【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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94話

おれの名前は星野マリア。

 

「ほわ~……」

「MEMちょ、大丈夫なの? 全身の色が抜けてるみたいに見えるよ?」

「……ふぅ、やっーと落ち着けてきたかも。ありがとルビーちゃん」

「ま、その反応も無理ないわよね。私だって聞いた時は滅茶苦茶驚いたもの……あとマジで怖かった……」

「かなちゃん、最後辺り何て言ったの?」

「ううん、独り言」

 

拷問ソムリエの特別修行を済ませた、何処にでもいる普通の男の娘だ。

 

苺プロに戻ったおれ達は、其処で今日の分の撮影を終わらせた母さんや、明日からの初出社を控えた黒川さんと合流。つい先程までみんなで夕飯を食べに行ったところで、現在はその帰り道だ。

 

「あはは、ごめんねMEMちょ? 隠したりなんかしてさ」

「いえいえアイさん、こんなのバレたらスキャンダルどころじゃないですよ。そりゃあ隠して当然です。……でも良いんですか? 私にもそんな重大な秘密を教えてしまって」

「此処に居るみんなが知ってるのに、MEMちょとあかねちゃんだけ除け者じゃ可哀想だからね。それに2人とも他人に秘密を話すような子じゃないし」

「お気遣い感謝しますアイさん。私達まで仲間に入れて貰えるなんて、嬉しいです」

「2人共もう苺プロの仲間なんだよ? 当然じゃん!」

 

この会話を聞いて察した人も多いだろう。そう、母さんとおれ達三つ子の本当の関係について、MEMちょと黒川さんに伝えたところなんだ。黒川さんは多少目を見開いていたけど終始落ち着いた様子で、MEMちょはさっきまでエ○ル顔で呆然としていた。

 

「ありがとうございます。この事は決して口外しない事をお約束致します」

「私もですアイさん! 絶対に誰にも言いませんから!」

「ありがとう、あかねちゃん、MEMちょ!」

 

この2人なら口は相当固そうだし、まあ大丈夫だろう。万が一漏らす可能性が生じたら記憶を消させては貰うけどね。

 

……ん? どったのお兄ちゃん、その怪訝な顔は?

 

「……マリア、今お前物騒な事考えてなかったか? 悪い顔してたぞ?」

「やだなぁお兄ちゃんったら。そんな事ないよ? ……多分」

「おい」

「〜♪」

 

取り敢えず首笛を吹いて誤魔化しとこう。

 

すると今度は黒川さんが歩行速度を緩め、後ろを歩いていたおれとお兄ちゃんと並んでから微笑んできた。

 

「そっかぁ。あの時のアクア君とマリア君の反応って、お母さんに対するそれだったんだね。漸く合点がいったよ」

 

彼女、プロファイリングだけで母さんに隠し子が居る事を突き止めていたからね。何故そう思い至れたのか理解出来ずにいた彼女だったけど、今回のカミングアウトで辻褄合わせが出来てスッキリしたような表情を浮かべていた。

 

「本当に凄かったなぁ、黒川さんの母さん演技。本物にしか見えなかったんだもん、おれ」

「そうだね。マリア君なんか、私の事うっかり“お母さん”って呼びかけてた位だし」

「ブヘッ!?」

 

はうあ!? まさか見抜かれてた……!?

 

「……ほほ~ん?」

 

あ、パイセンがニヤニヤしながらコッチにやってきやがった。その顔やめろコラ。

 

「何々黒川あかねー? コイツ、アンタの事そんな風に呼ぼうとしてたの? ちょっと詳しく教えなさいよ?」

「うん、実はねー……」

「君等、こういう時だけメッチャ仲良しだなッ!?」

 

止めて! これ以上触れないで! 間違って友達をお母さん呼びするとか凄く恥ずかしいんですけど! 黒歴史化待ったなし!

 

「え、マリアったらそんな反応してたの? きゃわー♡♡」

「そういえば“か”って何か言い掛けてたけど、あれってママの事だったんだね」

「母さんもお姉ちゃんも食い付かないで! 恥ずかしいからその話題はストップー!」

 

もう! 人が嫌がってるのにみんなして寄ってたかって! おれはそっぽを向いて頬を膨らませた。

 

「あはは、ごめんねマリア君。この話はこれで終わりにするからさ、機嫌直してよ?」

「む〜」

「ほんっと、こうしてるトコ見るとヤクザを次々としばき倒してた奴とは到底思えないわね」

「普段は護られる側の人間にしか見えないもんね。でも、そのお陰であかねもみなみちゃんも助けられたんだし。アクたんとルビーちゃんも含めて凄いよ3人とも」

「……結局みんなを、特にアイには凄く心配を掛けさせてしまったけどな」

 

お兄ちゃんがパイセン達にそう溢すと、あんなに楽しそうだった母さんの表情が暗く寂しそうになる。

 

「……ホントだよ。生きた心地が全然しなかったんだからね?」

「ごめんなさいママ……ちゃんと反省してるから」

「俺もだ。本当に済まなかった、アイ」

「ごめんなさい、母さん」

 

これ以上悲しませない為にも、どんな困難が立ちはだかろうと絶対に帰らなくちゃね。

 

 

 

…………おや?

 

 

 

「人?」

 

街頭のみの明かりで照らされた夜の道。まるで闇の中から出てくるかのように女性の集団が歩いてきた。

 

普段であれば大して気にも留めないところだが、何故か彼女達から僅かばかりの違和感を覚える。おれ達はそのまま女性陣と何事もなく擦れ違い、

 

「――あれ? もしかしてKakabelのみんな?」

 

しかし母さんが彼女達を呼び止めてしまった。一瞬ビクッと震えた7人は、恐る恐ると言った様子で此方へ振り返り、そして目を見開いた。

 

「……え?」

「その声……まさか、アイさんですか?」

 

「ピンポーン♪ 久しぶりだね~!」

 

母さんが変装を解き、圧倒的な美貌を女性達に披露する。その中の一人である碧い髪の美女――葵さんが一歩前に出て頭を下げた。優雅な笑みを携えている彼女だが、おれには何処か憂いを含んでいるように感じられる。

 

「お久しぶりです。7年前の共演の際は大変お世話になりました」

「こっちこそ、あの時は本当に良い思い出になったよ! ――それにしても葵ちゃん達、あの頃より更に綺麗になっちゃって……一瞬気付くのが遅れちゃった」

「アイさんこそ、当時から全然変わってないように見えて羨ましい限りです」

 

葵さんを筆頭に、百合花さん、雅さん、夕日さん、詩織さん、麻奈さん、夏海さんの順で挨拶を交わしていく。

 

「凄い……本当にあのKakabelだ。本物のお嬢様アイドル!」

「B小町と並んで推していたアイドルユニットに出会えるなんて……! 幸せ過ぎる!」

 

お姉ちゃんとMEMちょが興奮した様子ではしゃいでいると、葵さんがおれ達の方を興味深そうに見詰めてきた。

 

「……ところでアイさん、この方達は?」

「私の事務所に所属してる芸能人だよ? ――みんなも知ってると思うけど、この子達はKakabel。私達B小町が引退した後にトップアイドルに君臨していた子達なんだ。ほら、挨拶して?」

「「はーい!」」

 

元気よく返事したお姉ちゃんとMEMちょが先に自己紹介して、その後におれ達も続く。全員の挨拶が済んだところで、母さんがお姉ちゃんとMEMちょ、そしてパイセンの3人をKakabelの前に出し、嬉しそうに語り始める。

 

「ルビーちゃん、かなちゃん、MEMちょはね、2代目B小町を結成したばかりなんだ。もうじき本格的にデビューする予定だから、楽しみにしててね?」

「なんと、あのB小町が復活するんですか」

「大変じゃねえのか? 伝説のアイドルユニットを継ぐんだからよ。プレッシャー半端ねえだろ?」

「はいッ! 正直不安でいっぱいですけど、何時か必ず先代を超えてみせます!」

 

自信満々な笑顔で宣言するお姉ちゃんの姿を、Kakabelの7人は微笑まし気に見詰めていた。アイドルに成り立ての頃の自分達を思い出したのだろうか、彼女等の表情には純粋な期待で満ちていた。

 

「うふふ、”超える”とはまた大きく出ましたわね。これは期待出来そうですわ」

「「頑張って。応援するから」」

「うぉおおおッ、神宮寺姉妹の生ユニゾンエール! メッチャ息ピッタリー!」 

「まるでライブにやって来た気分!」

 

お姉ちゃんもMEMちょも、まるでファンサービスを受けたファンも同然に大はしゃぎ。

 

(……う~ん、それにしても妙だ。さっきまでは若干不穏そうな雰囲気が漂ってたんだけど、気のせいかな?)

 

ん? なんか葵さんがおれをジッと見てる?

 

「そっちの子……確か星野マリアくんでしたね?」

「あ、はいどうも、星野マリアです。ユニセックスモデルをやってます」

「今ガチ、拝見させて頂きました。告白直前の大胆な接吻は非常に印象的でしたよ?」

「……あの、その……出来ればあまり触れないで欲しいな~って///」

 

両手の指先をツンツンと触れ合う。そんな初々しい反応を見せるおれに、葵さん達は楽しそうにクスクスと笑った。宛ら弟を愛でる姉のように。

 

「あら、照れてらっしゃる」

「なんとまぁ、お可愛いです事」

「それにしても、噂通り本当に女の子にも見えますわね。普段から間違えられたりとかして大変では御座いません?」

「あはは……はい、それはもう。慣れてはきましたけど」

 

蘇るみなみとのディープキッスの記憶。うぅ、顔が熱い……これからも初対面の相手から恥ずかしい思い出を掘り返されまくるのだろうか……でも全国的に知れ渡ってしまったし。はぁ、嫌だなぁ……

 

「……カカベル……Kakabel……あぁ、思い出したわ」

 

その時、パイセンが手をポンと叩いた。アイドルに関しては無知に等しい彼女にとって、Kakabelもトップアイドルである事を除けば大して詳しくない。

 

「――確かセンターの女の子が自殺未遂したって言う」

 

「「「「「「「ッ!」」」」」」」

 

……でも、だからってこんなデリケートな話題を挙げるのは無神経にも程があるだろう。みるみるKakabelの人達が憤怒に染まっていくのが分かる。

 

「あわわわ、言わないようにしてたのに……」

「ちょ、馬鹿、先輩……!」

「かなちゃん、ちょっと不味いよ……!」

「え、何? ……あ、ヤバ」

 

慌てたMEMちょ、お姉ちゃん、黒川さんから咎められたパイセン。Kakabelが今にも怒鳴り声を上げそうな表情を見て、漸く自分の失言に気付いて青褪める。

 

はぁ、しゃーないなぁ。

 

 

 

「マリア式忘却術(仮)」

「ボゴォッ!?」

 

 

 

『!!?』

 

その場にいた全員が驚愕する。何故ならおれがパイセンの後頭部に踵落としを喰らわせて意識を飛ばしたからだ。

 

「Kakabelの皆さん」

 

おれは気絶したパイセンの頭を掴んで倒れないようにしながら、呆然とするKakabelに深々と頭を下げた。勿論、パイセンも一緒である。

 

「ウチの仲間が大変失礼致しました。――でも決して悪気があって杠葉胡桃さんの話題に触れた訳ではないのです。後でよーく聞かせておきますので、どうか許して頂けませんか?」

 

「え、えぇ……」

「是非……そうして下さいませ?」

 

容赦なく仲間をブチのめす光景が怒りを何処かへ追い遣ってしまったようだ。Kakabelはおれの謝罪を受け入れてくれた。

 

「じゃ、じゃあアイさん。明日も早いので私達は、これで……」

「う、うん。またね皆?」

 

Kakabelは別れの挨拶を済ませると、再び夜の闇へと消えていく。

 

おれに対しては……普通に引いていた様子。折角この馬鹿を代わりにしばいてあげたのに、何故……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ったく何だよ、あの赤髪の女の子はよぉ!?」

「デリカリーが欠けています。親の顔が見てみたいですわ」

「「私、あの子嫌い」」

 

おれ等と別れた後、パイセンの発言に対して怒りを露わにするKakabelも何人か居た。

 

当たり前だ、彼女等にとって胡桃の話題は完全に地雷案件なのだから。Kakabel内でのパイセンの株は大暴落である。

 

「……」

「葵さん? どうかしましたか?」

「いえ、百合花さん。あの子……星野マリアくんの事でちょっと」

 

だが葵はおれの方が気になって仕方ない。

 

「私……全然見えませんでした」

「見えなかった……?」

「あの子の踵落としを、全く目で追えなかったのです。普通に立っていた子が、気が付けば既に女の子の後頭部に足をぶつけてるように見えたのです」

 

6人は驚きを隠せないでいる。

 

「そんな馬鹿な。葵お姉様は我々の中でも最強の武闘派なんですよ?」

「あんな無力そうな子供が、お姉様ですら捉えれない速さで動けるなんて到底考えられません」

「……私も気のせいだと思っております。でも、どうしても胸騒ぎがしてなりませんの」

 

その中身がかつて関東全域を支配した超武闘派マフィアなどと、夢にも思うまい。決して真相に辿り着けない彼女達は、おれを得体の知れない存在として認識する事しか出来ないのだ。

 




次は龍珠組内でのお話か、マリみなデート回にするか、どちらにしようか検討中です。
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