【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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101話

「――どうしました、美津子さんッ!?」

 

泣き声を聞き付けた若い看護師の女性が、緊迫した様子で病室に姿を見せる……って。

 

「渚さん?」

「え?」

 

おれの声に反応した女性――田沼渚がおれ達高校生組の存在を捉え、目を見開いた。

 

「マリア君じゃない! どうして君が此処に……? それに貴方達は確か……」

「あ! あの時のお姉さんだッ!」

「ルビーちゃん達は知ってるん、この人の事?」

「そっか、みなみちゃんとあかねちゃんは初めて会うんだっけ? 2人をヤクザから助ける為に協力してくれた大人達の一人なんだ。えっと――」

「秀知院学園の卒業生なんだよ、この人。確か経団連会長の孫娘って」

「そうそう、おにいちゃん! それ!」

 

突然現れた看護師の正体が自分達を救ってくれた恩人の一人――という事実を容易く塗り替える衝撃の出自。みなみと黒川さんが目を丸くし、顔も驚愕一色で固まる。

 

「しゅ、秀知院……? え?」

「け、経団、連……?」

 

2人共、壊れたテープレコーダーみたいな声を出したくなる気持ちは分かるけど、今は美津子さんを慰める事に専念しよう?

 

 

 

 

 

みなみが渡したハンカチで目元を拭った辺りで、美津子さんは漸く落ち着きを取り戻してくれた。その様子は渚さんは心配そうに見下ろしている。

 

「……すみませんでした。病院なのに騒いだりして」

「いいえ、大事にならなくて本当に良かったです。じゃあ私はこれにて失礼しますので、何か御座いましたら遠慮なく申し付け下さいね?」

「はい、ありがとうございます」

 

緊急事態ではなかった事に安堵の溜息を溢した渚さんは、最後にそう伝えて病室から去った。おれは遠ざかっていく足音を耳にしながら、あかねに背中をさすられている美津子さんへ問いを投げ掛ける。

 

「それで美津子さん。その手記は警察に?」

「……えぇ。警察が捜査をしてくれる事にはなったけど、4年経っても進展が無いらしくて。証拠どころか、誰が胡桃を苦しめたのかすら全く分からない状況で……」

「……そうですか」

 

やはり関係者共が証拠を抹消している故だろうか。過去が過去だから警察が有力者に忖度して捜査に消極的な可能性も否定出来ないが。

 

「……」

 

落ち着いたとはいえ、美津子さんは暗い表情を俯かせたまま。赤く充血した瞳と頬を伝った涙の跡がおれの目線を釘付けにさせ、どうにかしてあげたいという思いが込み上げてくる。

 

(この人を助けたところで、前世の母(あの人)を裏切ってしまった後悔が消える事は無い……それでも)

 

子供の事で苦しむ母を、放っておく事は出来ない。

 

 

 

『天国のお母さんに、胸張って生きていく君の姿を見せてあげよう? 人を傷付けた分だけ……ううん、それ以上に沢山の人を助けてあげるの。その姿を見れば、きっとお母さんも安心してくれる筈だよ?』

『できるかな? 取り返しの付かない事ばかりしてきた、おれに……』

『できる。だって君は――私たち(・・・)の息子だから』

 

 

 

前世の母を看取った後、今生の母(星野アイ)との遣り取りが脳裏に過ぎる。

 

(……分かってるよ母さん。きっとこれも贖罪の一つなんだ)

 

何の因果か、おれは秀知院の人達と一緒にKakabelを調査している真っ最中。そして胡桃さんもKakabelの一員。当然、早坂さん達は彼女が受けた搾取の実態も調べ上げるつもりの筈だ。

 

「美津子さん、実は僕――」

 

事情を説明しようとしたところで、ガラッという扉のスライド音に遮られる。

 

渚さんではない。他の医師や看護師でもない。おれ達は目を見開く。

 

「失礼しますわ胡桃さ――え?」

 

葵さんを先頭にゾロゾロと入室する美女の集団――なんとここでKakabelの7名と再び相まみえる形に。

 

「Kakabelの皆さんじゃないですか」

「え、Kakabel? このお姉さん達が? マーくん達知り合いだったん?」

「う、うん。先週の夜に、道端で偶然ね。知り合いって程交流出来た訳じゃないけど……」

 

みなみだけは居合わせてなかったので、Kakabelとは初対面となる。おれは彼女に事情を説明した。その間、葵さん達は困惑しっぱなしだ。偶々出会っただけの子供達が仲間の眠る病室で寛いでいるのだから、その反応も仕方ないだろう。

 

「貴方達はあの時の……どうして胡桃さんの病室にいらっしゃるのです?」

「美津子さん、この状況は一体……?」

「あら、みんな今日も来てくれたのね? 胡桃も喜んでくれるわ。さぁさぁ、座って? メロンを切ったから是非食べてって頂戴?」

「は、はぁ……」

「わ、分かったぜ?」

 

増やされた椅子で少し窮屈になりながらも、上手く整列させる事でなんとかスペースを確保する。みんなで協力して設営していく中、夕日さんと詩織さんがパイセンの存在に気付き、眉を顰めた。

 

「……おや、これはこれは」

「貴女も居たんですのね?」

 

「う」

 

明らかに冷たい目とトゲのある言葉が、パイセンの表情を強張らせる。2人に続いて残る5人もパイセンを視界に捉え、みるみる不機嫌そうな表情になる。

 

(ひぃ……やっぱ滅茶苦茶怒ってらっしゃる……)

 

失言した当時のパイセンはおれの踵落としで気絶していた為、彼女自身からの謝罪はまだされていない。Kakabelが態度を硬化させているのも当たり前である。

 

「か、Kakabelの皆さん……!」

 

でもパイセンは根は良い子だ。おれ達はよーく知ってる。

 

「この間は無神経な発言をして皆さんを傷付けてしまい――誠に申し訳ありませんでした……!」

『ッ!』

 

機会されあれば、ちゃんと謝る事が出来る子だって。誠心誠意頭を下げるパイセンに、Kakabelは少し意外そうな表情を浮かべる。そこへすかさずお兄ちゃんとお姉ちゃん、黒川さんも援護射撃。

 

「俺達からも改めて一緒に謝罪させて下さい。申し訳ありませんでした」

「この通り、先輩はきちんと反省しています。お願いします、どうか許してあげて頂けませんか!?」

「私からも、お願いします!」

「……おれ達でしっかりお灸を据えておきましたので、もう一度だけチャンスをお願い出来ませんか?」

 

無論、おれもパイセンが許されるよう手助けに入る。

 

『……』

 

暫く沈黙したままだった葵さん達だったが、やがて溜息を吐き――。

 

「分かりました。どうやら本心から反省の弁を述べていらっしゃるようですし、今回ばかりは許して差し上げましょう」

「良いか赤髪の嬢ちゃん? 次はねえからな?」

 

雅さんにギロリと睨み付けられたパイセンはビクッと震える。

 

「は、はい。本当に申し訳御座いませんでした……」

 

もう一度頭を下げたところで、パイセンの謝罪は無事終了となった。 

 

「なぁなぁ有馬さん? これって一体どういう状況なん?」

「葵ちゃん達がそんなに怒るなんて……何があったの?」

 

当然ながら事情を知らない美津子さんとみなみは首を傾げている。

 

「え、えーと、その……」

 

……どうやら説明しなくちゃいけない雰囲気だね。美津子さんは多分そこまで怒ったりはしないだろうけど。

 

「そうでしたわね。美津子さんはその場に居合わせてなかった訳ですし」

「では……有馬かな さん? でしたっけ?」

「美津子さんへのご説明、宜しくお願い致しますわ」

 

「え゛え゛ッ!?」

 

パイセンが驚愕の声を上げてKakabelを見る。

 

『…………』

 

しかし、返ってきたのは無言の威圧×7。パイセンの顔がみるみる青くなっていき、赤と青のコントラストで彼女の存在感はマシマシだ。

 

(あかねちゃん、あかねちゃん! 葵さん達、真顔で先輩を見詰め続けてるんだけど! 怖いよぉ……)

(そ、そうだねルビーちゃん……でも元はと言えばかなちゃんの失言が原因なんだし、仕方ないと思う……)

 

『…………………』

 

((いや怖過ぎぃッ!!))

 

あーあ。謝罪は受けいれたけど完全には許してないパターンじゃないか、これは。まあそれだけ胡桃さんへの仲間愛が深いという意味なんだろうけど。

 

「……はい、全部話します」

 

がんばパイセン。身から出た錆は自分で拭き取ろうね? それがケジメってものなんだからさ。

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