【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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104話

私の名前は宮里葵。トップアイドル、Kakabelのメンバーだった女だ。

 

「お疲れ様ですアオさん。既に皆さんは司令室でお待ちしております」

「えぇ、今向かいますわね」

 

現在、私は日滅軍の次なる作戦の最終ブリーフィングに参加する為、兵士の方の案内で拠点の地下にある廊下を進んでいる。

 

兄様が買い取った、元は打ち捨てられた東京郊外の廃倉庫。新品ながらも普通の倉庫らしい外見に変えられてるけど、無論それは目撃者がいても怪しまれないようにする為のカモフラージュ。内部は自衛隊基地にも似た構造へ改装され、地上には居住区や司令部、地下には弾薬庫や武器製造室が設けられている。

 

「ありがとうございます。ここからは私だけで十分ですので」

「はっ、了解しました! 失礼致します」

 

拠点の奥深くにある、一際重厚な大扉。私は敬礼して去っていく兵士を見送った後、その扉に力を込めて押し開いていく。

 

「――失礼します。宮里葵、遅ればせながら只今参上致しました」

 

司令室には日滅軍の首脳部が勢揃いしていた。

 

「やあ葵、よく来てくれたね? 丁度君の到着で最後だ」

「「葵お姉様」」

「よしよし――大分待たせてしまってようで?」

「いいや、会議はこれからさ」

 

駆け寄ってきた麻奈さんと夏海さんの頭を優しく撫でながら、司令室中央の大型テーブルへ移動する。

 

軍団長にして私の実兄である宮里薫。参謀を務める日滅軍のNo.2、日野崎新太。そして私と同じ元トップアイドルで、現在は幹部として各部隊長の座に就く最愛の仲間達――百合花さん、雅さん、夕日さん、詩織さん、麻奈さん、夏海さん。

 

この9名が総勢210名の兵士を率いるトップ層であり、結成時の初期メンバーだ。一般兵と私達トップ層を合わせて、総兵力219名。初代が僅か30名だった事を踏まえると、松村さんから始まった思想は途轍もない規模に膨れ上がったものである。

 

「諸君、いよいよ明日からJIFが開催される」

 

ブリーフィング開始の号令が兄様の口から発せられる。初代日滅軍トップ、松村さんの話し方を意図的に真似ている為なのか、声の強弱がちょっと不自然。

 

「第1目標は、杠葉くんに非道な搾取をはたらいた3人の非国民を含む、81人のスポンサー。殆どが他国に対する積極的な経済侵略を実行中の、自称グローバル企業のトップや重役達だ。奴等を殺す事で、この国の過ちを事前に阻止する」

 

……正直言って、私達Kakabelは兄様の言う経済侵略者の粛清には大して興味は無い。

 

ただ詩織さんの情報では、残る78人のスポンサーの半数近くが似たような悪行を女性や子供に対して行なっているそう。放っておけば何時胡桃さんに牙を向くか分かったものではない。ここで不穏分子は永久に排除しておきませんと。

 

「そして第2目標は――JIFに参加する全てのアイドルと観客達。なるべく多くを犠牲にする事で、作戦完了後の声明はより強いインパクトとなって日本中を駆け巡るだろう。彼等には申し訳ないが、これも搾取文化を終焉へ導く為だ」

 

搾取文化の終焉。それを聞いた私達7人は相好を崩す。そう、それこそが私達が何よりも優先すべき真の目的。

 

JIFの参加者は、北九州で開催されたアイドルフェスの比ではない。成功すれば、きっと誰もが搾取問題へ本格的に取り組むようになり、そして誰もが不安を抱く事なく夢を追い掛けられる芸能界が完成するでしょう。

 

「――既に諜報隊・戦闘隊・補給隊から選抜した兵士61名がスタッフや警備員として正式に採用され、JIF開催の4時間前から会場入りする予定です」

「時限装置および爆発物の搬入は開催後、観客がステージに意識を向けているタイミングでトラックを使い実行します。こちらは科学隊12名が担当します」

 

詩織さんと夕日さんの報告が司令室に響き、作戦の成功率上昇を私達に確信させる。

 

「危機管理の甘さに反吐が出るな、龍珠組。天羽組や京極組、獅子王組とかだったらこんなヘマはしねえのによ。城ヶ崎の野郎だったら、即責任者の脳天に風穴開けてるところだぜ。所詮は図体と権力のデカさだけが取り柄の組織か」

 

日野崎さんはニヤリと笑い、龍珠組を見下す。龍珠組はフロント企業を通じてネット上で臨時警備員の募集を掛けていた。私達は兵士をその募集に参加させる事で、堂々と正面から侵入させるのだ。

 

「ですが、お陰で部隊を浸透させる事に成功しました。ある意味彼等も私達の革命を援護してくれた者達です」

 

詩織さん率いる諜報隊を中心に進められた、JIFスタッフ及び警備員への工作員派遣は順調。龍珠組も誰も想像してないでしょうね。敵が味方に化けて、最初から懐に入り込んでいるなんて。

 

「夕日くん。会場の構造は頭に叩き込んでるな?」

「はい団長。その中で爆発の効果が最大になる箇所を突き止めました。其処に搬入担当の科学兵に爆弾を設置させます」

 

夕日さんがテーブルに広げた図面に、私達は息を呑み、圧倒されかけた。今回のJIF会場となる超巨大建造物――『東京グレートアリーナ』の見取り図だ。

 

縦400m、横210m、高さ56m。東京ドーム換算で約2個分。日本でも有数の広大さを誇り、まるで大迷宮の如く複雑な内部構造をしている。

 

「……何度か訪れた事は御座いますけど、やはり覚えにくい作りをしてますわねぇ」

「全くですわ。絶対に目的地に辿り着かせないぞと言わんばかりで」

 

プラチナ・ゴールドステージとして使われ、収容人数1万人以上に達する劇場が2箇所。シルバー・コッパーステージとして使われ、収容人数6000人以上の劇場が4箇所。通常なら1つしか無い大型のコンサート劇場を、合計6箇所も建物内に内包しているのだから、この建造物が呆れるほど巨大なのがよく分かる。

 

そして一番階級の低いブロンズステージ4つに関しては、広々とした屋上の4隅に特設ステージとして置かれる予定だ。

 

予想される集客数は凡そ5万人。ここにアイドル及びスタッフ、警備員等の関係者を含めると、合計で5万2000人以上もの人々がこの建物に集結する事になる。

 

(……ここにあの子達も来るのでしょうか?)

 

私の脳裏に、星野ルビーさん、有馬かなさんの姿が過ぎった。2代目として伝説のB小町を復活させようとしている彼女達も、あの革命の場でライブを披露するつもりなのだろうか。

 

しかし、

 

(そんな訳ないでしょうね。JIFに新人アイドルは招待されないのですし)

 

彼女達が巻き込まれずに済むかもしれないと思うと、不思議と安心してしまう……何故でしょう? 胡桃さんを大事に想ってくれたあの子達が、被害に遭って欲しくないから?

 

……おっと。今は作戦会議に集中しませんと。

 

「爆弾はアリーナの地下駐車場――特に全く使用されていないエリアの支柱に仕掛けます。起爆時間は日野崎さんの指示通り、ライブ開始から2時間後丁度で設定します」

「龍珠組が動いてるからなぁ。あまり長く時間は掛けられねえ。さっさと目的を果たして、さっさとトンずらだ」

 

日野崎さんの言う通り、いくら危機管理能力に疑問符が付くとはいえ、龍珠組は超武闘派組織。事が露見すれば最精鋭の”龍の蹄”が駆け付けてくるのは間違いない。そうなれば私や百合花さん、雅さんで相手しつつも撤退せざるを得なくなる。本作戦は時間との勝負でもある。

 

「しかし支柱を破壊するとは考えたな、日野崎?」

「地下の支柱を爆破すれば、これ程巨大な建物は自重に耐え切れず崩壊する。これなら少ない爆弾でも確実に目標を達成できるだろうぜ?」

 

兄様に褒められて気を良くする日野崎さん。流石は爆発物を頻繁に取り扱う組織に属してただけあって、効率的だが恐ろしい手法を思い付くものである。

 

建物が崩壊すれば、当然上階にいる人々も巻き添えだ。果たしてどれだけの人間が死ぬだろうか――1万人? 2万人? いやもっとかな? 死ぬ人が多ければ多いほど、世間は搾取問題へより真剣に取り組んでくれる筈だ。

 

「この方法も、かつて君が所属していた組織のボスが?」

「あぁ、操神って男の受け売りだ。まったく彼奴には感謝しかねえよ」

 

そう言って日野崎さんは持っていた煙草を吹かす。……あの、申し訳ありませんが喫煙所でお願い出来ます? 麻奈さんと夏海さんが物凄く嫌そうな顔してるのですけど?

 

「「……」」

「はいはい、こっちに来ましょうね2人共?」

「「臭いの嫌い」」プイ

「おっと? こりゃあ失礼」

 

ほら、こんな可愛い女の子に距離を置かれちゃいましたよ?

 

その後は細かい点を詰めていき、ブリーフィングも終盤になった頃。兄様が首脳陣全員へ向けて締めの挨拶を行う。

 

「――みんな。分かっていると思うが、我々は決して市民の命を無駄にしてはいけない。初代日滅軍はその姿勢を怠ってしまった。その結果失敗したと思われる」

 

初代が何故革命を果たせずに滅びたのか。兄様は日滅軍を結成するにあたって、過去の情報から問題点を複数洗い出していた。

 

単純な規模の小ささと、それ故に専門毎の部隊分けが出来ておらず、指揮統制が貧弱だった事。更には技術不足、資金不足……色々挙げられる中で兄様が語ったのは、犠牲者に対する認識そのもの。

 

初代トップの松村さんは、革命の過程で発生した同胞や市民の被害を当然のものと考え、軽視していたと考えられる。

 

それは良くない。犠牲を出す以上は、その被害者の皆様への敬意を忘れてはならない。それをしたら最後、私達はただの暴力集団に成り下がってしまう。初代の理念を大事にしつつも、過ちや問題点まで真似をする事はあってはならない。

 

「犠牲となった者達が必ず報われる。その心構えを常に胸へ抱きながら、この革命を成功させていこう!」

 

『はいッ!!』

 

Kakabel一同、兄様の宣言に力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――兄様」

 

ブリーフィングが終了して皆様が解散した後も、私と兄様だけは司令室に残っていました。

 

「ありがとうございます」

「急にお礼なんてどうしたんだい、葵?」

 

だって……兄様だけだったんですもの。感謝しかありませんわ。

 

「私達の親族は、誰もが胡桃さんが庶民だからと言う理由で助けて下さらなかった。兄様だけですわ、私達に唯一手を差し伸べて下さったのは」

「なんだ、そんな事か。別に僕は他の親族達のような選民思想が無かったからね。松村さんのブログを読んでからは、一層下らないと考えるようになったし」

 

日滅軍の思想は共産主義。誰もが身分は平等である。素晴らしい考えだと思う。

 

……でも、どれだけ平等を謳っても建前以上の理想には至らず。結局人間は差別が横行する世の中から脱却できないでいた。みんなが平等という考えになれば、胡桃さんは搾取されずに済んだかもしれないのに……

 

悲しそうな顔になる私の肩に、兄様がソッと手を置く。

 

「僕は確かに松村さんの意思を継いで革命に動き出した。……でも、同時に君達や杠葉くんが受けた苦しみをどうにかしたいとも思ってる。これは紛れもなく本心だ」

「……兄様」

 

嬉しかった。やはり私にとって、本当の意味で血の繋がった家族は兄様しかいない。お母様は私が小さい頃に病気で亡くなったし、お父様は胡桃さんを見下して助けなかったから家族として数えていない。

 

「君達8人が心から笑える世界、必ず作っていこうな? 葵?」

「……うん、ありがとう――――お兄ちゃん」

 

胡桃さん。もう少し……あともう少しの辛抱ですわ。貴女が好きなように歌える、素晴らしいステージが出来上がるまで。




次回も葵視点で物語が続きます。


……葵さん、テロの犠牲者への敬意を忘れるべきではないとか言ってますが、最早その思考自体が無茶苦茶な論理である事に気付いていないようです。結局偽善でしかありません。
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