【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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城ヶ崎の嘘を見抜く能力を知った時の感想。

判明時 → 嘘を吐いているか分かる!? 凄いけど怖!! この人の前では誤魔化しが効かないとか、どうする京極組!?

取得経緯発覚後 → 人の心


10話

私の名前は星野アイ。現在、人気絶好調の売れっ子アイドル『B小町』のセンターで、アクアとルビーとマリアのママである。

 

「あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「マリア! マリア……!! 大丈夫……!?」

 

家族4人で並んで寝ていたある日の夜。私は突然聞こえてきた呻き声に目を覚ました。見れば隣で眠るマリアが頭を抱え、激痛に悶え苦しんでいるとしか思えない姿。慌てて飛び起きてマリアの肩を掴み何度も呼び掛けた。

 

「ん……アイ、どうしたんだよ、こんな夜中に?」

「ママ……? って何この大きい声?」

 

騒ぎを聞いたアクアとルビーも起き上がり、マリアの異変に気付いて動揺した。

 

「お、おいマリア! どうした!」

「しっかりしてよ、ねぇマリア!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!」

 

無理もなかった。全身に玉の様な汗を流し、奇声を発してのたうち回る弟の様子を見て普通でいられる筈がない。この子は元々アクアたちより未熟な状態で生まれてきた。もしかしたら何か重大な病気を持っていたのかもしれないのだ。私は急いで救急車を呼ぼうとスマホに手を伸ばそうとした。

 

「……は……はぁ! はぁ! はぁ……!」

 

そんな時だった、マリアが目を覚ましたのは。私は通報するのも忘れてこの子を抱き上げる。

 

「マリア……!!」

「あ……う……あれ……ここは……?」

 

譫言の様に呟きながらマリアが視線を巡らせ、抱き締められた事で至近にいた私と目が合った。“彼”に似た……と言うよりは、私のそれを黒く塗り潰したかの様な二つの星。星型に切り取られ紫の瞳に貼り付けられた闇夜は、その先に映るこの子の心を覆い隠している感じがした。

 

「マリア、大丈夫!? 頭が痛いの……!? 他に痛いところは無い……!?」

「え……夢……夢、だったのか……?」

 

マリアの口から漏れた夢と言う単語。それが今までこの子を苦しめていた原因って事? でも、ここまで異常な苦痛を受ける夢って一体何? 途轍もなく怖い夢を見ていたのは間違いなさそうだけど、それに対するマリアの反応はまるで発作だ。

 

「そんなに辛い夢を見たの? 一体どんな夢……?」

「…………べ、別に良いだろ、ただの夢なんだから。――五月蠅かったようですまねぇ。そろそろ離してくれ」

 

マリアは一瞬だけ強張った表情になり、触れていた私の手を力づくで引き剥がして背を向ける。その後ろ姿は、まるで何かを怖がってる様に映った。

 

「……ホントに大丈夫? ママとくっ付いて一緒に寝よう?」

「良いって……ただの夢だって言ってるだろうが!! もう寝かせてくれよ……!!」

 

そう声を荒げたマリアは頭から布団を庇ってしまった。

 

「ちょ、ちょっとマリア……!」

「良いの」

「ママ……でも……」

「ママは大丈夫。マリアは私が見といてあげるから、アクアとルビーはもう休んでて?」

「あ、あぁ……」

 

アクアとルビーに寝る様に促した私は、マリアが中に入っている布団を凝視する。さっきの尋常じゃない様子からして自分の腕の中で寝かせてあげたかったけど、マリアから拒絶された以上はただ見てあげる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

「――それでご飯を作ろうって考えたのね?」

「まぁ、それもあるけど。……ほらっ、私ここ最近忙しくて、子供たちに手料理を振る舞ってあげられなかったからさ。久々に、やりますよー!」

 

翌日。珍しく仕事がお休みだった私は、アクアたちの為の昼食作りに取り組んでいた。仕事がある日はミヤコさんに子供たちの食事を用意して貰ってばかりだったので、彼女への普段のお礼も兼ねていっぱい作るつもりだ。

 

キッチンに立った私が熱々のご飯をボウルに移して冷ましているところを、ミヤコさんはテーブルの椅子に腰掛けながら眺めていた。

 

「……それにしても、貴女が米を使った料理を作るなんてね。普段はパスタとか、あとパン系やサラダばかりなのに。苦手じゃなかったの?」

「ん~、苦手と言えば苦手だけど、食べれない訳じゃないから。それに私の好き嫌いに子供たちを付き合わせるのは良くないでしょ? これなら簡単だし、すぐに沢山作れるってのもあるから」

「ふ~ん」

 

そう、食べれない訳じゃない。ただ柔らかいご飯の中に固いガラスが混じっていると思うと、ちょっと怖くなるだけ。

 

「どれどれ……これくらいまで冷ましたら大丈夫かな?」

 

ある程度冷ましたご飯に具材を混ぜ、掌に乗せて形を整えていく、これを繰り返すだけ。単純な作業だけど、子供たちの喜ぶ姿を思い浮かべると笑みが零れ、より工夫を凝らしたくなる。

 

「種類は豊富に用意するつもりだから、色とりどりできっと飽きさせないよ♪」

「……食べきれる量だけにしときなさいよ、勿体ない」

「大丈夫大丈夫。仮に作り過ぎても明日のお弁当にすれば良いんだし」

「生ものは腐りやすいんだから冷凍保存を忘れないようにね?」

「はーい」

 

私はミヤコさんに返事をしながら、新しい具材をご飯に加える。これは特に体の小さいマリアに食べて貰いたくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前は城ヶ崎賢志……

 

「クソったれが……」

 

朝からずっと最悪な気分である。これも全ては昨晩見た忌々しい夢のせいだ。

 

俺の幼少期を見事に再現したそれは俺の頭を締め付け、揺らし、歪めてきやがった。正午を迎えてもこの猛烈な不快感が薄れる事はなく、俺は何時にも増してイライラしていた。

 

「ま、マリア……辛そうだよ? 頭痛薬用意しようか?」

「ルビー、3歳児が飲める頭痛薬はウチには無いぞ? ここは水枕を」

「何も問題ない。あと俺は今虫の居所が悪いんだ。放っておいてくれ」

 

此方を心配する兄姉(アクアとルビー)を突き放し、俺は一人ソファーに体重を掛ける。あのまま会話を続けてしまうとまた怒鳴ってしまいそうだから。

 

(アイには悪い事しちまったな……あとアクアとルビーにも)

 

本気で心配して寄り添おうとしてくれた彼らに暴言を吐いてしまった事を俺は申し訳なく思っていた。少し前だったら馬鹿が傷付こうが気にも留めなかっただろう。俺は自分が思っている以上に、彼らを大事に思い始めているのだろうか……?

 

いや、やはり信用など出来る筈がない。所詮は期間限定の仲良し家族。若過ぎる年齢でシングルマザーになった女と、その子供の組み合わせ。これ程DVが起きやすい条件はないだろう。アイの奴も今でこそ俺たちに愛情を注いでいるが、それが長続きする保証は何処にもない。

 

「みんなー、お昼ご飯出来たよー!」

 

噂をすれば何とやら。アイがミヤコを伴って俺たちがいるリビングへと現れた。両手で持っている御盆に今日の昼食を乗せて。

 

「今日はママお手製のカラフルお握りだよ~!」

「わぁ~、種類がいっぱい! これ全部ママが作ったの?」

「そうだよルビー。好きな物を好きなだけ選んで食べてね?」

「うん、いただきまーす!」

 

何の変哲もない、普通のお握りだった。青海苔を塗した物、鮭や卵のふりかけを上から掛けた物、砕いた梅を混ぜ込んだ物、天かすと天つゆを混ぜ込んだ物……種類だけは無駄に多かったが。それらは俺等でも食べやすいように小さく三角状に握られ、山型に積まれていた。――数的にも多い。正直こんなに食べきれないだろ……

 

「どう、3人とも? 味の方は……?」

「うん。良い感じだよ、アイ」

「美味しいよママ! 折角だから全種類挑戦してみるね!」

「そんなにいっぱい食べれないだろ?」

「食べれるよ、ママのお料理だもん!」

「食べ過ぎは身体に悪いんだぞ? あと太るかもしれないし」

「う゛っ゛!!? ……もう、せんせの意地悪」

 

アクアとルビーはテーブルに置かれたそれらに早速手を出して口に含んだ。

 

コイツ等は前世バレしてから更に仲良くなった感じだ。ルビーはこうして暇さえあればアクアの隣で奴に寄り添っている。対するアクアも満更でも無さそうで、鬱陶しいくらいに引っ付いてくるルビーを普通に受け入れていた。アイたちが居ないところでは、よく前世の名前で呼び合ってる事も少なくない。

 

因みにアクアの前世での年齢は聞いている……お前もしかしてロリコン? 流石にちょっと引くぞ、実の兄がロリコンとか。今はルビーとタメだけどさ。

 

「ほらほらマリアも! そんな風にボーっとしてないで食べなさいって!」

「マリアは大丈夫? 食べれそう?」

「これくらい問題ない」

 

俺もアイたちが集まっているテーブルへ向かい、腰を下ろす。そして板海苔を巻いたやつを一つ取って齧り付く。

 

「――まぁ悪くはないんじゃねぇか」

「そっか、良かった!」

 

(何でそんなに上から目線なんですか。もう少し素直になれば良いのに……)

 

ミヤコが何か言いたそうな目でこっちを見てくるが無視。さっさと食って、さっさと休もう。

 

「あ、次はそれ食べたい!」

「ほら、ルビー」

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

隣で食事をしていたルビーが、アクアに新しい種類の握り飯を取って貰っていた。

 

 

 

 

「っ……!!?」

 

 

 

 

俺はルビーが持つ”それ”に気付き、目を見開いた。山積みにされた握り飯の方へ視線を向けると、中からルビーが持っている物と全く同じ種類の握り飯が露わになっている。今までは他のお握りに埋もれていて見えなかった。

 

「あ……う……」

 

忘れる筈がない。俺にとってはどんな飯よりも強く印象に残っているのだから。

 

「あ、マリアもこれが食べたいの?」

 

俺の視線に気付いたアイが山積みの握り飯の中にある”それら”の内、一つを掴んで俺に手渡した――ちりめんじゃこを混ぜ込んだ、お握りを……

 

「これは”ちりめんじゃこ”って言ってね、カルシウムがいっぱい入っているんだよ?」

 

アイが母さんと同じ事を俺に言う。昨晩の夢の影響で封じていた筈の記憶があっさり蘇える。

 

「特にマリアにはコレを食べて欲しかったんだ。体が小さい影響で生まれた時は大変だったからね。これで少しでも大きくなって欲しいなって」

「………」

 

アイの言葉が俺の耳に入る度に、前世での忌々しい記憶と優しかった母さんとの思い出が頭の中で入り混じる。

 

(あ、頭が……痛い……感覚が歪む……)

 

身体の中全てをぐちゃぐちゃに掻き回され、穴と言う穴から出てきそうな凄まじい不快感。このまま命を落とすのかと錯覚しそうな強い恐怖。それらが頂点に達したのは、アイが俺の頭に手を乗せた時だった。

 

「大きくなってね~、マリア」

 

濁流の如く、前世の記憶がなだれ込む。

 

 

 

 

 

――大きくなってね、賢志。

 

 

 

 

 

――ご、ごめんね……賢志……すぐ……帰るから……

 

 

 

 

 

――大丈夫だよ賢志くん。僕たちと一緒に居れば、お母さんはきっと迎えに来てくれるから

 

 

 

 

 

――あぁ……そっか…………母さん…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――僕を捨てたんだね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ………ああ……」

「マリア?」

 

頭を撫でようとした直後だった。マリアが豹変したのは。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

「きゃっ……!!?」

「アイ……!!」

 

声を張り上げ、マリアは私の顔にじゃこお握りを投げ付ける。そして勢いそのままにお握りの山をテーブルごとひっくり返した。

 

皿が割れ、お握りの形が崩れて。破片と米粒が周囲に飛び散る。場は大騒ぎになった。

 

「え、な、何なの……!?」

「マリア、一体何を……!?」

「マリアさん!?」

 

ルビーもアクアもミヤコさんも驚いてマリアを見る。息も絶え絶えでどう考えても普通じゃない様子に、私も含めて全員困惑した。

 

「マリア? どうしたの? 何か危険な物でも混ざってた?」

 

まさかガラスがいつの間にか混入していたとか。いや、今はそれよりもマリアを落ち着かせないと。

 

「……マリア、大丈夫?」

「っ!?」 パシッ!

「痛……!」

 

伸ばそうとした手をマリアに叩かれた。白くモチモチしてそうな頬は青白く染まり、全身を小刻みに振るわせて酷く怯えている様だ。その目線は、私を真っ直ぐ捉えていた。

 

………私に怯えている?

 

マリアの反応は、何故かそうとしか見えなかった。どうしてかは分からない。でもこの子を怖がらせる様な真似をしてしまったのなら、ちゃんと謝って仲直りしなくちゃ。

 

「ごめんね。私、マリアに何か酷い事しちゃったんだね? どんな事で怒ってるのか、出来たらママに教えて欲しいな?」

「っ…! あ、あ……」

 

マリアは我に返った様子で体をビクッとさせ、リビングの惨状を見回す。

 

「違……お、俺、そんな……そんなんじゃ……!!!」

「ちょ、ちょっとマリア!!?」

 

マリアは逃げる様に走り出し、リビングから出て行ってしまった。

 

「……マリア」

「アイ」

 

呆然と開け放たれたままの入口を見詰める事しか出来なかった私に、アクアが落ち着いた声で話し掛けてくる。

 

「ここの片付けは俺とルビーとミヤコでやっとくから、アイはマリアの事をお願い」

 

アクアはマリアの状態にある程度目星を付いているといった感じだ。ルビーとミヤコさんもアクアの案に賛成らしく、少し間を置いてから私に頷いた。

 

ここは、アクアの言う通りにした方が良い気がする。何より、マリアを放ってはおけない。例えマリアが嫌がっても側で寄り添ってあげたい。そうしないと、またあの子が遠くに行ってしまいそうだから……

 

「ありがとうアクア」

 

私はリビングを出てマリアの元へ急いだ。

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