事する余裕は無かったし、仮にクリスマスをやれるだけの金があっても全部酒代かギャンブル代に退化しただけだろうからな。
『俺は良い、部屋で1人で過ごさせて貰う。邪魔すんな』
『ちょっと待ちなさい賢志くん! 良い子にしてないとお母さんが迎えに来てくれないよ!』
(嘘吐きが。そんな気休めの言葉で言う事聞かせられると思うんじゃねえ)
一応施設では毎年クリスマスパーティーが開催されていたが、嘘塗れの職員や孤児共と一緒に居ても不愉快なだけ。イベントというイベントを俺は悉く辞退し、部屋で寝るか外をぶらつくかで時間を潰していた。裏社会に身を置いていた頃も、特にやりたいとは思わなかった。
そんな訳で、俺は前世において一度もクリスマスを体験した事はない。機会に恵まれる時こそあったが、純粋に楽しめれるとは全く思えず拒絶していた。
「全くマリアったら、クリスマスほど素敵な行事をやった事がないですって? 人生損してない?」
「……まだ生後1年未満の赤ん坊が何言ってやがる? そういうお前はクリスマスとやらが何か分かるのか、ルビー?」
何故かルビーの奴は偉そうに腕組みで踏ん反り返っている。まさかマウントのつもりか? 少しイラッとした気分になってくるが、流石に餓鬼相手にムキになるのは大人気ない。威圧代わりにクリスマスについて是非ともお聞かせ願ってみようか。
「え゛」
そう考えた俺が説明を求めると、途端にルビーの顔が曇っていく。
「そ、そりゃあ……あ、アレよ、アレ! なんか色々とキラキラしたもので飾ってさ、パーッと盛り上がれば良いのよ、きっと……!」
「お前、その様でよく偉そうに振る舞えたな?」
どうしてあそこまで得意気だったのか。しどろもどろになりつつもやっと絞り出た台詞はあまりにも抽象的で。そこにアクアが辛辣なツッコミを入れてやると、それを受けたルビーがプルプルと震え、両手を振り上げムガーッと開き直った。
「もー、仕方ないでしょッ!? 私だって前世でクリスマスなんて一回もやった事ないんだから……!」
「なら最初から知ったかぶりな態度すんな。結局余計に恥かくだけなんだからよ」
「む~……だって私はマリアのお姉ちゃんだし。弟の為に姉として色々と教えてあげたかったんだもん」
「はいはい、その気持ちだけで十分だよ姉さん」
「ま、マリア! また私の事”姉さん”って呼んでくれたの? 嬉しい! もっかい呼んでもっかい!!」
「五月蠅い、静かにしろ」
成程、ルビーにも分からねえか。ってかコイツ、餓鬼とはいえそれなりの年齢でくたばってそうなんだよなぁ。その間一度もクリスマスを経験した事ない……もしかして親に恵まれてなかったのか、俺と同じで? 詮索するつもりは欠片もねえが。
しかし、そうなると残るは――。
「アクア、お前はどうなんだ?」
俺に指名されたアクアは一瞬硬直するも、直後に呆けたような返事をする。
「え、俺か?」
「他に誰がいるってんだよ」
「私とマリアがさっぱりなんだし、後はお兄ちゃんだけでしょ? ちょっと頼りないけど最後の希望!」
「一言余計だ」
ルビーの大して期待してません発言に若干眉をひそめたアクアだったが、渋々といった様子で前世での経験を語り出す。
「つっても俺も大学生になってから真面に参加したからなぁ……シャンパン飲んで女性と遊んでた記憶しかないや」
「……やっぱりか。お前、結構女遊びしてそうなキャラだったし」
「いや俺そんな風に見えてたの!?」
クリスマスにも色んな形があるんだろうが、求めてたイメージとはかなり離れてるような……
尚、側ではルビーがアクアを普通に軽蔑していた。
「うわ、最低。一体どんないかがわしい遊びをしていたのやら。マリアはこんな大人になっちゃ駄目だよー? お姉ちゃんとの約束」
「流れるように頭撫でんな」
「お前等……」
結局俺達全員、誰もクリスマスらしいクリスマスはやった事ないし、全く分からないって事か。
「三人ともー、そろそろ喋るのはストップしておいた方が良いですよ?」
そこへキッチンで早めの夕飯を支度していたミヤコが、リビングにいる俺達に声を掛けてきた。
「なんだミヤコ、もうアイが帰ってくんのか?」
「はい、さっきアイさん達から撮影が終わったと連絡がありましてね。もうそこまで来ているらしいですよ」
「そうか、分かった」
現状、俺達が非凡な赤子であると知るのはミヤコのみ。普通に喋っていてはアイと社長を驚かせてしまう為、俺達はごく一般的な赤ん坊に戻る。
「たっだいまー! みんなー、元気にお留守番してたー?」
「よいしょ、っと……」
そして間を置かずにアイと社長が帰宅し、リビングへと現れた。アイは自分用の鞄と小さなビニールを一つだけ持っていたが、社長の方は縦に長く大きな箱を抱えて辛そうである。
「アイ、お前もちょっとは手伝ってくれ……これ結構重たいんだぞ」
「え~、か弱い女の子にそんな重量物を持たせるのー? ダメだよ佐藤社長、女性の事はもっと労わってあげないとー」
「俺の名前は斉藤だっつのクソアイドル……」
社長は文句を垂れながらも抱えていた箱を置き、中身を引っ張り出す。現れたプラスチック製の樹木を俺達が興味深そうに眺めていると、それに気付いた社長が近くまで樹木を持って来た。
「クリスマスツリーってやつだ。今から飾り付けしてやるから楽しみに待っとけ」
そう言って付属品の丸っこい物や電球を纏わせていく。完成まで見届けようとした俺達だったが、その途中でアイに声を掛けられる。
「こっち来てみんなー、美味しい美味しいケーキだよ~?」
アイが持っていた袋の中には小さめのホールケーキが箱に収められていた。
(ほわぁ~!)
感激のあまりルビーは目をこれでもかと輝かせながらケーキを凝視する。お披露目された本体は白っぽい外見だが、当然離乳食離れがまだ済んでいない俺達赤子は普通のケーキは食べられない。
「すごいよねー。まさか赤ちゃん用のケーキも売ってるなんてさ」
「普通の生クリームは糖質や脂肪分の塊でな、赤ん坊にとっては毒なんだよ。だから代わりにヨーグルトや豆乳でクリームを作る事で、それらが抑えられてんだ」
「そうなんだー。でもこれなら子供達と一緒にケーキを食べられるね♪」
今回アイ達が購入したのはヨーグルトクリームを使ったベビー用ケーキである。甘さはかなり控えめらしいが、久々のケーキとあって俺も個人的には少し楽しみだったりする。
そうこうしている内にツリーが完成し、カラフルな電飾がツリーと装飾品を楽し気に照らす。ミヤコが台所から持って来た色とりどりの料理が沢山並べられ、テーブルの上が華やかさで彩られる。
並べられたベビーチェアに座ってから横を見る。隣に座るルビーは見るからに興奮状態で、うっかり喋ったりしないかかなり不安である。精神年齢がかなり進んでいる筈のアクアも、ルビー程ではないにしろワクワクしている様子だ。
「さあみんな、いただきましょうか?」
そしてミヤコが音頭を取り、アイと社長も合わせて”メリークリスマス!”と声を上げた。俺にとって前世を含む、初めてのクリスマスパーティーの始まりだ。
「どう三人とも? 美味しい?」
「あうあッ!(うん、美味しいよママ!)」
「ごめんね。もう少し大きくなったらチキンとかもいっぱい食べられるようになるから」
「うい (いや、アイ達とこうしてクリスマスを楽しめてるんだ。それだけで十分過ぎるよ)」
とはいえ赤ん坊である俺達に食べられる物は少ない。先のケーキ以外だと離乳食のお粥やスープくらいで、当然どれも味は薄い。並べられたローストビーフやサラダ、フライドチキンは濃ゆく味付けされて美味そうだが、無理に手を出したところで吐いてしまうのが関の山だ。今は我慢するしかない。
もっとも、その辺はミヤコが工夫してくれた。今俺がスプーンで口に運んでいるお粥には、長時間煮込んで簡単に崩れる程柔らかくなった星型の人参が散りばめられている。少しでも見栄えを良くしようとする彼女の優しさが窺えた。
「ほらっ、マリアもケーキ食べてみて? お姉ちゃんが凄く美味しいんだってさ」
(急かさなくてもちゃんと食ってやるから安心しろ)
アイに促される形で、切り取られて更に小さくなったケーキをスプーンで掬って一口。……うん、殆ど素材そのままなヨーグルトを使ったクリームは甘味が非常に薄く、不味くはないが正直微妙といったところ。
「美味しい?」
……でも何だろうな。胸の奥が何時もより温かくなっていく。
「ん」
「そっかー、良かったー!」
俺が頷くとアイの表情がパーッと明るくなり、その両瞳に宿る白星が眩い光を放つ。普段は周りに対して息を吸うように嘘を吐く癖に、子供に関する想いだけは常に本心である。その時の彼女の顔に、姿に、俺は次第に惹かれていくのを感じた。
(ったく、良い顔しがやるぜ)
普段からそうやってれば、もっとお前を好きになってくれる奴がいただろうに。
まあ生まれて初めてのクリスマスにしては結構良かったな。出来るなら来年もやろうと思うくらいには楽しませて貰ったよ。
「……あ、い」
「へ? マリア?」
だからお礼に少しだけサービスしてやろう。有り難く受け取るが良い。
「――――あいが、と」
瞬間、俺は歓喜に満ちたアイの腕の中に包まれていた。
「佐藤社長、ミヤコさん! 今の聞いた!? マリアが初めて喋ったよ!」
「あい……」
「まま……」
「えぇ、嘘!? アクアとルビーまで!? やばい、凄く嬉しいッ!」
俺達三人、大喜びする母に纏めてぎゅっと抱き締められた。……少し力が強くて痛かったが、意外と不快感は全く無かった。
「ふふふ。良かったわね、アイさん」
「ったく、だから俺の名前は斉藤だっつの」
今回のクリスマスは俺達が初めて母と話した日として、アイにとっても特別な日になった。