【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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99話

更に数日後。学校帰りの道中で。

 

おれはお兄ちゃんとお姉ちゃん、パイセン、黒川さん、そしてみなみと一緒に歩いていた。最前列では笑顔で絡んでくる黒川さんにパイセンがツンツン態度で応じており、おれ等4人はその様子を後ろから眺めつつ別の話題で盛り上がっている。

 

「マーくん、今日は災難……と言う程でもなさそうやな?」

「まさか再び女子の制服を着る事になるとはね……」

「その割には満更どころか嬉しそうだよねマリア! 休み時間に鏡見てニヤニヤしてたもん!」

「べ、別にニヤニヤしてないし……! 可愛い扱いされて、悪い気分じゃなかっただけだし……」

 

お姉ちゃんが揶揄うように、おれの肩を軽く叩いた。その目はいつも通り悪戯っぽく輝いている。

 

「というかこれ、ルビーもグルだったんだろ? わざわざもう1着学校に持ってきてたしな」

 

お兄ちゃんから冷静な指摘が飛ぶ。いつものように状況を客観的に見守っている彼だが、口元に微かな笑みが浮かんでて楽しんでいるのが分かる。

 

現在、おれは数ヶ月前と同じように陽東高校の女子制服を着用させられていた。今回はクラスの女子からではなく、不知火さんに頼まれて用意されたお姉ちゃんの予備の制服だ。以前借りたそれよりもサイズがフィットしており、違和感は少ない。

 

「えへへ、バレちゃった? いやぁフリルちゃんがもう一度女子高生なマリアを見たいってさ。今回はあの子主導で丸1日過ごして先生達の反応を見てみようってなったんだよ」

「不知火さん……」

 

あの人は相変わらずフリーダムそうで何より。彼女、言う事やる事が面白過ぎる人って発覚して以降は、みんなが超人気芸能人という肩書を気にせず接してくるようになって、嬉しそうだったなぁ。母さんもそうだけど、やっぱ有名人って大変だなって思う。

 

もっとおれに何か出来ないだろうか?

 

「教師全員がマリアをナチュラルに女子扱いしてた事には驚いたよな」

「そうなんだよ、お兄ちゃん。誰一人違和感に全然気付かなくってさ……特に体育の着替えの時なんか女の先生に女子更衣室へ引き摺られそうになって。あれはマジで焦ったね」

 

おれは苦笑いを浮かべる。1日中、先生達はおれを自然に女子と認識し、クラスメイト達も男女問わず目を輝かせて「かわいい!」と騒いでいた。芸能界の仕事として散々女装してきた身だし、今や大分気に入ってはいるけど、やはり学校でこれをやるのは新鮮ながらも恥ずかしい。

 

「大丈夫だよマリア! マリアだったら女子一同ウェルカムだから!」

「嫌だよお姉ちゃん、おれ男子だし。……それになんだか喰われそうな気がするし」

 

うちのクラスの女子達、時たま野獣のような目を向けてくるから普通に怖いんだよ……。全方位から貪られるように視姦されてたら、落ち着いて着替える事も出来やしない。隣で並んで歩いているみなみも少し頰を赤らめ、視線を逸らしている。

 

「……///」

「ほら、みなみだって恥ずかしがってるじゃん?」

「うちも……別にええと思います」

 

「!!?」

 

目ぇ濁ってませんね……え、うっそぉ?

 

そんな和やかな(?)帰宅路だったが、突然の異変が訪れた。

 

「――ねえ、あれは何かしら?」

 

賑やかな会話が続く中、パイセンが突然遥か前方に集まる人間の集団に視線を向けた。彼等を凝視したおれ達は、みるみる険しい表情になる。

 

「なんかヤバくない? 女の人に男の人達が絡んでるように見えるけど」

 

派手な容姿の男が2人がかりで1人の女性に詰め寄っている光景。彼女の顔は明らかに怯えていた。

 

……ふざけんな。

 

「あ、ちょ、マリア!?」

「マーくん!?」

「オリンピック選手も真っ青なスピードしてる……」

 

女性を助ける為、俺は即座に駆け出した。

 

 

 

 

 

現場に近づくと会話がはっきり聞こえてきた。どう好意的解釈しても不穏でしかない。

 

「すみません、本当に申し訳ありません! 今後は十分気を付けますから……!」

 

40代半ばくらいの女性が顔面蒼白なまま、眼前に立つ如何にも質の悪そうな男2人へ必死に頭を下げていた。相手連中は染めた髪に煌びやかな格好からして、ホストのようだ。

 

「おばさん、『ごめん』で済んだら警察は要らないんだよ? トーマ君はね、これからお得意さんと重要なお仕事があるのに、こんなにスーツが汚れた状態で取引相手と会える訳ないでしょ?」

 

そう言って相方のスーツのズボンを指し示す。確かに多少砂ホコリが付いてはいたものの、いくら何でも大袈裟に過ぎる。

 

「アンタがぶつかってきた所為で少しヨレヨレになっちまったし、取り敢えず慰謝料30万円で勘弁してあげるよ」

「さ、30万……!? 無理です、そんなお金持ってません……!」

「ならATMでおろして来ればいいでしょ? 良い年した大人が相手に損害を与えておきながら払えませんなんて、この法治国家じゃ通じないよ?」

「ケンタ君の言う通り。このスーツ、オーダーメイドで400万は軽く超えるんだ。本来なら全額弁償な上に、取引を潰しかけた賠償金として1億は請求するところなんだよ?」

「い、1億……!?」

 

それもその筈。この男達は見るからに気弱そうな女性をターゲットにカツアゲする事を目的としていたのだから。女性にぶつかったのも意図的でしかなかった。取引云々の話も、勿論嘘である。

 

「それを30万に負けてやるって話なんだから、寧ろ感謝して貰わないと」

「そ、そんな……」

 

震えて縮こまる女性を見て内心愉快に笑う2人組。こういう弱い人間を追い詰めて虐めつつ、今までも同じ手法で金を巻き上げては酒や女などの遊行費に消費する。まさしく人間の屑だった。

 

「ところでこれは何だ?」

「あッ……!?」

 

すると奴等が視界に捉えたのは、女性が持つ手提げ式の大きいバスケット。それを彼女から奪い取って中身を物色する。

 

「なんだよ、ただのメロンじゃねえか」

「だが見るからに高級そうじゃね? 知り合いに売ればそれなりの金になりそうだな。仕方ないから今はコイツを慰謝料代わりに貰っておくとしよう」

「そ、それは入院中の娘の為に用意した物なんです……! 返して下さ「五月蠅いなぁ」きゃッ……!?」

 

女性が返却を求めて必死に縋るが、男達は鬱陶しそうに彼女を蹴り飛ばした。勢いよく地面に叩き付けられた彼女はアスファルトに足をぶつけてしまい、右膝が擦り剝けて血を流した。

 

「いったぁ……」

「アンタの身から出た錆でしょ? 嫌なら俺のスーツを汚さないように、最初から道の端っこを歩いとけば良かったんだ」

「大体よぉ、アンタみたいな貧乏人がこんな高そうなメロンを持ち歩いてるなんて不相応じゃないか。娘さんには道端に落ちてる腐った蜜柑でも食べさせとけば治るだろ?」

「……!!」

 

苦痛に苛まれる女性に心無い言葉を容赦なく浴びせる男達。罵倒された女性は悔しさと悲しみで薄っすらと涙を溢す。

 

「ちょっとぉ、何時までも転がってないで財布も出しなよ? 今回はそれで勘弁してあげるからさ」

 

男達はそう言って笑いながら女性の鞄も奪おうとした。

 

 

 

 

 

「――おおっと、足が滑ったー♪」

 

「ごッ!?」

「げべッ……!?」

 

だが、その前にう~っかり足を滑らせたちゃった俺がホスト達の背後に現れ、突き出した2本の拳がそれぞれの背中に突き刺した。その衝撃でメロン入りのバスケットが奴等の手から離れたので、地面に落ちる前に掴み取る。

 

「ふぅ、危ない危ない――はい、おばさん。これ大事なものなんでしょ?」

「え、えぇ、ありがとう」

 

メロンが粉々にならずに済んで良かった。俺はそれを困惑した様子の女性に返す。

 

「て、テメエ女! いきなり何しやがる!?」

 

一方、頭に血が上った当たり屋共が怒りの矛先をおれに集中させる。俺は両手を胸の辺りでパチンと合わせ、反省の色が欠片も無い態度で男共に形以下の謝罪を繰り出す。

 

「あ、ごめんなさ~い♪ まさか道のど真ん中にお兄さん達が居たなんて全然気付きませんでした。貴方達みたいな人、道の端っこを歩いてそうなタイプの人間だったので!」

 

はい、こんな感じで煽ってやると男達はみるみる頭を真っ赤に染めていきました。あからさまな挑発に乗るとは、分かりやすい奴等だ。

 

「ふざけんのかテメエは!? よくも俺のスーツに傷を入れてくれたな!?」

「餓鬼でも容赦しねえぞ! 慰謝料50万払え「ヤダ♪」……!?」

 

いやいやパッと見で大丈夫そうじゃんか。流れるように俺からもカモろうとするのは逆に凄いが、敢えて俺は人懐っこい笑顔でキッパリ断る。

 

「だってぇ、それ量販店で売ってる安物のスーツでしょ? ネットで見た事あるから僕知ってるもん!」

 

1セット2万円未満。カジュアル向けのお手頃スーツってところか。このホスト共、女性を馬鹿にする程稼げてる訳じゃなさそうだな。よく貧乏人呼ばわり出来たものだ。

 

「それにぃ、見たところ傷どころか汚れ一つ付いてないっぽいし、なら払う必要無いよね? だいたい弁護士でもない個人が出会い頭で高額請求しても無効なんだよ? 良い年した大人がそんな事も知らないの?」

 

一瞬呆然としたホスト達だったが、眼前の美少女?に舐められている事を察知し威嚇する。

 

「……上等だ女。これは少し話し合う必要があるみてえだな?」

「其処の路地裏に来い。自分が如何に悪い事をしたのか骨の髄まで理解させてやる」

 

ほぉ? 実力行使って訳か? こんなキャワワな子供相手に暴力とは、倫理観が終わってやがる。

 

「うん! じゃあ行こっか、路地裏!」

 

「ごあッ!?」

「ぎゃッ!?」

 

早速俺はクソ野郎2人の髪を鷲掴みにし、痛がる連中をガン無視して強制的に引き摺ろうとする。

 

「おいマリア!」

 

おっと、グッドタイミングだな。

 

「お前等、この人の怪我を治療をしてやってくれ。俺はこの当たり屋と話を付けてくるからよ」

「それは分かったが――やり過ぎるなよ?」

「無論、善処するさアクア」

 

みんなは俺の指示に従い、女性を道の端まで移動させる為に立ち上がらせた。

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

女性が心配そうな視線を向けてくるので、優しく労わるような声を掛けてあげる。

 

「仲間がアンタを介抱してくれる。ちょっと待っててくれるか?」

「え、あ、はい……」

 

頷く彼女を尻目に、俺は再び歩き出す。

 

「マリアくん、物凄く怒ってるね……」

「あーあ、ありゃ死んだわね男共。ご愁傷様」

 

「ガガガ……!(なんちゅうパワーだ!?)」

「イデデデ……!?(ふ、振り解けねえ……!)」

 

髪を引っ張られて滅茶苦茶痛がってるみてえだが大丈夫。俺は全然痛くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして人気の無い路地裏にホストを連れ込んだ俺は口調をマフィア時代のそれに戻し、

 

「子供想いの母親を蹴りやがって……お前等もこうされたら痛えだろ?」

「ぐ……ば……」

「ごへぇ……」

 

調子付いた心が折れるまで奴等をボコボコにしてやった。具体的にはコンクリ壁に頭からめり込ませたり、女性にしたのと同じように腹を思いっきり蹴ってやったり。

 

(な、なんだぁ……このメス餓鬼……?)

(弱っちい見た目の癖に、化け物だ……)

 

なんか凄く失礼な事を思われた気がするが。まあそんな事よりさっさと済ませるとしよう。

 

「ほらよ、スーツのクリーニング代に使え」

 

俺は懐から万札2枚を取り出すと、1枚ずつ倒れてる男達の腹に置く。女性が汚してしまった事は事実だからな。1万円もあれば綺麗になるだろう。

 

あと万一に備えて保険も掛けておくか。

 

「そうそう、さっきの窃盗&暴行シーンは記念に撮っておいたから」

「……え?」

 

一瞬唖然としていたホスト共の顔がみるみる蒼褪めていく。スマホには自分達が女性からメロンを強奪した挙句、蹴り飛ばして怪我させる様子をバッチリ映されていたから。

 

「これ、店とか知り合い連中にバラ撒かれたくないよなぁ?」

 

次いで見せ付けたのはコイツ等の身分証。既に名前も住所も勤め先もぜーんぶ把握済みだ。

 

「いやあの……」

「そ、それだけは勘弁を……」

「じゃあ俺が何を望んでるか、分かるよなぁ?」

 

もし報復を企めば社会的に抹殺するぞ? そういう意味を込めた脅しをぶつけて黙らせる。

 

「いででででッ……!!?」

「か、髪引っ張んないでくれ……!!」

 

そしてスマホを仕舞った俺は再びバカホスト共の髪を鷲掴みにし、体ごと持ち上げて顔を至近まで持ってくる。そして眼前で圧たーっぷりの凄みを効かせてやった。

 

「これ以上ご自慢の商売道具を台無しにされたくなかったら永久に失せろ。10秒以内だ」

 

俺が本気である事を本能で感じ取った2人は恐怖で震え、力なく頷いた。

 

「は、はい……」

「すいませんでした……」

 

良かった、賢明な判断ができる連中で。顔や髪の毛をズタボロにされたらホスト生命終わりだもんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男達が逃げ去った路地裏から戻ったおれを、みなみ達が迎えてくれた。

 

「マーくん怪我はあらへん? 大丈夫なん?」

「大丈夫大丈夫。あのお兄さん達、話が分かる人だったから無事に解決出来たよ」

 

(あ、嘘だ。絶対嘘だ……)

(あいつ等、しっかり地獄見せ付けられたようね。きっと一生もんのトラウマになったに違いないわ。南無)

 

何かお姉ちゃんとパイセンが言いたげな様子だけど敢えてスルー。

 

それよりも……

 

「おばさん、足の怪我は大丈夫ですか?」

 

女性は地面に座り込んだまま、膝の擦り傷をお兄ちゃんに治療して貰っていた。彼女はおれの存在に気付くと、深々と頭を下げる。

 

「えぇ、本当にありがとうございました。お陰様で助かりました」

「最近はああいう当たり屋が跋扈してるって聞きます。もしいきなり高額請求されても即断せず、自分で分からない時は弁護士や家族に相談して下さいね?」

「はい、そうします」

 

一昔前なら強盗殺人まで発展する例も少なくなかったけど、治安が滅茶苦茶良い現代ではそこまでリスクを犯す不届き者はかなり減った。命を失う危険が伴う場合は兎も角、ただ安全に金だけを騙し取ろうとする相手なら正当な手段をもって対抗すれば多額のお金を払う必要は無い。

 

「じゃあ、私はこれで……あら?」

 

治療を終えて立ち上がろうとした女性だが、足が震えて直ぐに座り込んでしまう。あの屑共、相当強めに蹴り飛ばしてたからな。見た目以上に怪我が深刻なのかも。

 

なら、おれ達がやる事は一つだね。

 

「よいっと」

「え、わ……!?」

 

おれは軽々と女性をおぶってみせる。

 

「おばさん、おれ達が目的の病院まで送っていくよ。歩けない程の怪我なら本格的に診て貰った方が良いからね」

「で、でも私結構重いし……迷惑じゃ……?」

「いいのいいの、こういうのを見てると放っとけない性質だから。ねえみんな?」

 

仲間達に同意を伺うと、全員が頼もしそうに頷いてくれた。

 

「マーくん、その人の荷物持たせてくれます?」

「ありがとうみなみ、お願いね?」

「マリア、俺がお前の鞄を持っといてやるから、その人のおぶる事に専念しとけ」

「うん、ありがとうお兄ちゃん」

 

みなみとお兄ちゃんに女性とおれの荷物を預け、完全に開いた手でしっかりと彼女を支える。落とさないように、丁重に。そんな自分に優しくしてくれる見ず知らずの子供達に、女性は嬉しさのあまり目尻に涙を浮かべた。

 

「……ありがとう、ありがとう。坊や達」

「お気になさらず。おれ達が勝手に親切にしてるだけなんで」

 

謙遜しつつ、女性を連れて目的の病院へと歩き出すおれ達。その道中で女性が自己紹介をしてくれた。

 

「申し遅れたわ。私は杠葉美津子。宜しくね?」

「星野マリアと申します。此方こそ宜しくお願いします、杠葉さん」

 

……ん? 杠葉? どこかで聞いたような……

 

「折角だし、娘にも会って行ってくれないかしら? きっと皆さんも驚くと思うわ。なにせあの子は有名人だもの」

「有名人なんですか、杠葉さんの娘さんって」

「えぇ、アイドルをやってたのよ。でも16歳の時から4年近く意識が無いままでね。まさかベッドの上で成人を迎えるとは思わなかったけど」

 

4年もの昏睡状態と言う非常に重い話に絶句しかける一同だったが、その時お姉ちゃんが何かに気付いて目を見開いた。

 

「ま、待って下さい! 16歳から4年間昏睡したままの有名アイドルって……私、一人しか心当たり無いんですけど……まさか」

 

………………あ、おれも娘さんの正体分かっちゃった。

 

「えぇ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――杠葉胡桃って言うわ」

 

衝撃が駆け巡る。

 

杠葉胡桃。芸名『クルミ』。

 

(ほんの1週間くらい前に葵さん達と偶然会ったばかりなのに……何だか運命染みたものを感じるなぁ)

 

トップアイドルとして名を馳せたKakabel第8期生、そのセンターだった少女と面会する機会が巡ってくるなんてね。

 




JIF編のボス戦は途轍もない激戦になる予定です。
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