【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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マリア君の異常な警戒心は今世でも健在です。

彼の助言(というより圧力)で、星野家マンションや事務所、社有車は死角なく全周に小型カメラが仕掛けられており、監視網が築かれています。


96話

窓際に掛けられた風鈴の音が小気味よく奏でられ、ほんの少しだけど涼しい気持ちにさせてくれる。

 

「午前はお疲れ様~。みんな、よく頑張ったね! お昼ご飯だよー!」

 

「「「やったー……」」」

 

一旦レッスンルームを離れていた母さんが全員を纏め上げ、ヘトヘトの新生B小町を連れて食堂へ案内する。

 

其処の大きなテーブルには白く艶やかな麺が盛られたガラス容器に、ネギやミョウガといった薬味を乗せた小皿が並べられていた。汗だくで冷たい物を欲していたお姉ちゃん達は目を輝かせる。

 

「素麺だー!」

「もうお腹ぺこぺこだよぉ。超絶ハードなレッスンだったぁ……」

「ふぃ〜、まだ半日なのに1日分肉体労働した気分だわ……」

 

「みんなしっかりして? 午後も夕方5時までストレッチと走り込みだから、ココでしっかり体力を取ろうねー?」

 

「「「ひえ~ッ!」」」

 

母さん。笑顔で容赦なく上げて落とす。喜んでいたお姉ちゃん達は一瞬で叫び声を上げていた。そこへおれがちょうど良いタイミングで戻ってくる。

 

「お疲れ様ー。……あ、素麺じゃん! 美味しそう!」

「お帰りマリア。かぐやさん達との打ち合わせは済んだとこかな? ママが素麺作ったから、一緒に食べよっか?」

「母さんお手製の素麺!? 食べる食べる!」

 

鏑木さんと会食中のお兄ちゃんに、ララライで演習中の黒川さん、そして現在リモート会議中の社長夫妻が不在だ。全員は揃わなかったけど、それでも総勢11名が食堂に集まって昼食が始まった。

 

『めいめい』さんや『ありぴゃん』さんが氷の入った麦茶を配って周り、『きゅんぱん』さんや『カナン』さんが箸を並べていく。

 

『いただきまーす!』

 

準備が整えたところで全員席に座り、挨拶を済ませてから冷たい素麺に舌鼓を打つ。

 

(うん、美味しい。熱った体によく沁みる〜)

 

薬味の爽やかな風味が夏の暑さを抑え、みんなの箸が麺をすする音が食堂に心地良いリズムを刻む。

 

「はふぅ……でも先輩方の偉大さには実感しましたよ。今回のニノさんの指導も厳しいけど的確で。私、YouTuber上がりで歌が苦手でしたけど、少しずつ上達してる気がするんです」

 

MEMちょが疲労の溜息を吐きつつ笑うと、パイセンやお姉ちゃんも箸を手に取りながら頷く。

 

「そうね。私は『たかみー』さんや『めいめい』さんのダンスアドバイスが目から鱗だったわ。『ありぴゃん』さんや『きゅんぱん』さんのボーカル指導に、カナンさんの振付も……誰もが完璧過ぎて追い掛けるので精一杯でしたけど」

「私はやっぱりママの指導が一番厳しくて、でも一番凄かったかな? ママって実は超努力家でさ、教えて貰ってると頑張れば自分もここまでなれるって自信を貰える気がするんだ!」

 

後輩達からの心からの称賛と尊敬に、旧B小町のメンバー達も思わず笑みが溢れる。まるで現役時代に振付師や講師に褒められている気分だ。

 

「全員よく付いて来れてるわよ。初めは誰だって苦労するものなんだから。このアイだって最初はヘロヘロだったんだからね」

「そうだねー。私もニノちゃんとペアで特訓した時なんか、いっぱい怒鳴られまくってたっけ」

「でもルビーちゃんもかなちゃんもMEMちょも……ポテンシャルはたかみー達の想定以上だわ。デビューしたらブレイク間違いなしよ」

「頑張ってね。応援してるから!」

 

初期面4名からの評価は上々。他の3名ーー

ありぴゃんさん、きゅんぱんさん、カナンさんも、同意するように笑顔で頷く。お姉ちゃん達は感激の表情で先輩達を見詰めた。

 

「ただいま〜」

 

「あ、おにいちゃん!」

「お帰りアクアー」

 

そこへ事務所へ戻ってきたお兄ちゃんが食堂に現れる。

 

「やっほーお疲れアクたん。素麺出来てるから一緒に食べよ〜?」

「いや俺は大丈夫だ。鏑木さんトコで寿司食ってきたし」

「あぁ、そうだったっけ? じゃあママお手製の素麺は要らな「いただきます」はっや、もう啜ってる……!?」

 

扉の前に立っていたお兄ちゃんだったが、瞬きした次の瞬間にはお姉ちゃんの隣に座り、素麺を胃の中へチュルチュル吸い込んでいた。

 

「ふぅ、美味い……推しの手料理を食べない選択肢なんて俺には無い」

 

ふふん、当然だよねー? 母さんの料理は絶品なんだし。

 

「ったくマザコンが。食べ過ぎで太っても知らないわよ?」

「まだ16の育ち盛りなんだから問題ない。この後の走り込みに一緒に参加すれば元は取り戻せるさ」

「ちょ、私には口酸っぱく糖質制限言う癖に……」

「アイドル体型維持の為だ。頑張れルビー」

「ちぇ〜」

 

パイセンのぼやきもお姉ちゃんの文句も涼しげに流すお兄ちゃん。

 

おっと、いけないいけない。確認しないと。おれは隣に座って素麺を飲み込んだばかりのお兄ちゃんにソッと耳打ち。

 

「で、お兄ちゃん。クソ親父の件で鏑木さんはなんて……?」

「ゴクッ。その件なんだが……取り敢えず後でも大丈夫か? 先に話したい事があるんだ」

「ん、何々?」

 

何かしらのヒントを得られたようだが、それ以上に重要そうな別件があるようだ。ならそっちから教えて貰おうかな?

 

 

 

 

 

「「「ジャパンアイドルフェス!?」」」

 

冷房の効いた食堂が熱気に包まれる。

 

「あぁ、鏑木さんの好意でB小町の分を捩じ込んでくれる事になった。一応MEMちょのルートからも話を通すから、詳細はメールを確認してくれってよ?」

 

驚愕の表情を浮かべるお姉ちゃん達3人に、お兄ちゃんは冷静なまま頷く。

 

「わ、分かった。後でチェックしておく、けど……まさかあの超ビッグイベントに参加出来るなんて予想外だよ……」

 

ジャパンアイドルフェス、通称JIF。全国のアイドルが多数出演する、日本最大の巨大フェスである。合計で10のステージが用意されており、金属をモチーフにした5種類の名前が付けられている。最上位のプラチナステージからゴールド、シルバー、コッパーと下がっていき、ブロンズステージが最も位が低い。それぞれステージ数は白金と金が1つずつ、銀と銅が2つずつ、そして青銅が4つ存在する。

 

わざわざ名称分けしてあるという事は、当然ステージ毎の格差が存在する。一番大きいMAIN STAGEこと“プラチナステージ”は、誰もが知るようなメジャーグループレベルでないと立つ事は不可能。

 

「だよねだよね!? 私も結構先の話だと思ってたのに、まさかデビュー初っ端から出場だなんてさ!」

「普通のグループが何年も必死に活動してやっと立てる舞台というからな。キャリア蓄積無しの新参者はコネ無しじゃブロンズステージすら登壇出来ないイベントだ」

 

それ以前にJIFは、基本的に中堅以上のアイドルユニットにしか参加権は与えられない。この間テロが起きた北九州アイドル歌合戦のように、駆け出しのグループでも登壇可能なチャンスは一応あるものの、その参加権の枠はより上位のグループに取られがちな為、やはり地道な活動で人気を伸ばしてからとなる。

 

「ただしゴールドステージやプラチナステージは無理だってよ。枠が空いていたのはブロンズステージだけだ」

「えぇ〜、それ一番位の低いステージじゃん? もっと上の所を期待してたのに……」

 

不満なのも分かるよお姉ちゃん……3人の才覚は“青銅”如きじゃ過小表現だし。

 

「贅沢言うなルビー。普通じゃその一番低いステージだって立てないんだ。参加出来るだけでも十分凄い事だからな?」

「そうだよルビー? 私達の時なんかデビューして5年目でやっと出られたんだからね? そこはもっと喜ばなきゃ」

「むぅ、分かったよママ……今はブロンズで我慢しとく」

 

B小町を継ぐユニットとはいえ、お姉ちゃん達は界隈では未だアイドルの卵。本来であればオファーは1〜2年は先となる……予定だった。

 

「……良いじゃん」

「マリア……?」

 

素麺を啜りながら不敵に笑うおれに、全員の視線が集まる。

 

「お姉ちゃん達のモンスターっぷりを、こんなに早く世間に見せ付けられるんだから」

 

鏑木さん、いけ好かない性格だけど今回はマジで感謝するよ。猛者に相応しい戦場を提供してくれて。お陰でお姉ちゃん達のスターへの道のりが少しだけ短くなれた。

 

「マリりん? どうしてそこでモンスターなの?」

「あぁ、気にする事ないわよMEMちょ。コイツなりの褒め言葉だから」

「パイセンの言う通り。3人なら来年は一気に“青銅”から“白金”へ進化してるに決まってる!」

 

おれは自信を持ってそう断言すると、みんなが微笑まし気に見詰めてくる。……今のおれ、愛らしい小動物か何かですか?

 

「……ただな、その為に条件を2つ了承したんだ」

「条件?」

 

お兄ちゃんがバツの悪そうな顔でおれを見る。

 

「まず一つ目なんだが……俺が今年の秋に行われる舞台演劇に出演する事」

「アクアが演劇に?」

 

幾つかドラマに出ているお兄ちゃんだけど、舞台演劇は一度も無い。しかし母さんは息子の初演劇に目を輝かせる。

 

「凄いじゃんアクア! それでどんな内容なの?」

「“東京ブレイド”。みんな作品名だけなら聞いた事はあるんじゃないか? アレの舞台版をやるんだとよ」

「知ってる知ってる! すっごい人気の漫画だよね! アニメもかなり盛り上がってて!」

 

東京ブレイド。若き女性クリエイター『鮫島アビ子』原作の少年漫画であり、アニメ化や映画化も大成功を収めるなど、国内外で社会現象を巻き起こしている超大作だ。

 

内容は21本ある伝説の刀を巡って、複数の勢力が現実とは異なる東京を舞台に戦いを繰り広げるというもの。キャラのメイン武装が基本刀である事を除けば、裏社会での仁義なき抗争を描いた作品とも言える。

 

(……だからなのかな? ああも無性に惹かれちゃうのは)

 

このおれが漫画全巻揃えるどころか、公式ガイドブックや二次創作本も多数自室に保管してある程なのだから。もしかしたら裏社会出身の愛読者が多い作品なのかも。

 

「因みのメインの演者は劇団ララライのタレントから出るらしい」

「げ……じゃあまさか黒川あかねも……?」

「アイツは劇団のエースだし、呼ばれない謂れは無いだろうな」

「はん、でしょうね! あの天才役者め!」

「先輩ってさぁ、あかねちゃんが関わると必ず不機嫌になるよね?」

「当然よ! 実力は認めてても私とあの女は相性最悪なんだから!」

 

……ただこの時のおれ達は知る由もない。その東京ブレイドに、厄介な招かれざる客も出没する事を。

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

「それでお兄ちゃん、もう一つの条件って?」

「……それなんだが。マリア、お前に司会をやらせたいってさ。JIFの」

 

……

 

………はぇ?

 

「「「ええええ!?」」」

 

みんなの驚きの声が食堂に響く。おれも素麺を吹き出しそうになる。

 

「司会役? マリアが!? ウッソォ!?」

 

パイセンが、目を丸くする。おれは、手を振り慌てて言う。

 

「ちょちょ、ちょっとタンマッ! おれ、司会なんてやったことないよ!? モデルはしてるけど、MCとか無縁だし……」

「とはいえ折角可愛いからどうしてもって鏑木さんがな。ーー衣装も用意してくれた。一度着替えてみてくれないか?」

 

おれは、袋を開けて中を覗き込む。その中身は……

 

「これを着ろって……?」

「そういう事らしい」

「ふーん、そっか……」

 

思わず固まってしまったが、次の瞬間には無意識に口角が上がっていた。

 

「マリアお前、完全に嵌まっちまったんじゃないのか?」

「だってあんなに周りから可愛い可愛いって褒められちゃあ……ね?」

 

大体察した方もいらっしゃるだろう。要は女装しろって意味だ。そしてそれを楽しんでいる自分が居る。すっかり毒されちゃったなぁ……

 

「何々? マリアったらどんな衣装で司会をやるの? ママにもその袋の中身を見せて?」

「ま、待って母さん!」

 

おれは中身を覗き込もうとする母さんから袋を勢いよく遠ざける。……うぅ、そんな寂しげな瞳で見詰めないでよぉ……

 

「これから着替えてくるから……出来ればその時に褒めて欲しいな?」

「勿論だよ! マリアは何着たって可愛いんだから!」

「……えへへ、ありがとう。みんなも、ちょっとだけ待ってて?」

 

おれは背中から多数の期待の眼差しを受けながら食堂を後にする。

 

「脇と太腿がスースーする……」

 

そして男子更衣室で着替えを済ませ、再びみんなの前に姿を見せた。

 

「どう……かな?」

 

みんなの視線の集中点に立つのは、圧倒的な可憐さを誇る美少女。

 

改造巫女服をベースとしたアイドル衣装で、白いベースに赤と桃色のアクセント、袖にスカートにフリルやリボンが散りばめられたものだ。リボン付きの純白ニーソはスカートの下端まで届かず、柔らかな太腿の素肌を露出させる。

 

小動物的な可愛らしさが、アイドルらしい華やかさを纏っている。脚のラインや腰回りが、男子とは思えない柔らかさだ。

 

『きゃわ〜!!!♡』

 

女性陣を中心に黄色い声が上がる。母さんとお姉ちゃんとMEMちょがスマホ片手におれを一瞬で取り囲んだ。

 

「さいっこう!! 流石マリア、流石ママの子! 大好きだよ!」

「もうマリアも一緒にB小町やろうよ! 男の娘アイドル絶対人気出るって!」

「何だよこりゃあ!? バーチャルYouTuberの『さくら◯こ』みたいじゃん! マリりん、そこで笑って! ほらポーズ! これは記憶にも記録にもしっかり残しとかないと!」

 

「この3人特にテンション高過ぎない? ……こう?」

 

おれの周りを飛ぶように公転しながらシャッターを押しまくる母さん達へ、おれは可愛くポーズを決める。あざとくではなく、如何にも庇護欲の唆るような感じに。

 

あとお姉ちゃん。お誘い嬉しいけどおれまで入ったら1人当たりの魅力が下がるから止めとくよ。君達は全員がエース級なんだから。

 

「すっご……完全に美少女にしか見えない。脚の肉付きも腰回りも男子要素が殆どない……肩幅だって女子みたいに狭いし」

「そりゃあ若い子の性癖歪んじゃうってこんなの見たら」

 

ニノさんや『めいめい』さんが褒めると、他の人達も同意して頷く。

 

「そんなに可愛いですか? 女の子みたいに……?」

 

「うんうん」

「とんでもなく似合ってるよマリア君?」

 

可愛い……似合ってる……やっば、超嬉しい。

 

「そうですか……へへ///」

 

((やっば、無邪気笑顔クッソきゃわわ///))

 

喜びのあまりちょっと笑っただけで、ニノさん達はキュンキュンしていた。

 

「いいよお兄ちゃん、司会をやっても。それでお姉ちゃん達の役に立てるなら」

「そうか、ありがとうマリア。助かる」

「良いって良いって。それに個人的にこの姿を沢山の人へ披露してみたくなっちゃったし」

 

モデルデビューから1年半以上。おれは完全に女の子の格好を気に入ってしまっていた。

 

だっておれ可愛いんだもん。

 




梨香「パパ? 何読んでるの?」

犬亥「あぁ、梨香。東京ブレイドって漫画だ。良い作品だな」

梨香「パパも好きなの!? まあ凄い人気だからね! ーーあ、そうそう。今度のJIFのチケットが取れたから、彩綾ちゃんと一緒に行ってくるね?」

犬亥「おう、気を付けて行っておいで?」


ーーーー


和中「ふむ……剣術の動きが非常にリアルだ。この作者はよく研究している」

小峠(うぉお、あの和中の兄貴が東京ブレイドを読んでるだと……?)

飯豊(剣士として何か琴線に触れたんだろうか……あ、13巻目に突入した)


ーーーー


バース「行けえぇぇぇつるぎッ! 渋谷クラスタなぞに負けるでないぞぉおおおお!!!」

鶴城「え?」

鵺「いや、お前を呼んだ訳じゃないぞ?」

さゆり「バースさん、アニメ見ながらかき氷器回さないで下さい……」

鶴城「何時もより速く回ってるね……」
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