【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
港湾の賑わいから外れた廃倉庫の中では、血と爆炎に彩られた戦争が繰り広げられていた。
「「「ぐぁあああああ!!?」」」
葵達が手早く投げた炸裂弾が威力を解放し、近くにいた半グレ数名を吹き飛ばす。
燃えやすい素材の容器は熱と火炎で消滅し、爆風のみが敵を襲う特殊仕様の爆弾。飛び散る破片が無い為、使用者までダメージを喰らう心配は殆どない。夕日自慢の室内戦用爆弾だ。
「な、なんだ今のは……!?」
「ば、爆弾ッ!?」
「こんな狭いトコで爆弾とか正気か!? 自分等も巻き込まれるだろうが……!」
「ってか、こんな物騒なモンを何で世間知らずのお嬢様が持ち歩いてんだよ……!?」
容赦ない攻撃――それも爆弾を躊躇なく投げ付けられ混乱状態の半グレ集団。
「がべ」「ぐば」「ごぶ!」
だが戦場で隙を見せる行為は即ち命取り。それを証明するかのように3人の半グレが脳天に風穴を開けられた。しかも殆ど同時にである。
「これだけ派手にやってしまってはサイレンサーも無意味ですわね」
「いいえ、銃撃を敵に悟られにくいですから決して無駄では御座いませんよ、百合花さん?」
戦闘隊長の葵と百合花の目にも止まらぬ早撃ち。特に葵の銃撃は2発の銃声が1発に聞こえる程であり、それでいて狙いは正確。裏社会でも拳銃の名手として天羽組の小林幸真や香月紫苑が挙げられるが、連中とも遜色ない腕前を披露する。
「雅さん、防御は忘れませんように! 向こうも銃を持ってますから!」
「無論承知の上だ、葵!」
葵と百合花が中央と左舷から敵陣に突っ込む中、第3戦闘隊長の雅は右舷から攻撃を仕掛ける。お嬢様達の中で唯一武人のような口調が特徴的な彼女は、その独特な話し方に相応しいパワー型の戦闘者だ。
「外道共、貴様等に家具の可能性について教えてやろう」
雅が手に掴んだのは倉庫脇にあった分厚く大きなテーブル。硬い材質で出来た、重さ60kgは優に超えるだろうそれを彼女は軽々と持ち上げ、盾のように構えながら敵へ全力疾走。
「まずはこのテーブル! 盾にもなり、矛にもなる!」
可憐で華奢な女性とは到底思えないパワーとスピードに、男達は圧倒されそうになる。
「何だあの怪力は!? あんな重いものを構えてる癖にとんでもねえ脚力だ!」
「テーブルってそう使うもんじゃねえだろッ……!?」
半グレの1人が当然過ぎるツッコミを入れながら、隣にいる仲間と共に銃で迎撃を試みる。だが、頑丈なテーブルに阻まれ雅自身には届かない。全く減速せずに超高速で迫り来る姿は、凄まじい威圧感だ。
「ダメだ、弾かれちまう……!」
「うぁああああ、来るなぁあああああああっ!!」
直後、
「うぉおおおおおおおおお!!!」
「ホゲボォ……!!?」
1人がテーブルと交通事故を起こして意識を強制的に飛ばされた。
「ば、化け物だこの女……!」
そばで驚くもう1人も、即座に彼の後を追わされる。細い腕が生み出す圧倒的パワーでスイングされたテーブルは、もはや最悪の質量兵器。
「家具の潜在力が分からん奴は全員死ね!」
「ナニイッテンノッ!?」
哀れ、半グレは腹部への直撃と同時に体が”く”の字に曲がり、背骨がへし折れてしまった。
「遅いですね。それでも貴方達は荒事に慣れた反社の人間ですか?」
「ごへぇ!?」「ぎゃッ!?」「がっ」
雅より早く敵陣に辿り着いた葵は流れるような動きで半グレ共の合間を抜け、その過程で次々とナイフで喉や胸を掻っ切り、相手を絶命へと追い込んでいく。まるで殺意に満ちたカマイタチのようだ。半グレは迎え撃つどころか彼女の動きすら目で追えず、気が付けば致命傷で真面に喋る事も許されない。
「ほぐ」「ぶッ」
同時にもう一方の手に持った拳銃で精密射撃も忘れない。頭や心臓を撃ち抜かれて続々と倒れていく半グレ達。彼女の接近を止められなかった7~8人が物言わぬ骸と化す。
銃とナイフの扱いは天才的な領域。ハッキリ言おう。この葵という女性、設楽の奴以上の実力者と見ていい。
「相変わらず御強いですわね、葵さん」
「ぎゃあッ!?」「げばッ!?」
リーダーの百合花も葵ほどではないが、それでもナイフと拳銃を駆使して彼女に次ぐ戦果を叩き出してく。
「舐めんなよクソアマぁあああああ!!」
葵が次に狙いを定めた男。奴は雄叫びを上げながら彼女の真正面に立ち、構えた拳銃の引き金を引いた。肉眼では決して捉えられない弾丸が空気を割いて彼女に迫る。
だがしかし、
「フッ!!」
銃弾の軌道を捉え、超反応で避けてしまえる戦闘者も少なからず存在する。葵もその一人だった。
「撃つタイミングが丸分かりですわ。正面から狙うのならばもっと早く撃たなくては」
そしてお手本を示すかのように発砲した相手へ早撃ち。
「がッ!?」
男は銃弾を避けられた事実に驚愕した表情のまま眉間を貫かれ、固い地面に仰向けで倒れた。
主にこのような流れで敵を圧倒する戦闘隊長の3人だが、兵站型幹部である他の4人も負けてはいない。
「「よっと」」
神宮寺姉妹はピッタリと息の整った連携プレイで、一度に3人の半グレと切り合いをおっ始めた。無数の軌跡が互いの間で描かれ、もし間に入ろうものならズタズタに切り刻まれるだろう。
「ふざけやがって餓鬼共がッ!」
「俺達は武闘派半グレの『
怒号を上げてナイフを繰り出す半グレ。対する姉妹は能面のように無表情で、冷や汗一つかかない。
「……麻奈姉、この人達武闘派だってさ」
「らしいね夏海。でも大して強くはないみたい」
「嘘だろ!? コイツ等、喋りながらッ!?」
人数的には有利な筈の半グレ達は、しかし姉妹の連撃に対処が間に合わず、体の至る所を切り裂かれていく。姉妹は一切傷付いておらず、それどころか落ち着いて会話をする余裕すら見せ付けてきた。
補給隊長の麻奈と夏海。あくまで後方支援担当に過ぎない彼女等だが、2人一組で行動した際の戦闘力は百合花や雅にも匹敵する。
「「もういい、死んで」」
「ぎゃあッ!?」「ごあ!」「げべッ!?」
ほんの少しの時間で均衡は崩れ、男達はあっさりと頸動脈を切り裂かれてしまった。
「夕日さん、我々は皆さんの援護を!」
「了解です詩織さん!」
諜報隊長の詩織と、科学隊長の夕日。彼女達は物陰に隠れつつ援護射撃で5人を補佐していた。戦闘力としては最も低い彼女達だったが、
「其処にいやがったか!! こそこそネズミみてえに隠れやがって!」
それはあくまで他の5人と比較したらの話。
「フンッ!」
「ぐはッ!?」
海砲須の構成員程度であれば、十二分にタイマンで勝てる。
「生憎ですが、ネズミはネズミでもハリネズミです」
「ごッ、べッ、ばッ……!?」
詩織が蹴り飛ばした相手に容赦なく鉛球の雨を叩き込む。冷徹な瞳を眼鏡越しに鋭く光らせながら。
「こ、こんなに強いなんて聞いてねえぞ!」
「冗談じゃねえ! 俺は逃げる……!」
圧倒的な戦力差に怖気づいた半グレの一部が裏口から逃走を図る。その様子を物陰から見ていた夕日が起爆装置を持つ手に力を込めた。
「逃がすとお思いで?」
スイッチの軽やかな音。直後に発生したのは強烈な爆炎。
『ぎゃああああああああッ!!!』
夕日が事前に退路となる裏口前に置いておいた遠隔操作型の爆弾。それが起爆して、逃げようと裏口から飛び出しかけた5人近い半グレを揉みくちゃにしつつ吹き飛ばした。裏口は瓦礫の山と化し、もはや脱出ルートとしての使い道は失われる。
「……こうなる前に降伏しなかった貴方達の自業自得です」
一度殺すと決めた以上、Kakabelに慈悲は全く無かった。本物の天使のように退路を断ち、敵対者を確実に抹殺する。
「わ、罠を仕掛けてやがったのか!?」
「ちくちょう! こうなりゃ窓からゴバァアアアアア!!?」
夕日が仕掛けたトラップは裏口のみに非ず。窓のすぐ外にワイヤーを引き、それに足を掛けた半グレが設置されていた小型爆弾の餌食となる。
「くそっ、こいつら何者だ……!?」
「アイドルだろ!? なんでこんな化け物みてえな戦い方すんだよ!? お嬢様ってヤツぁ全員こんな連中なのか!?」
「助けてくれ、死にたくねえ……!」
半グレの叫びは極大の恐怖に満ちていた。最早逃げ場など何処にも無く、ただただ死ぬ結末しかない。ここまで生き残れた半グレ達はそれを徹底的に思い知らされ、自暴自棄になっていく。
コイツ等は、Kakabelの女の子達が実家や学院の厳しい教育で高度な戦闘力を培った事を知る由もない。だが彼女達の戦闘力を更に押し上げているのは、腐った業界を革命する使命感。
「あのような外道に手を貸し、私達の尊厳まで脅かそうとは救いようがありません」
「ごへぇええええ……!!」
そして何より、愛する仲間が受けた悲劇から生まれた……煮え滾る復讐心。
「なんだ? 何なんだよこれは……!?」
戦闘慣れしていない谷山は元教え子の鬼神の如き強さと苛烈さに狼狽し、近くのテーブルの下に隠れて震えていた。誰から見ても、その姿は先まで強気でいた事が考えられない位に見苦しく、無様である。
残る半グレはボスを含めて僅か数人。
「貴方達も胡桃さんと同じ苦しみを味わえばいい。少しは彼女の痛みが分かるでしょう?」
冷たい微笑を携え迫る葵に、唯一恐慌状態に陥っていない海砲須のボスが逆上した。
「生意気なクソガキ共が! 俺が直々にぶっ殺してやる!!」
瞬間、葵とボスの男のナイフが衝突。武闘派半グレ組織のトップを張るだけあって、ボスの実力は部下達の上を行く。両者の間で起きる剣戟は鋭い音と火花がちらつき、荒れ狂う竜巻のようだ。
「うぉおおおおおお!! 海砲須を舐めんなよぉおおおお!!!」
「へぇ、中々やるじゃないですか」
実力的にはKakabelの一部とも渡り合えるだろう戦闘者。しかし、よりにもよって彼女等の中で最強の葵と刃を交えてしまった事が、奴の命運を分けてしまった。
「でもまだまだ不足ですわ」
「うぉおおおおお……!!?」
(馬鹿な!? こっちばかりが切り刻まれていく……!)
葵は巧みに回避し、軽く数撃掠められた程度。ボスの血飛沫だけが周囲に広がる。
「優秀ではありましたが、それでも私の敵ではありませんね」
「ぎゃあああッ!!?」
斬撃の隙を閃き、男の喉に葵の刃が突き刺さった。即座にナイフを抜くと血が噴き出し、ボスは声を上げる間もなく倒れた。
「反省のない者に、生きる資格はありませんわ」
「ぐべぇ!?」
同時に響き渡る断末魔。丁度、百合花が最後の雑魚を仕留め終えたところだ。
Kakabelと海砲須の戦闘。それは終始Kakabel側の圧倒的優勢で進行し、そして海砲須の全滅をもって終結した。倉庫の床は血と肉片で覆われ、生臭さと鉄の匂いが鼻をつく。
「さて――」
見目麗しい女の子達が敵の集団を一方的に屠り、赤錆色の軍服に返り血の鮮やかな赤で彩られた姿。大きなギャップが生き残った依頼主を震え上がらせる。
「ひ、ひぃいい……」
谷山は腰を抜かしたまま逃げ出そうとするも、恐怖で足取りは覚束ず。当然逃げられる訳がない。
「待てよ卑怯者」
「ぐばぁッ!?」
雅に脇腹を蹴られ、盛大に転がって動けなくなる谷山。そんな奴をKakabelの7人は取り囲み、完全に退路を断ってしまう。殺意と憎悪の籠った冷たい眼差しを14本も注がれ、奴は完全に敵意を失っていた。
「ま、待ってくれ! 俺が悪かった! ちゃんと自首して罪を償うから、どうか命だけは……!」
兎に角この窮地から生きて脱する事。その思考のみに脳を支配された谷山は必死に懇願する。所詮コイツは安全圏からしか偉そうな事をほざけない、欲塗れのクズでしかなかった。
「黙りなさい」
胡桃への悔恨の念など欠片も無い、その場しのぎの命乞い。それが分かるからこそ葵は一切の聞く耳を持たず、喚く元教師に死の宣告を与える。
「貴方の謝罪には何の価値も無い。唯一貴方が胡桃さんや私達に許しを貰える可能性があるとすれば……それは死ぬ事だけです」
「ひ、や、止めてくれ……! 殺さないでくれ……!」
一層谷山は無様な命乞いを加速するが、7人に生かして償わせる意志など最早ない。スキャンダルをリークされて社会的に抹殺される。その結末を受け入れなかったのは他でもない谷山自身なのだから。
「ぐぼッ!?」
百合花が一歩前に出て、奴の頭を思いっきり踏み付けた。顔面が固い地面に衝突した事で奴の歯が1本折れたようだが、彼女は気にせず笑みを浮かべる。
「――ふふ、何か勘違いしてませんか先生? ただ殺すだけでは私達、納得出来ませんの」
気付けば7人全員が同じように笑っていた。それも相手に根源的恐怖を煽る、ゾッとするような。とある人物の過激思想に染まった狂気と、胡桃への深い愛が混じり合った表情だった。
詩織が百合花に続いて話し始める。
「私、調べたんですの。胡桃さんが自殺を図った少し前に、貴方が彼女をどう脅して言う事を聞かせたのかも。同じように接待を受けた女性から証言を頂きましたわ」
それは4年前に遡る。
『――良いかね杠葉? 今回の接待に失敗すればKakabel全体の今後に大きく関わる。そうなれば最悪Kakabelを解体せざるを得なくなる』
『……え?』
当時、谷山は星羅女学院の芸能科主任を担当していた。奴は16歳の少女だった胡桃を学院の応接室に呼び出し、ケダモノ思考なスポンサー共の接待――という体で、実態は性的行為――を強要した。
『みんな君と違って高貴な一族の子ばかりだ。アイドル活動に割いていた時間を稽古や勉学に充てられる事になる。元々、彼女達はそれが嫌でアイドルになったようなものだからな。Kakabelでなくなるという事は、つまりはそういう意味だ。……君は仲間達と二度と一緒にいられなくなるだろう』
『そんな……お姉様達といられなくなるなんて……』
『嫌ならセンターの君が身体を張って頑張るしかないんだ。……なぁに心配する事はない。たった数人のおじさんおばさんと寝るだけの、簡単なお仕事だ』
『……はい、分かりました』
その際、彼女達の絆を悪用した下衆な脅し文句で服従させた。
地獄同然の接待が終わって漸く解放された深夜。性欲に塗れたスポンサーや谷山により、少女としての尊厳を侵されまくった胡桃。男だけでなく、美少女好きの女まで寄ってたかって彼女を辱めた。
『あはは、汚れちゃった……私、汚れちゃった』
自室の鏡に自らの姿を写す。美しかった桜色の髪や制服は乱れ、普段は明るい筈の笑顔は無理矢理作ったかのように固い。
『ふ、ぐ……うぁああああ……』
今までの度重なる搾取も合わさり、彼女の無垢な心はとうとう限界を迎えてしまった。
『葵お姉様……百合花お姉様……雅お姉様……詩織お姉様……夕日お姉様……麻奈ちゃん、夏海ちゃん。ごめんなさい。こんな汚い私ではもう……皆さんとアイドルをする資格がありません……』
それから数日後だ。大型連休が終わって実家から学院に戻った直後、彼女は寮の屋上から飛び降りた。発見した寮母によって病院に搬送された彼女は奇跡的に一命を取り留めたものの、昏睡状態となって未だ目覚めないままとなっている。
「――胡桃さんを地獄に落としたのは、貴方のような外道です」
「許してください……! 命だけは……!」
詩織の報告が終わるが、まるで話を聞いてないのか醜い命乞いを続ける谷山。誰かの堪忍袋の緒が切れる音がした。
「黙りなさいと言ってるでしょう!!?」
「がッ!?」
今まで冷静沈着だった葵が遂に声を荒げ、奴の頭部を側面から蹴り付けた。
「私達とあの子の仲を知った上で! 服従の道具として利用するなんて……!」
「ぎゃ、ぐへ、ごはッ!?」
「お前みたいな下衆は徹底的に苦しんで死ぬしかないのよ……!!」
更に頭を掴み上げ、顔面に拳を叩き込んでいく。何度も何度も何度も何度も――。
「「よくも胡桃お姉様を!!」」
「楽に死ねると思わないでよね!!」
「あの子が受けた傷はこの程度じゃ済まねえぞ!?」
他の6人も続き、集団リンチが始まった。上品だった口調は鳴りを潜め、感情に身を任せた荒々しい言葉を吐きながら殴る蹴るを繰り返すKakabel。
「い、ぎ……助け……」
谷山は元より醜かった顔が更に腫れ上がり、鼻と歯は折れ、目は潰れ、腕や脚を折られ……次第に命乞いはただの呻き声に変わった。Kakabelの攻撃はただ殺すだけでなく、奴に可能な限りの苦痛を与える為のものだった。胡桃が受けた屈辱と絶望を、これでもかと奴に刻み込むように。
「……――――」
やがて下衆の息は完全に消え、生命活動を永久に停止させた。倉庫には静寂が広がるのみ。
「はぁ、はぁ……終わ、った」
Kakabelの7人は谷山の亡魂を見下ろしながら、静かに立ち尽くした。周囲には彼女達の手で葬られた半グレの死体が大量に転がっており、無事な者は一人として存在しない。下衆教師の話に乗って彼女達を犯そうと考えていたアウトローには、相応しい末路だろう。
「――まだ終わりではありませんよ、百合花さん。そうでしょう、詩織さん?」
葵の問い掛けに、詩織はズレた眼鏡を直しながら頷く。
「はい、葵お姉様。胡桃さんを地獄に落とした連中はまだまだ沢山いらっしゃいます」
「確か今度のJIFに出席するスポンサーの中にも居ましたね……胡桃さんに接待の場でアルハラを強いた挙句、それを警察にバラすと脅してセクハラを行った重役達が」
「その通りですわ、夕日さん」
彼女達が属する組織の次の狙いはJIF――日本最大のアイドルフェスタに対するテロを目論んでやがった。
「それにしても――」
麻奈が震える声で地面に転がる谷山の亡骸を睨む。
「最初からこうして暴力で片付けておけば、胡桃お姉様を早く助けられたかもしれませんのに……」
それに関しては全員が同意である。
「全くですわね……松村さんもブログで仰ってたではないですか。『搾取が根付いた文化を言葉のみで変える事は不可能である』――と」
「えぇ。胡桃さんのような悲劇を繰り返させない為にも、搾取が罷り通る業界を力をもって改革へ持っていくのです。言葉では止められない事を、嫌という程思い知らされましたからね。松村さんはそれに一早く気付いて、革命へと動いたのでしょう」
葵や百合花の口から出てきた松村という人物――それは15年前に消滅した初代日滅軍のトップ『松村美津留』という革命家の青年を指す。
『日本の発展は諸外国や貧民の犠牲で成り立っている……醜いものだ』
共産革命と共産主義政権の成立を目的とする極左過激派組織を設立し、目的の為ならば手段を選ばない非常に危険な人物。奴はその牙を空龍街へと向けた。
『痛い……』
『ぐううう』
『クソッタレェ! 何が起きたんじゃああ!』
『誰がやったんじゃああ!』
空龍街のど真ん中で発生した爆破テロは、死者7名と重軽症者300名の被害を叩き出す大惨事となった。
『ががががが……』
『ぐうお……なんだぁ……』
『がぁああ……』
更には空龍街をシマとする天羽組にまで攻撃する暴挙に出やがった。ネット上の情報によると、VXガスという神経系のガスを使って構成員の一部を病院送りにしたらしい。
当然、ここまでの事をされて黙っている天羽組ではない。
『一切の容赦はいらん。この世からその存在を跡形もなく消してこい』
組長の天羽桂司の号令の元、コロシの天羽組による圧倒的な殺戮劇が日滅軍を襲った。奴等は戦闘慣れしていたが、それでも天羽組の猛者達からすれば雑魚に毛が生えた程度でしかない。
『お願いだ……最後に聞いてくれ。僕の革命は……本当に素晴らしいもので……』
『聞きたくねえな、耳が腐っちまう』
松村自身も、当時は天羽組の若きエースの一人だった飯豊朔太郎によって引導を渡された。
トップの松村ですら、実力的にはKakabelの詩織や夕日にすら劣る残念な戦闘力。元傭兵らしいが、そんな低レベルでコロシの天羽組に喧嘩売るなんて、自殺志願者か何かだろうか。
……だが、松村の野郎はとんでもない置き土産を残して逝きやがった。腹立たしいがこの男、人を惹き込むカリスマ性だけは常軌を逸していた。
『葵、みんな。これを見てくれないか?』
胡桃の自殺未遂後、絶望と後悔に苛まれていた彼女達の元に、後の新生日滅軍団長を務める男――葵の実兄である宮里薫がパソコンを携え現れた。明らかに表社会の人間ではない、後に日滅軍参謀となる半グレの男を連れて。
『この男は日野崎。とあるバーで知り合い、同じ志を持つに至った同志だ』
『日野崎新太だ。まさか本物のトップアイドルに会えるとは思わなかった。杠葉胡桃の件は……その、災難だったな』
2人の男達が見せたのは、その松村がネット上に遺したブログだった。
『――私の革命が道半ばで頓挫した場合を考慮し、此処に私が掲げる信念とその道筋を残す。どうかこれを読んだ者が、私の意思を継ぐ事を願って』
内容は松村視点での現代日本の現状、搾取を受けた被害者に寄り添うような発言で共感を誘い、言葉のみでは変革が不可能だと主張して読者を過激思想に導く話術……正直説明するだけで口が腐りそうになるので、これ以上詳細は言いたくない。
しかし薫と日野崎は見事に奴の話術に嵌り、奴の革命思想に呑まれてしまった。
『……そうだ、言葉を用いても私達は無力だった。名家の権力も親や親族のもので、私達自身には何も無かった……』
『でしたらもう……業界そのものを力ずくで変えるしかありませんわ』
『胡桃を救うんだ……どんな手段を使ってでも』
Kakabelも通常であれば狂人の日記として見向きもしなかっただろう。だが愛する仲間の悲劇で精神的に不安定だった彼女達にとって、松村の言葉は呪いそのもの。奴がブログで語った内容が、彼女達の現状とあまりにも噛み合っていたのだ。
結果、この9人は松村の怨念が乗り移ったかのように暴走を始めてしまった。
「――あの子はきっと今でも芸能人としての夢を持っている。胡桃さんが目覚めた時に再び彼女が犠牲とならないよう、少しでも芸能界の環境を改善していく必要があります。それが私達が日滅軍として起こす”革命”なのです」
葵が拳を力強く握る。爪が食い込んで手から血が滴るが、この程度の痛みなど胡桃が受けた絶望と比べれば、何ともない。
すると麻奈と夏海が潤んだ目で彼女を見上げた。
「葵お姉様……胡桃お姉様は、目を覚ましてくださるんですよね?」
「このままずっと起きなかったらと思うと……私達……」
「お二人とも……」
葵は微笑み、双子の姉妹を優しく抱き締めた。
「大丈夫ですよ、麻奈さん、夏海さん。胡桃さんはきっと帰って来てくれる。私達の役目は彼女の帰還を信じて、準備を整えておく事です……ほら、もう泣かないで?」
彼女の声は冷酷な戦士のものではなく、姉のような優しさで満ちていた。
「はい……」
「う、うぅ……」
麻奈と夏海は、葵の胸で静かに涙を流した。百合花、雅、詩織、夕日も、胡桃への想いを胸に、静かに未来を見据えるのだった。
既に彼女達が望む未来など訪れない事を、誰一人として気付けないまま……
という訳で、バグ大ヴィランの一人、松村美津留のイカれた思想に飲み込まれた連中が本章のメインヴィランとなります。
果たしてマリアは奴の狂った革命思想に終止符を打てるのか? そしてJIFと家族、仲間達を守る事が出来るのか? ご期待下さい。
○海砲須(シーホース)
Kakabelのかませ犬として登場した彼等だが、これでも裏社会ではそこそこ名の知れた武闘派半グレ組織。構成員は100人以上を誇る大組織だったが、ボス含む主要幹部の大半が葵達に殺された為、当時廃倉庫に来なかった残存勢力も機能不全に陥り、最終的に空中分解した。
名前のモデルは肉蝮伝説で肉蝮と敵対した半グレ組織『史威砲主(シーホース)』。ボスの男も『イベサー編』のヴィランの1人、竜崎に似た外見をしている。