【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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胡桃は松村とは対極的なアジテーターとして生み出したキャラクターです。

胡桃が歌で他者を自然と“引き込む”存在なら、松村は演説で他者を強制的に“引き摺り込む”存在と言えます。そして彼等に魅了された者達が辿り着く未来もまた希望と絶望で見事正反対に分かれています。

松村は謂わば闇のアジテーターであり、対する胡桃は光のアジテーターとも言うべき人物です。

あと、わざわざ声付きでテキストの内容を読者に聞かせる設定を考えたのは、松村の自己陶酔的で身勝手な性格を反映したかったからです。


110話

あ゛ー、丸1日トレーニングで体を酷使したからマジ疲れたー!

 

「いよいよだねー! JIF! どうするどうする!?」

「うっるさいわねー……」

 

私の名前は有馬かな。

 

「もう深夜目前なのに元気だねぇルビーちゃん?」

「だってさMEMちょ! 明日は私達のデビュー当日なんだよ?! 興奮しない訳ないじゃん!」

 

JIFが目前まで迫り、苺プロに泊まり込みでラストスパートを掛けていた、女優兼アイドルだ。

 

現在は夜の23時。つい3時間くらい前にアイさん監督の血の滲むような特訓を終え、夕食と入浴も済ませて床に就くところだ。

 

「……ま、私も楽しみじゃないと言えば嘘になるけどね」

「お、先輩も分かってくれたんだ。アイドルをやる楽しさ!」

「キャリアアップの一環のつもりだったけど、それはそれとして退屈させて貰えてないわ」

 

アイドルなんて微塵も興味無かった筈なんだけどなぁ……。でもアイさんやぴえヨンさんの的確なご指導の賜物か、ダンスはめきめきと上達しているし、元々自信があった歌唱力も強化されている。情熱という一点においてはルビーやMEMちょにどうしても劣るけど、そんな2人に感化されてやる気に満ちていく自分に驚いている。

 

「退屈する事なんて絶対にないよ! これからだって、ずっとそうに決まってる!」

 

……全くこの根拠の無い自信は何処から来るのかしら? キラッキラな笑顔になりやがって。

 

「アンタが言うと、本当にそんな毎日が続きそうね」

 

悪い気分にはならないけどさ。

 

「あッ!」

「うわっ!? 何よ急に、ビックリするじゃない!」

「どうしたのルビーちゃん? 何か忘れ物?」

 

と思えば突然目を剥いてくるし。コロコロ表情が変わって忙しい子ね。

 

「サイリウム! 誰がどのサイリウムにするか全然決めてない!」

 

 

 

 

 

「という訳で、ミヤコさんから全色用意して貰いました! さあどれにしよっかなー?」

「いや、それ位なら明日でも良くない? もう疲労困憊で眠たいんだけど……」

 

寝室でパジャマに着替えた私達は、しかしルビーの発案で就寝前に自分のサイリウムの色を選ぶ事に。

 

「何言ってるの先輩! サイリウムはアイドルとファンを繋ぐ重要なアイテムなんだよ!? 後回しなんてしちゃいけない!」

「そうだよかなちゃん! これは絶対に外せない事なんだから!」

「MEMちょ、アンタもそっち側なんだ……」

 

流石はアイドル志望の子達。サイリウム一つ取ってもその情熱ぶりには舌を巻く。MEMちょまでルビーに味方する以上、何言っても無駄そうね。

 

「それで、アンタ達はどの色にするの? 先に決めて良いわよ?」

 

私達はテーブルを囲み、並べられた10種類以上のサイリウムと睨めっこが始まった。

 

「私はねぇ……断然赤でしょ! ママと同じ色!」

 

ルビーは迷わず赤のサイリウムを手に取り、星を宿した目を一層輝かせる。この子、自分の母親であるアイさんが最推しなのよね。アクアやマリアにも負けないマザコンらしいし。

 

「ルビーちゃんが赤かぁ……まあいっか、じゃあ私は黄色にしよっと」

 

同じくアイさん推しなMEMちょも赤が希望だったようで。それでも羨ましそうな表情をほんの一瞬出すのみで、自分のイメージカラーな黄色のサイリウムを選択した。

 

「先輩は?」

「私?」

 

うーん……そうねえ……

 

あ。

 

「何でも良いなら……これ……?」

 

私が拾い上げたのは……白のサイリウム。

 

「白かぁ……」

「どうしたのよMEMちょ? 白は駄目なの?」

「いや駄目ってほどじゃないんだけどさ……特別感出てズルいって思う子も居てモメがちだから……」

 

ふーん、そうなんだ。特別……

 

「良いじゃん」

 

やっぱり別の色に変えるべきか、と口に出す前にルビーの笑顔が私を縫い留める。

 

「ドルオタじゃない先輩らしいちゃらしいし!」

 

こうしてサイリウムの色はルビーが赤、MEMちょが黄色、そしてセンターの私が白という事で決まった。

 

 

 

 

「さあ、サイリウムの色も決まった事だし、ちゃっちゃと寝るわよ?」

「えー、折角だしもう少しだけ起きとかない?」

「睡眠の重要性を舐めるんじゃないわよ。徹夜のダメージは3日位引きずるし、魅力が3割程落ちるってどこかの大学の研究で出てる……みたいなことをDai■oが言ってたわよ。」

「Daig●が!? 寝なきゃ!」

 

はっや。さっきまでテーブルに腰を下ろしてたのにもう布団に横になってる。このスピードも紅林さんからの訓練の賜物なのかしら? 私もちょっとだけど強くなれたし、今ならヤンキー1人くらいだったら勝てそうな気がするわ。

 

「おやすみー先輩、MEMちょー!」

「はいはい、おやすみおやすみ〜」

「おやすみー」

 

私は電気を消し、ルビーとMEMちょに遅れて布団に潜り込んだ。川の字で並ぶようにして眠る私達は、本当の姉妹にでもなった気分である。

 

(ふう……漸く休め……)

 

「んー、全然眠れない! 楽しみすぎる! どーしよー!!」

 

「……」

 

おい、うるっさいっての。

 

「ルビー、静かにしなさい? 目を瞑ってればそのうち眠くなるから……ね゛?」

「いひゃいいひゃい、ごめんなひゃい……頬をつねにゃいでー」

「宜しい」

 

手を離してあげると、少し赤くなった頬を撫でるルビー。それを横で見ていた私は、ふと疑問を抱いた。

 

「ところでルビー。アンタってさ、どうしてそこまで楽しそうでいられるの?」

「ん?」

 

芸能人とは必ずしも成功するとは限らない。何なら売れずに消えていく人間の方が圧倒的多数だ。明日のデビューだって、下手すれば人生最悪の黒歴史と化す可能性だってあるのに。私達は伝説のB小町の正当な後継者。その分周囲からの期待は重く、期待ハズレと見做された時に受けるショックは計り知れない。

 

にも関わらずこの子はとても前向きで、本番前から輝いている。気になってしまう。

 

「……ずっと、憧れだったから」

 

そう呟くルビーの顔は少しばかり寂しそうで、ポツリポツリと理由を語り始める。

 

「私はね、昔はずーーっと部屋の外に出れない生活してて、未来に希望も何も無くて……このまま静かに、ドキドキもワクワクもしないまま死んでいくんだろうなって、そう思ってた」

「引き籠りだった、って意味?」

「……うん。そんなとこ」

 

信じられない。こんなに底抜けに明るくて、アホの子って印象が合いまくりな女の子が、そんな辛い過去を背負っていたなんて。

 

(アイさんもアクアもマリアも、苦労したんでしょうね……)

 

「だけど、ドルオタになってからは毎日がすっごく楽しくて、胸の中が好きって気持ちで満たされて……推しの居る生活は最高だよ? アイドル好きになった事ないなんて先輩、人生損してる」

「って言われてもねえ」

 

今までビビッと来るようなアイドルに会う機会はなかったんだし。私は女優として活躍できる事が一番好きな訳、で……

 

(その女優業で躓いて、苦渋を舐め続けてばかりだったんだけど……)

 

やめよう。なんか胸が苦しくなってくる。今はルビーの話に意識を集中、集中っと。

 

「でね……その時ある人に出会ったんだ」

「ある人?」

「うん、初恋の人」

「あら、甘酸っぱい話」

 

ルビーの横顔は、薄暗い部屋でも分かるくらい紅潮している。まんま恋する乙女そのものだ。

 

「その人に言われたの。もし私がアイドルになったら推してくれるって。その時からずっと、アイドルになる事を夢見てた……」

「成程、アンタがアイドルを目指す目的はその人に輝く自分を見せる為って事ね?」

「えへへ、そういう事」

「明日のJIF、テレビでもやってるでしょ? ……見てくれると、良いわね?」

 

……あぁ、ヤバい。段々瞼が重くなってきた。

 

「あぁ、それは大丈夫。直接肉眼で焼き付けてくれる予定だから」

 

それ、どういう意味……? 意中のお相手に連絡でもしたの? まあ、早い事。

 

「それは……何より、ね……」

 

私の目は完全に閉ざされ、夢の世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――先輩? せんぱーい?」

 

あらら、先輩ったら完全に寝入っちゃた。MEMちょもとっくに寝ちゃってるし。

 

「やっぱダメだな、眠れそうにないや」

 

今は夏だけど、温かいミルクでも飲めば眠くなるかな? 私、星野ルビーは布団から起き上がると、仲間2人を起こさないよう静かに寝室を出て、事務所の台所を目指す。

 

「……おや?」

 

途中、通り掛かった事務室には明かりが点いている。ミヤコさんか社長だろうか? 

 

「あ」

「ん?」

 

中に居たのはおにいちゃん。そしてテーブルに突っ伏してスヤスヤと眠っているマリアだった。寝顔キャワワ♡

 

「ルビーか、どうしたんだ? 明日も出発まではトレーニングなんだから、早く寝とけよ?」

「それがさぁ、興奮し過ぎて全然寝付けないんだよ。だからミルクでも飲もうかなって。おにいちゃん達は?」

「明日の打ち合わせ。ルビー達のライブを絶対に成功させるんだって、マリアの奴相当気合入れてたぞ?」

「そうなんだ。……ふふ、ほんとマリアはお姉ちゃん子だなぁ」

 

入室した私はマリアの頭を優しく撫でてあげる。ありがとうマリア。君みたいな可愛い弟を持ててお姉ちゃんは幸せだよ?

 

「ねえ、せんせー?」

「なんだルビー? 急に前世の名前で呼んでさ」

「今だけは前世の関係でいようよ?」

 

だってこれからする話は前世で交わした事なんだし。

 

「せんせー。私、16歳になったよ?」

「まだ数ヶ月先だけどな」

「良いの! 高校1年生は16歳でなるもの! だから実質16歳でも大丈夫なの!」

 

もう、せんせーったら。こういうのはムードの問題なんだから上手く流してよね?

 

「……しかし、ここまで凄く長かった気がするよ。でも、さりなちゃんはもう不治の病に苦しむ必要はない。アイドルに学校生活に、やりたい事を何でも出来るようになった」

「うん。私はいよいよ明日、本当の意味でアイドルになる。――約束、覚えてるよね?」

 

せんせーは私の問いにコクリと頷く。その表情は産医だった時の……まだ私が天童寺さりなだった頃の雨宮吾郎と同じ、温かく慈愛に満ちた穏やかな笑みだった。私は、この笑顔が大好きだ。

 

「勿論だ。俺にとっての一番の推しの子はアイじゃない――君だ、さりなちゃん。これまでもこれからも、いっぱい推してやる」

「へへ♪」

 

私を孤独から救ってくれたこの人が大好き。私に夢をくれたこの人が大好き。私を推してくれるこの人が大好き。だからアイドルを目指した。

 

「君がこうして元気に好きな事をいっぱいする姿を見れるだけで、俺は君や俺自身が転生出来て本当に良かったと思ってる」

 

せんせーは、ずっと後悔していた。死にゆく私を見守る事しか出来ない自分が、どうしても不甲斐なくて……自暴自棄になった時もあったのだと。

 

そんなせんせーに生きる”道”を示してくれたのが、前世のマリアだ。私の遺志を継いでアイを推す事が、私の為になる行為だって。

 

「言っておくけど、もう二度と後悔なんてさせないよ? そんな思いもあっさり吹き飛んじゃうくらい、明日は可愛い勇姿を見せてあげるんだから」

「あぁ、楽しみで仕方ないよ。実を言うとそのせいで全く眠れないんだ」

「せんせーも? あはは、お揃いだね」

 

私達は笑った。あの病室に2人きりで過ごした時のように。

 

「せんせー、私には夢が3つあるんだよ? 聞いてくれる?」

「勿論だよ。なんだい、さりなちゃん?」

 

私は立ち上がったせんせーに正面から向き合い、上目遣いで言葉を紡ぐ。

 

「1つはママを超えるアイドルになる事」

 

「1つは普通の女の子らしい生活を送る事」

 

「そしてもう1つは……せんせーのお嫁さんになる事」

 

最後の3つ目で、せんせーに抱き着いた。私と同じ色白の肌で、でも力強い両腕が私を抱き締めてくれる。

 

「……既に恋人同士になって今更だが、俺達は実の兄妹だ。道のりはかなり険しいものになるだろうな」

「まあね。法律上の結婚は不可能だし。近親愛を白い目で見てくる人も沢山居ると思う。でもせんせーだって決めたんでしょ? 私の気が変わらなかったら受け入れてくれるって? この子だってママだって応援してくれている」

 

マリアなら世論操作して、みんなが私達を祝福するように誘導するんだろうなぁ……この子なら本当に出来そうなのが怖い。

 

「例え世界の全てが私達の関係を認めなかったとしても、私の気持ちは変わらない。――愛してるよ、せんせー」

「僕もだよ、さりなちゃん。――明日は頑張れ? しっかり見届けてやるから」

「うん、約束だよ?」

「あぁ、派手に応援してやるよ」

「えー、どういう事?」

「まだ秘密だ」

「何それー? メッチャ気になる~」

 

最後に私とせんせーは見詰め合ってから、優しくキスを交わすのだった。




マリア「くーくー(キッスだキッス! お兄ちゃんとお姉ちゃん、キッスしちゃったー!)///」
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