【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
パイセンが暗い顔のまま美津子さんやみなみに説明している側で、お兄ちゃんが葵さん達に事の経緯を伝える。百合花さんが納得した様子で頷き、おれ達にペコリと頭を下げた。
「美津子さんを助けて下さって、本当にありがとうございます」
「いえ、そこまで大した事はしてませんよ?」
「それでもです。愛する仲間のご家族を悪い殿方から救って下さったのですから。お礼くらいは言わせて下さいませ?」
一方のパイセンはと言うと……
「あらあら、そういう事だったのね」
「……はい」
愛娘が自殺未遂した話題をKakabelに挙げた。場合によっては怒る親もいるだろうが、事情を聞いた美津子さんにその気はない様子。逆に穏やかそうな笑みでパイセンを諭した。
「葵ちゃん達は胡桃と凄く仲良しだからね。怒るのも無理はないわ。有馬さん、そういうのは思っても口には出さないものよ?」
「うぅ……はい、反省しています。以後、このような事がないように十二分に気を付けます……」
……大勢の前で一般常識の不備を指摘されるのってさ、なまじ怒鳴られるよりも遥かにキツくない? 聞いてるこっちまで気不味くなってくるし。パイセンったら、すっかり萎れちゃってる。
「確かになぁ、長く芸能活動しとるなら礼儀は学んどかなきゃあきまへんで、有馬さん? 悪印象を持たれたら、自分の仕事にダメな影響が出ますさかい」
「ゴフッ……はい……」
おおぅ。みなみ、追撃とは容赦ないですね……。仕事を減らされていったパイセンにそれは効果抜群だって。
「美津子さん、本当に宜しいんですの?」
「えぇ、散々みんなに揉まれた感じみたいだからね。もう十分でしょう。葵ちゃん達も、この件はこれで終わりって事で、良いわね?」
「……むぅ、分かりました。美津子さんがそう仰るのであれば」
「まぁ流石にいつまでも引っ張り続けるのもアレですものね」
「えーと……有馬かなさん? さっきは睨んだりしてその、悪かったな?」
「……いえ、大元は私の無神経さが原因はなんです。すみませんでした……」
そして本当に、本当の意味でKakabelの皆様からの怒りが完全に霧散する。これ以上はやり過ぎだと判断したのだろう。漸く彼女達のパイセンに対する態度が軟化してくれた。
「ところで……」
葵さんが受け取ったメロンを飲み込んでから、一番奥の椅子で腰を下ろしているおれに視線を向ける。
「「じーーーー」」
「……」
実は最前列の椅子に並んで座っている神宮寺姉妹から注目されっぱなしなんだけどね、割と最初から。
「麻奈さん、夏海さん。ずっと人の顔を見続けるのは失礼ですわよ?」
「あ、はい百合花お姉様」
「失礼致しました」
百合花さんに注意されて此方から視線を外す麻奈さんと夏海さん。とはいえ百合花さん自身も気になるようで、彼女は人差し指を顎に当てながらキョトン顔。
「星野マリア……さんと呼んだ方が宜しいでしょうか?」
「その“さん”には女性としての意味が含まれてるんですよね? こんな成りしてますけど、僕は歴とした男なんで」
「じゃあ何で女子の制服ナチュラルに着込んでんだよ? 違和感ゼロ過ぎじゃね百合花?」
「ですね、雅さん。殿方としての要素がまるで見当たりませんわ。何処にでも居る立派なJC?ですわね」
「JKです。女子中学生じゃありません。いや女子高生でもないんですけど……」
おれは決して本物の女子になる事を目指してる訳じゃない。周囲から女の子のように可愛いと思われたくはあるが、性自認が男から女に変わる事は今後もないと断言しとく。
「……」
「マーくん、ウチをジッと見てどうかしたん?」
「んーん、何でもないよ。ごめん」
「???」
じゃなきゃ、みなみと付き合うなんて選択肢は存在しない。百合? 流石に同性同士の絡みには興味無いので。
そこへお姉ちゃんがウッキウキでおれと肩を触れ合い、自慢を始める。……ちょっと、誰ですか美人姉妹と呟いたのは?
「えへへ~、どうですかKakabelの皆さん!? ウチの妹………弟のプリティっぷりは!」
「お姉ちゃんったら認識バグってない、また?」
「最近は仕事とは無縁で女装しまくってた影響なのか、訂正に掛かる時間が伸びてる気がするよな」
「だって女の子の恰好楽しいし……というかお兄ちゃんこそ大丈夫? おれを男だってちゃんと認識出来てるよね?」
おれは男、おれは男。クイクイと自分を指差しながら少し焦って言うと、お兄ちゃんは優しげに笑って頭に手を置いた。
「大丈夫だって。ちゃんと分かってるから安心しろ」
……お兄ちゃんの手、大きくてあったかいんだよね。母さんやお姉ちゃんに撫でられるのも大好きだけど、この大きい手が不思議と安心感を覚えさせてくれてさ。自然と笑みが溢れて、このまま身を任せたいって思いそうになる。
これもお兄ちゃんの前世が医者だった影響なのだろうか。患者を……というか他人を安心させるのが得意というか。不治の病で毎日が不安と苦悩の日々だったお姉ちゃんにとって、お兄ちゃんの存在がどれだけ救いになったのか、ちょっと分かった気がする。
「……お兄ちゃん」
ただ一つだけ物申したい事があるんだけど――何故目を逸らす?
「人に物を言う時はしっかり相手の顔を見ようね?」
「……」
「頼むからもう少し自信持ってくれ……」
この調子だと女装時はおれが男なの完全に忘れてしまいそうだなぁ、ウチの兄姉。クラス中心に周囲の人間も似たような反応を返してくるし。
でも母さんだけはちゃんと男って認識してくれている。やっぱ母さんは凄いや。
その後、残ったメロンを突きながら、話題は胡桃さんの内容へ移っていく。入室した時から静かに眠り続ける彼女だが、心なしか口角が少し上がっているように見えた。意識は無くとも賑やかになった事を身体は感じているのかもしれない。
「――この子の歌は神様でも宿っているかのようで、休暇の時やパーティーの時は必ず歌って下さったんです」
「胡桃さんが歌ったのって、やっぱり『星の願い』とかKakabelの持ち歌ですか?」
『星の願い』はKakabelが世に売り出してきた数多ある曲の一つで、売り上げNo.1の代表曲だ。お姉ちゃんが尋ねると、葵さんはゆっくりと頷いた。
「私達の曲もですけど、他にもいっぱい歌いましたわね。例えば――そう、B小町の『STAR☆T☆RAIN』や『サインはB』とか。胡桃さん、B小町のアイさんが推しの子だと自慢気に申しておりましたから」
「え、胡桃さんも!? 実は私もアイさんの大ファンなんです! まさか私の推しの一人が同志だったなんて、感激ッ!」
無邪気に明るく振る舞うお姉ちゃんは見てて微笑ましい。Kakabelも美津子さんも穏やかな表情で耳を傾けていた。
でもベッドで眠り続ける胡桃さんを視界に入れた途端、お姉ちゃんは声がトーンダウンする。
「……早く元気になって欲しいです。私、胡桃さんと一緒にB小町やアイさんについても沢山語り合いたくなったので」
「……えぇ、絶対に目を覚まして下さいます。胡桃さんは仲間想いの優しい子ですから」
一度は持ち直した病室の空気が再び暗い方向へと傾いていくが、元より昏睡状態の患者の前で明るく振る舞えという方が難しい。
胡桃さんは高所からの飛び降りで地面に全身を叩き付けられた。発見時の彼女は血だらけで、手足があらぬ方向に曲がっている悲惨な状態だったそうだ。唯一頭部だけは無傷だった事が不幸中の幸いと言うべきか。それでも骨折や大量出血による脳と内臓へのダメージが深刻で、医者からは目覚める可能性は低いとの事。
このまま事実上の植物人間かもしれない。医師からは生命維持装置を外す事も勧められている程なのだから、回復の見込みは著しく低いのだろう。だからって愛する娘を、愛する仲間を、諦めるなんて出来る訳がない。
「みんなには本当に感謝しかないわ。医療費を全額負担してくれて。私だけだったら胡桃を生かす為のお金を工面できなかったから」
杠葉家は一般家庭。特別貧乏という訳でもないが、4年間も高額の医療費を払えるだけの金銭的余裕は無い。だが名家や大企業の娘である7人は別。優秀な彼女等は若くして関連企業の役職に就いている者も多く、加えてアイドル時代に相当稼いだため個人的な資産も豊富だ。それが7人分もあるのだから、胡桃さんを死なせる選択肢を取らずに済んでいた。
「何を仰いますか美津子さん。仲間の為ですもの、当然ではありませんか」
「そうっすよ。大体医者共め、『もう楽にさせた方が良い』とか勝手な事言いやがってさ。あともう少しすれば胡桃の奴が起きるかもしれないのによ……」
雅さんは拳が壊れんばかりに握り締め、この場に居ない医師や看護師への怒りに震えていた。そんな彼女の拳に美津子さんがそっと手を重ねる。
「えぇ、私だって同じ思いよ雅さん。また起きて、また歌を聞かせて欲しい……世界でたった一人の娘を、失いたくない」
「美津子さん……」
目尻に涙を浮かべる美津子さんに、おれ達も……特に三つ子は何とも言えない気持ちになる。この人達は、昏睡状態の母さんの覚醒を待っていた時のおれ達そのものだ。全く生きた心地がしなくて、絶望に苛まれて……でも僅かな希望を胸に何とか今日も生きていこうって。
「美津子さん、Kakabelの皆さん」
気が付けばおれは自然と声を上げていた。自分の声ながら不思議と透き通っていて、病室に居る全員の視線が集中する。
「おれ達も胡桃さんが戻ってくると信じます」
母さんだって奇跡的に目覚めた。だから確信をもって断言する。胡桃さんの覚醒を。
「だから目が覚めたら……胡桃さんの歌を聞かせて頂けませんか?」
美津子さんとKakabelの驚く中、お姉ちゃんが底抜けに明るい声を発する。
「あ、良いねーそれ! ナイスアイディアだよマリア! 私も胡桃さんの歌を生で聞きたい!」
「わ、私もです! 個人的に興味があるのもですけど、アイドルとして胡桃さんの歌はとても勉強になると思いましたので」
新人アイドル達がおれの提案に賛同し、他の面子も同意していく。胡桃さんの帰りを待ち望む人が大勢いる。その事実は美津子さん達にとってこの上なく嬉しい話だった。重くなりかけた空気が少しだけ緩和された気がする。
「ありがとうねぇ、そう言ってくれて。分かったわ。胡桃が起きたら貴方達にも直ぐに連絡してあげるから」
「はい、宜しくお願いします」
おれ達は美津子さんと連絡先を交換する。続けて葵さん達ともLINEや電話番号を聞こうとして……葵さんの優しい眼差しがおれの目に飛び込む。
「ふふ、貴方達は良い子ですね」
母親や姉が息子や弟を慈しむような、温かな瞳。なんだか照れ臭くなってくる。
「あはは……少し元気になられたようで本当に良かったです」
「いえ、私達を気遣って下さったのですね。感謝致します」
ピロンッ
『3人とも今どこー? ママお家に帰ってきたんだけど誰も居ないよー? 寂しいよ~(涙)』
夏の夕陽が沈み掛けるところで母さんからLINEで連絡が入る。どうやら心配させてしまうほど長居してしまったようだ。
『ごめんね母さん、友達とみんなでちょっと寄り道しちゃった。訳は帰った後に話すからもう少しだけ待ってて?』
『うん、りょうかーい。美味しい夕飯作って待ってるよー!(笑顔)』
おれは謝罪の返信をしてから、お兄ちゃん達にも呼び掛けて帰宅の準備に入る。
「じゃあそろそろお暇しますね?」
「皆さーん、胡桃さーん! また必ず会いましょう!」
「では失礼致します。お騒がせしました」
「えぇ、今日は本当にありがとう」
そうしておれ達は病室を後にし、帰路へと着いた。来た時より静寂になった廊下を歩む最中、みなみは後ろ髪を引かれるように時々振り返っていた。
「胡桃さん、次会う時は元気になっとるとええなぁ……」
「うん、そうだね。信じて待とっか」
「……うん」
やっぱり気のせいかな? 葵さん達から感じた妙な”匂い”は。きっと胡桃さんの事で苦しんでいたから、普通じゃない雰囲気を感じただけなのかも。
おれ等が病室を去った後、部屋は一瞬の静けさに包まれた。美津子さんはゆっくりと息を吐き、Kakabelのメンバーたちに視線を向けた。
「――良い子でしたわね、美津子さん」
「そうねえ葵ちゃん。みんなに負けないくらい、思い遣りに溢れた素敵な子達だったわ」
病室に残った美津子さんもKakabelも、予想外の訪問者達に対して好印象を抱いていた。失言をやらかしたパイセンですら多少の株は回復している。
しかし褒められたKakabel一同の表情は暗い。百合花さんが唇を噛み、声を震わせる。
「そんな事……私達は胡桃さんと長く学園生活を送りながら、彼女の異変に本当の意味で気付けなかったのですよ? ただただ見当違いな手助けばかりして……何が仲良し姉妹ですか」
「不甲斐ないばかりですわ」
「こんな事になるなら、胡桃に引かれてようが執拗に聞き出すべきだった……」
詩織さんが目を伏せて続き、雅さんが拳を握って悔しそうに呟いた。葵さんも夕日さんも麻奈さんも夏海さんも、似たような状態で顔色が悪い。
彼女達の声は4年前の絶望を含んでいた。あの時、胡桃さんの笑顔の裏に隠された苦しみに気づけなかった後悔が、胸を締め付ける。自殺未遂の知らせを受けた日の混乱、緊迫する集中治療室の中心でピクリとも動かない胡桃さんの姿。思い返すだけで過呼吸になりそうな記憶が、鮮やかに蘇ってくる。
美津子さんはそんな自らを責め始めるKakabelに対し、優しく首を横に振った。
「それを言い出したら、私だって母親でありながら胡桃の苦しみを察せなかったわ。私達に出来る事は、この子が目を覚ました時に温かく迎え入れてあげる事じゃないかしら?」
「美津子さん……そうですわね。私達が元気でなければ、胡桃さんがきっと不安になってしまいますものね」
「ありがとうございます美津子さん。そう言って頂けて」
美津子さんは立ち上がり、Kakabelのメンバー達一人ひとりに目を向けた。彼女の声は温かく、母のような優しさに満ち溢れていた。それだけで葵さん達の心に巣くう絶望が徐々に抜けていく。
「当たり前じゃない。みんなが胡桃の事を本当の姉妹のように想ってくれてる事をよーく知ってるもの。だから血の繋がりは無くても――私はみんなの事も娘だと思ってるから」
辛そうな顔をしている娘を放っておく母親が何処に居るのよ? 美津子さんの言葉に目尻から涙を流す子も居た。葵さんは微笑み、感謝の言葉を紡ぐ。
「そう仰って頂けて凄く嬉しいです。私達も、貴女を優しくて素敵なお母様だと思ってましたので」
「あたし等の親、選民意識の塊みてえな連中だからなあ……正直、胡桃が羨ましいぞ。美津子さんみたいな良いお母さんに恵まれてさ」
「「お母様」」
「あらあら麻奈ちゃんに夏海ちゃんったら。嬉しいわねー? よしよしー」
「「むふ~///」」
雅が照れ臭そうに頬を掻いている隣で、甘えるような声を揃えて放った神宮寺姉妹が美津子さんに抱き寄せられていた。和やかな空気が、再び病室中に充満する。
「あ、いけない。もうこんな時間か」
すると美津子さんは時計を見てパートの時間が近い事に気付いた。
「ごめんなさいね? 今日はこの後から仕事があるのよ」
「確か水曜はいつも夜勤でしたわね。本当にお疲れ様です」
「胡桃の事で貴女達だけにお金を出させるのは悪いからね。私もしっかり稼いどかないと。――みんなはまだ此処に居る?」
「はい。面会終了まで後1時間も残ってますからね。最後まで一緒に過ごそうと思います」
「分かったわ、胡桃の事をお願いね?」
「お任せ下さい」
最後に美津子さんは胡桃の額に優しく手を置き、囁くように語り掛ける。
「胡桃、貴女の家族は何時迄も待ってる。だから早く……帰ってきてね?」
ドアが静かに閉まる音が響き、病室はKakabelの8人だけの空間となった。部屋の空気がより親密で、重厚なものに変わっていく。
「……今時、マリアくん達のような優しい人がまだ居たなんて。驚きでしたわね」
「そうですわね、葵さん。……ですがあんな綺麗な子達、間違いなく悪い大人の搾取に晒されるでしょうね」
「だからこそですよ百合花さん。私達の活動は、そのような犠牲者をこの先無くしていく為でもあるのですから」
「はい、一刻も早く誰も搾取されない世界を築きませんとね」
彼女達は日滅軍の幹部としての冷徹な顔を覗かせつつも、胡桃を見下ろす眼差しは仲間としての温かな雰囲気と愛情を保っていた。
「胡桃さん」
葵が眠る胡桃に言葉を掛ける。それと同時に7人全員が椅子から立ち上がり、彼女のベットへ寄り添った。
「知ってますか? もうじき、あのJIFが始まるって。……懐かしいですわね? 6年前の初出場で最初からプラチナステージに立って、沢山のファンから声援を頂いた事を。胡桃さんが無邪気にはしゃぐ姿、よく覚えてますわ」
胡桃の左手の上に、最初は葵が右手を置く。続いて百合花、雅、夕日、詩織、麻奈、夏海……という順で手が折り重なっていく。
「……そのJIFですけど、今年は胡桃さんを傷付けた外道スポンサー達が出席するそうです。こんな話題、胡桃さんを苦しめるだけかもしれませんが、一応報告させて下さいませ?」
胡桃は一切答えない。しかし葵は構わず続ける。
「胡桃さんを地獄に落とした連中を私達は決して許しません。一人残らず始末して差し上げますから、どうか安心して下さいませ?」
8人の温もりが重なり、部屋に静かな連帯感が広がる。それに反比例して、部屋の空気が更に冷えていった。部屋中の熱と言う熱が、彼女達の重なった手に吸収されていくかのように。
「貴女が目を覚ました時、大好きな歌を心から楽しく歌えますよう、
胡桃に宣言する中、7人の脳内では松村の声が響く。奴の狂ったブログの、最後の文章が。
”――私は信じている。諸君ならば必ず成し遂げると”
寄り添うような優しい声が、彼女達に自信を与える。
”さあ時間が惜しい。早速始めよう。犠牲となった弱きを救えるのは、君達しかいない”
力強く促す声が、彼女達を切り替える。思考を蝕む。
”革命の時は来た!”
『――革命の時は来た!』
彼女達の瞳から正気が消え失せる。胡桃に対する深い愛情、そして松村の狂気的なカリスマ性が、Kakabelの妄念を更なる暴走へと突き動かす。
……だが、この時の杠葉胡桃の寝顔は、とても悲し気なものに感じられた。まるで”もうこんな恐ろしい事は止めて”と、訴えているかのようだった。
(……革命?)
一方、病室の外で気付かれないように聞き耳を立てていた田沼渚は、Kakabelの放った怪し気な単語を脳内で反芻する。夕陽が完全に沈み、病院の廊下に長い影が伸びる中、彼女の表情は次第に厳しくなっていった。
あかね「私今回は空気だったなぁ……」