【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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86話

――打ち上げ翌日。苺プロ社長室。

 

おれ、お兄ちゃん、そしてMEMちょの3人は、本事務所のトップ2人の前に並んで立っていた。

 

「……人気YouTuberにしてインフルエンサー、『MEM』。まさかこれ程の大物を、それも2代目B小町志望の子として引っ張ってくるとはね」

 

ミヤコは専用デスクの椅子に腰掛けつつ、呆れたような感心したような視線を向けてくる。

 

MEMちょはYouTubeにて37万人の登録者、TikTokには63万8000人ものフォロワーを持つ大物芸能人。元天才子役のパイセンに、ララライのエースである黒川さん。優秀な人材を次々と集めてくるおれとお兄ちゃんに対し、本気でスカウトマンとしての仕事を振るべきかと頭の中で検討していた。

 

「良いじゃねえかミヤコ。俺としてはアクア達にはよくやったって、素直に褒めてやりてえくらいだ」

 

社長は彼女とは対照的に大物YouTuberの勧誘が成功した事で上機嫌だ。

 

「じゃあ社長、MEMちょは――」

「あぁ、歓迎するぜ。宜しく頼むわ」

 

関係事務所はあるものの所属している訳ではなく、あくまで業務提携の形を取っている。苺プロのアイドル業務を依頼する形ならば、何の問題もない。

 

「壱護がOKって言うなら、私の方も問題は無いわ。よろしくね、MEMさん?」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

あとは社長達が採用を判断してくれれば良いだけだが、その心配も杞憂で面接(というより面談かな?)はアッサリ通過。契約書へのサインは済んでないけれど、これでMEMちょは事実上苺プロの一員となった。

 

「……と言いたいところなんだけどね」

「はぇ?」

「ミヤコさん?」

 

どうやらミヤコには気になる事がある御様子。何故ならMEMちょの顔に陰が差さっているからだ。

 

「どうしたのMEMちょ? 目が泳いでいるみたいだけど……?」

「え、えっと、それはだね~マリりん……」

「何となく察しは付くわ。――MEMさん、貴女サバを読んでるでしょ?」

「わ、分かります……?」

 

ミヤコが話題に出したのは、MEMちょの年齢に関する内容だった。あぁ、やっぱりそれか。

 

「貴女、骨格からして大分幼く見えるけど、私の目は誤魔化せないわよ」

 

おれは堅気の少年として生きるようになって長いから判断が遅れたけれど、MEMちょの年齢サバ読みは観察眼に優れた裏の猛者達でもなければ見抜けないだろう。堅気でアッサリとそれを見破るなんて、流石だよミヤコ。

 

「マジか。まあこの業界じゃ珍しくもない事だけどよ」

「壱護の言う通り、別に怯えなくても大丈夫よ? 個人でやってる子が年齢を幾つか若く言うなんて、よくある事なんだから」

「そ、そうですか? 年齢を理由に断られるかなって不安でしたけど、それなら良かったです……」

 

「――それで? 本当は幾つなの?」

 

「う」

 

契約書にサインする関係上、書面には本当の生年月日を記載しなければならない。一瞬言葉に詰まるMEMちょだったが、遅かれ早かれバレる以上は仕方ないと諦めて……それでもこの場に居る全員に聞かれたくないので、ミヤコにだけ耳打ち。

 

「えっとですね……」

「ふむふむ……」

 

するとミヤコが面白いくらい変顔へとなっていき……

 

「いやガッツリ盛ったわねッ!!?」

「ひぃいい、ごめんなさーい!!」

「おいおい、何だその過剰な反応はよぉ……」

「ミヤコさんが叫ぶ程って一体どれだけなんだ?」

 

わぁ、これ嫌な予感しかしないなぁ……

 

「公称18歳って事は、中々の肝の据わり具合ね……ヒーフーミー……」

「数えないでください!!」

「因みに幾つ盛ったの? 3歳位?」

 

「んー………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その倍」

 

「「盛ったなお前(MEMちょ)!!」」

 

サバ読みは早い段階で察してたけどさ! そこまでとは思わなかったよ!? 思わずお兄ちゃんと一緒に大声張り上げちゃったじゃん!

 

「って事は24?」

「に、24……だったよぉ? 去年までは」

「つまり25じゃねえか。この期に及んで悪足掻きすんな」

 

訂正、更に1つ盛ってました。なんとトータル7年のサバ読み。25歳って……アラサーじゃん。

 

「ガフッ!」

 

ん、MEMちょ? 突然吐血したりしてどったの?

 

「ま、マリりん……今凄くエグいワード心ん中で考えなかった?」

「え、何で分かったの? アラサーって思った事」

 

「グボァ!!?」

 

あらら、とうとう倒れちゃった。おーいMEMちょ? MEMちょしっかりー? 起きてー? 朝だよ〜?

 

……

 

…………

 

………………ふむ。

 

「返事がない。ただの肉のようだ」

 

「おいマリア」

「それは止めなさい」

 

「生きとるわいボケェッ!!」

 

あ、蘇った。良かった。

 

「コラ、駄目じゃないマリア! 女の子は年齢の話にとっても敏感なんだからね!」

「あ、お姉ちゃん」

 

いつの間にか社長室の入り口が開いており、お姉ちゃんが腕組みしながら扉に背中を預けていた。お姉ちゃんの言う通り、確かに失礼過ぎたかも。ごめんねMEMちょ。

 

「あ、ルビーちゃんじゃん! 久しぶりー!」

「うん、監督の家で会って以来だね、MEMちょ! まさか苺プロに来てくれるなんて大感激!」

 

お姉ちゃんはMEMちょの側に寄り、その両手を取ってブンブンと握手する。五反田監督の家で動画制作した時と、誘拐事件当日の時。計2回のみしか会ってないが、暫くぶりに再会した親友のように仲良さげである。

 

「そういや何故MEMちょは25で番組に出ようと思ったんだ?」

「っておにいちゃんまで、失礼だよ!」

「あぁ、良いの良いのルビーちゃん。どの道事情を話すつもりだったし、ルビーちゃんも聞いてって?」

 

MEMちょの身の上話――母子家庭で母と弟2人の4人暮らしであり、経済的にはあまり良い環境ではない生活だった。それもあって彼女はアイドルを断念し、就職するつもりでいた。しかし、母親から自分の夢を追いなさいと発破を掛けられた事でオーディション応募をするようになり、一時は大手の最終審査に残るまで結果を出したとの事。

 

「……でも高校3年の時、お母さんが過労で倒れて入院しちゃってね。入院費と弟達を大学に行かせる為の資金を調達しなくちゃいけなくなってさ。オーディションは辞退して、高校も休学をしてバイトを始める事になったの」

 

その後、弟達は無事大学に入学、母親も元気になったらしい。

 

「で、何とか落ち着けるようになったんだけど、その時は23になってた。この業界、20でババア扱いされる世界じゃん? どこのオーディションにも募集要項には『満20歳までの女子』ってあってさ……夢を追える環境が整った時には、私は夢を追える年齢じゃなくなってた」

 

細々と語るMEMちょの表情は寂しそうで、まるで幼子のように小さな存在に映った。

 

「……そっか、母さんや家族の為に」

「マリりん?」

 

気が付けばおれは穏やかな笑みを浮かべ、MEMちょの頭に手を乗せて撫でていた。

 

「じゃあ尚更だよ。自分達の為に頑張ってくれた母さんの為にも、輝いている姿を見せてあげなきゃ」

「……な、なんかマリりん、言葉に物凄く重みを感じるんだけど? まるで他人事じゃないというか、波乱万丈な人生を歩んできましたって言うかさ」

 

分かるよ、おれだって母子家庭(前世の父親……? あんなゴミは家族の内に入らないんで)だったから。子供の為に自らを犠牲にする母親には、おれ一番弱いんだ。

 

おれの前世を知る他の人達は察したようで、表情を曇らせる者もいた。

 

「……でもやっぱり変じゃないかな? 7つもサバを読んでいるアラサー女なんて、バレた時ヤバいだろうし」

「そんな事ないよ」

 

それでもネガティブ状態なMEMちょが弱音を吐こうとするが、それをお姉ちゃんが力強く否定する。

 

「ルビーちゃん……?」

 

驚く様子の彼女の肩に両手を置き、お姉ちゃんは続ける。

 

「夢を追うのに、憧れるのに年齢なんて関係ない! 大事なのはMEMちょ自身がどうしたいかなんだから!」

 

お姉ちゃんの言葉は非常に深い。前世の天童寺さりなは病気の所為で体を満足に動かせず、歌い踊るなど夢のまた夢でしかなかった。それを思えば年齢の問題など、些細な話にもならない。

 

「私自身の、意志……?」

「そう! MEMちょはどう思ってるの? アイドルになりたいの、なりたくないの?」

「……」

 

MEMちょは顔を伏せる。その状態が暫く続いた後、漸く彼女は頭を上げた。唇を噛み、今にも泣き出しそうで、色んな感情が混ざり合った複雑な表情をしている。

 

「……なりたい、諦めきれない」

「なら決まり! 一緒にアイドルをやろうよ、MEMちょ!」

「うん、ありがとうルビーちゃん」

 

我慢していた涙腺が決壊し、目尻から一筋の涙をこぼすMEMちょ。

 

「話は聞かせて貰ったわ」

「あ、パイセン」

「先輩!」

 

騒ぎを聞き付けてパイセンも社長室に現れた。何故か彼女もボロボロと泣いていたけど。

 

「私も年齢でウダウダ言われた側だから、ちょっとだけ気持ち分かる……」

 

「ちょっと……?」

「トラウマになった人間の泣き方じゃねえか……ほらよ、ハンカチ」

「ありがとアクア……」

 

パイセンはお兄ちゃんから受け取ったハンカチで涙を拭き取ると、お姉ちゃんとMEMちょの元へ合流する。

 

「子役の事務所も高学年になったらお払い箱でさ、それでいてネームバリューだけは惜しんで使い潰そうとしやがって……ほんとむかつく」

「……君も相当苦労してきたんだね」

「分かってくれる? 嬉しいわ……」

「ほらほら先輩泣かないで? 良い女が台無しだよ」

「うっさい、分かってるわよルビー……」

 

あまりに実感が籠り過ぎた為か、MEMちょは若干困惑しつつもパイセンが受けてきた苦悩の日々に共感し、同情していた。それが余計に嬉しくて更なる涙を誘いすすり泣くパイセンを、お姉ちゃんが優しく頭を撫でて慰めてあげる。まるで3姉妹のようで、見ててとても微笑ましい。

 

「……お兄ちゃん、この3人相性良さそうじゃない?」

「あぁ。この2人なら安心してルビーを任せられると思う」

「あはは、ブレないなぁお兄ちゃんは」

 

相変わらずのシスコンぶりである。まあおれもシスコンでブラコンでマザコンだから、人の事言えないけどね。

 

「社長! ミヤコさん!」

 

「――俺は最初から賛成しかしてねえぞ? ルビー、お前の言う通り、一番大事なのはやる気だ」

「私もダメなんて言ってないわよ。ルビーと有馬さんもでしょ?」

 

「うん、憧れは止められないんだから!」

「勿論、賛成に決まってますよぉ!」

 

パイセンはまだ泣き続けていた。お兄ちゃんから受け取ったハンカチ、すっかりグショグショじゃないか。

 

「パイセン、追加のハンカチ。使って?」

「ありがとマリア……!」

 

おい鼻を嚙もうとするな。最高の圧を掛けっぞ?

 

「MEMちょ!」

「は、はいッ!?」

 

お姉ちゃんがMEMちょに手を差し伸べる。続いてパイセンも同様に。そして申し合わせてかのように、一斉に声を掛ける。

 

 

 

「「ようこそ『B小町』へ!!」」

 

「――うん、よろしく」

 

MEMちょは再び涙を流しつつ笑顔を浮かべ、2人の手を掴んだ。何処にでもいる普通の女の子達3人が、大きな夢を実現する為に一つになった瞬間だ。

 

「有馬、お前が芸能人としては1番の先輩だ。2人の事を頼んだ」

「フン、言われなくても分かってるわよアクア。任せなさい!」

 

すっかり涙が引っ込み、何時もの調子で胸に拳を当ててドヤ顔になるパイセン。邪な打算無く頼られている事が嬉しいらしい。

 

「よーし、早速親睦を深める為に3人でご飯食べに行くわよー! 今日は私の奢りだー!」

「ありがとせんぱーい! いこいこー!」

「うぅ、何だよこの子等ぁ。あったけえ、あったけえよぉ……」

 

そしてパイセンが音頭を取る形で2人を率いて、美味しい物を食べに社長室を後にした。残った社長とミヤコ、お兄ちゃん、おれの4人は、もう一つ詰めるべき話を進める。

 

「ところでさ社長」

「ん、なんだマリア?」

「おれ達三つ子と母さんの親子関係なんだけど……MEMちょにも教えてあげた方が良いと思う?」

「むぅ……まあ今後の事を考えたら、彼女だけ知らないままなのは活動に支障が出そうだしな。アイとも相談して、その上で伝えるかどうか決めるぞ」

「りょーかい、社長」

 

 

 

 

 

――かくして、遂に新生B小町は本格的に動き出す。

 

伝説の完全復活は、そう遠くない。

 




タイトルの『2つの復活』ですが、その内の1つはこのB小町が該当します。

そしてもう1つは、マリアが相手する本章の敵対勢力(特にその幹部陣)です。どちらも“新生”が名前の最初に来るこの2勢力は対極関係にあります。

新生B小町が希望と光を齎す存在なら、新生◯◯◯は絶望と闇を齎す存在です。
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