【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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2週間も投稿が遅れました。申し訳ありません。


114話

テーブルというテーブルが大勢に占有されている中探す事数分、ようやく隅っこのベンチシートを見付けて腰を下ろせた。

 

其処でおれとみなみは購入した料理に手を付ける。

 

「んー、このサンドイッチ絶品やわー!」

「本当だ。中のスクランブルエッグがフワフワしてる〜!」

 

ピンチョスピックという、スペインの惣菜でよく使われる爪楊枝風の道具で様々な材料を刺した料理。一口サイズのサンドイッチの他に、トマトやチーズを重ねたものや、分厚く切ったハムを胡瓜で挟んだものもある。1枚のパックに何個も盛られたそれらを、おれ達はシェアして堪能する。

 

さて……とおれは料理に舌鼓しているみなみをチラリ。

 

(折角のデートなんだし、何か恋人らしい事に挑戦したいな)

 

正直、大勢いる中でそんな行為は普通に恥ずい。でも、特別な事もやってみたいという欲求もある。

 

……そうだ、確か前に読んだ“今日あま”にあのシーンが。

 

「みなみ、あの……」

「ん、なぁにマーくん?」

 

おれはドキドキと鼓動を高まらせながら、緊張に震える手でトマトのチーズサンドに付いたピックを摘み、みなみの元へ近付けた。周りの人がちらりと見て、クスクスと笑う気配を感じる。

 

「く、口開けてくれる……?」

「ッ!」

 

ボンッ、という音。当然と言うべきか、此方の意図を察したみなみが顔を一気に真っ赤に染め上げ、湯気を立てた。会場のライトが彼女の頰を照らし、目が泳ぐ様子が可愛らしい……けど、彼女の反応を見てると余計に視線を合わせ辛い。近くのテーブルから「あらあら初々しい」という小さな声が聞こえ、更に緊張が高まる。

 

「ごめん……でも漫画だと恋人はこういう事するって、描いてあったから」

「……」

「も、勿論、無理にとは言わないよ……?」

 

沈黙するみなみ。うぅ、やっぱり告白から1月程度でこれは不味かったのかな……?

 

「見て見て、あの金髪の子。相手の子に食べさせようとしてるっぽい」

「てか顔面偏差値高過ぎー。ピンク髪の女の子も超絶可愛いし、すっごい絵になってるー!」

 

ちょ、見られてる見られてる! 段々見世物になってきてる……! 

 

「はむっ」

「ッ」

 

と不安を抱くのも僅か一瞬、なんとみなみがおれの差し出した料理を頬張ってくれたのだ。柔らかい唇がピックに触れ、トマトの汁が少しこぼれる。

 

「……」

「……」

 

2人の間に出来る沈黙は、周囲の喧騒を遠い世界の出来事ように感じさせる。その中でハッキリと響くのは彼女の咀嚼音と、ゴクリと飲み込む音。

 

「お、おおきに///  とっても美味しゅう、ございました///」

「~///」フシュー

 

恥ずかしげながらもはにかむ姿は芸術的で。頬がもっと熱くなってきたけれど、それは群衆の放つ熱気とは確かに違った。

 

「つ、次は……ウチの番やな?」

「えと、はい……お願いします」

 

モジモジしながらも、お返しは素直に受け入れる。漫画やアニメのような甘酸っぱい光景が、おれとみなみの間で展開されていた。

 

「はぁ~、これが”尊い”ってヤツ? 尊いにゃ~」

「眼福眼福ー♡ この後の推しのライブも気合い入れて臨めそー!」

 

そしてその光景は、遠巻きに見守っていた野次馬達の疲労ゲージも大きく回復させるものだった。

 

 

 

 

 

「はーい、JIFスペシャルおまちどー」

 

デザートはさっき目に止まったかき氷屋。ダウナー系な印象の女性店員が、覇気の籠っていない声でおれ達に限定の冷やし芋INかき氷を渡す。

 

「この焼き芋、冷えてるのに食感は焼きたてみたいにホクホクしてるなぁ」

「ホントだ。それに、この蜜が掛かったかき氷と良く合うね」

「不思議やなぁこの蜜。これだけ濃厚やのに全然口の中で引っ付く感じがせえへん。氷もフワッフワで口の中でサッと溶けてっとるー」

 

このお店手製だろう芋ベースのトロリとした蜜がかき氷と冷やし芋を見事に繋ぎ合わせ、濃厚ながらも爽快な味わいを創造していた。付け合わせのパイナップルとマンゴーも良いものを使っているようで、とても瑞々しい。

 

「もしかして君達はカップルだったりする?」

 

美味しそうに食べていると、女性店員が話し掛けてきた。

 

「あ、えと、はい。そうですが」

「今デートの真っ最中なんですー」

「へえやっぱり? そっちの金髪の子、女の子にしか見えないけど本当は男の子でしょ? だと思ったー」

「ッ!」

 

あれ……なんかデジャブを感じる。

 

「す、すごいわぁおばs「んん???」……お姉さん、一目で分かってまうなんて。この子、寧ろ男の子だって言っても信じて貰えへん時もあるのに」

 

い、今一瞬だけ殺意が。まるで殺し屋(アサシン)みたいに冷徹な。気の所為だろうか?

 

「ふふ、これでも長年客商売をしてきてないもの。ただ、ここまで女性にしか見えない子は私も初めてだわ」

 

……この人、おれが芸能人の星野マリアだと気付いてないっぽい? 顔は隠してないし、今ガチは結構有名な筈なんだけど。

 

「でも、私の目は誤魔化せられませんよ?」

 

透き通った瞳……本当に初見で気付いたらしい。

 

「さゆりー! すまんがこっちを手伝ってくれー!」

「うぉおおおおおッ!!! 回転が止まらぬぅうううううッ!! 止めてはならぁああああん!!!」

「はーい鵺さーん。あとバースさんクッソ五月蝿いです」

 

「……行こっかみなみ?」

「ん。邪魔しちゃ悪いもんなぁ」

 

滅茶苦茶忙しそうで、もはや阿鼻叫喚だ。特にかき氷機を超速で回し続けてるバースという青髪のオジサンが。他に待ってるお客さんも多いので、取り敢えず店から離れる事に。

 

「あ、ちょっと待って?」

 

しかしその前に女性店員が呼び止め、おれ達のかき氷に小さな何かをポンと乗せる。

 

「カップル限定のサービス。受け取って頂戴」

「これは……ゼリー?」

「てかこの形って……」

「かわええですー。なんだか食べるの勿体ないわぁ」

 

それはハート型にカットされた苺味のゼリー。氷の白に、芋と蜜とフルーツの黄色、そして天辺で存在感を放つ苺ゼリーの鮮やかな赤。偶然だろうけど、まるで新生B小町を連想させる。JIFスペシャルならぬ、B小町スペシャルだ。

 

「金髪の君?」

「?」

 

さゆりと呼ばれた女性店員が、おれを得意げな様子で見下ろしながら、ウインクをかましてきた。

 

「此処は人が多いからトラブルも沢山あるわ。彼女さんの事、しっかり守ってやりなさいよ?」

 

……言われずとも。

 

「無論です」

 

おれ達は今度こそかき氷屋から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

(おっほぉ……ふぅ)

 

「不知火……さん?」

「何かしらあかねさん? あ、私の事も苗字じゃなくて名前でヨロ?」

「えと、フリルさん……尾行は流石に悪いんじゃないかな?」

「バレなきゃ犯罪じゃないっすよ」

「そういう問題じゃなくて……」

 

私、黒川あかねは人気タレント『不知火フリル』の奇天烈な行動に翻弄されっぱなしだった。今もこうしてバレないようにマリア君とみなみちゃんの後をつけている最中だ。フリルさん主導で。

 

「むふふ~♪ 見た目は百合、でも中身はNL。1粒で2度美味しいってこういう事かしら? 視力が10.0に上がったわ」

「マサイ族並やんけ」

 

真顔で何言うとんねんこの子? 思わずみなみちゃんみたいな関西弁になってもうたわ。

 

(ってか、これがあの不知火フリルなの? 出演中とオフのギャップが凄まじいんだけど)

 

メディアに出す顔とプライベートの顔が別なのは、芸能人に限らず現代社会では有り触れたもの。だけど彼女の場合はさぁ、こう…………想定外が過ぎるというか、予測不能というか。私のプロファイリング能力を駆使しても彼女のこの姿は再現出来るとは思えなかった。

 

あ、マリア君とみなみちゃんがベンチに腰掛けた。

 

「ほらほらあかねさん、もっと近くまで行くわよ?」

「えぇ!? まさか盗み聞き!? ば、バレちゃうよ!?」

「大丈夫大丈夫、今の私達はタダのモブだから」

 

いやモブどころか超有名人ですよね貴女? こんな事している姿をパパラッチにでも撮られたら大変な事に――あぁもう置いてかないで~!

 

「――あ、もうじきお姉ちゃん達の番か。でも、それが終わったらまた司会に戻らなきゃいけないし……もっとみなみと色んなとこ回るつもりだったのになぁ……」

「お仕事やもんね、仕方ないよ。短かったけど、マーくんと一緒に過ごす時間は楽しかったで?」

「……本当?」

「ここで嘘吐いてどうするん? ――せや、今度はウチの家に案内してあげる。一人暮らしやから自炊しとってな? 料理には自信あるんやで」

「……それってご馳走してくれるって事? でも良いの? 男を家に上げたりしてさ」

「勿論。寧ろ彼氏を自宅に招くの、緊張するけどワクワクしとるくらいやし――ダメかな?」

「そ、そんな事ないよ! ありがとうみなみ。また電話するから予定を擦り合わせようね?」

「うん、おおきに」

 

……女の子が好きな男の子を自宅に招くという超ビッグイベント。本来ならもっと興奮するところだが、今の私は連れの所為でそれどころではなかった。

 

(んん~~、ん~~、んんんんんん゛ん゛ん゛ん゛ッ!!)

(すっっっごい悶えてる……)

 

仕事でストレス溜まってたのかなフリルさん? このまま悶絶死しないか本気で不安になってきた。

 

「――はぁ、コーヒーが欲しい、とびっきり濃ゆいのが欲しい。甘々過ぎて強烈な苦みを身体が求めてきてるぅ……」

「さっき売店で買った青汁ならあるけど、飲みます?」

「ありがたき幸せ」

 

凄い勢いでペットボトルに入った青汁を飲み干すフリルさんを余所に、マリア君とみなみちゃんの会話にコッソリと耳を傾ける。私だって年頃の女の子。恋人同士の馴れ合いに興味を抱かない訳がない。

 

「――ん?」

「マーくん?」

 

しかし次の瞬間、突然マリア君の目付きが変わった。もしかしてバレた……? どうしよう、マリア君って怒ると物凄く怖いからなぁ……なんて言い訳しよう。

 

「あの男から……火薬の匂いがした」

「え、どういう意味なん?」

 

(火薬……?)

 

なんかとんでもないワードを発するマリア君。彼の目線の先には、先程2人の前を偶然通過した警備員の男性の後ろ姿があった。

 

「みなみ、ちょっと――」 

 

するとマリア君とみなみちゃんは小声で遣り取りを始める。ダメだ、ボソボソ話してて聞き取れない。かと思えば2人してスマホを取り出し、何処かへ連絡を入れようとする。

 

「……あれ? 繋がらない」

「こっちもや。雑音しか聞こえへん」

 

(……? 携帯が使えない? 2人同時に?)

 

嫌な予感がした私も、自分のスマホを取り出して中身を開く。すると――

 

「え、圏外になってる? どうして……?」

 

このアリーナには大勢が集まる事を想定して強力なWiFiネットワークが完備されている。にも拘らず、電話もネットも通じない。何故か、私にはそれが偶然由来のものだとは思えなかった。

 

そしてマリア君もまた、私と同じ気持ちらしい。

 

「……みなみ、お願いがあるんだけど」

「なんやマーくん? 何でも言うてや」

 

マリア君とみなみちゃんが何か遣り取りする。う~ん、またゴニョゴニョ言ってて上手く聞き取れないなぁ。

 

「危険やない? ……と言いたいところだけど、それがマーくんにとっての最善なんやな?」

「うん。彼奴を見逃す方がもっと大変な事になりそうだからね」

「……無茶だけはせんといてな? マーくんは確かに強いけど、不死身やないのですから」

「勿論。必ず無事に帰ってきてみせるから」

 

マリア君は警備員を追い掛けるらしい……かと思いきや、全く別の方向に視線を送った。

 

「……ところで」

「マーくん?」

 

……あれ? なんかこっちを見てるような?

 

「何時迄も其処に隠れてないで出てきなよ? 黒川さん、不知火さん?」

「え? あかねちゃん、フリルちゃん……?」

 

「ふぇええッ!!?」

「なん……だと……」

 

驚きのあまり、私とフリルさんは勢いよくベンチから立ち上がる。目を見開くみなみちゃんと、若干怖い笑顔を浮かべているマリア君に迎えられた。

 

「あかねちゃん……? 何で此処に……?」

「ご、ごめんなさい。どうしても気になっちゃって……」

「お陰で目の保養になりました。感謝致します」

「ほら、フリルさんも謝る!」

「むぐ……ごめんなさい」

 

マリア君からの威圧が増したのを感じた私は、咄嗟にフリルさんの頭を掴んで無理矢理下げさせた。勿論、私自身も必死に謝罪する。

 

「はぁ……」

 

するとマリア君を纏う空気がみるみる軽くなっていく。

 

「今は急いでるんだ。この際だから尾行したり盗み聞きしてた件については問わない。その代わりみなみと行動を共にして貰うよ、2人共?」

「……マリア君、また危ない事に首を突っ込むつもりなの? なら私達も――」

 

マリア君の強さは知ってるけど、やはり心配だ。あの風見組の組長のように本物の銃を突き付けられる可能性だってあるのだから。

 

でもマリア君は首を横に振るのみ。

 

「ダメだ。相手の正体が分からないのに、戦闘力の無い3人を連れて行く方がリスクが高い。君達は君達に出来る事をやってくれ」

 

じゃあ頼んだよ? そう言ってマリア君は足早に群衆の中へと飛び込んでいってしまった。残された私達3人の中で、私とみなみちゃんは顔を見合わせて頷く。一度荒事を経験してる為だからか、それともあのマリア君の尋常じゃない雰囲気に当てられたからか、私もまた彼女と同じように彼の指示に従う事こそ最善だと確信する。

 

「みなみちゃん、さっきのマリア君との会話を詳しく聞かせてくれる? 上手く聞き取れなくて……」

「分かったであかねちゃん。アイさん達の所に向かいながら話しますわ」

「えぇ、2人のあんな事やこんな事も知りたいもの」

 

「「そういう意味じゃないです」」

 

唯一状況が(当たり前だが)掴み切れていないフリルさんにも丁寧に説明しつつ、私達3人はアリーナ脱出を目指した。

 

マリア君の専属カメラマンだという白銀かぐやさん、そしてその友人の早坂愛さんへ異変を伝える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~5分後~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ねえみなみちゃん、フリルさん。此処ってどう考えても地下だよね?」

「うん。おかしいわぁ、ウチ等は外を目指してた筈やのに」

「やっばぁ、これってもしかしなくてもさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「迷子になっちゃった~!」」」

 

私達の前に立ちはだかった、最初にして最大の敵。

 

それは”大迷宮”の異名を持つ東京グレートアリーナだった。




○星野マリアのペルソナ(仮面)解説 ※長文注意

・通常モード
普段のかぐや様に相当する、星野マリアのメインペルソナ。アイがストーカーに襲撃されて昏睡状態に陥った際、トラウマに対する防衛本能から形成された。年齢相応で純粋無垢。前世の母が城ヶ崎の前から消えたりせず、一緒に居続けたらこれに近い人格になってたかもしれない。


・7歳モード
アホかぐや、かぐやちゃん、そして幼かぐやに相当。城ヶ崎が7歳の時の人格が、父親に母を奪われたショックを受けた事で、その精神の根底に固定されたもの。順調に年齢を重ねている通常モード以上に情緒が幼く、お母さんや家族が大好きな甘えん坊さん。幼過ぎる故にやらかす事も多々ある(明らかに告白に相応しくない状況でストレートに告白する、告白の順番が回る前に好きな女の子と深い接吻をかます等)。
一条に致命傷を負わされた後にアパートへ向かおうとしてたのも、実はこのペルソナに体を突き動かされたから。
意外にもペルソナの中では最も古株だったりする。最もニュートラルな原初の精神で、城ヶ崎賢志の本質と呼んでも差し支えない。


・マフィア(半グレ)モード
氷かぐやに相当。マリアの中に残っていた羅威刃の城ヶ崎がそのままペルソナにスライドしたもの。このモードになると両目の綺羅星が漆黒に染まる。超巨大マフィアのボスだっただけあって、異次元の戦闘力を誇る。
冷酷かつ攻撃的で卑劣なペルソナだが、相手が外道や下衆でもなければ基本的に表へ出てこない(味方がやらかした場合にも出てきて威圧する時はあるが……)。また他のペルソナに引っ張られた故か、はたまた家族を手に入れて満たされた為か、このモードでも大切な人達を守る事を前提に動いている。あと色恋沙汰は完全にド素人なので割と慌てふためく事も。悪態を吐いたり上から目線で物を言いつつも助けてあげる姿は、正しくツンデレ。
普段のマリアしか知らない者は、そのギャップの凄まじさに強い衝撃を受けやすい。特に彼を人畜無害な小動物と誤解して悪事を仕掛けた外道は、自らの判断を死ぬほど後悔する事になる。

……因みに悪人相手にブリッコやメスガキっぽく振る舞うのもこのモード。つまり羅威刃の城ヶ崎が痛い子キャラを演じてるのである。
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