【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
――私は元々、アイドル志望ではなかった。
『お嬢様。本日は16時から家庭教師が付いて勉強で御座います。それが終わったら18時に夕食。19時からはピアノのレッスン。20時30分からはバイオリンの稽古。22時より入浴。23時に就寝のご予定です』
『えー!? 今日も習い事ばっかなの……!? 学校から帰ってきて疲れてるのに……それに偶には外で思いっきり遊びたいよ〜!』
『なりません。これも宮里家の令嬢に相応しい教養と品格を学ぶ為です。旦那様からも仰せつかっておりますので』
『むー、爺やの意地悪……!』
幼い頃より毎日、朝から晩まで勉強に稽古に、護身の為の戦闘訓練。自由時間はおろか、まともな休憩すら与えられず。名家のお嬢様とは、なんと窮屈で退屈な立場なのか。
『つまんない……友達をいーっぱい作って、一緒にいーっぱい好きな事したい』
そんな日々の中、転機が訪れたのは11歳の時。星羅女学院小等部に通っていた私は、偶然掲示板に張り出されたポスターに目が止まった。
『……“Kakabel”?』
それは学院が何十年も前から伝統的に続けている、Kakabelプロジェクト――芸能科の生徒からメンバーを選出し、アイドルとして活躍させるもの――に関する内容だった。
『アイドルになれば、嫌な習い事も少なくて済むかも』
好都合だった。これならアイドル活動を言い訳にサボれる。面倒事から解放されたくて、私は芸能科への道を進んだ。幸い一般科と授業内容が変わる訳ではないので、お父様からは特に苦言を呈されずに済んだけど。
そして芸能科に入って2年目。つまり中等部2年でKakabel第7期生が解散となり、次の第8期生結成に向けてメンバーの募集が始まった。
『私、立候補します!』
数十人の候補者が集い、厳しい選抜が繰り返された。生活態度や成績の良し悪しから振るい落としを掛けられ、残った者には筆記試験と面接が行われて更に絞り込まれていく。
『聞きました? 外部編入生の中にKakabel加入の試験も受けてる方がいらっしゃるそうですよ』
『編入試験と同時に? いくら何でも無茶が過ぎません?』
筆記試験が終わって廊下を歩いていると、そんな会話が聞こえてきた。編入試験と選抜試験を纏めて受ける猛者……というより狂人の存在が少しばかり気になったが、次の面接に向けて準備を進める中でこの時の記憶は薄れていった。
そして、私は見事に最終試験を突破。晴れてKakabelの一員となった。
『初めまして。中等部3年の宮里葵と申します。今後とも宜しくお願い致します』
『あの宮里グループの御令嬢ですね。私は穂波百合花。こちらこそ宜しくお願い致しますわ』
3年の始業式が終わった後、あのロクデナシの谷山に案内された先で初期メンバーと顔合わせとなった。同級生の百合花さんに雅さん、一つ後輩で2年の夕日さんと詩織さん。この時の麻奈さんと夏海さんは小等部6年だった為、まだアイドルではなかったけど。個性的で愉快な人達というのが第一印象だった。
私達5人は挨拶を済ませ、そのままティータイムへ移った。
『――では皆さんも習い事から逃げたくてアイドルを?』
『あら、その様子では宮里さんもですの? お恥ずかしながら、茶道や礼儀作法の稽古にうんざりしておりましてね……』
『私は家族からの期待があまりに重過ぎて……どこか羽を伸ばせる居場所を探してたんですの』
『私も、詩織さんと似たような家庭環境ですわ』
『勉強勉強、また勉強……ほんっと嫌になってしまうよなぁ。少しくらい青春らしい青春をしたってバチは当たらないのによ』
なんと彼女達も私と似た動機でKakabelに加入したそうです。こんな偶然があったでしょうか。私達は互いの近況や家の愚痴を溢し合い、談笑していく内に、何とも言えぬ安心感と親近感が湧いてきた。
(ふふ、この方達となら悪くないアイドル生活になりそうですわね。まあアイドルそのものにはあまり興味は御座いませんけど……)
きっと”彼女”が存在してなかったら……私達は消極的な活動に留まってたかもしれない。歴代のKakabelと同様、可もなく不可もなくな評価のまま解散を迎えてた可能性もあった。
その”彼女”こそが、私達の運命を大きく変えた。
『――し、失礼します! 遅れてすみません!』
突如、勢いよく開かれた扉。現れたのは私達よりも年下で、私達以上に整った容姿を持つ美少女。彼女は息を切らせながら、顔合わせに遅刻した事を謝罪した。
『いえいえ、そこまで気にする事は御座いませんわよ?』
だって私達も自分が思うほどアイドルをやりたい訳ではないのですから。
私は椅子から立ち上がって少女に近付く。星羅女学院中等部の制服を身に纏い、桜色のロングヘアをツーサイドアップにした可愛い系の美少女。ワッペンの刺繡から見るに、1年生で間違いない。
『あ、申し遅れました! 私は杠葉胡桃! 学院中等部1年、12歳です! アイドルKakabelに憧れてこの学院に来ました!』
明るくて、元気いっぱいな声。部屋の雰囲気が一層温かくなっていくのを感じました。
……ん? ”この学院に来た”?
『……もしかして貴女、噂の編入生かしら?』
『え? あ、はい、そうです! 特待生として今日この学院に入学しました。――あの……編入生って、此処だと有名なんですか?』
『いいえ、特別そうという訳ではないけれど……ただ編入試験とアイドル選抜試験を同時に受けてる変わり者の外部受験生がいると、校内では噂になってましたので』
『え、えぇ……? そこまでですか? あはは、恥ずかしいなぁ』
少し照れ臭そうに笑う姿は、見る者に庇護欲をそそらせるような魅力を放っていた。
『まあ立ち話もなんですし、杠葉さんも一緒にお茶を飲みましょう?』
『良いんですか? ありがとうございます、先輩!』
『宮里葵ですわ。宜しければ名前で呼んで下さいまし?』
『分かりました、宮里先輩!』
こうして胡桃さんを迎えた6人で、紅茶や茶菓子を堪能しながら彼女について色々話していく。
『……歌、ですか?』
『はい。こう見えて私、歌が凄く得意なんです。小さい頃から歌うのが大好きで、沢山の人に聞いて貰って、みんな凄い凄いって褒めてくれたんです。お母さんなんて、将来は歌姫間違いなしって……流石に大袈裟だなって思いましたけど』
その中でも最も気になったのが、胡桃さんの歌だった。
『じゃあさ杠葉! その凄い歌を私達にも聞かせてくれねえか?』
『え、えぇッ!?』
雅さんが興味津々な様子で迫るが、私達も非常に気になったので賛同に回る。
『良い案ですわね雅さん。是非ともお聞かせ願えますか?』
『は、はい。良いですけど……お嬢様に私の歌が果たして通用するかどうか……』
『大丈夫大丈夫、私なんかヘタウマな方だしよ』
『歌の稽古はやった事が御座いませんからね。寧ろ杠葉さんにレクチャーして頂けるなら幸いですわ』
『ぷ、プレッシャーがヤバい……』
少々緊張している御様子ですが、言葉とは裏腹にワクワクしているようで。胡桃さんは歌う気満々みたいです。
『で、では……いきますね?』
『はい、宜しくお願い致します』
胡桃さんは椅子から離れ、窓際に移動する。春の陽光が白いカーテン越しに差し込み、彼女の美貌をより一層引き立ててくれる。
『――すぅ』
そして瞳を閉じ、息を吸った彼女は――。
『―――、―――――、――♪』
まるで異界の精霊のような神秘的で、柔らかな歌声を放った。
『『『『『――ッ』』』』』
全員、言葉を発する事すら許されない。一瞬で虜にされ、時間を完全に忘れて彼女の歌に聞き入る。
『―――♬』
もはや上手なんて領域すら超えている。本物の女神か天使の降臨を錯覚させる、非常に透き通った優しい声色が、私達を呑み込む。
『―――、――♫』
彼女の桜色の双眸に宿る六芒星の綺羅星から、まるで目を離せない。周囲の空間ごと固定されたかの如く、完全に釘付けになる。
『――どうでしょうか先輩方!』
『『『『『……』』』』』
『先輩?』
歌い終えた胡桃さんが声を掛けなければ、私達は現実へ戻って来れなかったかも。
『――あ、す、すご……あの……』
『マジかよ……滅茶苦茶上手いじゃねえか杠葉!』
『こんなに素晴らしい歌、聞いた事が御座いませんわ!』
『正直、甘く見てました。杠葉さん、これは貴女がセンターにならなければいけませんわよ!』
『アンコールを希望しますわ!』
戸惑う私を余所に、他の4人が興奮した様子で拍手喝采を彼女に浴びせる。胡桃さんは嬉しそうだが、何故か少しだけ躊躇っている。
『あの、先輩方……私も本心ではもっと歌いたいのですが、その……もう寮に帰る時間では?』
『え? ……あ』
気が付けばすっかり窓の外は暗くなっていました。夜になった事に気付けないくらい、私達は胡桃さんの歌に意識を持っていかれたという事です。
『えへへ。でも、ここまで聞いて頂いて本当にありがとうございました! ――続きはまた明日で!』
瞳に2つの白い星を輝かせ、彼女は天真爛漫な笑顔でライブ終了を宣言した。その可憐な姿にトキメキながら、私は思った。
(私達、明日から歌の指導を受けるんですよね……? 天才級の歌声を持つ、この子に)
ひょっとするとこれ、私達の代のKakabel……途轍もない大躍進を遂げちゃったり?
胡桃はワンピのウタ並の歌唱力(あのアイすら上回る上手さ)ですから、葵達が惹き込まれるのも当然でしょうね。
JIF編はFILM REDを少し意識してたりします。ただし暴走してるのはウタ=胡桃ではなく、赤髪海賊団=Kakabelですが。他はルフィ=マリア、エレジア事件=胡桃の自殺未遂事件、トットムジカ=???といったところ。
因みに胡桃ちゃんは歌を披露する時など一部の条件で、アイ達星野家のような綺羅星を両目に宿す事が出来ます。
葵視点の物語はまだ続きます。