【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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四宮武志「なあ、もうすっからかんなんだよ。同じ“四宮”の誼って事で500万貸してくんね? 600万にして返すからさ?」

白銀かぐや「いきなり現れたと思えば何ですか、そのクズ発言は。貴方と四宮家は偶々苗字が一緒なだけの他人同士に過ぎません。第一、私はもう四宮姓では御座いませんので」

四宮武志「じゃあ200万で良いからさ、な?」

白銀かぐや「何が“じゃあ“ですか、”じゃあ“って。金額の問題ではないでしょう? 呆れる程のクズっぷりね」


81話

私の名前は黒川あかね。

 

「――てへっ☆♪」

 

劇団ララライに所属する舞台女優の高校生だ。

 

ついに今日は炎上と誘拐で暫く出演を控えていた『今ガチ』への復帰日。アクアのアドバイス――キャラ作りは自分を守る上でも大切な事――を受けて、彼が参考に挙げた星野アイを十八番のプロファイリング能力でキャラ分析。早速教室に入った瞬間から彼女を演じてみた。

 

「……」

「……」

 

……あれ? アクア? それにマリアまで、一体どうしちゃったの? 何だか様子が変だよ?

 

「どうしたのー? アクアもマリアも、私の事ジッと見ちゃってさ?」

 

「え、いや、その……」

「……」

 

漸くアクアが返事をしたけど、何故かしどろもどろ。マリアに至っては一向に反応せず、ただ私を見詰めるばかりだ。

 

「な、なんかあかね……ちょっと雰囲気変わった?」

「え、何が? ゆきちゃん? いつもこんな感じじゃなかったっけ、私?」

「い、いや……もうちょっと控えめな感じかな〜って」

「うーん、そうだったかな?」

 

不思議。そういう細かい事は気にする必要はないって思えちゃう。みんなの視線は、まるで新しい私を値踏みしてるみたいで、普段だったら緊張のあまり声すら出るか怪しいのに。アイってこんなに軽やかでポジティブなキャラだったっけ?

 

でも何だろう……? それでもほんのちょっぴりドキドキしてるっぽいなぁ。特にアクアとマリアの反応が異様に気になっちゃって、何故か少しだけ心がざわつく。2人に褒められる事を望んでいるというか……

 

「ね、ねえあかね? 本当に大丈夫なの……?」

 

ゆきちゃんが心配そうに首を傾げる。彼女の頬には事故の傷が薄く残ってるけど、その顔はいつもの優しさでいっぱいだ。動画のおかげで、私とゆきちゃんの誤解は解けた。視聴者も「事故だった」と認めてくれて、炎上はだいぶ落ち着いた。でも、ゆきちゃんの目は、私の新しいキャラに戸惑ってるみたい。

 

「うん、めっちゃ元気だよ! 炎上した時や誘拐された時は流石に大変な気持ちだったけど、みんなのお陰でもう平気ッ! ゆきちゃんこそ、傷の方はホントに大丈夫?」

「え!? う、うん……平気だよ?」

 

私はアイのような弾ける笑顔で返す。ゆきちゃんは頬を赤らめて笑うけど、チラッとアクアを見る。反応に乏しい2人の様子が気になるみたい。

 

「ねえ、アクアもマリアも何か言ってよ。私、まだ何処か変だったりする? 言ってくれないと、ちょっと寂しいかな?」

 

あざと可愛く2人へウィンク。アイのチャームを全開にして、ちょっと挑発的に聞いてみる。するとアクアは一瞬目を逸らしてから、咳払いして答えてくれた。

 

「いや、変じゃない。……ただ、あのアイをここまで完コピするとは思わなかった。あかねのプロファイリング能力、あまりにも予想以上でよ。正直『やりすぎじゃね?』ってくらいに」

 

彼の声には感心と呆れが半々。でもその頬は赤く染まっていた。ふふ、あのアクアが照れてる……キャワワ♥

 

「えー、やりすぎって何? これが新しい黒川あかねだよ! ね、マリア?」

 

私はマリアに振ってみる。彼はまだ無言で、じーっと私を見つめてる。金髪が教室に差し込む日差しでキラキラ光ってて、まるで地上に舞い降りた天使みたい。『天使王子』の名は伊達じゃないってね。

 

……でも、なんかちょっと緊張。マリアの目は、まるで私の心の奥まで見透かしてるみたいで。

 

「……か」

「か?」

 

やっと口を開いたと思えば、とても短い一言。声は静かだけど、どこか熱っぽく感じる。まだ何か言いたげだったので、私はそのまま彼を見守る。まるで母親が子供が自ら此方に寄り添ってくるのを待つような、不思議な感覚を抱く。一体、何故……?

 

「かあ……」

 

そして続きを言い放とうとした瞬間、マリアはアクアに口を塞がれていた。

 

「もが」

「わ、悪い……! マリアのヤツ、ちょっと気分が良くねえみたいなんだ! 暫く別のところで休憩させてくる!」

「あ、え、アクア君!?」

「ちょ、ちょっと2人とも……!」

 

そして私達の返事を待たずに、アクア君はマリア君を引き摺って教室を飛び出してしまった。呆然と立ち尽くすメンバー達の中で、演技を強制解除された私はマリア君のさっきの台詞を思い返した。

 

『かあ……』

 

(”かあ“……カラスの鳴き声? うーん……マリア君って、こういうタイミングでボケるような子じゃないしなぁ。明らかにまだ続きがあるような言い方だったし……マリア君は、一体何を私に言おうとしたんだろう……?)

 

「あかねちゃん、大丈夫なん……?」

「う、うん、大丈夫だよみなみちゃん。でも何だかマリア君は気分悪いらしいし、私は此処で待ってる事にするよ」

「そうなん? ウチは心配やから、ちょっと追い掛けますわ」

「うん、分かったよ。お願いね?」

「おおきに」

 

みなみちゃんはアクア君達を追う為、駆け足で教室を出ていくのだった。

 

 

 

 

 

「此処なら誰にも聞かれないな……」

 

お兄ちゃんに教室から遠く離れた階段の裏手まで連行されたおれは、周囲に人気が無い事を確認してから漸く解放される。

 

「プハッ! あ、ありがとう、お兄ちゃん……」

「危うくあかねを”母さん“と呼ぶ様子が全国放送されるところだったな。しかし、まさかあそこまでアイを再現してみせるとは思わなかったが」

「おれ、完全に母さんが目の前に居る認識でいたよ……あのオーラ、完全に母さんの雰囲気だった。黒川さん、ヤバい奴だ」

 

マジ危なかったぁ! 母さんの隠し子案件を世間に暴露するところだったよ! 

 

黒川さんの演技力は遥か想像以上で、油断していたおれは完全に飲まれていた。伝聞やネット上の情報を合わせて、あそこまでの完成度に至るなんて。

 

……あ、でもこの間の動画作成の時とかに会ってるか。いや、それでもあのレベルは普通じゃないけど!

 

周囲の人間も全員が彼女の魅力とカリスマ性に飲まれ、一人として視線を外す事はなかった……いや、出来なかった。それ程までの不思議な引力を彼女もまた持ち合わせていた。まごう事なき天才……モンスター。気が付けばおれの口角は上がっていた。

 

「尚更苺プロへ引き込みたくなっちゃったよ。あの才能を今の彼女の事務所で燻らせるなんて、勿体無い」

「あかねの事務所を調べてる最中だったよな? 言い方からしてヤバい所なのか?」

「それはもうガチのガチ。世間にバレたら吹き飛ぶレベルで前時代的だったよ?」

 

俗に言うブラック企業そのものだ、黒川さんの事務所――『ライトスタッフプロモーション』は。聞き込みや関係者個人のブログ、SNS、裏アカなどを利用して調査してみたけど、もう出るわ出るわ問題案件だらけ。

 

スタッフへの安月給・超長時間労働は当たり前。タレントへの取り分は黒川さん程の優秀な人材に対しても2割以下で、酷ければ1割未満の低配分。上層部はセクハラ、アルハラ、パワハラの常習犯。若いスタッフやタレントには、スポンサーの重役に対する使用人やキャバ嬢同然の扱いの強制……コンプライアンス重視のご時世に、よくこんな真似が出来るよねー。

 

詳細を聞かされたお兄ちゃんも、非常に整った表情を歪ませてドン引きだ。

 

「酷いな、今ガチの制作陣が可愛く見える程だ。もし、この番組を無事に終えてもあかねの奴……何処かで潰れちまうぞ?」

「ホンット、ここまで清々しいくらい汚い大人は前世以来だね! おれ、今日の収録が終わったら黒川さんに話を持ち掛けてみるよ。彼女だっておれ達から実態を聞かされれば、移籍を検討してくれるだろうし」

 

仲間が舐められた扱いされるのは腹立たしい。放置なんて出来る訳がない。猛者には猛者に相応しい場所と待遇を提供するのは当然。それをハナから放棄して搾取するなど無能の極みだ。

 

「マーくん、アクア君! 何処にいるんや~?!」

 

「ん、今の声は……」

「みなみだね――おーい、こっちこっち~!」

 

「あぁ、見つけたー! 階段の裏で何しとんねん2人とも? 此処にいたって休めへんで?」

 

「あはは……途中で気分が回復したみたい。心配してくれてありがとね、みなみ」

 

その後、みなみと合流したおれとお兄ちゃんは元来た廊下を戻っていく。

 

「――いよいよ再来週やね、最終回」

「うん、初めて集まった時から、もう3ヶ月も経つんだね。あっという間って感じ!」

「楽しい時間というものは、一瞬で過ぎ去っていくようなものだからな」

 

全12回の放送も今回で10話目。残すところはあと2話のみ。これが終われば今までのように頻繁に会える可能性は低くなる。そう思うと……ちょっと寂しいな。

 

「……マーくん、やっぱり元気なさそうやけど、ホンマに平気なん」

「体の方はね。ただ、みんなともっと一緒に居たかったなって思うと……もう少しだけ番組が続いて欲しかったなって」

 

本当、悪魔だった頃とは大違いだ。他人を一切信用せずに恐怖と暴力で支配して、幹部も部下も捨て駒として扱ってばかりだったおれが……こんなにも他人との絆を大切したいと思うようになれた。

 

(分かってた事じゃん。どれだけ自分に言い聞かせても、本当は悪魔になんかなりたくなかったってさ)

 

愛されたい、愛したい、誰かと仲良くなって一緒に楽しく過ごしていきたい。その願いを無理矢理押し込めず、誰かの為に動いていれば、まだマシな未来を得られたかもしれない。

 

……母さんとだって、和解してやり直せたかもしれないのに。

 

「――ほんっと大馬鹿だよ、おれって奴は」

 

後悔先に立たずとは、この事だ。

 

「マーくん? なんか言いました?」

「ううん、何でもないよ。ちょっと独り言」

 

だからこそ、おれは改めて誓う。二度と道を違えないと。

 

「みんなお待たせー!」

「悪いな、心配掛けちまって。もう大丈夫だ」

 

お兄ちゃん、お姉ちゃん、そして母さん。

 

「あ! アクたん、マリりん、丁度良い所に! 実はあかねのメモが隙間の奥に落ちちゃってー!」

「このテーブル重過ぎて俺等だけじゃまだ動かねえんだ! 悪いけど手伝ってくれないか!?」

「ごめんね、みんなー!」

「そうなのか、分かった。そっちを持てば良いのか?」

「おう、頼むよ」

 

おれを”悪魔”から”人間”に戻してくれて、本当にありがとう。

 

「マーくん、ウチ等も行きましょ?」

「そうだね、みなみ」

 

貴方達がおれを愛してくれているように、おれも他人を愛してあげてみせるよ。

 

……おれのように、誰かが”悪魔”に堕ちたりしないように。




長らくお待たせ致しました。いよいよ本編再開となりますので、宜しくお願い致します。
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