【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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女性刑事の『芹澤千夜』さんが、風見組の武闘派幹部『佐和田裕二』の事情聴取を行います。


番外編⑮

私の名前は芹澤千夜。警視庁捜査一課の女刑事だ。

 

203X年春から発生していた少女連続失踪事件の犯人――風見組や闇医者――が逮捕されてから数日後。今、私は東京都千代田区霞が関2丁目1番1号、警視庁の取調室にいる。

 

「――始めようか」

 

冷たい蛍光灯に照らされ、消毒液の匂いが鼻をくすぐる。灰色の壁、鉄のテーブル、録音機器の赤いランプ……その中で私は欠片も緊張せず椅子に座り、テーブル越しに対峙する大男を睨み付ける。

 

名を佐和田裕二。風見組の幹部、『鉄の悪魔』の異名を持つ超武闘派で、裏社会では相当名の知れたヤクザだ。鮮やかに染まったオレンジの髪、揺れる緑のピアス、180cmを軽々と超える巨体、筋肉の塊。顔や肩から覗く大小様々な傷は、裏社会の修羅場を物語っている。

 

……しかし今、眼前でパイプ椅子に腰掛ける彼の目は異様なくらいに静かだ。まるで何かに救われたような光を宿している。手錠の鎖がカチャリと鳴り、取調室の空気が張り詰める。

 

私は報告書を手に、声を低く抑える。

 

「風見組幹部、突撃隊長『佐和田裕二』。33歳。少女22人の拉致、監禁、傷害――風見組の臓器売買の罪は重い。話したいことがあるなら今だけだぞ?」

 

佐和田は目を伏せ、深く息を吐く。彼の声は意外なほど穏やかだった。

 

「……親父が提案してきたシノギが矛盾してるのは分かってた。少女を攫い、腎臓を売る――そんな外道な真似で、風見組を昔のような任侠集団に戻せるはずねえ。……でも俺は信じたかった。親父の言うことを聞けば、風見組が再び輝けるってよ」

 

私は眉をひそめる。15年の警官生活で、佐和田のような男は何人も見てきた。忠義に縛られ、犯罪に手を染めるヤクザ達。だが彼の言葉には、どこか悔恨の響きがある。

 

「矛盾? 笑わせるな。少女たちを地下室に閉じ込め、腎臓を抜いたお前たちが、任侠だと?」

 

私はそう冷たく返すと、佐和田が顔を上げて此方の視線を受け止める。彼の目には、深い影が揺れている。

 

「……その通りだ、俺は間違ってた。星野マリアに倒されるまで、きちんと理解出来ていなかった」

 

その名を聞いた私の心が一瞬揺れる。

 

『天使王子』、星野マリア君――150cmの華奢な体格の美少年。苺プロ所属のモデルであり、写真集や出演中の『今ガチ』にて、その妖精のようなルックスで人気が急上昇している芸能人だ。娘の千尋も大ファンで、彼の写真集を全巻揃える程だ――何故か息子の京也はそれを面白くなさそうに見てたけど。

 

そして、これは誰も気付いていないけれど……あの国民的大女優、星野アイの息子……の可能性が極めて高い男の子でもある。

 

今でも鮮明に覚えている。12年前のストーカー襲撃事件で駆け付けたあの日。玄関にベッタリと付着した赤黒い血の海。その中で子供達に囲まれながら、死んだように眠っているアイさん。ナイフで刺され、腹部から激しく出血していた彼女がまだ生きていたのは、もはや奇跡としか言いようがない。救急隊員と警察が協力して彼女を慎重に抱え、外で待機中の救急車へ運び出そうとした時、

 

『待ってよ母さんッ!! 嫌だ、行かないで……!!』

『大丈夫だよ僕ッ! お母さんの事は私達に任せて!』

 

マリア君はアイさんから引き離された瞬間、激しい錯乱状態に陥った。当時巡査だった私は彼を抱きかかえ、必死に宥めようとしたけど、

 

『放せぇッ!!!』

『痛い痛い!! やめてよ僕ッ……!』

 

私の右手に残る傷跡は、その時噛まれたものだ。でも私はマリア君に怒りは一切湧かなかった。寧ろそうなるまで彼を追い詰めたストーカーに対して、一層許せない気持ちでいっぱいになった。身勝手な動機で、幼子等の目の前で母親を刺し殺そうとした最低な男。奴は既に出所したものの、アイさん達への接近禁止命令は現在も続いている。

 

その後、マリア君の言動を訝しんだ同僚や救急隊員達は、駆け付けた斉藤ミヤコというアイさんの養母から説明を受けた――多忙な自分や夫に代わって赤ん坊の頃から面倒を見て貰っているから、自分の子供達はアイさんをもう一人の母親同然に慕っているのだと。

 

……嘘だ。あの緊迫した状況で、子供が実の母親を間違える訳がない。みんなは納得してたけど、私は騙されなかった。

 

でも同時に事情も察した。アイさんはトップアイドル。しかも現在の年齢を考えれば16歳でマリア君達三つ子を生んだ事になる。どう考えてもバレたらスキャンダルの嵐だ。そうなれば世間からの好奇と批判に晒され、あの一家はボロボロにされてしまっただろう。

 

アイさんがどんな事情で、若くしてマリア君達を産んだのかは分からない。でも、マリア君の必死な様子を見れば、彼女がどれだけ母親として子供達から慕われているのかよく分かる。当時はまだ子供に恵まれてなかったけれど、彼等家族の幸せと未来を守りたいと思い至った私は、この秘密を胸の奥に仕舞う事を心に決めた。

 

(――それにしても、信じ難い話だわ)

 

あの小さな子供が、佐和田裕二を相手に終始優勢だったなんて。思わず私は風見組本部の戦闘シーンを妄想し、脳裏に浮かべる。

 

血と埃が舞う廊下、マリア君の電光石火の蹴り、佐和田の巨体が壁に叩きつけられる衝撃。そんなぶっ飛んだ事を、儚げな美少女にしか見えない子が、本当に……? だがコイツは全く嘘を吐いていない。常識を粉々に砕かれたような気分になりつつも、私は声を抑えて問う。

 

「……星野マリア君は、どうやってお前を倒したんだ?」

 

佐和田の唇に、かすかな笑みが浮かぶ。敗北の悔しさではなく、どこか安堵の笑みだ。

 

「……あの子の力は、俺の知るどんな武闘派とも違う。速さ、重さ、技――全てが常識外だ。まるで数多の戦場を渡り歩き、生き残ってきた鬼神のように」

「……」

「……だが一番恐ろしかったのは、あの目だ」

「目?」

「そうだ。あの二つの瞳の中にそれぞれ宿る星……裏社会の闇を背負ってるかのような漆黒の綺羅星は、しかしその奥に少女達を守る強い虹色の光で燃えていた。……俺はあの”目”に、圧倒された」

 

佐和田は一呼吸置き、続ける。

 

「彼は俺を倒した後、こう諭した。『真の極道とは、親や兄貴分の言うことを聞くことじゃねえ。堅気を守ることそのものだ』、『親失格な奴の言うことなんて、聞く必要はねえ』……とな」

「ッ!」

 

私は目を見開き、息を呑む。マリア君の言葉は、佐和田の忠義を根底から揺さぶった。あんな小さな子供が、裏社会の超武闘派に任侠の真髄を説いたのだ。

 

私の心に風見健次郎の動機が浮かぶ。少女たちの臓器売買は組長の我欲――私腹を肥やす為の犯罪だった。マリア君は、それを一瞬で見抜いた。

 

「……あの子は、風見健次郎の嘘を見抜いた、と?」

 

私が静かに問うと、佐和田が頷いて声に力が込める。

 

「ああ、あの子は嘘を吐いてなかった。親父が我欲でこのシノギをやったと、全部見抜いてた。……その時、俺は決めた。親父に逆らうことを選ぶことにした。何もかも手遅れだったけど……最後くらいは本当の意味で任侠者に戻りたかった」

 

彼の目は、遠くを見る。

 

「……だから俺は、親父を裏切った。警察に逮捕された時も、抵抗しなかった。……もう、血でしか語れない俺の人生を、終わらせたかったんだ」

 

私の胸に複雑な感情が渦巻く。佐和田の改心は本物だ。だが、少女22人の人生を踏みにじった罪は重い。彼女たちの傷が、脳裏に焼き付く。私は冷たく、しかし静かに告げる。

 

「佐和田、あれだけのことをしでかしたんだ。もう誰もお前を……お前等のことを極道とは1ミリも思ってないぞ?」

「……言われずとも、今の俺達はただの外道だ。任侠を語る資格は全く無え」

 

肩を震わせる佐和田に、「でもな、佐和田」と、私は続ける。

 

「もし改心したと言うのなら、まずは犯した罪を塀の中でしっかり償ってこい」

 

冷たい表情を、次第に穏やかな笑みへと変えて。間違いを犯した我が子を叱るように、優しく諭してあげた。

 

「……そして出所したら、今度こそやり直してみせなさい。それで漸く、傷付いた女の子たちは報われるわ」

 

私の変化に佐和田は一瞬驚くも、目を閉じ、そしてゆっくり開いて深く頷く。

 

「ああ、分かった。俺は償うよ……少女たちの為に、残りの人生を全てかけて。……そして今度こそ、任侠者として返り咲いてみせる」

 

彼の声に、かつての冷酷さはない。そこには、マリア君の光に触れた男の、かすかな希望があった。

 

「星野マリア。あの子は堅気だが……あれぞ正しく真の極道だ。俺がかつて憧れ、目指すべき極道のあるべき姿だ」

「……そう。まあ、精々頑張りなさい」

 

私は立ち上がり、取調室のドアに向かう。心に、マリア君の星のような瞳が焼き付いている。あの子の戦闘力は佐和田を倒し、その心まで変えてみせた。あの子のお兄さんとお姉さんの行動力も、常識を超えている。

 

繰り返し言うが、あの三つ子は星野アイさんの隠し子だ――世間には知られていないが、私は半ば確信している。アイさんの神秘的な魅力に、マリア君の異常な力、アクア君とルビーちゃんの結束。何より全員が恐ろしい程の美人揃いで、魅了され、狂わずにはいられなくなりそうな美貌を放っている。あの家族は……普通じゃない。 誇張無しに、あらゆる面でスターになる為に世に現れたかのような存在だ。

 

「神様にでも愛されているのかしら?」

 

私は刑事だ。法の枠内で正義を貫く。それなのにマリア君達の光は、私の枠を凌駕する。あの子達の戦いは少女達を救った。だが刑事として、私は思う。

 

「三人共……貴方達の力は、まるで私の正義を試してるようね。……それでも、私は君達を守りたい。二度と子供に、あんな無茶な真似をさせない為にも」

 

ドアが閉まり、取調室の静寂が戻る。少女達の笑顔と、マリア君の光を胸に、私は警視庁の廊下を歩き出す。

 

その時、偶然窓の近くの枝に停まっていた一羽のカラスが、何処かへ羽ばたいていくのを目にした。





マリア「あのぅ……おれ、半グレなんですけど。マフィアなんですけど(元だけど)……」
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