【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
私の名前はMEMちょ。本名は……聞かないでくれると嬉しいかな?
「よし、全員揃ったな。じゃあ早速特訓を始めるぞ」
「「「「「お願いしますッ!」」」」」
……
…………
………………んん?
「コレ、どういう状況……?」
何故か苺プロ本社から離れた広い道場で、仲間達と道着を纏って戦闘訓練を受ける事になった、新生B小町のアイドルだ。
「頑張ろうねーMEMちょ。出来れば銃弾の1発2発は躱せる位には強くなろう?」
「無茶言わないでマリりん! 人間は銃を避けられるようには出来てないんだよ……!」
サムズアップしてとんでもない事を宣うマリりんに鋭いツッコミ。いや君、銃で狙われるってどういう状況を想定してんの!? 私等は一般人なんだよ!? 戦場や裏社会で生きてる訳じゃないんだけど!?
「「え?」」
「何で紅林さんまで首傾げてんですか……!?」
え、これ私の方がおかしいの?
「安心しろMEMちょ、お前の思考は至って正常だ」
「アクたん……」
するとアクたんが難しそうな表情で私の肩を叩く。
「本気で銃は躱せるものって信じて疑ってないのはマリアと紅林師匠だけだから」
「ルビーちゃん……」
ルビーちゃんもアクたんに続く。
「本当にこの訓練に意味あるのかしら? 実際にこの2人が銃弾を避ける姿だって見た事ないし、正直半信半疑でしかないわ……」
「……銃創ちゃん」
「マリアてめぇッ!?」
「わー、助けてぇパイセンに襲われる~!(棒読み)」
「コラ、待てや餓鬼ぃ!! また私の事間違えて教えやがってー! くっそ速ッ、すばしっこい奴め!」
良かったぁ……私だけじゃなかったんだね。私はブチ切れてマリりんを追い掛け回す有馬かなちゃんを眺めながら安堵の一息。
さて、何故この状況になったのか。時間を遡ってみよう。
――契約を済ませた翌日。早速と言わんばかりに私のB小町としての活動がスタートした。苺プロの事務室でルビーちゃん、かなちゃんと一緒に並び、サポート役の子達を正面に見据える。
「――という訳で。今回、新生B小町のマネージャー見習いを務めさせて頂く事になりました。星野マリアとその兄の星野アクアです。3人とも、頑張ってトップアイドルを目指そうね!」
「あくまでミヤコさんの補助ではあるが、彼女も忙しいからな。主に俺とマリアで支える事になると思う。宜しく頼む」
「うん! よろしくねーおにいちゃん、マリア!」
「アンタ達もメインの俳優業とモデルの仕事があるのに、時間は大丈夫なの?」
「ルビーの夢の第一歩なんだ。鏑木さんから仕事の話を持って来られたが、今はこっちを優先したい。上手く時間を作ってやっていくさ」
「お兄ちゃんに同じ! かぐやさんにも暫くは仕事量減らすよう了承して貰えたから」
「相変わらずね、シスコン兄弟」
「あはは……じゃあお願いするね、アクたん、マリりん」
アクたんもマリりんも何と言うか……私等以上に気合が入っているように感じられる。一番の目的は妹(姉)のルビーちゃんを支える事なんだろうけど、だからって私やかなちゃんを蔑ろにしているかというとそんな事はない。この子達は凄く良い子なのは今ガチを通じて十二分に分かってるからね。
するとマリりんが事務室の入り口にチラリと視線を送る。
「そうそう、3人を特訓するにあたってスペシャルゲストの皆さんを連れてきたんだけど、紹介して良いかな?」
「え? スペシャルゲスト……? 別に良いけど?」
「オッケー。――じゃあ皆さん、入ってきて下さーい!」
「はーいッ!!」
……え、この声、まさか。
「やっほー! 元B小町のアイだよー!」
「あ! アイさーん!」
「お疲れ様です、アイさん」
ふぁッ!!?
「うぉおおおおおアイさんだーーー!!」
ちょっとちょっとちょっと待って……!? この流れってもしかして、あのアイさんが私達を鍛えてくれるとか、そういう事なの!? ヤバ、嬉し過ぎる! そんなんファン冥利に尽きちゃうじゃん!
しかもアイさんと一緒に入ってきた2人の女性達って……
「MEMさんは初めましてかな? 同じく旧B小町の"カナン"です」
「同じく、"めいめい"こと渡辺芽衣です! 今はこの苺プロのスタッフとして働いているけど、後輩の育成と聞いて立候補しました。宜しくね3人とも?」
「ほぁあああああッ、"カナン"に"めいめい"までぇええええええ!!!」
「MEMちょ、落ち着きなって、オイ戻ってきなさい……!」
流石に焦ったかなちゃんが私の体を揺するけど、その程度で私の体内から再燃してきたファン魂が鎮火する事はない。だってだって! 憧れのアイドルからアイドルの手解きを受けるんだよ!? もう幸せのあまり絶頂しちゃう!
「全員じゃないけど、伝説が3人も揃って私の夢を手伝って下さるなんて……私は夢でも見てるのだろうか?」
「落ち着いてMEMちょ。これは現実だから」
マリりんが苦笑しつつ、改めてアイさん達について説明する。
「ご覧の通り、あのB小町の先輩方が力を貸してくれる事になりました。歌にダンスに体力作り。レッスン関係ではこの3名が鍛えてくれるから」
「と言っても私達も忙しいからね。なるべく時間を取れるように3人で交代してやっていく事になったんだ! ――あ、そうそう。偶にだけどニノちゃん達4人も手伝いに来てくれるってさ!」
「え!? "ニノ"に"たかみー"に"ありぴゃん"に"きゅんぱん"も!? マジすかアイさん!」
「うん! 来週あたりなら7人全員で指導出来るかもね」
「す、すごい……!」
全員集合……推し達に囲まれながらのレッスン……やっぱ此処は夢の世界? もうこのまま覚めないでくれぇ。
「しかし、あの有名YouTuberのMEMさんがここまで私達の大ファンだとはね。テンション凄い事になってるじゃない」
「あはは。でもこれ程の有名人に推されてたなんて、なんだか嬉しいねぇカナンちゃん、アイちゃん?」
「そうだねめいめい! MEMちょ、君の夢を私達も全力でサポートしてあげるから」
「はい、宜しくお願いします先輩方ッ!」
私は深々と頭を下げる。
正直凄まじいプレッシャーを感じるけど、俄然やる気は湧いてきた。推し達の期待に応える為にも、そして仲間達や私自身の為にも……絶対にドームに立ってやるッ!
その後アイさん達は直ぐに各々の仕事に戻っていく。アイさんは事務所内のスタジオで例のぴえヨンとコラボ撮影。カナンさんとめいめいさんは事務作業へ。お忙しい中ホントにありがとうございます!
「じゃあ次の人を紹介しよっか――おーい、入ってきて~!」
「おう」
ん、まだ他にも人が待機してたのマリりん? 彼の合図と共に、今度は筋骨隆々で真っ赤に逆立った髪のオッサンが現れた。わぉ、見るからに強そうな人だなぁ……誰だろう?
「どうも、苺プロの警備員と、マリア君達三つ子の戦闘の師匠をしています。紅林二郎です。宜しくな、MEMさん」
「あ、はい。宜しくお願いします紅林さん……」
んん? 戦闘の師匠? どういう意味?
「既にパイセンも紅林さんから戦闘訓練を受けていてね、当然MEMちょも受けて貰うよ? ――明日から」
んんん?
「因みに内容は銃弾を躱す訓練だ。いきなり高度な技を教える事になるが、何も初回で必ず出来るようになれとは言わん。僅かでも反射神経を研ぎ澄ませられれば十分だ」
ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッ!?
「――で、今がその時なんです」
「誰に向かって話してるのMEMちょ? そっちには壁しか無いよ?」
だってマリりん! 君等の師匠のレッスン内容最初から無茶ぶりも良いところじゃん!? 何なの銃を躱す訓練ってさ! しかも君も紅林さんも大真面目だし! そりゃ遠い目にもなるよ! 現実逃避したくなっちゃうよ!
「ま、まあ紅林さんが言った通り、反射神経を鍛えるものだと思えば良いのよ……」
「暴漢に襲われた時に冷静に対処出来るようにはなれる筈だからよ……」
「頑張ろうね、MEMちょ?」
「ん、ありがとう3人とも」
かなちゃんもアクたんもルビーちゃんも疲れきった様子。いやホント君達だけが今は心の支えだよ。
「おいおい、流石にいきなり銃弾回避の訓練は無茶が過ぎるぞ紅林君?」
ほら、後ろにいる人にも苦言を呈されてますよ紅林さん……
「「「「ッ!!?」」」」
え、後ろに何か、誰ッ!?
「せいやッ!!!」
「シュッ!」
「ちょ、マリりん……!!?」
背後に音も無く立っていた人物に振り向きざま横凪ぎの拳を放つマリりん。私には全く見えないスピードの一撃を、その正体不明の存在はあっさり避けてしまった。
「ふむ、悪くないな少年。既に猛者の領域の動きだ……しかし初動がほんの僅かに遅い。より精進しなさい」
「な、な、な……」
「マリりん……?」
一体どうしたの? ヤクザ相手にも物怖じせず戦っていた君が、こんなに大きく動揺するなんて。
「伊集院さん、お久しぶりです! 何時帰国されたのですか?」
「つい今朝方にな。君も元気そうで何よりだよ紅林君。見ない内に弟子が増えたようだね」
「あ、あのぅ……どちら様でしょうか?」
「おっと、申し遅れましたね」
マリりんと紅林さん以外の3人も彼が誰だか知らない様子で、無音で接近して来たこの人の正体が気になって仕方ない。
「――私の名前は『伊集院茂夫』。この道場の持ち主で、こちらの紅林君の師匠です」
頭髪を七三に分けたバーテンダー風の中年男性は、優雅な所作を交えてそう名乗った。
連載110話超えで遂に拷問ソムリエが登場。次回、彼と紅林の指導の元、銃弾回避訓練を開始します。