【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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107話

破竹の勢いでトップクラスのアイドルへ登り詰めていく私達Kakabel。更に9ヶ月が経過した今日は、一つ学年が上がる日だ。

 

始業式を終えた放課後。Kakabel専用ルームにおいて。

 

『『く、胡桃お姉様……』』

 

『カワワッ!!♡』

 

『『むぎゅ!?』』

 

追加メンバーとして迎えられた麻奈さん・夏海さん姉妹の、あまりにも息ピッタリなコンビネーション。初めて出来た妹達から”お姉様”と呼ばれた胡桃さんは、もう興奮しっぱなし。その目を煌々と輝かせ、2人をぎゅうっと抱き締めていた。

 

『こんなに可愛い妹が2人も出来たなんて……最高過ぎる! 宜しくね麻奈ちゃん、夏海ちゃん! 歌の事なら、この胡桃お姉様がい~~っぱい教えてあげるから!』

『……麻奈姉、この人テンション凄くない?』

『そうだね夏海。でもポカポカ良い匂いで落ち着く』

 

いきなりの激しいスキンシップに少々戸惑いがちな御姉妹ですが、満更でもなさそうですわね。それどころ自分達からも胡桃さんの背中に手を回してますし。

 

『宮里葵です。お二人とも、宜しくお願いしますね? ――お二人は何故Kakabelへ?』

『実家からの過度な期待が辛くて、退屈で……それが嫌で夏海と一緒に此処へ来たんです』

『学院主宰のアイドルなら教育という名目が立ちますし、家族の反対を押し通す事が出来たんで……すいません、こんないい加減な動機で入ってしまって』

 

……丁度こんな風でしたわね、胡桃さん以外の私達。たった1年前の事なのに、遠い昔のように感じられます。

 

『そこまで気にする必要は御座いませんよ? 何なら私だって稽古をサボる目的でKakabelになったのですから』

『え』

『宮里先ぱ……葵、お姉様もですか?』

 

あら、私の事も最初からお姉様と? 嬉しいですわね。

 

『胡桃さんが居なかったら……私達はきっと欲求不満なままアイドルを続けてたでしょうねぇ』

 

胡桃さんを見る。彼女は今、他のメンバーと次の出演番組について大いに盛り上がっていた。

 

『いよいよあのB小町とコラボ! アイさんに会えるの、楽しみ~!』

 

当時トップアイドルだったB小町。そのセンターであり、日本最高峰のアイドルとも称されるアイさんは、胡桃さんの推しの子だとか。見るからにワクワクが止まらない御様子で、前日の夜はちゃんと寝れるか心配だ。

 

『麻奈さん、夏海さん。貴女達はこれから間違いなく、充実した青春を送れるでしょう。退屈凌ぎだけで終わる事はまず在り得ません。この私が保証して差し上げますわ』

 

そう言うと、御姉妹はピッタリ同時に頬を緩ませた。

 

『『はい、宜しくお願い致します』』

 

こうして神宮寺姉妹を加えて8名となったKakabel。庇護欲のそそる新しい妹達の加入はファン層の拡大を促し、私達は大躍進を続けていった。

 

 

 

 

 

『――どうもー! B小町のアイでーす! Kakabelのみんな、今日は宜しくね?』

 

話題沸騰中のユニットとのコラボは、やはり緊張するもの。私も心臓をバクバクとさせながら、多少ぎこちない動きでアイさん達へ頭を下げた。対するアイさん達の印象は余裕の一言で、大物感が半端なかった。

 

『お疲れー! みんな良いパフォーマンスだったよー!』

『B小町の皆さんも、本当に素晴らしい歌とダンスでした! 流石は日本一のアイドルユニットです!』

 

共演が終了した後の休憩室で、KakabelとB小町は交流会で仲を深める。スケジュールがぎっしり詰まっているB小町は、あと15分もすれば次の予定の為に移動となる。その限られた時間を有効活用する勢いで、胡桃さんはアイさんとの談笑に耽っていた。

 

『ありがとねー胡桃ちゃん! でも歌に関しては私より君の方がずっと凄かったなぁ。きっと将来は超一流の歌姫になってるよ!』

『はぁ~、推しからこんなに褒められるなんて感激! ありがとうございます、アイさん!』

 

大好きな歌に関する賞賛を、それも最推しから受ける。胡桃さんはもう跳び上がらんばかりに大喜びしていた。そこへ寄り添う雅さんと神宮寺姉妹も、自分事のように興奮してらっしゃいます。

 

『おいおい、すげえぞ胡桃! アイさんって歌も滅茶苦茶上手いって有名なのに、お前の方が上だって言ってくれたぞ?』

『『やっぱり胡桃お姉様は凄いです!』』

『えへへ〜、ホントだよ! 私こう見えて結構ビックリしてるし!』

 

しかし、あのアイさんが自分以上の歌唱力と断言するなんて……“完璧で究極のアイドル”として有名な方からの想定外の高評価に驚く他ありません。胡桃さんが尚更途轍もない人に映って仕方ない。

 

『アイの言う通り、胡桃さんも他の子達も滅茶苦茶良い動きしてたわ。私達が貴女達と同じ年齢の頃なんて、まだまだ地下アイドル止まりだったんだよ? 歌もダンスも人に見せられるかどうかってレベルだったからさ』

『お嬢様だから……なのかしらね? それ抜きにしても優秀な子ばかりだけど』

『この調子なら私達の次のトップアイドルは貴女達になりそうね。頑張んなさい?』

 

そんなB小町も、今年でとうとう解散となる。アイさんは女優として活動を続けるそうだが、他の方達は芸能人という役職からは降りるとの事。中には芸能界からも完全に足を洗って一般人に戻る方もいらっしゃるそうです。少し寂しいですけど、20代半ばともなれば進路変更も仕方ないでしょう。

 

『ぷ、プレッシャーが半端ないですわね。これがトップアイドル……』

『でも、そう言って頂けて嬉しいです。必ず期待に応えてみせます!』

 

その後ニノさんの予想通り、B小町解散から暫くして私達はアイドルの最頂点に君臨。公式チャンネルのフォロワーは200万以上、最新曲のYoutubeにおける視聴回数も1億を突破しました。

 

 

 

そして……

 

 

 

『いよいよ、ですわね』

『はい、葵お姉様!』

 

結成から2年目の夏。日本中のアイドル達の憧れの舞台、JIFの参加権を遂に獲得したのです。

 

しかも最初からプラチナステージに立つ事に。ルーキーかつ初参加で最上級のステージを使わせて頂く事例は歴史上類を見ない快挙だそう。あのB小町ですら成し遂げられなかった伝説を、私達は見事築いてしまいました。

 

『Kakabelの皆さん、時間です。お願いします!』

 

『『『『『『『『はいッ!!』』』』』』』』

 

私達は駆け出す。ステージへ向けて、全力で。

 

『ッ!』

『すごい……』

『何千人いんだよ、一体!?』

 

ステージの中央で、辺りを見回す。座席を埋め尽くす観客が放つ熱気は莫大で、肌に刺さるように感じられた。まだライブ前なのに、もう8色のサイリウムが天高々と掲げられていた。

 

『クルミちゃーーん!!』

『きたー!!』

『アオー! 相変わらず綺麗だぞーー!!』

『きゃー!! ユリカお姉様~!! 素敵ー!!』

 

みんなの歓声が私達の声すら飲み込まんばかり。それに負けない程の大声で、胡桃さんが挨拶を放ちます。

 

『皆様ーー!! ご機嫌よーーうッ!!!』

 

『『『『ご機嫌よーう!!!』』』』

 

まるで訓練されたかのように、1万人を超えるお客様が同時に返事をしました。スポットライトの下で桜色の髪を靡かせ、胡桃さんは言葉を続けて紡ぎます。

 

『元気なお返事ありがとうございまーす!! 今日はKakabelによるJIFの初出場を記念して、デビュー曲と最新曲を続けて披露させて頂きます! どうか最後まで、楽しんでいって下さいませー!』

 

そしてライブが始まった瞬間、会場は熱狂の渦に飲み込まれた。オープニングは私達のデビュー曲、『星の約束』。胡桃さんがセンターで、その透き通った声を広大な会場の隅々まで響き渡らせる。

 

『――みんな、一緒に輝こうよ♪』

 

まるで天使の囁きの如き、人々の心にダイレクトに響くような歌声。そこへ加わる私や百合花さんの優雅なダンス、雅さんの力強いステップ、夕日さんと詩織さんの計算され尽くした動き、麻奈さんと夏海さんの可愛らしいハーモニー。私達のフォーメーションは完璧で、お客様の歓声が波のように押し寄せてくる。汗が飛び散り、心臓が激しく鳴り響く。

 

曲が終わるたびに拍手が鳴り響く。最新シングル『永遠の星座』では、胡桃さんのソロパートで会場が静まり返り、彼女の声だけが皆様の心に浸透する。観客の目が涙で潤むのが見えた。アンコールでは全員で手を繋ぎ、ジャンプしながら歌う。ステージの熱気が、私の心を満たす。

 

(胡桃さん、今日は一段と輝いてますわね)

 

ふと胡桃さんの横顔を見ると、彼女はいつものように満面の笑み。私の胸に、温かな誇りが広がっていく。

 

『『『『『『『『ありがとうございましたー!!』』』』』』』』

 

全ての曲が終わり、会場に喝采の嵐が巻き起こった。私達は一箇所に集まり、並んで肩を組み合いながら頭を下げました。

 

『葵お姉様! 百合花お姉様! 雅お姉様! 夕日お姉様! 詩織お姉様! 麻奈ちゃん! 夏海ちゃん!』

『はい』

『なんです、胡桃さん』

『どうした胡桃?』

『はい胡桃さん』

『胡桃さん?』

『『胡桃お姉様?』』

 

『ありがとう、大好き!!』

 

『『『『『『『~~~ッ///』』』』』』』

 

あぁもう、この子ったら……凄く嬉しいですけど、どうしてそんな恥ずかしい事を明るい笑顔で堂々と言えるのですの/// 全くもって魅力的過ぎますわよ、貴女。百合の趣味は御座いませんけど、何かに目覚めてしまいそうではありませんか///

 

『『私達も大好きです、胡桃お姉様!』』

『お前のお陰で良い青春を送れてる! 消極的だった私等に発破掛けてくれてありがとな!』

『これからも、こうして8人でアイドルをやっていきましょう!』

『勿論、プライベートな日常も含めて!』

『胡桃さんには感謝しか御座いませんわ。本当にありがとうございます』

 

退屈から救って下さった胡桃さんに各々感謝を述べていき、いよいよ最後は私となる。

 

『胡桃さん』

『はい、葵お姉様!』

『貴女がKakabelに来てくれて良かった。これからもどうぞ宜しくお願い致します』

 

あの厳しい名家の日々から逃げて此処に来れたのは、私の人生最大の幸運だ。胡桃さんのお陰で、本物の絆を手に入れたんだ。

 

『はい、こちらこそ!』

 

皆様に見送られながらステージを降りていく中、宮里家の令嬢としてではなく、ただの少女として――宮里葵としての幸福で満たされていた。

 

 

 

 

 

その後、私達Kakabelの活動はさらに加速した。トップアイドルとしての日々は、目まぐるしくも輝かしいものばかり。

 

毎日の練習、ライブ、テレビ出演。公式チャンネルのフォロワーは300万を超え、曲の視聴回数は多くが億単位。

 

『胡桃お姉様の妹は』

『私達なのに』

『……やっば、妬いてる麻奈ちゃんと夏海ちゃんカワワ♡』

 

ファンイベントでは少女達が胡桃さんを”お姉様”と慕い、麻奈さんと夏海さんがちょっとジェラシーして彼女に両側から抱き付く微笑ましい光景も。

 

胡桃さんはセンターとして特に多くの仕事を受ける立場となりましたが、私含めた7人も彼女に負けてはいません。全力でアイドルに打ち込みます。

 

『いきますわよー! せーのッ! ワン、ツー、ハイッ!』

『『『『『『『ワン、ツー、ハイッ!』』』』』』』

 

百合花さんがリーダーシップを発揮してメンバーを先導し、雅さんのパワーでステージを盛り上げ、夕日さんと詩織さんの知恵で新しい振り付けを生み出す。麻奈さんと夏海さんは皆様の妹として可愛がられ、私達を囲む輪を広げた。

 

『みなさーん、アンコールありがとう! 最後にもう一曲、いっきまーす!』

 

胡桃さんの歌声はますます磨かれ、アイさんを超える歌姫として称賛された。

 

『クルミちゃんの歌も最高っスけど、俺はアオちゃんのダンスの方に惚れちまったでヤンス! いっぱい話したくてCD10枚も買っちまったでヤンスヨ!』

『まあそんなに!? ありがとうございますわ! 是非また私達のライブへいらして下さいね?』

 

『はーい、時間でーす! 次の方ー』

 

私自身も、優雅でありながら鋭くキレのあるダンスでファンを魅了していく。

 

『さあみんな、お料理出来たわよー。お嬢様の口に合うかは分からないけど……』

『いえいえ美津子さん、こんなに素敵なパーティーを開いて下さって、感謝でいっぱいですわ』

『『唐揚げ美味しそ〜!』』

『お母さんの料理は絶品なんです! 皆さん、いっぱい食べて下さいね!』

『うふふ。胡桃さん、勿論ですけど食べ過ぎたら太ってしまいますわ。アイドルなんですから』

『だな。自分のスペックと格闘しながら味わってかねえと……でもこの見るからに美味しそうな外見に匂い。この魅力に勝てるか正直不安だ……』

『ええ、後で体重計に乗るのが恐ろしくなりそうです……』

 

勿論、オフの時もみんなで一緒に楽しく過ごしました。胡桃さんの実家でクリスマスパーティーをして、美津子さんの手料理に舌鼓を打ったり。

 

『どうです? お店で食べるよりもずっと美味しいですよね!?』

『ええ。初めて食べますけど高評価を出す以外ありませんわね。衣はフワフワのサクサクで、中は肉汁溢れて病み付きになりそうで』

『あらあら、ありがとう葵ちゃん。手作りだけどケーキも如何?』

『はい、いただきます』

 

名家の重圧から解放された、充実した青春――それが私達の日常だった。

 

(これからも、こんな楽しい日々が……)

 

 

 

 

 

その幸せに陰りが見え始めたのは、Kakabelが自他共に認めるアイドル界のトップに君臨して間もない頃だった。

 

 

 

 

 

『ご機嫌よう、葵お姉様……』

『ご機嫌よう……ってどうされましたの胡桃さん? 少し疲れてるように見えますが』

『あはは、昨日は結構遅くまで仕事でしたからね。トップになるとここまで忙しくなるとは思いませんでしたよ……』

 

ある日を境に、胡桃さんの様子がおかしくなっていったのだ。ほんの小さな、本当に小さな違和感。練習中、彼女の笑顔が時折曇る。ステージで歌う声が、微かに震える。普段から彼女の美しい歌声を側で聞いてきた私達が、その違和感に気付かない訳がない。皆さん、心配して疲れている彼女を労わってあげた。

 

『胡桃さん、どうかしましたの? ちょっと休憩しましょうか?』

『はい、百合花お姉様……』

『よし、甘いもの食って元気出しな! 百合花と雅様のお手製チョコレートだ!』

『雅お姉様。ありがとう、ございます……わぁ、嬉しいなぁ』

 

『胡桃さん、ちょっと容態を見せて下さいまし』

『確かに胡桃さんの仕事量は多いですものね。ドラマやバラエティの出演も増加傾向ですし。マッサージ店を予約しときましょう』

『すみません、夕日お姉様、詩織お姉様』

 

『『胡桃お姉様、肩を揉んで差し上げます!』』

『ありがとう麻奈ちゃん、夏海ちゃん……』

 

百合花さんも、雅さんも、夕日さんも、詩織さんも、麻奈さん・夏海さん姉妹も――当然、私も。

 

『何か悩みが御座いましたら遠慮なく申して下さいね? みんなで協力して解決しますから』

『えへへ、ありがとうございます! でも、本当に疲れてるだけですから、大丈夫ですって!』

 

心配で胡桃さんの頭を撫でながら声を掛けてあげると、彼女は何時もの笑顔に戻っていた。……でも、笑っている彼女の瞳は、ほんの僅かに寂し気だった。

 

『そう、ですの? なら、良いのですけれど……』

 

……思えば何故、この時もっと踏み込まなかったのか。例え嫌われてでも『本当の事を話して』と、どうして迫らなかったのか。私は彼女が僅かに溢していたSOSを、忙しさによるものだと結論付けてしまった。私達は胡桃さんの太陽のような明るさを信じ、支え続けた。彼女の本当の負担と苦痛を察せず、ただ優しく包み込む事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダメだ……耐えるんだ杠葉胡桃。みんなの為にも……みんなが望んだ普通の幸せを、守る……為にも……』

 

それから更に約1年。真の意味で癒されなかった胡桃さんの無垢な心は、蓄積され続ける苦しみに押し潰され、遂に限界を迎え絶望へと転じ――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『葵お姉様……百合花お姉様……雅お姉様……詩織お姉様……夕日お姉様……麻奈ちゃん……夏海ちゃん……ごめんなさい。こんな汚い私ではもう……皆さんとアイドルをする資格がありません……』

 

谷山達の性的暴行で生きる気力そのものを搾取された彼女は、連休明けの明朝に寮の屋上から飛び降り自殺を図った。




書いてて思いました。南雲の兄貴が生きていてくれたら……
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