【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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○マリア(当時中3)と佐竹の会話シーン(一部抜粋)

佐竹「それにしても城ヶ崎、前に会った時と雰囲気がまるで違くないか? 何と言うかこう……口調が子供っぽいというか……別人になったというか」

マリア「あぁ、やっぱそう感じる? 言っとくけど演技や猫被りをやってる訳じゃないから。ナチュラルでこうなってるの」

佐竹「え、そうなんだ? 子供の姿で大人びた振る舞いは怪しまれるから、てっきり某名探偵よろしく子供のフリをしてるとばかり」

マリア「体が子供になると心も子供になるっぽいんだよ。……あと前世の幼少期に色々あった身だからかな? 城ヶ崎賢志って子供の精神なまま肉体だけ大人になったような男だし」

佐竹「へぇ。寧ろ体が子供になった影響で、アンタの元々の精神が外に出やすくなった……といった解釈で合ってる?」

マリア「あれ、佐竹って割と理解度高めな方? 紅林は最初の段階でチンプンカンプンだったのに」

佐竹「紅林さん? あの人もアンタの正体を知ってたんだ」

マリア「戦闘のお師匠様です。お陰で全盛期の8割程度まで力を取り戻しました。パンチ力も交通事故並です」

佐竹「マジかよ……」

マリア「いやあの引かないで……! もうお腹刺したりとか酷い事しな……いや張本人が弁明したところで説得力無いよね……ごめんなさい」


103話

マリア君達が田沼病院を訪れた翌日の夜。

 

「それは本当ですの、渚さん?」

「えぇ、扉越しだったし全部聞き取れた訳じゃなかったけど、彼女達は最後一斉に革命がどうとか言ってたのは確かだわ」

 

私、白銀かぐやは、白銀スタジオを訪れた渚さんの報告に耳を傾けていた。Kakabelのセンター、杠葉胡桃がヤブ医者の病院に入院していると知った私達は、彼女に宮里葵ら7名が訪れた場合の情報収集を頼んでいたのだ。

 

側には親友の愛、そして最愛の夫である御行さんもいて、一緒に渚さんの話を聞いている。

 

(”革命”……ね)

 

昏睡状態の仲間に対して使うのに適切な単語だと、果たして言えるでしょうか? 私には、とても相応しいとは思えません。愛も訝しむ表情でテーブルに頬を付いたまま、更なる情報を求める。

 

「ねえ柏木さん、彼女達は他に何か言ってなかった? 何でも良い、教えて頂戴?」

「うーん……他に、ねぇ……」

 

下顎に人差し指を当て、目を閉じて唸るように考え込む渚さん。暫くして瞼を上げた彼女は、同時に「あ」と小声をこぼした。

 

「そういえば断片的だけど“外道スポンサー”? そんな言葉が聞こえてきたような……」

「外道スポンサー?」

 

何か良からぬ所業を犯してる人物がいるって意味かしら? それと先の革命を関連付けて……と考えているところで、思案顔の御行さんが先に予想を告げた。

 

「……胡桃さんを自殺未遂に追い込んだスポンサーが何らかのイベントに出てくる。彼女達はそこで……革命を起こす?」

 

部屋全体の空気がさぁっと冷える錯覚。愛が米神に手を当てて厳し気な表情に。

 

「……ちょっと待ってよ御行くん。私、ものすごーく嫌な予感がしたんだけど?」

「俺も自分で言っててあれだが……やっぱりみんなも同じ答えか?」

「はい、私もですわ。御行さん」

 

物騒な光景が脳内で上映される。大勢の一般客がいる中で、何らかの非合法な手段をもって仲間の仇を討ち、その余波で沢山の人が傷付き――死ぬ。歴史を振り返っても、この国で”革命”を大義名分にした者達の行動は、何時だって無実の人間を巻き込む暴力でしかなかった。

 

私は深く、深く溜息を吐く。

 

「杞憂だと思いたかったのに……。次第に不穏な気配が感じられてきましたわ」

「うん。調査をすればする程、マリア君の勘が悪い方向に当たっているとしか思えなくなっちゃう」

 

愛は開いたパソコンのキーボードを高速で打ち、画面に自らの調査記録を表示して私達に見せた。

 

「みんな、これを見て? とあるお偉いさんの接待に参加させられた女性から得た証言を元に作製したんだけど……」

 

目を覆いたくなるような悍ましい事実が羅列していた。下衆共が権力を間違って使い、自身の醜い欲望を発散させる為に設けた接待――その実態は、脅されて連れて来られた見目麗しい男女を性的に搾取するというもの。

 

そして、その接待には――当時16歳の少女だった杠葉胡桃も含まれていた。

 

「……クソ豚共が」

「か、かぐや……?」

 

おっといけない。愛する旦那様を怖がらせちゃいましたか。

 

「ごめんなさいね御行さん。この報告書に出てくる加害者達があまりにもゴミ屑過ぎたので、つい」

「……いや、俺も同意だ。弱い立場の人を無理矢理従わせてその尊厳を踏み躙るなんて……上に立つ人間の所業じゃない。腐ってやがる」

 

 

 

ピキッ

 

 

 

おや? 今の音は……? 

 

「へぇ~……ふ~ん……」

 

って、あらあら。

 

「昔の狂った考えから抜け出せない人が、まーだこんなにも残ってたんだぁ……いっそペンペン草も残さない位に潰してやろうかな?」

 

渚さんは怒りのあまり能面を浮かべ、どす黒いオーラを放っていた。流石は元秀知院学園のVIP。凄まじい威圧感ですわね。

 

「な、渚……さん?」

「ん? どうかしましたか会長?」 ニコッ

「いえ何でもないです」

 

日本経済を束ねるトップの一族なだけあって、渚さんの権力は私達OBの中でも随一。本気で怒らせた時のヤバさは私や眞妃さんの比ではない。

 

でも……

 

「驚きましたわ。渚さんがまるで自分事のようにそこまで怒るとは」

「……かぐやちゃんにはそう見える?」

「えぇ。義憤とは全く違う感じがしましたから」

 

すると渚さんが理由を教えて下さいました。

 

「……私、杠葉さん親娘の様子を近くでずっと見てきたからね。胡桃さんの担当になった事も一度や二度じゃないもの」

 

杠葉胡桃の実母――杠葉美津子がほぼ毎日病室を訪れては、目覚める兆しすらない愛娘に声を掛け続ける姿に、渚さんは胸を締め付けられるような思いだったそうです。

 

「私も母親だから、もし自分の子供が胡桃さんみたいになったらって思うと……。どうしてあんな若い女の子が自殺未遂なんかして、そのお母さんが苦しみ続けなければならないのかって、疑問を抱いてた。あの親娘は何も悪い事なんかしてないのに……その原因が”これ”だったなんて……こんな事だったらもっと早く、私自ら調べてみるべきだった」

 

瞳に煮え滾るような憤怒の炎を宿らせながら、自身の行動が遅れた事を後悔する。テーブルの上で組んだ手をより強く握り締める。衝動のままに経団連理事である自らのお爺様の協力を仰ぎ、圧倒的な力で穢れた豚共を捻じ伏そうとせんばかりだ。とはいえ私としても盛大にお願いしますと言いたい気持ちですが。

 

……それにしても。

 

(御前……あの男の遺した爪痕が消えるのはまだまだ時間が掛かりそうね)

 

旧時代――御前が日本を牛耳っていた10数年前までの価値観は、正しく獣の論理――弱肉強食。あの頃は警察や司法があまり機能しなかった為、強者が弱者を食い物にする事が力づくで罷り通っていた。その影響か当時の権力者には狂った趣味趣向を持つ連中も存在しており、その大半が市民を犠牲にする形で自身の欲求を満たし続けるという、酷い有様だったらしい。

 

御前が死んで10年以上が経った現在、そんな価値観は(少なくとも昔と比べて)大きく否定されている。しかし、それでも未だ古い時代感覚から抜け出せず、馬鹿な真似をはたらく連中も多い。少女達の内臓を自身の娯楽代に変えた風見組長然り、今回の性的接待然り。

 

「腸が煮えくり返るのは私だって同じだよ。他人を喰らう事にしか能が無い奴等なんて、トコトン苦しんでくたばれって思いたくなる。――でもね、今回私がみんなに伝えたいのはそこじゃないんだよ」

「どういう事です、愛?」

「私に協力してくれたその女性、実は前にも別の人間に同じ内容を証言した事があるんだってさ」

「別の人間?」

 

私達以外に杠葉胡桃やKakabelについて調査している人間がいたと? そういう意味を含めて質問したところ、愛はゆっくりと頷いて衝撃の事実を告白した。

 

「アイドルKakabelのメンバー、榎並詩織だよ」

「「「!」」」

 

私達3人が衝撃を受ける中、愛は詳述する。

 

「堂々と名乗ったそうだよ? 自分はKakabelの榎並詩織だって。外見についてもグリーンのロングヘアに眼鏡を掛けた知的美女。明らかにアイドルの”エナ”本人で間違いないってさ」

「……彼女には一体どんな情報を与えたと?」

「杠葉胡桃に夜のお供をさせた連中について話したみたい。岬川新聞社長、大手アイドル事務所『Fresh』の代表取締役、大手化粧品メーカー『ビューティフル』の女性専務――あとは星羅女学院、芸能科主任の谷山卓」

「星羅女学院!? それって杠葉胡桃さんの母校ですよね!?」

「信じられん。自分の教え子を一緒になって傷付けるとは……教師の風上にも置けない奴だ」

 

御行さんが不機嫌そうにそう言うと、愛は「その通りだよ」と答える。

 

「この谷山って男が特に救いようのない外道なんだ。情報提供者の女性が有力者に犯されている時、偶々隣のベットで谷山が胡桃さんを襲おうとしてたんだけど……」

 

 

 

 

 

『い、嫌です……! どうして先生まで私にこんな事を……!?』

『スポンサーの方々から私にも参加せよと言われてね。……なんだ、皆様の御意向を拒否するのか? 仲間達と二度と一緒にアイドルをやれなくなるぞ?』

『ッ! う、ぐ……』

『よしよし、それで良いんだ。逆らったところで不幸になるのはお前とKakabelだけなんだからな? なあに心配ない。ただ何も考えずに足開いておけば大丈夫だ』

 

 

 

『……』

『くはぁ~! やはりアイドルをやるような女は良い体してやがる! 特にコイツは今までの中で最高に上等だッ!』

『………』

 

 

 

 

 

「……最後辺りは胡桃さん、ずっと目が死んだまま犯されっぱなしだったそうだよ?」

「ケダモノが……」

「彼女達の絆を利用して脅したのか。最低な奴だ」

 

言動からして谷山は前科持ち。これまでも胡桃さんと同じアイドルの子達を大勢絶望させてきたと見て間違いない。反吐が出る。

 

「早坂さん」

「ひ」

 

しかし怒りのボルテージは渚さんの方がずっと上だ。無感情な声に愛はビクッと震え、隣に座る彼女を恐る恐る見る。

 

「な、何……柏木さん?」

「その谷山とか言う生ゴミは今何処に? 取り敢えず見付けてOHANASHIと洒落こもうかなって」

 

……これは殆ど本気で言ってますわね。彼女の怒気は凍らせた雑巾でソッと首筋を拭われるような、底冷えするようなもの。愛も御行さんも顔が真っ青になる。

 

「……ごめん、その男は半年くらい前にスキャンダルが発覚してね、それ以来消息を絶ってるみたいなんだ」

「……高跳び?」

「可能性は高いと思う。ほとぼりが冷めるまで海外で過ごすって、いつもより多めの資金を実家に要求してたらしいし」

「……仕方ありませんね。その男には二度と日本の土を踏ませないようにしときましょう」

 

こうして外道教師の谷山は、日本からの永久追放が確定しました。渚さんとしては直接潰したかったようですが、まあ他国は未だ地獄のような治安状況ですし、きっと奴は長生き出来ないでしょうね。

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

「それで榎並詩織の件だけど……」

 

話は早坂と同様に調査を行なっていたアイドルの件に戻る。

 

「彼女が知ってるなら、当然他のメンバーも知っている筈。胡桃さんを苦しめた犯人達の詳細を」

「あとは彼女達が悪事を働こうとしてると仮定して……問題は何処で何をするつもりなのか」

「ならばまずは榎並詩織さんの動向を洗い出しましょう。彼女の軌跡を遡る事で、Kakabelの目的が具体的に見えてくるかもしれませんわ」

「じゃあ石上にも協力を要請しよう。電子上からもアプローチをかけるなら、彼奴ほどの適任はいない」

「お願いしますわ、御行さん」

 

まだ私達は、Kakabelが問題行動を起こしているという確証を得られた訳ではありません。現状ではまだまだ証拠不足。引き続き情報を集めていく必要があります。

 

「それで、あともう一つ……」

 

そこへ渚さんが挙手をして口を開く。

 

「マリア君に本件の事は?」

「勿論黙ったまま……と言う訳には参りません。無論、伝えるつもりですわ」

 

本件はマリア君の懸念通りの危険性を秘めている。ただの子供をそれに巻き込むような事は、責任ある大人としてしたくない……そう、本来であれば。

 

「あの子は私達を信頼して頼ってきた。それを無下にするような行為は、あの子に対する裏切りでしかありません」

 

それに。

 

「ちゃんと不安は取り除いてあげませんとね」

 

思い返す。去年の今頃に白銀スタジオで、私と御行さん、そしてマリア君の3人で仕事後のティータイムを楽しんでいた時の事。

 

 

 

 

『――とまあ、俺とかぐやはどちらが先に告白するかで、ほぼ毎日頭脳戦を繰り広げてたって訳だ』

 

その際、私達はマリア君に学生時代の思い出を語った。それを聞いた彼は疑問符を浮かべていたけど。

 

『……それ、回りくどくないですか?』

 

彼は私と御行さんの恋愛頭脳戦をそう評した。

 

『先に告白した方が負け? 実際はお二人とも両想いだったんですよね? ならどちらが先に告白しようと両者とも勝ちで、敗者なんて存在しないと思うんですけど』

 

まあその通りではあります。恋愛における勝利とは、相手と恋人に至れる事。どちらも告白された場合にOKと返すつもりならば、告白した側の負けなど最初から有り得ない。

 

そもそも相手から先に告白させる為に思考を巡らせていた事を、互いに察し合っていた私達。その時点で両想いなのは分かりきってた事なんですから。

 

……そのマリア君が言うような回りくどいやり方は、私達の自己評価の低さに起因している。

 

『俺は幼少の頃に色々あったからな。こう見えて、結構卑屈な性格でね。“自分はこの人に相応しくない”。そんな考えがあって……でもやっぱりかぐやの事は諦めきれなくて、拗れに拗れた結果……』

『如何にして相手から先に告白させようか策を巡らす恋愛頭脳戦が始まった……という事ですか?』

『そうだ』

 

御行さんは母に見捨てられた経験から、自分は優秀でなければ誰からも相手にされないという思考に支配されていた。私は四宮家の冷血な教育により、結果として沢山の人を傷付けた。

 

こんな自分を、誰も好きになってなんかくれない。自分から告白して、それでもし断られたらどうしよう……相手が自分を本気で想ってくれてるって分かっていながらも、拒絶される恐怖から勇気を踏み出せないでいたのが私達だ。

 

『それはない』

 

過去を思い出してネガティブになりかけていた私達は、純粋で力強い声にハッとなる。

 

『マリア君……?』

『かぐやさん達の何処が立派じゃないと言えるんです? 少なくともおれには、そうは見えません』

 

気が付けば、私達はマリア君に釘付けになっていました。耳を傾けずにはいられませんでした。そのような不思議な魅力を、この時の彼は放っていたのです。

 

『学生時代のお話を聞いただけでも、2人は誰かの為に一生懸命で、苦しむ人の心に寄り添える優しい人だって印象を抱きました。子供を平気で食い物にする出来損ない共とは全然違う。貴方達こそ尊敬と信頼に値する、本物の“大人”なんです』

 

決してお別科ではありません。その瞳は真っ直ぐで、中に宿る綺羅星は白く輝いていて。

 

……でも、まるで悪い大人に散々傷付けられてきた子供のような寂しさも瞳の奥から感じられて。彼の親御さんには申し訳ないですけど、虐待やイジメを邪推してしまいました。

 

『かぐやさんと御行さんも、相手の事を立派な人だと思ってるんですよね? ならそれで良いじゃないですか。よく考えて下さい。大好きな人から、尊敬されているんですよ?』

 

私達は顔を見合わせます。御行さんが最初に頷き、続いて私が。自然の頬が緩んでくる。

 

『ありがとなマリア君。おかげで少し自信が湧いてきたかもしれない』

『おれは事実を申したまでです。2人みたいな大人ばかりなら、世の中どれだけ平和だった事か』

『うふふ、そこまで称賛されるとちょっぴり照れ臭いですわね』

 

でも嬉しかった。彼なりに元気付けてくれたんでしょうね。

 

 

 

 

 

「――あの子は可愛い弟みたいな存在ですもの」

「あぁ」

 

それを聞いた愛と渚さんも笑みを浮かべる。

 

「2人もそう思ってたんだね? 実は私もだよ」

「健気で良い子だもんね、マリア君って。なんだか放っておけない感じがするし」

「そうそう、守ってあげたいって思いたくなるんだよねー」

 

マリア君と出会ってまだ2年も経ってない。

 

「ではそろそろお開きにしましょう。皆さん、お忙しいところ引き続きお願い致します」

「うん。マリア君の為にも頑張ってこう」

 

でもその短い時間で、すっかりあの子は私達秀知院OBの癒し枠になっていた。




Kakabelの誤算その2:胡桃の搬送先の病院に、マリアの協力者がいた事。
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