【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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今回は短めです。


90話

私の名前は伊集院茂夫。

 

「では紅林くん、私はこれで」

「はい、お疲れ様でした!」

 

可愛い弟子と孫弟子達に訓練を施した後、久々の拠点へと歩いて向かう、拷問ソムリエだ。

 

「――ふむ」

 

街灯に照らされた夜道を歩く中。私の鼻腔をくすぐるは何気ない日常の香り。

 

「かつてはこの国も海外のように微かな血の匂いが漂っていたが、今はまるで感じられん。平穏に満ちた良い空気だ」

 

自然と笑みが溢れる。このところ海外で仕事尽くしの毎日だった故、漸く休めそうだ。

 

(こんな事を思えばフラグの一本や二本立ちそうなものだがな……)

 

しかしそれも10数年前ならば兎も角、現在は杞憂で済んでいる。

 

御前を討ち取った事で、奴に群がって好き放題していた豚共が悉く失脚。更には我々と共闘した秀知院関係の勢力が後釜に座ってからというもの、日本の治安は非常に安定している。それに伴い国内での依頼は激減したが、それだけこの国が市民にとって平和になった証。喜ばしい限りだ。

 

警察や司法の役目を我々や極道が担っていた当時の状況こそ、異常なのだから。

 

無論、血生臭い事件を完璧にゼロにする事は誰であろうと不可能。つい先月解決した少女連続失踪事件。そして数日前に北九州で発生した爆破テロ。……人間が人間である限り、悪が滅びる未来は永久に訪れる事はない。

 

そのような悪に地獄の責苦を与えて屠る者こそ――我等『拷問ソムリエ』なのだ。

 

それにしても……

 

「星野マリア君か。極めて見所のある少年だった」

 

16歳で風見組構成員と戦えたアクア君とルビーちゃんも中々なものだが、彼はそれ以上と評価せねばならない。

 

お手玉を使った投擲訓練。私は目にも止まらぬ速さで次々と投げ付けたにも拘らず、マリア君はその悉くを避けてみせた。これは面白いと途中でフェイントを掛けたり、2つ同時に投げ付ける等の変化球も試してみたが、そんなイレギュラーですら見事に対応してみせた。

 

紅林くんとの実戦を想定した訓練の賜物なのだろう……と最初は思ったが、本物の実戦を多数経験せねば得られぬ人間の動きなのは明らか。

 

(紅林くんの話によると……少なくともあの子は去年の時点で戦闘者としては完成していると見て良い)

 

あの肉蝮と中3の夏休みに争ったというが、これは即ち奴と戦って生き残れる程の実力を既に持っていた事を意味する。奴の戦闘力は裏社会でも上澄み中の上澄み。私や瓜生、鶴城とも互角に渡り合えるだろう怪物だ。殺意を剥き出しにした化け物と正面から対峙して、堅気の子供が無事でいられる保証は殆どない。よっぽど幸運に恵まれた訳ではないのであれば、それ以前から本物の殺意と向き合う機会に幾度と遭遇したという事になる。

 

更に幼い年齢でそのような経験を……? 馬鹿な、有り得ない。仮にそのような状況に幼子が何度も遭っていては命が幾つあっても足りないぞ。

 

「……しかし紅林くん、何かを隠しているようではあったな」

 

私がマリア君の異常性を語った際、ほんの一瞬だが瞬きの速度が上がっていた。動揺する人間の反応だ。私相手に騙しや誤魔化しはほぼ通じない事など、紅林くんも十二分に理解している筈だ。だからこそ、それでも何か隠し事をする必要があった故に緊張してしまったのだろう。私が横を向いて壁の修復に勤しんでいた事も、動揺を悟られにくいと油断してたかもしれない。

 

……だが残念。視界の端でしっかりと捉えさせて貰ったよ。マリア君に関係ある事で、彼は何か重要な秘密を抱えている可能性が高い。

 

(とはいえ、あの紅林くんが隠す程の事だ。たとえ圧力を掛けたとしても、彼は頑なに口を割らないだろう)

 

それを知ればマリア君の異常さの謎が解けると確信しているが、仕方ない。マリア君や紅林くんから話してくれるのを待つ方針を取るとするか。

 

私は早々に本件の追及を諦め、拠点を目指した。

 

「久々の我が家だ」

 

そうして辿り着いた拠点内には明かりが灯っているが、別に電気の消し忘れではない。では中に誰かが居るという意味になるが、基本私は警戒はしない。

 

「あ、先生! お帰りなさいませ!」

「――あぁ、ただいま流川くん。10年ぶりだな」

 

私の助手であり、現在は立派な拷問ソムリエとして独立した流川くんが此処を拠点にしているからな。

 

「どうだい、日本での仕事は?」

「えぇ、バッチリです! 問題ありません! ……と言いたいところですが、実際は暇を持て余しているのが現状ですね。御前が死んでから依頼する人はほぼ出てこなくなりましたから。最後に依頼を受けたのも2年くらい前ですし」

「ふふ、結構な話じゃないか。拷問ソムリエが暇なのは、世間が平和になった証さ」

「えぇ、外道の所為で人生を壊される人が減ったのですから、本当に良かったです!」

 

玄関で迎えてくれた彼に招かれて中に入ると、見知った仲間達が私を出迎えてくれていた。情報屋の伍代に、闇医者の氷室、エマ、蟲屋の利平、そしてドヤ街の長老である。

 

「おぉ、シゲちゃん! 久しぶりじゃの~!」

「長老も、相変わらずお元気そうで何よりです」

 

長老はもうじき米寿を迎える。何かお祝い物を用意しなくてはな。

 

「みんなも忙しいだろうに。わざわざ来てくれて本当にありがとう」

「旦那とは10年も御無沙汰なんだ。みんなアンタに会いたがってたんだよ」

「旦那が帰国するって流川くんから連絡を受けてね。なら見知ったメンバーでパーティーでもしようという話になったんだ」

「そうだったのか、嬉しい話だ」

「ほら、良いお酒も持って来たわよ。お料理も沢山用意してるし、これで乾杯しましょう?」

「まだ見せてない珍しい虫達も御用意しました。旦那の拷問の参考になればと。頃合いを見て紹介しますね?」

「あぁ、楽しみにしてるよ利平」

「さあ先生、リビングでお祝いしましょう!」

「ははは、急かさなくてもちゃんと行くから安心し給え流川くん」

 

私のお帰りなさいパーティーは、それはもう大いに盛り上がった。エマの絶品料理とお酒に舌鼓を打ったり。酔いまくった長老と流川くんがお笑い芸を披露し、それを私含む他の面子が楽しそうに鑑賞したり。利平が用意した巨大な肉食虫を見せられエマが卒倒したり。

 

海外ではブラック企業よろしくなレベルで拷問続きだった。そんな私にとって仲間たちと過ごす時間は、最高の余暇となった。パーティー中に仕事が舞い込んでくる……という事もなく、私は久々に楽しいひと時を味わい、その後ゆっくりと眠りに就くのだった。

 

今回の帰国は良い休暇になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と言いたいところが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。日本に戻って数週間後、私の拠点に数名の依頼人が現れる事になる。

 




伊集院先生にとってアクルビ程度の戦闘力ならまだ正常の範疇です。マリアだけがあまりにも突出していたので、怪しんでいます。
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