【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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80話

「――嬉しかったなぁ、あの時は」

 

私、黒川あかねは炎上から救ってくれた仲間達との集合写真を見詰め、当時の日々を思い返していた。

 

「なぁに大昔の出来事を語るような雰囲気出しちゃってんのよ? まだほんの少ししか経ってないでしょうが」

 

ソファーに体を預け読書に浸っていた童顔の美少女がそう言葉を返してきた。名前は有馬かな。忌々しいライバルでありながら同時に推しでもある、私とは凄く複雑な間柄にある子だ。

 

……ねえ、ところでその本は何なの? “スコップを使った正しい戦い方”……? スコップで掘るのは地面であって人じゃないのですが……

 

「だって私にとってはそれくらい濃ゆくて素敵な思い出なんだもん」

「乙女チックな顔しちゃって。炎上するわヤクザに拉致られるわ、踏んだり蹴ったりな目に遭いながら随分と前向きね」

 

勿論、私一人だけだったら今頃あの世行きだったかもしれないよ? 仲間や家族に恵まれたからこそ私は立ち直り、今此処にいるんだって信じてる。

 

「ま、踏んだり蹴ったりはこっちもだけど。まさかアンタが私等のトコへ来るなんて思わなかったし」

 

すると鼻息を鳴らして失礼な事を言ってくるものだから、楽しい思い出に浸っていた私も流石にカチンと来た。

 

「む、それどういう意味? 私が何処に行こうと私の勝手じゃない」

「アンタが私の近くに居たら私が磨きに磨いた技術を盗まれるかもしれないでしょ?」

「……え、かなちゃんから? 私が? 別に盗む程の物があるようには見えないけど? 寧ろかなちゃんが私から学ぶ事しかなくない?」

 

ナチュラルにそう挑発すると、プツンと何かが切れる音。直後、かなちゃんがガバッと立ち上がり私を睨み付ける。

 

「はぁっ!? 言ってくれるわねっ!? 私の後追いの癖にぃ!」

「何よッ、私を認めたも同然の発言してたじゃないの!」

「んなもん撤回よ撤回! 生意気過ぎるから!」

「そんなんじゃ理由にならないよ!」

 

そこからギャーギャーと言い合いが始まる私達。かなちゃんとは苺プロに移籍してから大抵この調子だ。相手は私が心底憧れていて、女優を目指す理由そのものな筈なのに、どうも本当の意味で仲良くなれそうにない。いや、それでも大切な人の一人ではあるけどね。

 

……でも構わない、例え向こうが私を嫌っても別に。こうして至近で拝めるだけでも、喧嘩という形でしか喋れなくても。他の人より推しの子と特別な関係になれたようでファン冥利に尽きちゃう。

 

「むー、かなちゃんなんて嫌い!」

「ふ、フンッ! あたしだってアンタなんか嫌いよ!」

 

なんて言っちゃったけど、相変わらず自分勝手なところとか大女優感満載でやっぱ好き♡ 意地悪なトコもあるけどそれがまた良い♡ プリプリ怒って噛みついてくるトコなんてまるで小動物なの可愛い♡

 

「あーもう! 昔からずっと可愛いままなのに、何でこんな残念な性格なのこの人……!?」

「にゃッ、かわッ……!? な、何よ急に突然!? 今さっき嫌い嫌い言ってたばっかじゃん!」

 

ちょっと褒め言葉を混ぜるだけで途端に嬉しそうにしたり……ほんとチョロかわ好き♡

 

「だって可愛いのは覆しようのない事実だし、そこは認める他ないでしょ?」

「ぐ、う……も、もう! 挑発してきたかと思えばいきなり褒め出したり! 変なヤツ!」

 

とか言いつつ顔を赤くして、そっぽまで向いちゃってさ……うふふ、かなちゃん♡ かなちゃん♡ 有馬かな♡♡

 

……おっといけない。口から涎がジュルリ。

 

「――はいはい、ゾ◯もサン◯も喧嘩はそこまで。同じ事務所仲間なんだからもうちょっと仲良くしよう?」

 

「「誰が◯ロとサ◯ジだ(よ)!!」」

 

其処へマリア君が現れるや否や、喧嘩中の私達を見つけて暖かい眼差しを向けてきた。普段はいがみ合ってるけど実力は認め合ってる関係って言いたいの、君? かなちゃんの心中は知らないけど、私にとっては的を得た発言だったが。

 

「さて、そんな一緒に叫ぶ程仲良しなお二人に朗報。良い仕事を持ってきたよ?」

 

するとマリア君は脇に抱えていたA4サイズの封筒から冊子を取り出し、私とかなちゃんそれぞれに1冊ずつ差し出してきた。とある番組の台本である。

 

「え、えぇ……てか仲良しじゃないし!」

「ありがとうマリアく……え、嘘? この人気ドラマに私達が出演?」

「流石に主役じゃないし1話限りのゲストキャラだけど、バックボーンもしっかりしていて魅力的な役だから」

 

それでも絶賛放送中の月曜ゴールデンのドラマに出演なんて……嬉しいけど激しく緊張しちゃうなぁ。

 

「――ってちょっとマリア、何よこのキャラクターは!? 黒川あかねが演じるキャラと姉妹関係って書いてあるんだけどッ!」

「そうだよ? 表面上はいがみ合ってるけど、内心では仲直りを望んでいるスケート選手姉妹。二人が自然体に近い状態で演技に臨める良いキャラだと思うけど?」

「ちょ、おま……! 私がこの女と仲良くしたいと思ってる訳!?」

「少なくとも対立までは本心じゃないように見えるね、おれには」

「ふ、フン! んな訳ないでしょ!」

 

はわわ、照れ顔キャワワだよかなちゃん♡ え、かなちゃんも私と仲良くしたいと思ってる? ヤダ、嬉しい♡

 

「――でもさぁマリア」

 

かと思えば急にスッと冷静になり、ジッとマリア君の顔を見詰め出す。切替の速さも如何にもプロ女優って感じで……ホント凄いや、かなちゃん♡

 

「何、パイセン?」

 

相対するマリア君はキョトンとした表情で、コテンと首を傾げる。誇張でも何でもなく、この子は非常に美形だ。正直私やかなちゃんですら敵わない程で、アクア君やルビーちゃん、そしてアイさんと良い勝負である。おまけに小さくて幼げな雰囲気の所為か、ちょっとした仕草ですら極めて可愛らしく、見る者の庇護欲を増大させる。もし動画や写真として公表していたら堕ちる人が続出しそうなレベルだ。

 

「こんなにも良い仕事、手に入れるのなんて普通に容易じゃないと思うんだけど……まさかアンタ、有力者に体売ってるとかで引き換えてんじゃないでしょうね?」

「……有馬」

 

……でも、この子の場合は庇護されるどころか、

 

「俺がそんな変態共の為にリスクだけ犯してこの身を差し出すとでも?」

 

逆にみんなを庇護する側の人間なんだよね。

 

馬鹿にしてんのかテメエ?

 

「ひッ、ごめんなさい……!」

 

(こ、怖い……)

 

嫌な事を邪推したかなちゃんに半ばキレた態度で威圧する姿は、世間一般で呼ばれる人気モデル”天使王子”とのギャップが凄まじい。豹変どころの話じゃないし、直接怒気を当てられてない私も鳥肌がヤバい……

 

「実際タダじゃねえよ、これは立派なビジネスなんだからよ。お前等を出演させる交換条件として、俺に雑誌のモデルとして出て欲しいと言われたから了承しただけだ」

「そ、そうなのね……」

「大体相手が俺の体を求めてくるようなゴミだったとして、それだけで本当に満足してくれると思うか? いずれは苺プロの他のタレントを要求してくるに決まってる。そういう輩とはハナからお断りってヤツだ」

 

(……言われてみれば確かに)

 

欲望とはエスカレートしていくもので、一度深みに嵌れば何処までも堕ちていく。下手すれば私もかつての事務所以上に酷い立ち場になってしまうのかもしれないのだ。そうならないようにマリア君は注意しながら仕事を用意してくれている。

 

「――それはそうと」

 

重い空気が霧散し、マリア君は豹変する前の可愛らしい天使に戻る。重圧から解放されたかなちゃんはホッと一息。

 

「あかねさんはどう? もう苺プロには慣れたかな?」

「お陰様で。以前居た事務所より大分気持ちが楽になったよ」

 

さっきも言った通り、今ガチが始まる前と今では私の立ち場は大きく変化している。なんと私はあの大女優のアイさんが所属する苺プロに移籍し、更にはアクア君やみなみちゃん達が通う陽東高校へ転校したのだ。陽東高校の制服を纏い、放課後に苺プロの休憩室にいるのがその証。

 

『――黒川さんは今の状況に満足してる? こっちの事務所に来れば不当に扱われる事はないし、女優として存分に暴れさせてあげられるんだけどなぁ?』

 

切っ掛けはマリア君からの提案、もとい勧誘である。彼は私の所属事務所の実態を隅々まで調べ上げており、その腐敗具合を身内以上に把握済だった。

 

スタッフに強いられる不当な長時間労働。私含む女性タレントのキャバ嬢扱い。他にもパワハラ、セクハラ、アルハラは日常茶飯事。幼少期から所属していた影響か、マリア君に指摘されるまで事務所が世間一般で言うブラック企業に当たると全然気付けなかった。

 

『契約更新日、近いんでしょ? 今を逃したら向こう2年は搾取され続けてしまうよ』

 

私は専属のマネージャーも一緒ならと、条件を付けてみた。あの人も社長から相当キツく当たられていて、心身ともに疲弊している様子が見て取れた。今までもずっと裏からサポートしてくれた恩人だ。そんな彼を苦しい状況に置きっぱで、自分一人だけ移籍はしたくない。

 

『良いよ? 丁度スタッフの募集も掛けてるところだし、即戦力になる人が来てくれるのは大歓迎だよ』

 

その心配は即杞憂に終わったけど。

 

「しっかしさ、あかねさんに報酬の20%しか与えないなんて随分舐めてるよね。その事務所」

 

報酬についても大きく改善された。マリア君が壱護社長を説得し、事務所との取り分4:6での契約を認めさせてくれたのだ。前の事務所では僅か2割しか貰えなかったから、家族に使えるお金が2倍に増えて素直に嬉しい。

 

「2:8って言った時は社長も唖然としてたよ? そのまま蜜柑を口に突っ込んでもスッポリ入れちゃう位に」

「あはは……やっぱり取り分20%って普通じゃなかったんだね」

「当たり前でしょ、搾取する気満々の比率じゃない。この苺プロだって、タレントの取り分どんなに低くても其処までは行かないわ」

 

子供だからと甘く見られてたからなのか、それとも一から育てたのは自分達だから搾取しても良いとでも思ってたのか。……何だろう、今になってかつての社長達への怒りが沸々と湧いてきそうだ。

 

「改めて本当にありがとね、マリア君。私だけじゃなくマネージャーまで雇ってくれて」

「雇ったのは社長とミヤコであって、おれはあくまで二人にお願いしただけ」

 

謙遜するマリア君だが、彼が行動してくれなければ私とマネージャーは今後も不当な搾取を受けていただろう。本当に感謝しかない。

 

「それに猛者には猛者に相応しい場所と褒賞を与えるべきだよ。それを無駄な事で使い潰そうなんて愚の骨頂だ。此処ならその心配はないから安心してね」

「うん、受けた恩はしっかり返させて貰うから」

 

あれからマネージャーも少しずつ元気になってきてるし、この苺プロは本当に良い事務所だ。タレントやスタッフの事をとても大切に出来ているし、その人の能力に合わせた人員配置も上手い。此処なら夢見た大女優へきっと至れるだろう。頑張らなきゃね。

 

「あ、もう7時過ぎか」

「結構長く居たわね。そろそろ引き上げさせてもらうわ」

「りょーかい、お疲れ様二人とも。台本合わせはまた明日の放課後にね?」

「えぇ」

「分かったわ」

 

そうこうしている内に外は真っ暗だ。受け取った冊子を鞄に仕舞い、帰宅準備に入る私とかなちゃん。その途中でふとある事を思い出した私は、休憩所を去ろうとするマリア君を呼び止める。

 

「そうそうマリア君?」

「ん、どうしたのあかねさん?」

 

「みなみちゃんとは上手くいってる?」

「――え? うん」

 

マリア君は頬を真っ赤に染め、コクンと頷く。どうやら問題は無さそうで何よりだ。

 

「まさかまたフライング告白しちゃうなんてね」

「……お、思い出させないでよ、あん時の事は。恥ずかしいし」

「何々、寿みなみとのお熱い話? 興味深いわね、私も混ぜなさいよ?」

「も、もうッ! パイセンもあかねさんも明日学校でしょ! 早く家に帰って寝なよ!」

「はいはい、また明日聞かせて貰うとしましょう」

「じゃあねー、マリア君」

 

さて、少し前に完結した『今ガチ』。その最終回までに起きた印象的な出来事が複数あったので、ちょっとお話しようかな。

 




おまけ:裏神漫才withあかね

香坂「搾取すれば謀反を起こされる、当然の話です。略して『砂糖』」

鳳崎「取り過ぎには御注意下さい……ってアホ!」

香坂「私も古巣からの不当な扱いに辟易してましたからね。貴女の気持ちはよく分かります」

反町「有能を不当に扱うなぞ無能の極み。貴様は運が良い、極めて有能な事務所に移籍出来たのだから。今後はその天賦の才を存分に磨くが良い」

あかね「は、はぁ。ありがとうございます……?(麻薬を売ってる人達に励まされてもなぁ……)」


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