【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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大変お待たせ致しました。今後も投稿期間が長く空くと思います。



79話

お姉ちゃんの提案で追加された撮影を済ませ、良い感じの雰囲気に仕立てて動画へと組み込む。勿論、おれが提供した素材も加わっている。

 

そして漸くキーボードを叩く音が完全にストップし、お兄ちゃんの両腕がダランと垂れ下がった。作業終了の仕草だ。

 

「……よし、チェック完了。問題無しだ」

「うぉっしゃあ、やったぞぉ……」

「やっと終わったねぇ……」

 

深夜2時前。制作動画の完成と同時にヘナヘナと力が抜けていく一同。宛ら生ける屍のようだ。いやあホント長かったよぉ……流石のおれもくったくた。もう肩とか腰とか至る所が重い重い。

 

「ふぅ……」

「おっと」

 

溜め息と共に全身から力が抜けたお兄ちゃんが後ろに倒れそうになるも、お姉ちゃんが素早く支えて阻止した。

 

「おにいちゃん、お疲れ様ー」

「おう、すまないなルビー……あー駄目だ眠い、限界かもしれん」

「うんうん、おにいちゃんはよーく頑張ったよ。ゆっくりお休みなさい」

「あぁ……そうさせて、もら……う……」

 

一番酷いのは当然ながらお兄ちゃんだ。額には冷えピタが貼られ、机には空のエナドリ数本が無造作に転がっている。お姉ちゃんに撫でられつつ、その優しい声に素直に従い夢の世界へと旅立っていった。すぅすぅと控えめに寝息を立てる様子は見てて愛くるしい。流石はお兄ちゃんである。略してさすおに。

 

「あ、ルビーちゃん。私も手伝うよ?」

「ありがとうあかねちゃん。じゃあ押し入れから布団出してくれる?」

 

幼少期から通い詰めだったお兄ちゃんとって、監督の家はもう一つの実家も同然。布団は勿論、食器や歯ブラシも専用の物が用意されてあった。お姉ちゃんはお兄ちゃんに肩を貸して黒川が敷いた布団に移動させ、横にして優しく掛け布団を被せる。

 

「ふーん、よく見ると良い寝顔じゃない。意外と可愛いとこあったのねコイツ」

「でしょでしょ? おにいちゃんってば普段はクールで闇系なのに、無防備な時だけスっごくキャワワ~でさー、見るだけで癒されちゃうんだよねー。いやー先輩分かってんじゃん?」

「そこまでは思ってないわよ。ブラコンここに極まりね」

 

真上からお兄ちゃんの寝顔をまじまじと観察するお姉ちゃんとパイセン。その横では黒川とみなみがお兄ちゃんへ小声でお礼を伝えていた。

 

「……アクアくん、本当にありがとう。凄かったよ?」

「ゆっくりお休みなー」

 

本当にお兄ちゃんは凄い。おれ達も手伝ったとはいえ、事前に自宅で編集しておいた分を含めても僅か数日で動画を完成させちゃったのだから。今や俳優としてのみならず、裏方としても天才の域に入っているとしか思えない。

 

そんなお兄ちゃんの頑張りを無駄にしない為にも、最高のタイミングで投稿してバズらせないと。そしてこの動画に高いインプレッションを与え得る天才は、彼女において他にいない。

 

「MEMちょ、キミに決めた」

「ポケ◯ンかいな」

「りょーかいマリりん。このバズらせのプロにお任せあれ」

 

流石はMEMちょ、頼りになる姉御肌だ。いやあホントこの子歳幾つなんだろうね……? 前世と合わせ半世紀近く生きてるおれが言えた立場じゃないけど、まあ取り敢えず。

 

「じゃあMEMちょ、これをお願いね」

「ありがとう、持ち帰って投稿させて貰うね」

 

おれはパソコンからUSBを抜き取り彼女に託した。勝算があるのだろう、自信満々な表情でデータを受け取る姿を見るとこっちまで安心しそうだ。あとは彼女を信じて吉報を待つのみ。

 

ふにょん。

 

「ふにょん?」

 

そんな時だった。軽い衝撃と共に背中から受けた柔らかな感触と、優しく鼻をくすぐるコスモスの仄かな香り。ゆっくりと振り返る――するとおれの視界に入ったのは、ふんわりとしたピンクブロンドに可愛らしい寝顔の美少女。

 

「クークー……」

「ありゃりゃ、みなみちゃん立ったまま寝ちゃってる」

 

みなみが睡魔に負けておれに倒れる様子を正面から見ていたMEMちょはポカンと口を開けていたが、その声は穏やかそのものだ。 

 

「危ないなぁもう……おれが前に立ってたから良かったけど」

 

咎めるような言動とは裏腹に、おれは彼女へ優しい眼差しを送っていた。下手すれば地面とおっぱいからダイレクトキスする危険があったからね、怪我にならなくて本当に良かったよ。女の子って体は全体的にデリケートで、その中でも特に胸は――。

 

「……」

 

――むにゅん。

 

「…………」

 

――むにゅん。

 

……胸?

 

「マリりん?」

 

おれは無理やり首を捻って視線を下方へ――ぎゅっと背中に押し当てられて潰れているみなみの巨乳へ向ける。あー、なるほどなるほど、この背中から伝わる何とも柔らかく豊かな感触。世の男達の大半にとって宛ら夢の世界と称すも過言じゃなく。

 

……って。

 

「~~~~~~っ///!!?」

 

瞬間、湯沸かし器のように全身が高熱を帯びた。

 

「マリりん!?」

「ちょ、アンタ大丈夫!? 全身トマトみたいに真っ赤なんだけど!?」

 

「あうへであばろべへでぁわひゃ……」

 

「ちゃんと日本語で話せ!」

「ま、マリア君、熱でも出たの? しっかりして!」

 

「……なあケンゴ、ライト君のあの反応ってもしかしなくてもさ」ヒソヒソ

「みなまで言うなノブ。まあ男ならああなるのも無理はないが」ヒソヒソ

「しっかしあんな子とラッキースケベなんて、ちょっと羨ましいぜ……」ヒソヒソヒソヒソ

 

「何が羨ましいのかなノブ……?」ゴゴゴゴゴ……

 

「いえ何でもありません、俺はゆき様一筋です」ピシッ

「……将来尻に敷かれそうだな、お前」

 

おっぱい! おっぱい当たってるってばみなみ……!! どどどどうしよ……!? もし離れたりしたら、みなみが床におっぱいからゴッツンコしちゃうし! だからってこのままジッとしてるのも心臓に悪いし……! ああ一体全体どうすればーー!!

 

「みんな静かに、おにいちゃん寝てるんだから」

 

……あり? 体が急に軽くなったな?

 

「落ち着いたかなマリア?」

「う、うん、ありがとお姉ちゃん……」

 

お姉ちゃんがみなみを支えてくれたようだ。途端に先程まで体内で激しく暴れ狂っていた情動も落ち着き、おれは冷や汗をかきつつ何度も大きく呼吸する。

 

「ふふ、マリアもやっぱり男の子なんだね~?」

 

もしかしておれの動揺の意味を見抜いてる……? やばい、顔が熱い……

 

「お願いしますお姉様。恥ずかしいんでこれ以上弄らないで下さい」

「あ、それ新鮮! 今度また女子の制服着た時に呼んでよ!」

「分かった、するからさっきの事は忘れて! この事はみなみにも言わないで!」

 

こうしておれは陽東高校の女子用制服をまた着る羽目になった訳だが(しかもMEMちょが喰い付いて彼女の動画で披露という流れに決定した)。それはさておき、年頃の少女の胸を不可抗力とは言え触ってしまうなんて……

 

「責任取らなきゃ」

「重いわ」

 

パイセンのツッコミが室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日の某時間。

 

お兄ちゃんが完成させた動画が、MEMちょ主導で今ガチ公式ホームページに投稿された。

 

『視聴者の皆さん、こんにちは。星野マリアです。何時もこの番組を見て頂きまして、本当にありがとうございます。今回は僕等今ガチメンバーで動画を制作したので、皆さんにご覧になって頂きたいと思います。僕等視点で繰り広げられる『今ガチ』、どうか最後まで楽しんでいってくれたら幸いです』

 

おれから視聴者への挨拶もそこそこに、本編となる映像が穏やかな音楽を携え続々と流れていく。

 

”――桜舞う春の温かな午後、僕等は出会った”

 

ナレーションもおれが担当した。声の使い分けが凄く得意そうだからとか、聞いてて耳が蕩けそうだからとか、そういう理由で女性陣を中心に推薦を受けたのだ。自分の声ってそこまでかなとは思いつつも、より良いバズリを得られるなら断る理由は無い。

 

”最初は緊張しながらも、少しずつ互いの事を知り、少しずつ互いの仲を深めていく”

 

挨拶を交わし、相手の事について訊ね、他愛もない話題で盛り上がり、一緒に食事を楽しむ……こうしてどんどん打ち解けていく今ガチメンバー。その中でフォーカスを充てられたのは、当然ながら黒川とみなみだった。

 

”そんな中で、僕等メンバーでも一際真面目な女の子と、彼女を見守り支える女の子がいた”

 

画面内でメンバーやスタッフ達との話に注意深く耳を傾け、必死にメモを取る黒川の姿が流れる。その勤勉で真面目な態度は、昨今において一人の少女を傷付けたクソ女と侮辱されている女の子と同一人物とは到底思えない。自分達のイメージする黒川あかねって実際とは違うのでは? そう考える視聴者が出るよう用意した演出だ。

 

その彼女にアドバイスしたり、おっとり笑顔で仲慎ましく会話するみなみも、世間がイメージする性悪女としての要素は欠片も存在しない。ただの面倒見の良い、心優しくて可愛い見た目の女の子でしかなかった。

 

”彼女達を――僕等の大切な仲間達を襲う悲劇。この時の僕等は、まだ知る由も無かった”

 

癒されるような音楽が途絶え、彩り溢れた教室の風景が一転して暗く殺風景になる。

 

”……僕達は何故早く気付いてあげられなかったのか。仲間が一人でずっと苦しんでいたのに……何時も側にいたのに……”

 

黒川以外のメンバー7人が立ち尽くし、俯いていた。顔は影に隠れて表情を窺えない。だが暗く重い空気は、黒川の苦しみに対して何も出来なかった自分達を悔やんでいる様子が強く伝わっていた。

 

画面が切り替わる。例のシーン……焦った黒川が誤って鷲見の顔に傷を付けてしまったシーンだ。

 

”ごめんなさい……ごめんなさい……”

”あかねちゃん!”

”あかね!”

 

怯える彼女にみなみが、続けて鷲見が寄り添い、抱き合う。おれが服の中に仕込んだカメラで隠し撮りしておいた映像と、制作陣から提供を受けた映像を組み合わせて視聴者に伝える。黒川は悪意をもって鷲見を傷付けた訳じゃない、アレはあくまで事故だったのだと。

 

”――あかねは私の事……嫌い?”

”嫌いじゃ、ないよ?”

”良かった。私もあかねの事、好きだよ。努力家で、真面目で、一生懸命で……だからこんなにも悩んでるんだもんね”

”ゆきちゃん……”

”ほらな、ここにはあかねちゃんの味方しかおらん。あかねちゃんは一人やないんやで?”

”……うん。ありがと、みなみ、ちゃ”

”もう、泣かなくても大丈夫だってば”

”ほな、涙拭くからジッとしとき?”

”ん”

 

しっかり仲直りをして、今まで以上の友情を育んだのだと。

 

”――それでも、悲劇は簡単に終わってはくれなかった。まるで僕等を嘲笑うかのように”

 

次から次へと、おれ達メンバーに試練が容赦なく畳み掛けてくる。

 

”辛かった。こんなにも素敵な仲間達が、多くの人々から誤解されてしまっている事が”

 

黒川とみなみを襲う、事情を知らない大多数からの誹謗中傷の嵐。それにより心が擦り減っていく黒川。おれ達は彼女達が心配で仕方なかった。

 

”困惑した。突然仲間達が攫われた事実に”

 

ダメ押しと言わんばかりな、風見組による下衆なシノギを目的とした誘拐事件への巻き込み。一体彼女達が、おれの兄や仲間達が何をしたというのだ。当時のおれは怒りでどうにかなりそうだった。

 

”僕等だけではきっと助けられなかったかもしれない。……でも、僕達が仲間を救いたいという思いに、多くの人達が応えてくれました。お陰で誰も欠ける事なく、全員無事に放送を再開できるのだと僕は思います”

 

おれ達のSOSを聞き入れて力を貸してくれた大人達のシルエットや、パトカーと警官が沢山映る光景が流れる。かぐやさん達秀智院学園の関係者に警察の方々、今ガチの制作陣、母さんや監督といった身近な人達……彼等の協力無くしてこの動画は完成しなかっただろう。

 

”――だから、この動画を見ている皆さんにも、僕等からお願いがあります”

 

画面が再び切り替わる。おれを中心に、黒川とみなみ以外の5人のメンバーが集い、真剣な眼差しを視聴者達へ注ぐ。

 

”この動画を制作した本当の目的……それは仲間である黒川さんと寿さんが誹謗中傷を受けてる事に関係します”

 

そしておれが代表して、動画制作の経緯を語り出す。お姉ちゃんの助言に従い、嘘偽りのない本当の目的を人々に教える。

 

”2人が悪く言われている事に、それで2人が苦しんでいる事に、僕達は耐えられなかった。声高にして訴えたかった。2人は悪い人なんかじゃない、それは誤解なんだって。誹謗中傷の切っ掛けになっちゃったあの悲劇は、事故なんだって……そこで思い付いたんです。自分達で動画を作って、黒川さんと寿さんの素敵なところを見せようって”

 

黒川とみなみの誤解を解き、名誉回復を目指す。それこそが、今回の動画の真の趣旨であると。

 

”本当の黒川さんは勤勉で真面目な子で、本当の寿さんは困っている人の為に力になろうとする優しい子なんだって……それが皆さんに伝わる事を願って作りました”

 

ですから皆さん。おれは眼前に観客が広がっているつもりで見回すように頭を動かし、再び正面を見据えて願いを口にする。

 

”この動画を見て、黒川さんと寿さんの――僕等の大切な仲間達の事を、改めて知ってあげて下さい。そして僕等8人が、心から笑顔で最終回を迎えられるように、これからも応援して頂きたいです。どうか――」

 

お願い致します。6つの声を一つに重ね、同時に頭を下げる少年少女達。未だに悪く叩かれる2人の仲間を絶対に救ってみせる。その強い意志を、動画を視聴した者達の多くは確かに感じ取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、動画は大バズリ。少女連続失踪事件を境に勢いが衰えていた炎上は、この動画を切っ掛けに大きく鎮静化していく事に。

 

今ガチの知名度は最高潮に達し、当初は単なる一ネット番組に過ぎなかった本作は、日本でも有数の人気番組としての地位を確立した。

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